更新速度が限りなく遅くなった。
「ハァッ、ハァッ……あいつは本当にオスの類なんだよな?」
すぐ近くで自分を探しているオクォロスのことを呟く。
今正影はたくさんある柱の陰に隠れている。
敵の強さに正直圧倒されていた。
硬いし、速いし、探査能力が半端ない。
「俺が圧倒される日が来るとは…な!?」
突然近づいてきた音に逸早く反応し、オクォロスの攻撃を避ける。
柱ごと喰いに来た。
正影はよけるだけにはとどまらず、攻撃を加える。
大きな体の一部に一太刀加える。
「チッ!」
しかし、斬りおとせない。
目玉1つをつぶすことはできる。
だが、それ以上のことだできない。
体長5、60mある化け物だ。
人のちっぽけな攻撃ではダメージに換算されない。
それに…
「もう回復してるのか…!」
恐ろしい回復力。
刀が離れるとすぐに傷が塞がり始める。
オゥステムには痛覚がある。
つまり攻撃が加えられたということは正影の場所が把握されたということだ。
尾部が正影に向かって攻撃を加える。
刀で抑えるが思いっきり飛ばされる。
壁にぶつかりようやく止まるが休んでいる暇はない。
オクォロスの口が正影に向かって跳んでくる。
すぐにその場を離れ回避する。
オクォロスが壁に衝突し壁の一部が崩れる。
だが、奥の壁が顔をのぞかせて完璧には穴が開かない。
それほど強度があるのだ。
『正影さん、状況は?』
「絶好調だ、いくらでも刀を振り下ろす訓練ができそうだ」
『正影さんの頼みなら出口の一時開放もしますよ』
「いや、あそこまで1人で逃げるのは不可能だ。誰も入れるんじゃないぞ」
オクォロスの目はずっと正影を追っている。
幾百もある目に見られると緊張というより気持ち悪いにかわる。
ギョロッとした目は瞬きなんてしない。
しかし、充血することはなくただただ、正影を追いかける。
「オオオォォォォォ!!」
「!?」
突然雄たけびを上げるオクォロス。
その大きな雄たけびに耳がおかしくなる。
自分の声に対しては耐性があるのに
オクォロスの口が正影の方に迫ってくる。
攻撃がレーザーだったり遠距離系のを持っていいないのが唯一の救いだろう。
すぐに口が正影の目の前までくる。
それを飛び越えるという手段で避ける。
普通の人間ならできるわけがない。
だが正影ならできる。
無駄だとは分かっているが刀を突き刺す。
刃が根元までしっかり刺さる。
それに反応したオクォロスが正影を突き放そうと右へ左へ体をくねって暴れる。
たまらず正影も刀を引き抜きオクォロスから離れる。
「…何か手はないものか」
じり貧な戦いの中、正影は逃げずに戦う。
――――――――――――――――――――――――――――――
「隊長、来ました!」
「分かってるわよ、音が聞こえるもの」
明季が待機していたヘリの中から出てくる。
もしものために鎌を手に持ちながら。
2人が見上げる方向にはもう一基、ヘリが飛んでいた。
いつ爆発させる命令が出るかわからないこんな場所にヘリがきている。
他から見れば異常としか言いようがない。
だが、これは正影を生かすための秘密兵器と言っても過言ではない。
「でも、本当に大丈夫なんですか?」
「…それを聞くのも何度目になるのかしら?まぁ何回でも言ってあげる。間違いなく行けるわ、むしろこっちを使えば正影がいなくてもオーロワームだったら殺れたでしょうね。文字通りちぎっては投げ、ちぎっては投げで」
「そんなにですか?」
「オクォロスの場合はあれ1人だと難しいだろうから、正影を連れて逃げてもらう。それくらいのことなら造作もないでしょう」
「そのあとE-23を爆発させるんですね」
「それは嘘よ」
「………………え?」
自分にすら知らされていなかった事実を聞いて思わず目を点にする。
「E-23、あれほど力を持つ兵器をたかだかオクォロス1体に使うと思うの?」
「で、ですが、あれはもともとオーロワームを殺すために作られたものだと…」
「口実に決まってるじゃない、本当にそれが目的ならとっくの昔に使ってるわ」
「では、正影に持たせたのは?」
「ちょっとだけ強力な爆弾よ。半径1キロ程度しか焼かないし、核兵器でもない。結局核を壊せばオスは絶命するのだから内側から爆破できれば何でもいいのよ」
「…政治上の話ということですか」
「これを持つアルツェにちょっかい出す奴はいないでしょう。現日本の中ではアルツェの大きさこそ最大ではないけど持っている兵器の中では最強だもの」
アルツェ同士の抗争だってないわけではない。
それぞれのアルツェは民間人を持っている。
適度な数は必要なのだがどこもかしこもパンク寸前だ。
土地は地下を使っているので時間さえあればどうってことないのだが、食事ばかりは一向に改善されない。
どこの世界も同じだ。
一部の人間がたらふく食べるが貧しい人がそれ以上にいる。
で、その後上の人間がやることは平等に富の配布をするのではなく他からの奪取。
もちろんこれはやる所とやらない所でいがみ合いが続いている。
「自分勝手な都合ってやつですか」
「悪く言わないほうがいいわよ。あなたの生活もそれのおかげで守られてるんだから。それと今その話は関係ないわ」
「…すみません」
ヘリが地面に足をつける。
強風が吹き荒れ地面にある砂やほこりが宙を舞う。
「やっと来た、って言いたいところなんだけど…」
明季が耳に手を当てる。
耳には小さな通信機が入っているのだがおかしい。
ヘリが見える5分ほど前には連絡があってもおかしくないのに目の前に降り立った今でも連絡がない。
ただの通信障害だといいのだがタイミングが良すぎる。
ヘリからの呼びかけにも応答しないのだ。
「変よね…、彼女から何かはいってない?」
「真理奈からどころか何やっても通信できません。何もないといいのですが…」
「確認のためにもさっさと仕事を終わらせてもらわないと駄目ね」
ヘリの扉が開く。
見えてくる人影。
「じゃあ、お願いするわよ」
――――――――――――――――――――――――――――――
「ゴハ…!」
口から血を吐き、体を壁に寄せる。
肩で息をするとはまさにこのことのように体が揺れる。
強者、特に負けたことのない者というのは追い込まれると弱い。
理由は誰にでも想像がつくだろう。
その状況に陥ったことがないから。
誰でも一度でも経験があればそれなりに対応ができる。
対応の仕方がわからない初めてのことはやりたくないし、緊張だってする。
追い込まれるなんてことは誰も何度経験しても味わいたくなんてないだろうが。
正影自身、ここまで差があるとは思っていなかった。
これが10年後の世界かと自分の弱さを痛感する。
ロストチルドレンが最強だと言われたのは10年以上前の時の話だ。
その頃はオゥステムを圧倒していたため自分自身でも過大評価していたのかもしれないがそれでも最強だったのは間違いない。
「…あいつはどこのロスだったか、米か露か。あいつらだったらこいつも余裕なんだろうな」
詳しくは知らないが糸的なものを使ってオスの体の中を貫き、核だけを壊して簡単に終わらせる奴がいた記憶がある。
俺ってロスの中では弱いほうだったのかとこんな状況ながら落胆する。
「ォォォォオオオ…!」
せっかく離れたのに5分足らずで近くに来たようだ。
音でなんとなくわかる。
地響きがだんだん近づいてきている。
だが音だけでは詳しく状況なんて理解できない。
「リム、敵が視界に入るまで後何秒だ?」
『………』
「リム?」
返事がない。
電波の状況が悪くなったのかと考えるが少し考えずらい。
時間が少なかったとはいえここは非常時のために常に手入れされていたと明季は言っていた。
昨日もフル稼働で何かやっていたようだった。
それなのにこんな場所で電波の状況が悪くなるだろうか。
考えようと思えばいろいろ推測はできるのだが、正影はこの世界に来てまだ日が浅すぎた。
「年貢の納め時ってやつか…、罪を犯した覚えはないが」
あまり長い間戦うことはできない。
本気を出すためのエネルギー的なものは切れかかっている。
それなしで戦うとなるとかなりきつい。
斬りつけることも避けることもできるだろうが、オスをジャンプだけで飛び越えることは無理になるし反応速度も遅くなるだろう。
それ以上に問題なのが副作用だ。
一回使ったら好きな時にエネルギーを使うのをやめることができるがその時の倦怠感は異常だ。
吐き気はもちろん、目まい、体のいたるところに出る激痛、最悪意識混濁などで戦闘どころではなくなる。
「…死は覚悟したつもりだったんだがな」
自分の手がわずかながら震えていることに気づいて思わず呟く。
やはり口だけの奴だったのかと自嘲気味に笑う。
人は死ぬ寸前に、例えば飛び降り自殺をした人は飛び降りた後その行動を後悔するという。
人の本能はやはり生きたいとどこか思っているのだ。
正影も例外ではなかった。
「オオオオ!」
いつの間にかオクォロスがすぐ近くまで来ていた。
変な考え事のせいで意識がそっちに回っていなかったのだろう。
無数にある柱などものともせず正影目がけて突撃してきた。
不格好にはなりながらも床を力の限り蹴り飛ばしそれをギリギリで避ける。
こんなことも本気が出せなくなれば無理だ。
しかし、避けるので精一杯だった正影に容赦ない尾部による体当たりが直撃する。
ミシミシと骨が軋む音がしたがそれについて思考が回る前に壁に叩きつけられる。
体中が痛む。
さっさと帰ってベッドで寝たいと思う。
ポテチを片手に漫画を読みながら。
つまり生きたい。
別にこんな作戦を立てた明季を今更恨むつもりはない。
「おい、リム。聞こえないか?」
『…………』
相変わらず通信は途絶えたまま。
最後くらい、声を聞きたかったなと思う。
だがまぁ、聞けないというのなら仕方ない。
ただこれでは自分の生存も確認できないのではないかと少し作戦の変化に疑問を持つ。
そうしている間にも迫ってくるオクォロス。
壁から抜け出し避けようと構える。
相手の行動の仕方もあらかた掴めてきた。
だからわかる。
ぎりぎりで避けない限り、相手は追い続けてくる。
あのでかい体で思った以上の機動性を初めて見たときは焦った。
だが、慣れればどうということはない。
避けられ…
「ウッ…!」
突然吐き気が正影を襲う。
足に力が入らずその場に崩れる。
エネルギーが切れた。
「しまっ…」
避ける気力はない。
一瞬とはいえ、方向感覚すらおかしくなった。
ぎりぎりで避けようとしていた正影にとってこれは致命傷だった。
終わりかとできもしない覚悟をする。
だが
「……………?」
だが、終わりが来ない。
ゆっくりだるい体を持ちながらも顔をオクォロスに向ける。
オクォロスは確かにいる、目の前で大きな口を開けている。
だが進んでは来ない。
体を動かそうとしている。
だが、進んでは来ない。
「んん…あああああああぁぁ!」
叫び声と同時にオクォロスが宙に浮く。
人生で最も驚いた瞬間だったに違いない。
あのバカでかい巨体がなんの予備動作もなく宙に浮かんだのだ。
「パパに……手を出すなぁ!」
幻聴かと思った。
いるはずがないのだ。
だが、この世界で自分をパパと呼ぶのはただ1人しかいない。
オクォロスが投げ飛ばされる。
巨体が50mは跳んだ。
そして正影の目にある1人が目に入った。
「穂…香?」
真理奈
オペレーター兼、戦闘要員である数少ない人員。
どういうわけか、プロトになるための処置を受けた時腕も力のみが上がり他は変化なし。
珍しい事例ではあるが決して真理奈が初めてというわけではないので特に特別扱いされることはなかった。
彼女としては戦うための覚悟を決め、処置を受けたのにこんな結果で今も不服だという。
恭二の彼女であり、タイプA。
恭二自身の戦い方も主に手や腕を使うものが多いのでペアとしてかなりマッチしている。