もう、なんか進みませんね…。
大して忙しくもないのに何故でしょう?
「人影は5つといったところ…か」
双眼鏡越しにヘリを眺める和人。
日差しは決して強いわけではないのにサングラス。
一応度が入っているらしい。
『つまり敵は4人か、油断するなよ』
「勘違いするなよ。人は確かに5人いるが敵は1人もいねぇよ」
『仲間には思えないが?』
「お前は蟻を見つけたら敵だと識別するのか?」
『……ヘリの操縦者2人はともかく、護衛の2人は討伐部隊の人員だ。これ以上の失敗は避けたい』
はいはい、と流す和人。
フラテッドはそれに不満気味だが離れた場所にいる以上、何もすることはできない。
「で、やり方は好きにしていいんだよな?」
『成功すれば他の生き死になど一切気にしない。そこで殺しても後で殺しても同じことだ』
「でも後の場合は俺の手では無理なんだよなぁ…」
残念そうな顔をする和人。
遠くで何か音がした。
とても小さい、だがここまで聞こえたということはそれなりのもの。
砂地が広がる遠くに目を凝らす。
砂しぶきが遠くで上がっている。
「…雑魚のお出ましにしては早いな」
『もう見えたか、長居は無用だ。早くしろ』
「了解」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
アルツェ内は迷路だった。
原型はほとんど留めておらず、外見から想像不可能。
外から見ればあちこち煙が上がってるだの、穴が空いてるだのボロボロではあるが大したことはないだろうと連想する。
だが、内装は通路はあちこち崩れ落ち部屋全体が綺麗に残っている部屋など数えるほどのみ。
なぜこの建物は未だに潰れていないのか疑問である。
「今はどこに向かってるの?」
足場はないが常日頃から鍛えられていたバランス感覚と筋力のおかげでひょいひょいと進むことができる。
そんな中穂香が2人に訊いていた。
「シェルターよ」
「シェルター?そんなのあったっけ?」
「地下の方に1つあります。強度もそれなりですけど見つかった場合、プロディターの前じゃあまり役には立たないでしょう」
「そうね、下手をすればそのまま地下の住民に被害を拡大させるだけになるわ」
穂香は明季の後をついて走っている。
ただ、穴があれば下に降りる、そしてまた昇るを繰り返しているため正直今どこを走っているのか分からない。
「あら…」
明季が足を止めた。
その理由は聞くまでもなかった。
目の前の床に大きな穴が空いていたのだ。
どれだけ大きな爆発をしたのかは分からないが3、4階分くらいは一気に突き抜けている。
「この下、何かあったかしら?」
「…危険物を扱うような部屋はなかったはずですが」
「慎重に降りるわよ、ただできるだけ素早く」
見当たらない足場だが無理やりにでも見つけて跳ぶ。
明季の後ろをついていっていた穂香だが、途中明季の乗っていた足場に跳んだとたんその足場が崩れる。
「!?」
後ろをついてきていた恭二に危なかったところを抱えることで救出される。
「ごめんなさい」
「足場は自分で見つけたほうがいいです。所詮がれきが重なってできた即席の足場ですからいつ崩れてもおかしくはない」
とはいっても穂香はこんな状況に遭ったことはないし、訓練でもあまり多い回数こなしていない。
少し遅くはなるが恭二が大丈夫そうな足場を見つけながら穂香に合図をする。
明季より10秒ほど遅れて地面に足を付けた。
「10秒隊長を待たせるのはどうかと思うわよ?」
「お言葉ですが正影さんに好意を持ってほしいのなら穂香さんには優しくするべきですよ?」
フッ、と静かに笑う明季。
そんな中、穂香は地面に足をつけて周りを見ていた。
そこはよく見知った場所にあったものがあったから。
なぜなら任務を受けるために必ず足を運ぶ必要がある場所であり、物だったから。
無言で思わず歩ける場所を歩いてみる。
明季も恭二もそれに何も言わなかった。
未だに実感がわかない。
自分はまた何かを失ったのか?
レアさんの時みたいに。
でも目の前から何かが消えたというわけじゃない。
と、何かが割れる音がした。
こんな中でも割れずに残っているガラス類があったのかとそれに興味を持ちそちらを見る。
そこにはカウンターがあった。
半分はがれきに埋まっていて確認できないが半分は壊れながらも、汚れながらも確かにその形をしていた。
地面にくっついている机だったのか、傾いてはいるが。
上の階から落ちたにもかかわらず原型があることに
しかし、そこにいつもはなかった。
思わず小さな悲鳴を上げる。
ガラスの割れた音がしたカウンターの中、そこには人の死体があった。
原型をほとんど留めておらず、肉塊といっても間違いではない。
だが押しつぶされた服やアクセサリーが見当たる。
そしておびただしい量の血がその周りにこびりついていた。
これ以上は見られないと目を背ける。
しかし、目を背けた先にはまた死体があった。
「…!」
今度は小さな悲鳴すら出ない。
自分より上の方にあるその死体は仰向けになっており、下半身はがれきに押しつぶされている。
目が見開いており、その顔は穂香に恐怖を与えるには十分だった。
さっきの肉塊の方がまだよかったかもしれない。
人と分かるかわからないかなのだから。
だが目の前で死んでいるこの死体は列記とした人。
性別は女性、プロト、まじめな人物だったはずだ。
レアだってここまでひどい死に方をしてはいなかった。
足がすくんで動かなくなる。
「穂香、道を見つけたわ。行くわよ」
明季の呼びかけがきてもそれは変わらない。
何を止まっているのかと怪訝に思っていた明季だがぶら下がっている死体を見て理解する。
「…穂香」
「………みんな、無事だよね?」
「リリィからの無線では少なくとも嬉々の名前は出ていたわ。あと美嘉と―――」
「私が言っているのは皆。パパを取り巻くすべての人のこと!」
「それは…難しいでしょうね」
気休めなんて言わない。
穂香だって理解している。
難しいことだなんて。
「でもまだ生きてる人を助けることができる」
「…」
「ここで立ち止まってていいの?今はあなたの力が必要よ」
「…うん!」
「隊長、穂香さん!急ぎましょう、道がいつ壊れるかわかりません!」
明季と恭二が走る中、穂香は一度だけ足を止める。
後ろは見ない。
「………………………」
黙ったまますぐに走り出した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「いったいいつになったら安全が確保できるんだ!?」
罵声が鳴り響く。
おそらく、長い間こうなれば騒ぎ出す奴は現れるだろうと思っていた。
騒ぎ立てているのは1人の非戦闘員。
プロトではなく、研究職の人間だ。
不安と恐怖の負の感情が入り混じって限界が来つつあるのだろう。
気持ちは分からなくもない。
だが、それをプロトに向けるのはいくら彼らが戦闘員であるからといっても無理がある。
第一彼らがプロトではプロディターに敵わないと公言しているのだ。
それを知ってもなお、彼は無理難題を押し付けるらしい。
「いつって…明季さんたちが来たらじゃないのか?」
「それがいつだと訊いているんだ!」
「青羽さんが言ってたろ、5分…いや10分後だったか?」
一番近くにいた蓮が対処する。
彼はこんなことやりたくないのだがそれは周りも然り。
面倒くさいよといわんばかりに全員が背中を向けていた。
「そんな助け期待できるか!もし敵のほうが先にここにたどり着いたらどうする!?」
「その場の状況によるよ、正面が空いてればそっちからアルツェ内の安全圏を走り回るしダメなら申し訳ないけど地下の住民の居住区を使わせてもらう」
「ならさっさと居住区に逃げればいいだろう!」
「そっちだって安全ってわかったわけじゃない。もしアルツェ内からそっちに移動していたらどうするんだ?シェルター入り口から1体来れば少なくとも居住区での戦闘は楽になる。居住区っていうんだから人がいるんだぞ?その人たちに対する被害はできるだけ少なくするべきだ」
「相手の命のことなど考えられるほど余裕はないぞ!」
「悪いけどこれが俺の性分なんでね。それにあんた…」
座って持ち場にいた蓮が立ち上がる。
「明季さんたちが来るかわからないって、つまり来ても戦力にならないって言いたいんだろ?」
「…」
「ならいっそのこと弱いこいつらでもいいから連れて早く逃げよう、てか?」
「そんなことを言った覚えはない。だが私は数少ないオゥステム研究者の1人だ!その人材をここで捨ててもいいのか!?」
「よく言うよ。数少ない研究者様のくせしてプロディターに対抗できるような武器は作り出せない」
痛いところを突かれたのか、苦い顔して黙る。
蓮だって理解している、創れるはずがないと。
情報が少ないどころか、サンプルの鱗片さえ手に入ったことはない。
そのうえ世界各地に神出鬼没。
どうやって、なにを探れというのだろう。
「今はみんな辛いんだ、そこは分かってくれ」
「……済まなかった」
話の分かるやつで助かったと一息つく。
そんな中、シェルターにも異変は起きていた。
だが、それを異変と認知できるものはいなかった。
「?」
異変を見た心菜はその時、嬉々に何を話しかけようか迷っていた。
帰ってきてくれた嬉しさは強い。
だが、失ったものもある以上ただ喜ぶのではおかしい。
嬉々自身がひどく落ち込んでいる以上、何かしら元気づけなければと思っていた。
そんな時に見つけた異変。
(変わったところに電球がついてるなぁ…)
心菜の目の前にはいくつもの電球が点いていた。
ただ、天井に着いている型とは違いとても細く見たことがない。
そして位置にしても天井ではなく壁。
範囲も狭く、何のためにあるのか分からない。
しかし、変だとは思ったが気にも留めなかった。
脅威が迫っているかもしれないないのに、そんなことに頭を使っている暇はないのだから。
それ故、逃してしまった。