でもあまり寒くないな、今日は。
目の前に1人の女性が倒れている。
殺ったのは自分ではない。
おそらく死んでいるだろうが…
「…いい加減やばいな」
耳をすませば僅かだがドドドドドドと地響きが聞こえる。
あと5分もしないうちにここら辺なら気づく者が出始めるだろう。
貫かれた腕を抑えて歩く。
向かう方向はヘリ。
本来なら服を破ってでも止血したいところだが、正影を連れて行くとなるとその猶予はあまりない。
「ひどい様だ」
「…うるせぇよ」
後ろからフラテッドが話しかける。
背中にスナイパー、手にはハンドガンが握られている。
服は返り血のせいか、服が真っ赤に染まっている。
「誰撃った?」
「護衛以外にも人はいた」
銃口を操縦席に向ける。
角度が悪いが窓に血がついているのが分かる。
「そこの女はまだ生きてるのか?」
「たぶん死んだと思うぜ」
「たぶん…」
倒れている美姫を見るとそばに近寄る。
銃を構えているが発砲するならもっと前からしている。
弾が入っていないのだろう。
うつぶせに転がっている美姫を蹴り飛ばし仰向けにする。
目は開いていて焦点が合っていない。
良くても瀕死なのは間違いない。
その状態に顔をしかめるフラテッド。
「タイプだったか?」
「真逆だ。死に間際にこいつは何やってるんだ」
「自分の胸の感触が好きだったんじゃないかw?」
「…見るべきではなかったな」
さっきよりも強い力で蹴り飛ばす。
よほど嫌なものだったのだろう。
美姫の体が力なく宙を舞う。
その時、美姫の体から何かが離れた。
胸を触っていたと思われた手から2つの球体。
「ん?」
「ちょ!」
和人はいち早くその危険を察知する。
フラテッドは一瞬何が起きたかわからずただ止まる。
そして美姫がどういう人間かということを思い出す。
なりふり構わず回避しようとするが少しばかり遅かった。
爆風と同時に地面を3,4回ほどバウンドする。
激痛もいいところだ。
死ぬほどではないが。
「………」
「悶えてるとこ悪いがさっさとしてくれ、あいつが来るぞ」
「あぁ…、そうだな」
痛みが走る背中を抑えながら立ち上がる。
腹に響くような地響きを感じた。
あまり時間がないと理解し足早にヘリに乗り込む。
操縦席で息絶えている操縦者2人をヘリの外へ放り出し血塗れた窓を拭く。
「操縦は?」
「できるから単身で乗り込んできたのだ。黙って座ってくれてて構わん」
「こんな腕にしておいて操縦しろって言われても絶対しないけどな」
「だがそこには座ってろ、後ろにいられるともしもの時に対応できん」
「分かってますよ」
半分投げやりのように返事をする和人。
そうしている間にもヘリは地面から離れ始める。
ふとフラテッドの目に美姫の姿が目に入る。
「…惜しい人材だった」
「ん?あの女か」
「生きていたのならば軽蔑したのを済まないと謝りたいところだ」
「そんなにか?」
「ああ。美姫…か、覚えておこう」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「や…やっと終わった」
悠人が地面ふらふらと座り込む。
目の前にはさっきまで戦っていたオゥステムたちの死骸が山のように転がっていた。
羽織っていた鈴の上着を脱いで自分を仰ぐ。
たった5分ほど前まで一緒に戦っていた鈴はこれを渡すとどこかへ行ってしまった。
しかし、何より驚きだったのがオゥステムが上着を羽織ったとたん自分を集中砲火してきたこと。
その前までは自分が全然狙われず、狩りをしている気がしていた。
いったいどんな仕組みがあるんだと上着を恨めしそうに見る。
「…そうだ」
ゆっくり休んでいたところだが家族の顔が脳裏に浮かぶ。
自分に時間はないと重い腰を上げる。
家族が逃げたシェルターに向かおうとして気づいた。
腹に響くような地響き。
途切れることなくさっきよりも今のほうが強いような気もする。
少しばかり面倒ではあるがさっきと同じように屋根の上に上がる。
だが、それだけでは外の状態は確認できない。
その程度の高さではオゥステムを防げないからだ。
周りを見渡すが生憎外壁の外をのぞけるような建物などアルツェ本体以外には存在しない。
飛んでいるヘリが見えるから、もしかすればあそこから状況を教えてもらえるかもしれない。
こんな状況で飛んでるなんて大した度胸だなと思う。
少しの間、ただ止まっていたが動くことにした。
家族のもとへ。
そしてそれはある意味では最良の判断であった。
また、ある意味では最悪の判断でもあった。
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「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
嬉々たちがシェルターで休んでいるとき、外に逃げる数分前にそれは起きた。
シェルターは基本的に一時的な避難所として使われる。
誰もそれに疑問を持つことはない。
だからそこを訪れる人は極めて稀。
整備士くらいが定期的に来る。
だから部屋の構造がおかしいと気づくの者がいなかった。
だからそれが起きるまで誰も何も思わなかったのだ。
女性の隣で男性がハチの巣になっている。
傷口から血はあふれてこない。
幸いだったのはその場にいるのは大半がプロトだったということ。
パニックを起こしてその中で逃げまどっていれば死を待つだけだった。
人が死ぬことにはいい意味でも悪い意味でも慣れている。
「美嘉!」
「分かってる!」
敵に見つかったシェルターはただの檻。
硬い壁がある以上、普通は籠るのもアリかもしれないが相手は壁をいともたやすく貫く。
傷口から血が出てないところから見るに皮膚が焼けただれていると見る。
つまり相手は…
「いや…ッ!」
プロトではない研究職の女性には死体は目にはきつすぎた。
「は、早く出してっ!」
「焦らないで、すぐ開けるから!」
「ただパスコード入れるだけでしょ!?なら私のほうが早いから代わり―――」
まるで自殺するときに銃を使ったかのように女性の頭に光が走る。
脳をやられた人間は即死。
しかし、それだけにとどまらない。
美嘉をどかしパスコードを入れようとしたために手がタッチパネルを押す。
こういう時、タッチパネルというのはめんどい。
「ぎゃあ!?」
「どうしたの?」
「変なパスコード押した…」
「……つまり?」
「開錠に時間がかかる」
「たった一回でしょ!?」
「これを開けると通路を通ればすぐ地下の住民区につくの!それだけここの警備は厳重なの!」
「それを踏まえてもおかしいわよ!これ創った奴は何考えてるのよ!?」
嬉々と美嘉の話は小さなシェルター内全員に響く。
少し離れたところで青羽が小さくなっているのは別の話。
「時間稼いで!」
「了解!」
威勢よく美嘉に返事する嬉々。
しかし、どうやって時間を稼ぐのか。
敵は壁の向こう。
攻撃してくる場所が特定できない。
つまり壁の周りを自由自在に動き回っているのだ。
立体的に動き回るかつ、見えない敵を警戒しろなど無理な話である。
だが、敵だってこちらの様子を完璧には把握できていないはず。
壁の向こうにいるのだから視えないに決まっている。
もっとも、自分たちが顔と思っている部分に目が存在していたらの場合だが。
「ちょっと借りるぜ」
「?」
ふとリリィが美嘉に近寄る。
一瞬、自分の斧を持っていく気なのかと気を疑ったがリリィが手を出したのはそれ以上のもの。
女性の死体だった。
「リリィ、何を―――」
「黙って開錠してろ」
するとリリィはその死体をおもむろに投げ捨てる。
いや、天井に向かって放り投げた。
それを見ていた美嘉たちは思わず凍り付く。
天井にぶつかった死体はただ地面に落ちてきた。
それを見て悩んでいるリリィ。
「な、何やってるのよ!?」
「実験だ、あいつはどうやって―――」
「そういうことを訊いてるんじゃないわ!どうして―――」
「嬉々!」
蓮が嬉々を抱き着く形で突き飛ばす。
直後に天井からの熱光線。
一瞬だけ延びた光の柱はその場にあるものをすべて消してゆく。
それを連射できるなんて人間にはできない。
できたとしても実用化するべきではない領域の話だ。
「気をつけろ、気持ちはわかるけど自分の身を第一に考えろ!」
「ご、ごめん」
「音に反応する…のか?」
それを冷静に分析するリリィ。
嬉々のことなど一切お構いなし。
「でも…いや、そしたらおかし―――」
「リリィ、お前何考えてる?」
「何って…ここから生きて脱出する方法だよ」
「開錠に時間はかかってもせいぜい1、2分だ!いくら相手を調べるためだからってそこまで追い詰められていないぞ!」
「俺は俺のやり方でやっていく。もちろん生きている人間をあんな風に扱うつもりはないが死体は物だ。今は有効活用するべきだろ?」
「お前…なんとも思わないのか?」
「生憎、
「……」
分からないわけではない。
事実、さっき女性の前に人が死んだときも自分だってあまり感じるものはなかった。
死んだという事実は理解できても焦りや悲しみはなく、脳は「次に何をすべきか」を考えていた。
だが、分からないわけではなくともここからは人としてのライン。
倫理の問題だ。
慣れとかそんな領域とはわけが違う。
「お前―――」
「蓮、上!」
嬉々の叫びに上を見上げる。
本来ならよけるべきだった。
だが、それは攻撃ではないのが幸いしていた。
見えたのは少しずつ広がっている光。
天井の中心から全体に広がっていこうとしているのか徐々に大きくなっている。
そして、蓮はここで暑さを感じる。
さっきまでは常温を保っていたシェルター。
いくら機能しなくなったからといっても気温が自然に変化したにしては早すぎる。
中心が液体のように垂れてきた。
「溶かして…!?」
「みんな、開いたわよ!」
天井、というかこのシェルターはオゥステムでも壊せないような代物となっている。
何を使っているかなんて知らない。
だが、その物質はそもそも溶けるようなものなのだろうか?
ドロドロと天井が垂れてくる中、美嘉の呼びかけが全員に希望を与える。
「リリィ、貴方は最後まで残って!」
「はぁ!?」
そそくさと退散しようとしていたリリィを止める嬉々。
理由は数少ない戦闘に参加できる人だから。
それを重々理解していたリリィは何も言い返せない。
むしろ、これを言われるのがいやだったからさっさとこの場を去ろうとしていたのだ。
名残惜しそうに出口を見るがため息をつくと黙って天井を見据える。
「あれは…」
溶けていた天井の隙間から輝く物体が顔をのぞかせる。
その物体は一見人の頭のような形をしているが目や耳、鼻すら存在しない。
口に見えるような部分もただ割れているだけなのか、その口は普通の人間の3倍ほどの大きさに見える。
ここは地下である以上周りは土でおおわれているはず。
しかし、プロディターは空洞を作ったのかそこから顔をのぞかせる。
のぞかせた顔は目があるかのようにシェルター内を見渡す。
そして、攻撃。
突如光の雨ともいうべき程の光線がシェルター内を襲う。
「美嘉、先導して!」
「はい!」
青羽の呼びかけに美嘉を先頭にシェルターから人が出ていく。
「こいつ…!」
一方、光の雨が降り注がれたにもかかわらず蓮、嬉々、リリィの3人は防御姿勢すらとっていない。
相手も3人を見てはいない。
逃げる人、特に非戦闘員を的確に攻撃している。
「このやろぉぉぉ!」
蓮がガトリングの引き金を引く。
いつも使っている武器は銃系統ではない。
刀のほうがまだ使いやすかっただろう。
だが、距離はさほど離れていない。
訓練を一通り受けている連から見れば余裕だ。
プロディターの頭に次々と穴が開いていく。
それと同時に外れた弾の跳弾。
そこらじゅうで音が響く。
だが、
「?」
ここでうれしい誤算が起こる。
相手が突然力なく天井から零れ落ちてきた。
突然の出来事に警戒したが、それと同時に相手の雨のような攻撃も止む。
「…やった、の?」
煩かった室内も人がほとんどいなくなり静寂が訪れる。
「違うな」
穴だらけになった相手の頭がボコボコと泡を吹き始める。
ここで嬉々が前に出た。
泡を吹き始めた頭を容赦なく体から切り離す。
離れた頭はしばらく泡を吹いた後液状化して消えていく。
「仮死状態みたいなものか?」
「おそらく…」
頭をなくした体は再び頭を生成しようとしているのか切れた断面から泡が噴き出る。
おそらくここで頭の再生を食い止め続ければここに相手を幽閉できるかもしれない。
だが相手はもう1体いる以上、安心できない。
「3人とも、みんな先に出たわ!あとは貴方たちだけよ!」
「…どうする?」
「持っていきたい気もするがいつ何が起こるかわからない。捨てていくべきだろうな」
「同感だ」
珍しくリリィも2人の意見に賛成した。
「青羽さん先行っててください!20秒後に私たちも移動します!」
「20秒って…もしかしてプロディターを抑え込んでるの!?」
「一種の仮死状態みたいな?」
「めっちゃ欲しいんだけど!?あーーもう、2体も入り込んでなければ!」
それだけ言うと先にその場を去る。
プロディターの頭の再生率は大体50%といったところか。
リリィが自分のアルマである槍をプロディターの頭の上にかざす。
「………いくぞ」
「ええ」「いつでも」
リリィのアルマがプロディターの頭を潰した。
あと2話で50話目。
願わくば今年中には書きたいなぁ…。