因みに自分は年末は暇になります(今は地味に大変)。
「…静かね」
明季がポツリとつぶやく。
別に周りは静かではない。
今でもがれきが崩れる音や、ショートした電線から電気のはじける音がする。
ただ、明季が言ったのは人の気配がしないということ。
生きている人の気配が。
シェルターを目前にしてつぶやいた明季は我ながら言うべきではなかったなとすぐに後悔する。
口に出すのと出さないのでは不安に思う気持ちが大きく変わってくる。
シェルターの扉が完璧に閉まっているから感じないだけ、そう思い込ませる。
だが
「……………遅かったわね」
シェルターの眼前に立って確信した。
扉はめちゃくちゃに壊され、歪んだ壁の隙間から砂が水の様にこぼれてきている。
まさかこんな状態になってまでシェルターに残る人はいない。
「扉を破壊しましょうか?」
「地盤がおかしくなってる、どれが支えになってるかわからない以上危険は冒したくないわ」
「扉にそんな役目はないと思いますが…」
「知識がないからこそ怖いのよ。それが分かっていればすぐにでも行動に移れる。それにここの壁は無駄に硬いから時間の無駄になるわね」
「じゃあどうするの?嬉々さんや美嘉さんは?」
「…………」
明季だってここのシェルターのことを知らないわけじゃない。
非常用の出口として地下街につながっていることは承知している。
だが、今からそこに向かうとなると間に合わないだろう。
逃げていたとしても、戦っていたとしても、立っているのはおそらくプロディターのみ。
わざわざ穂香に死体を見せるようなことは彼女だってしたくはなかった。
「…正影のところに戻って一度―――」
「私は行くよ?」
すべて言い終わる前に穂香が反論をする。
別に明季は驚いた顔を見せない。
わかっていたから、そういう選択をしたがるだろうと。
「通信をしてから10分経ったか経ってないかくらいだもん、走れば間に合うよ」
「………いいのね?」
「ここで引き下がったら絶対に見たくないものを見ちゃう。でも、今行けばまだ…!」
穂香のことを過小評価していたようだと判断を見直す。
外見まだ子供だし、正影にべったりだったが十分成長していた。
久しぶりに180度読みが外れたなと自嘲する。
「別ルートに道があるわ。ここをまっすぐ行くよりは時間がかかるけどそこしかない」
「隊長…」
「恭二、貴方が思っている以上にこの子は大人だったわ。私が思っている以上にも、ね」
「……わかりました」
「私もまだまだ若輩者ね」
3人は走り出した。
――――――――――――――――
「いったぁ!」
壁に叩きつけられた嬉々が悲鳴を上げる。
「チッ…」
舌を打ち、不快感をあらわにするリリィ。
「大丈夫か、嬉々!?」
嬉々を心配する蓮。
「ア………ォォ……」
言葉ではない何かをどこからか発するプロディター。
口のようなものは見受けられるが動いていない。
完全に劣勢に立たされた3人。
一撃、何かを頭にぶちかますことができればまた止めることができるかもしれない。
だが相手はそれを許さない。
さっきのはたまたまだったのだ。
なんだかよくわからない熱線を放つのだから接近戦なら勝てるのではないかと思っていたのだが、そうでもなかった。
正直強い。
嬉々も手も足も出ないとまでは言わないがリリィと2人がかりでようやくやりあえるかそれより少しばかり上か。
「リリィ、もういっちょやるわよ!」
「馬鹿かお前!?これだけ押されたら馬鹿でも作戦を考えようとするぞ、それすらしないのか?」
「考えたって意味ないでしょ?」
「……」
「もう一度奇跡を引くしかないの、そうでしょ!」
何も言い返すことができず、嬉々に同意せざるを得ない。
嬉々の容赦ない斬撃がプロディターに襲い掛かる。
はじめこそ合わなかったものの、リリィもようやく嬉々と息を合わせることに慣れてきた。
それに合わせて棍棒ともいえるほどの大きさがある刃を突き刺すためではなく、叩きつけるために振り回す。
しかし、その攻撃はいともたやすく止められる。
刃と刃がぶつかり合う音。
一瞬、プロディターに避けられて自分たちの刃がぶつかり合ったのかと錯覚するが違う。
プロディターの腕に止められていた。
そもそも2人の武器がぶつかり合った場合、棍棒(槍)と刀ではどうあがいても嬉々が押し負けるはずなのだ。
プロディターはわざとなのか首をかしげる。
しばしば見え隠れするこのような人間的行動は大抵、誰かを馬鹿にする行動であり相手の神経を逆なでする。
意図してやっているのか、それとも無意識なのか。
「オオオオオオォォ!」
硬直は3秒ともたなかった。
なぜなら全員分かっていたから。
相手が体を硬くしてくるなど予想の範疇内。
蓮が刃を受け止めているプロディターに襲い掛かる。
銃器をもっているにもかかわらず、それを鈍器として扱いながら。
振り下ろされた鈍器から普段ならしないであろう鈍い音が鳴る。
下手をすれば銃口を曲げてしまい、銃として使えなくなるにもかかわらずその攻撃に容赦はない。
プロディターはその攻撃をただ避けるという手法で避けた。
抑えていた2人の刃を押し返し、1歩後ろに飛び跳ねる。
それだけで5mは後ろへ後退する。
ガードではなく、避けた。
3人が全く同じことを考える。
頭はどうやっても硬くできないのではないか、と。
というよりもっと言うなら腕以外硬化させたところを彼らは見たことがない。
どこまで硬化できるのか、実は誘っているだけで油断したところをついてくるのではないか。
変に人間らしいところがあるが故に変な考えを想起させる。
蓮は続けざまに壊れなかったかも確認せず、ガトリングを撃ち始める。
照準なんて後回し。
慣れない銃の操作が故に10m離れられると、まず自分の意志で当てることができない。
じゃじゃ馬のごとく暴れる銃は周りにある民家を破壊しながらその攻撃をプロディターへと向ける。
しかし、
「!?」
プロディターもそこでただ黙ってみているわけではない。
蓮のガトリングの弾がプロディターに当たる前に消えてなくなる。
まるで手品でも使ったかのようにプロディターを中心に弾が消えてなくなる。
「惚れ惚れするな、敵でもここまでくると」
「黙って作戦考えて、あれじゃ近づくこともできない!」
「さっきはそんなの必要ないと言ってたくせに」
リリィと嬉々はあたりを見回す。
こう例外的な状況になると案外ゲームの様に何か使えるものが落ちていたりする。
相手は熱線を放つ。
おそらく熱を自分の周りを囲むようにして放っているのだろう。
「リリィ、これどうかしら?」
何かを担いでもってきた嬉々。
それを見てリリィはギョッとする。
「ばっ…、お前なんてモン持ってきてんだ!?」
嬉々が持ってきたもの、それは何か気体が入っているであろうボンベ。
何も書いていないので水素かもしれないし、酸素かも、或はガスかもしれないがどれにしても危険であることに違いはない。
「投げつければ爆発するなんて安易な考えはやめろ、周りの気温が上がり始めてる。下手すれば何もしなくても勝手に爆発するぞ!?」
「…じゃあそこの民家にある数十本のこれはどうすれば?」
「レェェェン!移動するぞ!」
知識の上ではリリィのほうが豊富ならしく、イライラを露わにしながら逃げに移る。
もともと勝ち目なんてほとんどないのだが負けるにしてもガス爆発で死にましたなんて冗談じゃない。
「だがリリィ、こういうのはここら辺たくさん置いてあるぞ?」
「ハァ!?」
「俺このあたり出身だからわかるんだよ、あの良くわからない物はいろんな所に置いてあるぜ?」
「~~~!」
どうせ置く場所がなかったのだろう。
誰が指示したかは知らないが地下なら外からの変な攻撃もまずないだろうし住宅がひしめき合っている以上、保管庫を作ったって違法でもばれはしない。
ここがシェルターの非常口から繋がっているとはいえそいつらから見ればそんなの関係ない。
「どこか拓けた場所は?」
「あると思うか?」
「聞いてみただけだ!」
分かってはいながらも聞いてしまった自分に腹を立てる。
そしてどこにでも置いてある可能性があるのならば逃げる意味がないことに気づく。
むしろプロディターに背中をさらけ出してしまうことになり危険極まりない行為。
足の速さでも勝てるはずがないのに何をやっているのか。
後ろを振り返る。
相手との距離はさほど縮まっていなかった。
だがプロディターは手を前に掲げている。
相手が何をしたいのか、考えるまでもなく理解する。
「くそっ!」
後ろに気づいていない2人に危険を知らせる時間はない。
この時は自分のやりが大きかったことをありがたく思った。
まっすぐ走っている嬉々と蓮を横なぎに振り払う。
ブン、と空気が唸った。
それだけ力強く、そして速く振ったのだ。
まさかそんな行動を予見できるはずもなく2人はバランスを崩して民家に体当たりする。
「何す―――」
刹那、熱気がさっきまで嬉々たちがいたところを襲う。
何の音を立てることもなく、地面がとてつもない高温になる。
光線に直接当たらないだけで自分たちが生きているなんて不自然に思えてくるぐらいに地面との温度差がある。
しかし、それに驚いている暇などなかった。
近くの民家から謎の爆発音がする。
それはおそらく小さなもの、だがそれが連鎖的に増えていく。
「ヤバ―――」
嬉々たち側の民家が突如大爆発を起こす。
家1つ吹き飛んでしまうような、文字通り大爆発。
直撃こそ免れたものの、大きな音で耳とそれによる噴煙で目がやられる。
「嬉々、無事―――」
蓮の呼びかけが途絶える。
理由はすぐにわかった。
嬉々は近くでわずかに開けている目の隙間から見ていたのだから。
光る何かが蓮を殴った。
それだけで蓮の姿が視界から消える。
「蓮!」
僅かにしか見えない視界を使いながら無謀にも真正面から1人で斬りかかる。
さらに、無理に立ち上がるものだから足をふらつかせる。
型のなっていない弱弱しい斬撃はいともたやすく止められた。
刃と刃がぶつかり合う音なんてせず、ただ止められた。
プロディターは刀を掴むと、それごと嬉々を壁に叩きつける。
あまりの激痛に刀を離し、地面に倒れこむ。
リリィはそれを眺めることすらできなかった。
爆発の後、いち早く噴煙から脱出したがそれと入れ違いにプロディターが侵入。
リリィの目では中を覗き見ることができない。
とはいえ、何もわからずただつっこめば死ぬだけ。
何もできない。
そんな状況だからこそ気づけた。
「…?」
揺れている。
地震とかそういうものではなく、何かを引きずっているかのような地鳴り。
しかも結構大きい。
戦闘に夢中で気づかなかった。
さっきよりも今の方が大きい地鳴り。
「こんな時に何だってんだよ…」