穂香「よかったねパパ。セリフ付は久しぶりだもんね」
正影「主人公は俺だってことを思い出させないとな」
嬉々(い…言えない。正兄の出番は話の4分の1なうえに、セリフも少ないなんて…言えない!)
「ん…」
体はだるい。
まだ寝ていたい気分だ。
記憶はしっかり残っている。
ヘリの中で意識を失ったはずだ。
つまり今は医務室にでもいるのか。
「??」
手を動かそうとして気づいた。
つながれている。
「これは…」
だるい体に鞭を入れ、辺りを確認する。
手術室のように計器が並び、器具が置いてある。
清潔感があふれている部屋。
ただ、こういう部屋に入ると一般人以上に嫌気がさす。
一般人なら体を治すためとはいえ、メスで腹を切り開かれたりするから嫌だと思うぐらいだろう。
だが、ロストチルドレンの正影の場合は治すためではなく研究のためのモルモットとしてよく入った。
だが、ラグフィートとはそんなことはしないと決めたはずだ。
寝ている間ならともかく、今は起きた。
あからさまに「何かします」といっているような場所に置いていくのはおかしい。
『ようやく起きたか。あまり長いからどうしようか処遇を決めかねていたところだ』
ガンガンと痛む頭に響くように声が聞こえる。
スピーカーを通しているのかこもったその声は今の正影にとっては毒である。
「…誰だ?」
『フラテッドという。リレグ様の下で働いている者だ』
「……目的は?」
『イリュミタートの完成』
「??」
『知るはずがない。そしてそれを教えるか教えないか決めるのは私ではない』
「なにを言っている?」
『…話しすぎた。これで失礼する』
スピーカーから聞こえていた声がなくなった。
顔は分からなかったがいなくなったのだろう。
或いは黙って観察を続けているのか。
どちらにしても正影に選択肢はない。
今は黙って伏しているときだろう。
正影は体力の回復に努めることにした。
――――――――――――――――――――――
非常用の設備しか整っていない。
アルツェの時ほど豪華絢爛な見た目もない。
クーラーはきいていない。
防音対策もなっていない。
ただ部屋はきれいだった。
「………」
きれいな部屋の中で黙って書類に目を通すラグフィート。
豪華絢爛な見栄えはいらないと思うが防音は大事だなと改めて思っていた。
あらかた遠くのアルツェへの連絡は済ませた。
望んでいたほどの結果ではなかったが援助はあるだろう。
何よりあふれかえった民間人を受け取ってもらえる所が少数とはいえあるだけましなものだ。
正影の件はとりあえず行方不明で片づけることができ、少しは楽だった。
もし、いなくなっていなかったらどう処理しようか悩んでいただろう。
それでもやはりいてほしかったことに変わりはないのだが。
(また、してやられたか)
焦っても意味はない。
今は為すべきことをするまでである。
といっても、それが書類に目を通すということだけは納得がいっていないのだが。
「司令、いらっしゃいますか?」
ドア越しに声がした。
青羽の声。
ノックすればいいのを知っているはずなのだが、おそらく自分が聞き漏らしたのだろう。
「なんだ?」
「ご客人がお見えになってます」
「客?こんな時にか?」
「私としてはご遠慮願いたかったのですが…」
「?」
扉が開く。
外から余計にうるさい人の声がする。
そして扉の前には嬉々と―――
「…伊瀬か」
今の名前。
長い間、顔を合わせた覚えはなかったがすぐにわかった。
後ろで遠慮がちに嬉々が立っている。
それを見てあらかたのことに察しがついたラグフィートはため息をつく。
「人選は済んでいる」
「足りてないのだろう?」
「大勢で乗り込むのはその後だ。今は必要ない」
「正影を連れ帰るという意味では、最も信頼できる人材だと思うが?」
「一応言っておくが今のあなたには何の発言権もない。それは分かっているでしょう」
「だからこそ、直談判しに来た。それにここにこれたということは何の権限もないというわけではないらしい」
権限がないのは事実。
来れた理由は単に以前、お偉いさんだったから。
苛立ちを隠せないラグフィートは、眉間にしわを寄せる。
「逃げるようにして司令の立場を去り、私に押し付けた奴が言うことなど聴くつもりはない」
「推薦してほしいと言っていたじゃないか」
「黙れ。いい加減にしないとその口縫い合わすぞ」
「あの…」
「嬉々、私は親が親なら子も子なんて思わない。だから言うがこいつとはさっさと縁を切れ」
「そ、それはできません!それに今は違うお話があってここに来たんです」
「美姫を殺ったのは人だ」
諭すように、静かな口調でしゃべる。
「オスではなく、人だ。この意味が分かるか?」
「強い…ということですか?」
「そんな簡単な話じゃない。確かに技術の面で劣るところがあるかもしれないがそれ以前にお前は人が殺せるのか?」
「………」
「美姫にはおそらくその度胸がなかったのだろう。あらゆる点で美姫に劣っているお前にその度胸があるのか?」
「正兄を、正影を助けるためなら…!」
「不合格だ、帰れ」
「なっ、なんでですか!?」
否定を即答されて嬉々は前に足を踏み出す。
「今回の任務は正影の生死を確認し、生きていた場合連れて帰るということになっている」
「それがなんですか?」
「その言い方だと、正影が死んでいた場合何をしでかすかわからん」
「それでも、私は!」
「くどいぞ」
もう話を聞くつもりがないのか、ラグフィートは嬉々たちに背を向ける。
手に持っている書類に目を通し始め、ため息を漏らす。
「…………分かりました、失礼します」
いいのか、と声をかけようとした稗田だったが嬉々は顔でそれに返事をする。
黙ったまま、その部屋を出る2人。
少し離れたところにいた青羽がそれを見ると、入れ替わりに部屋に入る。
「諦める、わけじゃなさそうだな?」
「勿論です。ただ手法を変えるだけですから」
「上官の許可なしに…か。正影とは違ってずいぶんやんちゃに育ったな、嬉々は」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「と、いうわけで情報を渡しなさい」
「いやいやいやいや!なに言ってるのよ?どういうわけよ!?」
美嘉は意味わかんないと言わんばかりに手を大きく振っている。
周りには人がいないわけではないが、ちょっと大声が出たくらいで「なんだ?」と反応するほど暇ではないし、余裕もない。
「私は正兄を絶対に助けるの、そのためには司令がいつそれを実行し何を使って移動するのか知る必要がある。だから貴女の情報網に頼るのよ!」
「嬉々、いくらなんでもそれは無茶よ」
「なんで?いつも危ない情報持ち歩いてるじゃない?」
「私がどうやって情報を仕入れているか知ってる?歩き回って聞き込みなんてよほどのことがない限りしないわよ。基本的にはインターネットを経由していわゆるハッキング的なことをしてるのよ?」
「だからそれをしてくれって言ってるだけじゃない」
「……いい?正影さんは今普通のプロトとして扱われているの、情報の中では」
「それがどうしたのよ?」
「そんなプロト1人のために動く組織は普通いない。司令は間違いなく隠密に事を済ませるはずよ」
プロトの代わりはいくらでもいる。
勿論ただでどぶに投げ捨てるようなことをすることはないだろうが1人失ったくらいで頭を悩ますことではない。
美嘉の言っていることは正しい。
嬉々の顔から血の気が失せ始める。
「物資の問題だってこんな状況じゃあいくらでも改ざんできるだろうし…、私にはとても無理よ」
「でも、何かあるでしょ!?」
「…………その作戦に関わっている人に聞くってことくらいしか。見当はつくけど…」
「明季さんじゃ無理よね」
「オペレーター…貴女のことを見越して私なら真理奈には役目を負わせない。可能性があるならリムくらいか」
「ええ…ありがとう。少しあたってみるわ」
傷心気味であるのは分かるがそれとは裏腹に、彼女の足は止まっていない。
嬉々がいなくなると、ため息をつき頭を掻く美嘉。
無力だとは思わない。
あくまでも美嘉はただのプロトであり、それが当たり前だから。
だが、力になれないのは悔しかった。
さっき美嘉はネットに情報は載らないと言ったが実はそれは確証ではない。
あくまでも自分の見立てだ。
少し探してみようかと思い立ったが、すぐにそれは不可能だと思い出す。
そもそもこんな状態でプロトに支給されるネット端末はない。
探せば無きにしも非ずだろうがいくら嬉々のためとはいえ、あまり違反した行動はとりたくない。
「美嘉」
「ああ、蓮。いたの?」
「少し前からな」
「穂香ちゃんはどうしてる?」
「真理奈の力を生かして仕事に励んでるよ。何があったのか知らないけど悪い空気はなくなってた」
「……見かけによらずロリコンなのかしら?」
「??」
蓮が首をかしげているが別に共感してもらおうとは思っていない。
「それより嬉々のことだけど…」
「少し前からいたのよね?好きなら出てきて励ますのが男ってもんじゃないの?」
「そうしたかったのはやまやまだけど。俺は何も手助けできない」
「…一体誰が攫っていったのかしらね」
「正影さんをか?」
「そもそもどこから情報が漏れたのやら。オスを操る技術なんて存在しないんだから、この機会に乗じてロスである正影さんを連れ去ったんでしょ?それってあらかじめ誰がロスだか分かってないと無理があるわよね」
「情報なら結構漏れそうな気がするけどなぁ」
「案外そうでもないのよ」
アルツェ内の人は正影がロスだと知っている。
ただ、外へ連絡する手段を持っていない。
それを持ち合わせているのは司令であるラグフィートのみ。
頻繁に外と連絡はとることがある人はいるがあらかじめラグフィートの許可が必要で、その会話も録音されている。
ネットを使った場合は外へ漏れるのでは、と思われがちだがそれぞれの施設にメインコンピュータがあり、それが外と中を完全に遮断している。
同じ基盤を持ったコンピュータが全ての施設に配られているため同じ機能や性能を持ち合わせている。
なので基本コンピュータは娯楽に使われることはなく、調べ物を扱うときに使うことが大半。
ブログのようなものも上に管理されており、いくら施設内の人しか見ないとはいえ正影のことを載せるのは固く禁じられていた。
一番ラグフィートが気を配っていたのはここだろう。
「はぁ…なんか疲れたわ。ちょっと癒されてくる」
「ペットでも買ってるのか?」
「穂香ちゃんに頬ずりしてくるわ♪」
「…変なことはしないでくれよ?」
「大丈夫、それは正影さんと穂香ちゃんの両方に許可貰ってからするから」
(貰えると思っているのか?)
軽い足取りでその場を去る美嘉。
ただ、今の発言で美嘉も正影が生きていると信じていることが分かった。
蓮自身もその意見にはもちろん賛成だ。
だが、だからこそ美嘉の夢はかなわないだろう。
蓮は気の毒そうな目で美嘉を見送った。
あー…もう2週間もしないうちに3月かぁ。
3月くらいは投稿ペース早められるといいなぁ(遠い目)