1人の男がモニターを見て言った。
モニターにはただの更地が映し出されている。
「つまんねぇな」
「そう言うな、異常なしなのは楽でありがたい」
男の独り言に返事をしたもう一人の男。
最初にしゃべった男はスキンヘッドに眼鏡をした、高身長が特徴。
後の奴はしゃべりならくわえたばこをしている。
「お前、よくしゃべっても煙草落ちないよな?」
『フラテッド様だぞ?当たり前だろ、これくらい(少し高い声)』
くわえたばこをする男(フラテッド)は手に人形をつけながら言った。
口をほとんど動かさず。
「腹話術なんてこの時代じゃまったく自慢にはなんねぇよ」
「楽しむことはできると思うが?」
「少なくとも俺は楽しめねぇよ。ああ、はやく発生装置《ディネラ》使いてぇ…」
「これを見ろ」
一枚の紙を渡す。
「これは…。まじか?」
「ああ。今日の夜だそうだ」
「なんで昼間じゃねぇんだよ、見づらい」
「要塞《アルツェ》見つかれば面倒だ。最大限にそれに配慮した結果だ」
「…それもそうだな。ま、多少暗くても何とか見えるしいいか」
「何分で落ちると思う?」
「…10分だな」
「私は5分だ」
「早すぎねぇか?プロトがいるんだろ、あそこ」
「たった一人だ。すぐに死ぬ」
「ま、俺としては生き残ってほしいんだけどな」
「なぜ?」
「そっちのほうが面白いからだよ」
モニターであふれる狭い部屋の中、2人の男は話していた。
「正影さん!早く早く~」
「そんな急がなくったってあれは動かないぞ?」
「でも集落だよ?人だよ?楽しみ!」
正影と穂香が都市を出て10日目、2人はある集落を見つけていた。
決して裕福には見えない。
3匹の子豚の話に出てきたわらの家らしきものがたくさん見える。
地図にそんな印はなかったので、おそらく都市崩壊後に出来たのだろう。
「しかし、まぁよくこんなところで集落が成り立ってるな」
「戦闘要員がいるんじゃない?」
「おそらくな。じゃなければここを保ち続けるのは不可能だろうしな」
今までの話では10m以上の敵がよく出てきていたが、実はこれらは数が少ない。
普通は5,6mのものが多く、大きくても10m程度が普通だ。
この程度ならプロトでも対処できるのだ。
「着いたよ正影さん!」
「…丁寧に集落の周りには柵か…」
「襲撃から守るためでしょ?」
「オスには意味ねぇよ。一瞬で突き破られるぞ?」
「それでも安心はするんじゃない?」
「…ないよりはましなのかもな」
政府の拠点に向かうルートからは外れないのだが少し時間のロスだ。
だが、穂香の嬉しそうな顔を見るとダメとは言えなかった。
しかし、彼らがここを見つけたのは偶然だった。
もともと一直線で地図を頼りに歩いていたのだが途中で道が塞がれていた。
回り道をするもなかなか進めず、いろいろなところを歩き回っていたらここを見つけたのだ。
中に入ってもよいものかと考えていると1人、人が歩いてきた。
「あの…あなたたちは?」
「すみません、俺たちはあるところを目指してるんですけどその途中でこの集落を見つけまして」
「中に入れてもらえない?」
「…ちょっと待っててください」
そう言うと集落の中に戻っていった。
「なんですぐに入れてもらえないのかな?」
「そりゃ俺たちは招かれざらる客みたいなもんだからな」
「何も悪いことしないのに?」
「そんなのあっちから見たってわからないさ。むしろあっちから見れば俺たちをこの集落に入れたってデメリットだらけだ」
「デメリット?」
「俺たちがここで飯をごちそうになるかもしれない。そうなれば食料が減る。俺たちがここに泊まることになるかもしれない。そうなればここの人の土地に入れることになって見張りだったり場所だったりをとる。メリットがあるか?」
「正影さんがいる限りはここの集落はオゥステムの襲撃を防げるよ?」
「ここにはおそらくプロトがいる。俺の手助けは必要ないだろうよ」
ちょうど説明が終わったところでさっきの人が戻ってきた。
老人を連れている。
まさに「ザ・長老」だろう。
「こんにちは。ワシは見ての通り長老という。名前は忘れてしまったよ」
「初めまして。俺は正影。この子は穂香といいます」
「よろしく、と言いたいところなのだが…その、すまん。初めに言っておく、ここに入れることはできない」
ある意味予想通りの答えだった。
だが、穂香は納得がいかないようだ。
「なんで?私たちなにも悪いことしないよ?」
「お嬢ちゃんの言うことを信じたいのはやまやまなんじゃが…」
「他の人が嫌がってるんですね?」
黙って長老はうなずく。
やるせない顔をしていた。
「ワシは泊めるくらい、いいと思うんじゃが」
「いや、気にしないでください。当然の反応です。突然来た見知らぬ人なんて私がここの人だったらおそらく入れません」
「すまんの…」
「ですが、そこを何とかできないでしょうか?この子、今まで家族以外の人と、俺を除いて接してきたことがないんです。別に飯や、家を貸し出してくれなんて言いません。寝る時も集落の外で寝ますし駄目でしょうか?」
入れたくない気持ちは分かるが穂香は入りたがっている。
可能性は低いが少しは粘ってみる。
「しかしのぅ…」
「何やってんだよ、長老!」
奥のほうから新しく人がやってきた。
丈夫な体つきをした男性だ。
「押火《おしび》…」
「さっき決めただろ。よそ者は入れないって」
「しかし、この人たちはただ中を見てみたいだけのようじゃ。食事も寝どこも必要ないと言っておる」
その言葉に怪訝な顔をする押火。
今どきここまで観光に来るもの好きなんていない。
それなのにただ見たいだけ。
怪しすぎる理由だ。
「お前ら、何者だ?」
「俺は正影、この子は穂香。この子がこの中を見てみたいと言ってな。出来れば泊めてほしいが、無理にとは言わない。だがせめて中を少し見せてはもらえないだろうか?」
「…坊主」
「私は坊主じゃない」
「なんでこの中を見たいんだ?泊めてほしいのが目的ならまだしも見るだけでもいい?意味不明だ」
「私、今まで一緒にいたの家族だけだから。正影さんと知り合ったのもつい最近。だから人が多い所を少しでも見せてほしくて…」
穂香の言葉を聞いて少し心が動いたのか考える。
いつの時代でも子供の純粋な発言は強い力を持つのだ。
「…分かった。1つ条件を飲めば中に泊めてやる」
「本当か?見るだけじゃなく泊めてもらえるのか?」
「ああ。条件は食料だ」
「食料…。悪いが魚釣りのスキルはないぞ?」
「魚じゃない。肉がほしい」
どうやらここでも肉は貴重な食品のようだ。
しかし、オスを撃退できるほどの戦力があるのに肉を取りにいくことができないのはおかしい。
「ここにオゥステムは来るのか?」
「当たり前だ。この地域に安全な場所なんてない。だけどこっちにはプロトがいるからな」
「ならなんで肉が不足する?プロトが一人いれば簡単に見つけた動物を仕留められるだろ?」
「…保険だ」
「?」
「もしそいつがここを離れている間にオゥステムが来たらどうする?俺ぐらいならある程度は抵抗できるかもしれないが女子供や長老みたいな人は即死だ。だからあいつはここを離れちゃいけねぇんだ」
「でもそれで栄養不足になったら元も子もないんじゃ」
「俺に言うな。これは村の決定だからな。俺は反対したが駄目だった。だからあんたたちにお願いしている」
正影にとってこの条件は無料と何ら変わらない。
「分かった。その条件で手を打とう。どのくらいあればいい?」
「ここら辺にいるのはイノシシ、鹿、犬、牛だ。イノシシか鹿なら2頭。犬なら3頭。牛なら1頭でいい」
「多いのはどれだ?」
「牛以外は20分も探せば見つけられる。だがどれも人を見つけると襲うか逃げるかするからな」
「分かった。1時間ほどで戻ると思う。行くぞ、穂香」
「はーい!」
2人が肉を探しに行った。
「…よく妥協してくれたの」
「別に違う。俺はただ、こっちのほうが俺達のためになると思ったから行動をとっただけだ」
「そうか…。ありがとうよ」
「礼は後にしてくれ。あいつらが肉をもってこれなきゃ入れる気はないんだからよ」
20分探せば見つかるとは言ったが普通、動物対丸腰の人間では人間に勝ち目はない。
アクリス細胞は人だけだけでなく、動物にもついているからだ。
つまり身体能力の差は少しも縮まっていないのだ。
しかし、その心配は杞憂だったと押火はすぐ知ることになる。
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「…」
「…すごい」
長老の付き添いであろう人は思わず呟いた。
正影たちは1時間後、しっかり集落の前に戻ってきた。
結構な量の肉を持ち上げて。
イノシシ2頭、鹿1頭、犬1頭に牛1頭だ。
「これで、入れてもらえるか?」
「…これで俺が何か言ったらおかしいだろ」
「やったー!じゃ、お邪魔しまーす!」
そう言うと穂香は走って集落の中に入っていった。
柵があったしおそらく大丈夫だろうと思い放っておく。
「あんた、本当に何者だよ?たった1人でこの量」
「俺だけじゃないぞ。あいつだって鹿を1頭仕留めたんだから」
「…お前らのような人材がいればこの集落も安泰なんだがな」
と、さっきはなかったはずのバスケットを正影が持っていることに気づく。
「なんだ、それは?」
「ああ。さっき見つけた」
中をあけると子供の犬が3匹ほど入っていた。
「俺が仕留めた犬がこの子たちの親だったらしいんだ。だからな…」
「そうか。とりあえず上がってくれ。さっきも会っただろうが長老が待っている」
「そうさせてもらうよ」
「こっちだ」
押火の後についていく。
集落の中は本で見た縄文時代を彷彿させた。
人の服はボロボロではあるが現代風で、違和感はないのだが家がほとんどわらの家。
いくつか木の家もあったがコンクリートはなかった。
「ここだ。長老、旅人を連れてきたぜ」
「入ってくれ」
長老というだけあって木の家に住んでいるようだ。
中は家具などはほとんどなく、特徴がないが木の家はここではかなりいい方。
文句なんてないのだろう。
だが、1つだけ不自然なことがあった。
それは…
「よく来たな。そこにかけてくれ」
ソファーがあることだ。
どう考えても置き場所を間違ってる。
「失礼します」
座ると久しぶりに優しい感触がした。
もうここから離れたくない。
「まず、お礼からじゃ。見たところかなりの食料をとってきてくれたそうじゃの?」
「いや、あれくらいはどうってことない」
「肉はワシたちから見れば貴重な食材じゃ。さっきまで反対しておった者たちも今では君たちを歓迎している。本当にありがとう」
「お礼をしたいのはこちらだ。中を見せてくれるだけでなく、泊めてもらえるなんて」
「ワシたちに出来るのはこれくらいだからのぅ。好きなだけゆっくりしていってほしい」
「俺としてはここに残ってほしいけどな」
さっきまでとは態度が180度変わった押火を見て苦笑する。
「悪いがここに残るわけにはいかない。おそらく泊まるのは今日だけだ」
「何か急いでいるのか?」
「妹を探しているんだ。場所は分かってるからそこへ向かっている」
「それは残念じゃの。だが、まあ今日だってまだ時間はたっぷりある。ゆっくりしていってくれ」
「ありがとう。そうさせてもらう」
「那倉《なくら》、正影さんを部屋に案内しなさい」
「分かりました」
長老の付き添いの人が立ち上がり正影を部屋へ案内する。
「こちらです」
「分かりました。では長老。失礼します」
「ゆっくりしていってくれ」
案内された家は木の家だった。
数少ないはずの木の家なので一度、わらでもいいと言ったが「それではしめしがつかない」と言われ受け入れることにした。
中に入るとちゃんとした部屋あった。
家具はベットしかなかったがそのベットにはふかふかのシーツが敷かれている。
十分だ。
「はぁ~~~~」
このまま寝てしまいたい気もするが、せっかくここに入ったのだ。
見て回るべきだろう。
それに、拾ってきたはいいが育てられない犬も何とかしなければならない。
穂香を探しに行くため、家を出た。
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穂香を探しながらこの集落を見て、正影はすごいと思っていた。
自給自足の生活とはまさにこう言うことだろう。
米や野菜を畑で作り、電気は発電機で出来る限り使用しない方向で使う。
土地が少ないのが少し欠点かもしれないが、しっかり機能している。
プロトらしき人には出会ってないが、他の一般人には普通にあいさつされた。
そして穂香は…
「チィちゃんが鬼だぞー!」
「まてー!」
「逃げろー」
楽しそうに同年代であろう子供たちと遊んでいた。
穂香が家族以外で同年代と出会ったのはこれが初めて。
接し方が分からないのでは?と思っていたのだが問題ないようだった。
「あっ、正影さん!」
穂香が気付き正影に近づく。
「楽しんでるみたいだな」
「うん。ここのみんな優しくていい人たちばっかりだよ」
「そうか。ここ泊まれることなったから心ゆくまで楽しめ。出発は明日だからな」
「泊まれるの?やったぁ!」
子供の嬉しそうな顔は何度見ても癒される。
「…、正影さん。それ何?」
「あ、ああ。これか?お前見てなかったのか?ほら」
バスケットを指摘され中身を見せる。
子犬が3匹、顔をのぞかせる。
「かわいい!みんな、かわいい犬がいるよ!」
その呼びかけに子供たちが集まり、みんなも同じような反応をする。
「ほんとだー」
「私初めて見た!」
「触ってみたい!」
「おう、いいぞ。ほら」
子供たちに犬を預けると子供たちのテンションがさらに上がる。
「正影さん、この犬って犬種は?」
「千葉犬か秋田犬だろ。犬については詳しくないから俺もよくは知らない」
「へぇ、かわいいね」
ここで飼ってもらえないものかと出してみたが結果は上々?
しばらくは預けても大丈夫だろう。
「穂香、俺は長老に用があるから犬は帰るときに全部持って来いよ?」
「わかった!」
「家はあの木の家だ。分からなかったら長老の家に行け。誰でも長老の家なら知ってるはずだから」
「はーい」
その場を離れながら正影は思った。
穂香はここに置いていくべきではないかと。
ここは自由だ。
おそらくあの子が戦うことになるとしてもまだ先の話。
それにいい友達もたくさんいるようだ。
それに比べて政府の拠点に行けば待っているのはおそらく訓練ばっかりの地獄。
いや、訓練だけならまだましだ。
プロトでありながら専用の武器が出せたとなればおそらく実験や解剖に使われる。
ここ以上の安定した生活が貰えるのは間違いないだろうが、子供にとってそこはいい環境とは言えない。
彼女の幸せはどっちなのだろうと思っていた。
読んでくださりありがとうございます。
最近更新が0時なるかならないかのあたりになってます。
少し遅いと思うかもしれませんがそこは勘弁です。
これからもよろしくです!
追伸:本文では野良犬を普通に触ってましたが、子犬といえども危険なものは危険です。最悪、かまれてバイ菌が体に流れてしまうこともあるのでむやみに野良犬にはさわらないでください。