ウチの氷川さんはオンとオフの差が激しい   作:宮川アスカ

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ドリフェス紗夜さんを当てるしかない。
どうも、宮川アスカです。
やって参りました思いつきシリーズ。恋愛を書く訓練場として出来るだけ更新していきたいと思います。


第1話 ウチの氷川さん

「なぁ、あれ見ろよ」

 

 大学の食堂。今日の日替わり定食である豚のしょうが焼きを食べていると、目の前に座る友人が話しかけてきた。

 

「ん?」

 

 いつもと違い、コソリと小さな声で話しかけて来た友人を不可解に思い、彼の視線の先に目を向けると、そこには1人の女性の姿が。

 

「なんで彼女がこんな所に……!」

 

「そりゃあ、ここの学生なんだから居てもおかしくないだろ」

 

「そういう事じゃない。お前は彼女が誰か知らないのか!?」

 

「いや、知ってるけども……」

 

 近い近い……! 

 俺は目の前に迫り来る友人をドードーと宥める。

 周りに興味が無い事は自他共に認める俺だが、流石に彼女の事くらいは知っている。

 

 彼女は俺達の1つ下。今1年生の氷川紗夜さんだ。

 腰程まで伸ばされたアイスグリーンの長髪に、黄緑色の瞳。やや垂れ気味だが、その瞳はキリッとした力強さがある。

 その美貌は素晴らしいもので、目の前の友人同様、男女問わずこの食堂の視線を集めている。

 噂では、今年の学祭、ミスコン優勝候補の1人らしい。

 

「そんな彼女が何故ここに……!」

 

「いや、だから……」

 

「違う。そうじゃないんだ!」

 

 先程と同じ答えをしようとした俺の言葉を友人は防ぐ。

 

「氷川さんは、いつも弁当を持参しているんだ。学食を訪れるなんておかしいだろ!」

 

 なんだコイツは。ストーカーか? 熱弁する友人を見て、我が友人ながら引いてしまった。

 

「てか、忘れただけだろ」

 

「……それもそうか」

 

 普通に考えて持ってくるのを忘れたとか、作る時間が無かったとかだろう。今日の俺のように。俺の言葉に、友人もようやく大人しくなる。

 

「それにしてもやけに詳しいな」

 

「そりゃあ、氷川さんはRoseliaのメンバーだからな」

 

 Roselia。彼女がこの大学で有名なのは、彼女の容姿以上にこの理由が大きいのだろう。

 今は大ガールズバンド時代なんて呼ばれるほど、ガールズバンドが数年前から流行っている。

 そしてRoseliaもそのガールズバンドの1つで、メジャーデビューはしていないものの、メジャー顔負けの実力と人気を誇っており、世界的に見ても有名なバンドらしい。

 

 らしい。というのも、俺はあまりガールズバンドに詳しくない。勿論、音楽は好きだし、有名なガールズバンドの名前くらいは知っているが、あくまでその程度だ。

 今の説明も、目の前で熱狂的に説明している友人の言葉をそのまま伝えているだけだ。

 

「てか、お前ってRoseliaのファンだっけ?」

 

「いや、最近聴き始めてファンになった」

 

 ……意外と浅かった。ただコイツは1度ハマると相当調べる。ハマるのが早いか遅いかの差だ。熱狂的なファンとそう変わらないだろう。

 

「じゃあ、やっぱり氷川さん推しだったりするのか?」

 

「いや、俺は白金燐子ちゃん推しだ」

 

「あっ、さいですか……」

 

 キランと眼鏡を反射させ、光らせながら、真剣な眼差しでこちらを見てくる。

 その、まってました! って顔やめてほしい。

 あぁ、これからコイツの推しについて長々と話されるのかと思うと憂鬱になる。俺は最後の一口のしょうが焼きを口に運ぶのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 案の定、友人のありがたいお話を右から左へと受け流し、その日の講義を全て終えた俺は帰路に着く。

 大学入学をきに上京し、夢の一人暮らしライフ。いや、一人暮らしだったと言う方が正しいか。

 鍵を取り出したところで、同居人が先に帰ってきているであろう事を思い出す。予想通り既に鍵が空いている扉を開けると、そこには無惨に脱ぎ捨てられた女物の靴。

 見慣れな光景に今ではもう溜め息もでず、その靴を並べ直し、脱いだ自分の靴の横に置く。

 

 そう言えば、俺はRoseliaにはあまり詳しくはないと言ったな。あれは事実だ。だがしかし、氷川紗夜については少々周りより詳しい。誤解はするな。あくまでストーカーではない。

 

 

 では何故かって? 

 

 

「ただいまー」

 

 

 それは──

 

 

「ええ。おかえり」

 

 

 彼女、氷川紗夜が俺の同棲相手だからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リビングの扉を開けるとそこには氷川紗夜の姿。だが、俺の視線にはそれより先に入るものがある。それは玄関先の靴同様にリビングに脱ぎ捨てられた彼女の服達。

 

「服は脱ぎっぱにするなって、いつも言ってるだろ」

 

「……ええ」

 

 おい、その数秒思考した後に面倒くさそうな顔するのやめろ。

 

 そこに居るのは確かに氷川紗夜だ。しかし周りが知っている彼女ではない。恐らく彼女の家族ですら知らない、俺だけが知ってる彼女の姿。

 

 昼間食堂で見た凛とした姿はそこにはない。コンタクトを外し眼鏡をかけ、綺麗にセットされたアイスグリーンの髪はボサボサ。そこに脱ぎ捨てられているオシャレな服とは違いダボダボなTシャツを身にまとった彼女。

 

 そんな格好で人をダメにするソファの上であぐらをかきながら廃人の様にテレビゲームをする姿なんて誰が想像できようか。いや、誰も想像できないだろう。

 

 とりあえず、彼女の脱ぎっぱなしの服を洗濯機に入れ、再びリビングに戻ると、彼女がスクリと立ち上がる。

 

「はぁ」

 

 俺は小さく溜め息をつき、先程まで彼女が座っていたソファに腰掛ける。

 

「ん」

 

 すると満足そうに頷き、俺の股の間に座る。

 

「氷川さ「紗夜」……」

 

「2人の時は紗夜よ」

 

 相変わらずオンとオフの切り替えがお早い様で。

 

「紗夜」

 

「なにかしら?」

 

 名前で呼べば、コントローラーを動かしていた指が止まり、画面を見ていた顔が見上げる様にこちらを向く。そんな大層な質問じゃないんだがな……

 

「それ、新作だっけか?」

 

 紗夜が今やっているのは、Neo Fantasy Onlineというネットゲーム。通称NFOというらしい。

 結構有名なゲームらしく、つい最近新作が出たとかで世間を騒がしていた。

 

「ええ。今度宇田川さんと白金さんと一緒にプレイするから、その為のレベリングをね」

 

 宇田川さんと白金さん。紗夜のバンドメンバーだろうか? 

 ん? 待てよ。白金…… どこかで聞いた事ある様な……

 あぁ、昼間散々聞かされたアイツの推しか。たしかRoseliaのキーボードの白金燐子さん。だった気がする。

 

(しき)も一緒にどう?」

 

「いや、今は遠慮しとく」

 

 俺はそう言うと、傍にあった小説に手を伸ばす。

 ところどころ他愛もない話をするも、この空間に聞こえるのは、テレビから流れるゲーム音と小説のページをめくる音のみだ。お互い集中すると自分の空間に入りがちなのだから仕方ない。

 

「それ、面白い?」

 

「ん? あぁ、面白いけど、読んだことなかったっけ?」

 

 俺は紗夜に表紙を見せると、「ないわね」と首を横に振る。

 そしてコントローラーを置くと、ポンポンと自分の腿を叩く。

 ここに持ってこい。という事なんだろう。

 

「はいはい。分かりましたよお姫様」

 

 俺は紗夜の要求通り、彼女の前に小説を持っていき、紗夜の顔の横に自身の顔を覗かせ、小説を読む。

 ペラリとページをめくろうとすると、その綺麗な手が俺の手を掴む。

 

「まだ、読み終わってないわ」

 

「えぇ……」

 

 まぁ、確かに俺は本を読むスピードは速い方ではあるが……

 致し方なく、紗夜の読むスピードに合わせながら読んでいると、途中で「いいわよ」という声が聞こえなくなる。

 

「?」

 

 不思議に思い彼女の顔を覗いてみると、そこにはスヤスヤと気持ちよさそうに眠る紗夜が映った。

 

「まったく。マイペースなお嬢様だこと」

 

 ウチの氷川さんはオンとオフの差が激しい。




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