ウチの氷川さんはオンとオフの差が激しい   作:宮川アスカ

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さよひな!Happybirthday!
紗夜さんの誕生日ガチャ。当てなくては!


第3話 ウチの氷川さんに嫌われたかもしれない

 東京藝術大学。通称藝大。ここが俺の通っている大学である。

 芸術系大学の最難関。その道に進むのであれば誰もが1度は夢見るこの大学は、美術学部と音楽学部の2つが存在する。

 俺が籍を置いているのは美術学部で、一方の紗夜は音楽学部。

 藝大は一本道を挟み、美術学部と音楽学部で校舎が大きく分かれている。互いに正門まであるほどだ。学年や学科が違うならまだしも、学部まで違うとなると基本的に大学で紗夜に会うことはない。ないのだが……

 

 たまたま音楽学部の校舎に用事があったのが、なんという偶然か。目の前から、数人の友人と話しながら歩いている紗夜に遭遇した。

 俺と紗夜が付き合っている事は明かしていない。まぁ、バレたらバレたでその時だが、今の所特に明かす理由もない。

 こちらも、友人と一緒だ。普通にすれ違うだけだろうと思っていたのだが、俺と紗夜がすれ違った時、紗夜の持っている教材の隙間から、ピラリと紙が落ちたのが見えた。

 紗夜は友人との話で気づいていない。流石に相手が知人、しかも彼女ともなると、見て見ぬふりをするのは罪悪感がわく。

 

「さ……氷川さん。落としましたよ」

 

 危ない。一瞬名前で呼びそうになった。俺の言葉に足が止まった紗夜が、こちらを振り返る。

 

「ありがとうございます。(にのまえ)さん」

 

 家ではあんなに名前呼びの癖に、外に出た瞬間それが嘘かの様な苗字呼び。相変わらずの切り替えの早さ。友人ですらない。まるで、知人ぐらいのレベルの対応。一言のお礼と共に紙を受け取った紗夜は、再び友人と共に歩いて行く。

 

「いやぁ、ラッキーだったな。氷川さんと話せて」

 

「あれを会話とよんでいいのか?」

 

 紗夜達が行ったのを見計らって話しかけてきた友人に、俺はそう答える。

 まぁ、紗夜にもちゃんと友達がいるようで安心した。外での紗夜って意外と絡みづらいイメージあるし。

 

「ん? てかなんで、氷川さんはお前の事を知っていたんだ?」

 

 こういうとこ鋭い奴だな。

 

「さあ?」

 

「まぁ、お前も氷川さんほど一般的じゃないにしろ、その道じゃ有名だしな。知っててもおかしくないか」

 

 適当に首を傾げておくと、なんだか知らないが勝手に納得してくれたので良しとしよう。

 

「あっ、そうだ。氷川さんで思い出したんだが、今週の土曜ってあいてる?」

 

「? まぁ、課題の進み具合によるだろうけど。多分」

 

 それが紗夜となんの関係があるのだろうか? 

 そんな事を考えていると、友人が細長い紙を渡してくる。

 

「……チケット?」

 

「そ。Roseliaのライブチケット。俺課題終わりそうにないからやるよ」

 

「え? てか、なんで俺? Roseliaファンなんてウチの学科にも結構いるだろ」

 

「馬鹿言え。課題期間に基本的に余裕持ってるのなんてお前くらいだ」

 

 そう言った友人は、ポツリと呟く。

 

「いけると思ったんだがなぁ。想像以上に中間発表ボロボロでさ。俺もお前くらい出来れば良いんだけどよ」

 

 苦笑いする友人の手は固く握られ、震えていた。

 何とかして笑ってみせている。本当はとても悔しいんだろうな。コイツがどれだけRoseliaにハマっているかなんて俺でも分かる。

 最近ハマったって言ってたし、きっと初めて行くはずだったライブだったのだろう。

 けど多分。コイツが一番悔しいのはそこじゃない。

 

 藝大は日本一の受験倍率の大学だ。俺やこの友人がいる油画科なんて現役で受かるのなんてたかが数人だ。

 一浪で合格出来れば良い方。二浪四浪は当たり前の世界だ。同い年の人はもう大学卒業してる様な、そんな多浪してる人だって普通にいる。

 かく言う友人も、同学年ではあるが歳は俺の2つ上。つまり二浪して入学している。

 それだけ、彼らは芸術に全力を注いでいる。例えそれが好きな物を手放してでも。

 現役合格が偉いのか? 職に着いた時役にたつのか? 

 

 俺はそうは思わない。

 

 本当に役にたつのは、血反吐履いてでも努力して身につけた産物だ。

 

 俺はそんな彼らを、心から尊敬する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、あのチケットは貰う事にした。Roseliaのライブチケットって結構倍率高いらしいし、せっかく当選して買ったのを無駄にするのももったいない。

 それに、彼女のバンドのライブを見た事ないと言うのもおかしな話だ。

 ライブ中の紗夜はどんな感じなのか、実は結構楽しみだったりもする。

 

 そして、今日がそのライブ当日。人生初のライブだ。

 紗夜には内緒で、結構ライブについて調べたりもした。

 服装はやはりバンドTシャツと言うものがあるらしいが、勿論俺がそんなもの持っているはずもない。紗夜に頼めば貰えるのかもしれないが、そういうわけにはいかない。

 それにペンライトも振ると言う事で、オシャレな格好というよりかは、必要最低限のオシャレはしつつ、動きやすい格好にしといた。

 

 今日紗夜達がライブするのは、CiRCLEというライブハウスらしい。

 周りを見ると、案の定ライブTシャツを着ている人もいるが、意外にもゴシック系の服を着ている人が多い。まぁ、確かにイメージには合っているが。

 何はともあれ、これでライブ中浮くことはないだろう。

 

「すいません。差し入れを持って来たんですけど」

 

「はい。許可はとってますか?」

 

 CiRCLEの中に入り、受け付けにいくと、ボーダーシャツを着た黒髪の女性が対応してくれる。

 え? てか、差し入れって許可いるの? いや、まぁ、普通に考えてそうか。

 

 ……しまったな。

 

「いえ。すいません、とってないです」

 

「ええと。じゃあ、この紙に自分の名前と誰の知人なのか記入してください」

 

 俺は言われた通り、自分の名前と紗夜の名前を記入する。

 すると、受け付けのお姉さんが「確認してきますので、ちょっと待っててくださいね」と言い、奥の方へと消えていく。

 良かった。何とかなりそうだ。

 

 しかし俺の安心もつかの間。

 

「すいません。紗夜ちゃんに聞いたのですが、そんな人は知らないと……」

 

 

 

 

 ………………え? 

 

 ウチの氷川さんに嫌われたかもしれない。




感想ありがとうございます。めっちゃ嬉しす。
ちなみに藝大の事とかは、ブルーピリオドを参考にしています。面白いからぜひ読んでみてくれ。
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