元霞柱のおはなし   作:笹木ぱんだ

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鬼滅の刃って面白いですね。各キャラの過去とか掘り下げ甲斐があって好き。







竹林を抜けた先 

「オイ粂野!何処に連れて行く気だァ!」

 

「だから言ったろ?俺の師匠のところだって!」

 

 

 俺の手を引き竹林を駆ける粂野は、心なしか目をきらきら輝かせて嬉しそうに笑っている。男と手を握ることがそんなに嬉しいのか、と毒づくも、内心コイツの異常なスピードに息を切らしていた。

 この粂野とかいう男、さっき出会ったばかりではあるが一見普通の少年のように見えてありえない速度を出して走っている。時速やらなんちゃらはわかんねェが、とりあえず周囲の竹が、俺達に道を開けるように左右にしなるほどの速度だ。

 

 

「俺の師匠であり、お前の師匠にもなる人だ!くれぐれも失礼のないように、な?」

 

「はァァァ??俺が他人に媚びる、げほっ、訳──」

 

「別にそこまでは言ってないけどな」

 

 

「あっ、ほら!着いた!」

 

 ガサッと音を立てて竹林を抜けた粂野に、もはや引っ張られるような形で後に続いた俺はぐらりと倒れ込みそうに──なったところを、ぐ、と耐える。

 

 

「よく頑張ったなー、息整えなよ」

 

 

 上からな口調にはつくづく苛立つが、今はそれどころじゃないので大人しく膝に手をついて深く呼吸する。その間粂野は俺の隣に佇み、軽く息を吐いた。

 

 ……少し落ち着いてきたところで、ふと顔を上げる。目の前には日光が多く差すぽっかり開けた空間があり、真ん中にぽつんと広めの屋敷が建っていた。近くに井戸や窯が設置されていて、生活感はある風だが小綺麗な場所だった。

 

 

「……屋、敷?」

 

「ああ!これから俺達は此処で暮らすんだ。竹林に囲まれてて町に下りるのはちょっと不便だけど、綺麗で良い所だろう?」

 

 

 確かに、それには頷くを得なかった。

 変に騒がしい町中よりも、静かで美しいこの場所の方が遥かに住みやすそうだ。

 

 すっかり息も整った俺を見て、粂野は屋敷の方に歩き出す。俺もそれに倣った。

 

 こんこん、と軽く表口を叩いた粂野は「匡近です、帰りました」と一声上げてから、ややあって玄関に入っていく。

 

 

「あー、師匠寝てるみたいだ。危ないってあれだけ言ったのに……」

 

「男じゃねェの?」

 

「ううん、女の人。超綺麗だよ」

 

 

 ……ふーん。まァ、どうでもいいが。

 

 広い屋敷内をずんずん進み、とある一室の襖を遠慮なく開けた粂野。大きなちゃぶ台や『不撓不屈』と大きく書かれた掛け軸が掛けられており、見たところ居間らしい。一際広い部屋だが──室内を見渡していると、部屋の中央に少女がひとり、横たわっているのが見えた。粂野は「ほらやっぱり」とため息を吐き、彼女のそばにしゃがみ込んで肩を揺らす。俺も少々躊躇ってから、彼とは反対側に立ち少女の顔をじっと見た。

 

 ──と、不意に彼女の瞼が開き、大きな白藍の瞳と目線が絡まった。

 

 

「────」

 

「あ、起きた!伊織さん」

 

 

 伊織、と粂野が呼んだ少女は、今までに見たことがないほど整った顔立ちをしていた。

 

 すっきりと筋の通った鼻筋、病的なほど真白くきめの細かい肌、整えられた細い柳眉、琥珀糖のようにつるりと輝く瞳、均等に上を向く長いまつ毛、ふっくらとした薄桃の唇。そのどれを取り出しても最上級の美しさを誇る小さな顔は、真っ直ぐに伸びる雪のような長髪を風に靡かせて薄く微笑んだ。

 

 

「何笑ってんの!一人で屋敷にいる時は施錠もせずに寝ちゃ駄目だってあれ程」

 

「おかえり、匡近。匡近の気配には気付いてたから大丈夫だよ」

 

 

 母親のように腰に手を当ててガミガミ心配する粂野に少しズレた返答をしながら、彼女は一度窺うようにこちらに視線を向けた。それだけで自分の体が強張ったのが分かり、経験したことのない現象に困惑する。

 ……何だ、これ。

 

 

「っ──……」

 

 

 俺が呆然としてる間にも粂野が勝手に話を進め、互いの紹介を交わしたり、粂野が俺を鬼殺隊に入れたい、ということを伝えた。彼女は吟味するように俺を見つめ、本人の意思があるなら、とあっさり承諾した。

 

 

「ああそうだ、北小路って長いから、伊織でいいよ。貴方のことは実弥でいい?」

 

 

 北小路伊織、と名乗った少女は粂野とお揃いの黒い詰襟を着ており、俺と視線を合わせて目を細めた。問いに頷くと「わかった」と笑い、ふらふらと居間を出て行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……な〜〜?言ったろ?超美人だって。実弥が見惚れてたの分かったぞ〜」

 

 

 うッッッぜェ。

 

 ニヤニヤ笑い、俺の肩に手をかけて胸を張る粂野を本気で殴りたいと思った。「これからあの人と暮らせると思うと、最高だろ?」とまで言ってきたので「俺はそこまで頭ピンクじゃねェ」と鼻を思いっきりつねってやった。ハ、いい気味。

 

 

「んー……でも、意外とあっさりしてたなぁ。もう少し話すこととかあると思うんだけど」

 

 

 つねられた鼻をさすりながら、粂野は首を傾げる。伊織とやらの所在は判ってるのか、と聞くと、多分竹林ぶらついてるだけだから大丈夫、と返ってきた。

 ……一度襖を振り返り彼女がいないことを確認すると、少し声のトーンを下げて粂野に囁いた。

 

 

「おい。アイツ……伊織は、本当に強ェのか?」

 

 

 そう尋ねた瞬間、脳天に拳が降った。

 

 

「い”ッッ……でェ!?」

 

「馬鹿かお前!強くなけりゃ俺は付いていかないよ!」

 

 

 どうやら俺を殴ったのは目の前のコイツ。

 手加減くらいしろよふざけんな。

 

 

「いいか?あの人は俺達が所属する鬼殺隊の最高位である『柱』の一員なんだぞ!『霞柱』!鬼殺隊で知らない奴はいない!」

 

「……だが、あんなに華奢な女だぞ」

 

「鬼殺隊の女の子を普通の子だと思われたら敵わないな。実弥が伊織さんに単身で突っ込んでも絶対勝てない」

 

 

「というより、得物持ってる実弥対素手の伊織さんでも無理だよ」とまで言われたので、むっとして言い返す。

 

 

「……流石にンなことねェだろ」

 

「あるよ。そんなに自信あるなら手合わせお願いしたら?」

 

 

 アイツの弟子であり俺より確実に実力のある粂野が言うのだから、その通りであるだろうことは分かっていた。だが、俺もこの数年一人で鬼狩りをやってきた身だ。流石に女子供なんかにゃ負けねェだろう、という自信やプライドだって持っていた。

 そもそも伊織は俺より一個か二個歳上なだけだ──いくら隊の最高位だとしても、俺ァ、

 

 

「……アイツが帰ったら知らせてくれ」

 

「お、おいおい正気か?やめとけって。あの人だって手加減するタイプじゃないんだから」

 

 

 何を今更。もし俺があの女に勝てば、俺も『柱』とやらと同じ強さを持っている、ってことの証明にもなるよなァ?

 

 

「おい、本当にやめとけよ。今伊織さんに挑んでも、良い事なんかこれっぽっちもないぞ」

 

「るせェよ。刀とか無ェのか」

 

「あーるーよー俺のがな!!いいんだな?俺は止めたからな??どうなっても知らないぞ」

 

 

 そう言いつつ、自分が帯刀していた刀を俺に差し出す粂野。「もういいよ、お前一旦痛い目見てこい……」とかぶつぶつ言ってやがる。

 

 何故俺がこんなにムキになっているのか。粂野に馬鹿にされたことだけが理由だとは思えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、なるほど」

 

 

 いきなり手合わせしてほしいとか言われてビックリしたな、なんて笑いながら、伊織は俺の申し出を了承した。

 

 

「……流石に手加減してよ」

 

「うーん、どうかな」

 

「いらねェ、手加減なんて」

 

 

 三人の意見が食い違いながらも、屋敷前の広い土地で手合わせをすることになった。俺は粂野の真剣、伊織は「流石に真剣相手じゃ怖いな〜」とおどけながら木刀を手に取った。

 

 

「あ、竹刀の方がいい?」

 

「何でもいい」

 

 

 審判は粂野。審判といっても縁側で眺めてるだけだが。

 勝利条件は相手を戦闘不能にすること、又は相手に『降参』を言わせること。俺は絶対後者は言わない為、まァ戦闘不能にされなきゃ良いわけだ。相手を負けさせるだけ。

 

 

「それじゃあ──はじめ」

 

 

 粂野が合図をした瞬間、正面で構え合っていた相手が、──消えた。

 

 

「ぐァ!?」

 

 

 次に伊織の姿を目に捉えたのは、目前で木刀を振られる寸前。咄嗟に刀で打ち合ったが、威力を殺しきれず刀から腕に衝撃が走る。

 

 

「ッッ」

 

「反応はいいね」

 

 

 腕を大きく振って痺れを逃がし、再度刀を構える。

 さっきまで鼻先の距離にいたのに、彼女は既に後方へ下がっていた。

 

 先に動かれた。が、まだまだ反撃の余地はある。刀を持っているにしても使い方なんて誰にも教わっていないから、兎に角がむしゃらに突っ込み相手との間合いを詰めた。

 刀を振りかぶり首を狙ったが、ガラ空きだった胴に鋭い蹴りが入る。それを防ぐ術もなく、勢いのまま遥か後方の竹林に吹き飛ばされた。

 

 

「がッ」

 

「ちょっと、伊織さん」

 

「まだ勝負はついてないからね」

 

 

 背中に強い衝撃を受け、内臓が全て飛び出そうな感覚に陥った。心臓がバクバクと大きく波打ち、体が動かない。

 

 立ち上がる暇もないまま、翻る真っ白の髪と共に伊織が突っ込んでくる。

 

 

「ぎィッ、がはッ──ごォ」

 

 

 彼女に脇腹を蹴られると、面白いように自分の体が飛び上がった。重力のまま落ちてくる俺をまるで蹴鞠のようにもう一度蹴り上げ、……片手で俺の腕を掴み、もう片方の手で俺の頬を殴った。

 

 もう、彼女は木刀さえ手にしていない。

 

 意識が朦朧としてきたが、彼女の攻撃は止まらない。

 地に投げ転がしたかと思えば、また蹴り、鳩尾に拳を入れる。全てが洗練された速さと美しさ、そして強さによって磨き上げられていた。

 

 

「ぐッ、ぅ」

 

 

 ──勝てない。その事実を、嫌というほど叩きつけられる。

 

 力も、速さも、精度も、回避力も、頭の回転も、彼女に対し、全てが遥かに劣っている。今の自分では、天地がひっくり返ろうと彼女に一撃でも入れられないだろう。

 

 

「伊織さん、もう……」

 

「……」

 

「げほッッ、ぁ、が、」

 

 

 一発一発入れられる度に無様に喘ぐ俺には無反応に、殴る、蹴る、投げる、飛ばす、全てを止めない伊織。このままだと死ぬ、それは解っていた。早く『降参』を言わねば、彼女は死ぬまで止めないと。

 

 ……だが、駄目だ。俺のクソみてェなプライドが邪魔をし、声を出せない。いや、息継ぐ暇がなく声が出せないだけかもしれない。

 

 

「ごッ、ぐィ、」

 

 

 駄目だ。死ぬ。

 

 意識が遠のき、粂野の制止の声が遠のき、瞳に映る全ての景色が遠のき────

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、起きたか」

 

 

 ぱっと目が覚めると、見慣れぬ和室の天井が目に飛び込んでくる。

 次に、粂野の笑いを堪えかけているようなぷるぷる震える顔が覗き──、

 

 

「お疲れ様!全身打撲、骨折、筋肉痛、挫傷!ついでに捻挫!大惨事だな!!」

 

 

 ブフーッと堪えかねたように噴き出し、ゲラゲラ笑いながら全身包帯だらけの俺の身体を拭く。

 

 

「覚えてる?覚えてるか??お前が無謀にも伊織さんに挑み、ボッコボコにされ、気絶し、丸一日ずっと眠ってたこと!!ははははっ、もう最高じゃん!実弥って本当におもしれー!」

 

 

 ぽん、と優しく俺の肩に手を置き、粂野は最大限に慈愛に満ちた目で俺を見下ろす。

 

 

「……匡近、でいいんだぞ?」

 

「…………匡近ァ」

 

「ひゃーーーーっっ!!!」

 

 

 畳をドンドン叩いてさぞ愉快な気持ちになっているだろう兄弟子のことを、本気で殴りたいと思った。




昔の実弥くんがちょこっと伊之助っぽい。
まぁおんなじ風の呼吸と派生呼吸なので、使い手の性格も若干似てるんじゃね?と。

今回は導入部分なので実弥視点でしたが、次話以降は主人公視点の予定。多分。実弥視点クッソ楽しかったけど。
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