仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ THE FIRST CROSS   作:大ちゃんネオ

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闇の胎動

 淡い月が世界を照らす青い夜の時間のことだ。

 ツルギ達との激闘で深手を負いながら尚も生き永らえたバンブーメタローは生き恥を晒す覚悟である人物に出会うために人気のない路地裏へと進んでいた。

 

「止れ。あたしに用でもあるってのかい?」

 

 もつれた足取りで深い闇を掻き分けるように進んでいると気だるげな女の声がバンブーメタローの頭上から降ってきた。

 

『こ、これは……ツムカリ様。面目次第もございませぬ。このバンブーメタロー、戦場にて不覚を取りました』

「へぇ……その傷、いいねえ。マシな腕を持つ奴が乗り込んできたみたいだ」

 

 バンブーメタローのずっと頭上のビルの上にその者はいた。

 風来坊のような掴み所のない佇まいで胡坐をかいて煙草を咥える紅いレザーコートの麗人。烏羽色の黒髪を夜風に躍らせ、小脇に古めかしい拵えの野太刀を抱えるこの女人の名はツムカリ。

 魔人教団が誇る最強の四人。死奏剣(カルテット)の一人であるメタローを超えた上位種ハイ・メタローである正真正銘の魔人だ。

 

『さらにはどういうわけかデュオルまでもがこの世界に……由々しき事態でございます』

 

 気高い武人の心を持つバンブーメタローは雲の上のような存在であるツムカリに慄きながら跪いて平伏して、昼の戦いの仔細を報告する。だが、当のツムカリは銜えた煙草をゆらゆら遊ばせ話を半ば聞き流しながら、寝起きのようなぼんやりした声色を微かに昂らせて配下が負った刀傷を見ていた。

 

「で? なんでお前は生きてんだい?」

『は……は?』

「お前の仕事は別の世界への偵察のはずだったろうに。それが仲間は討たれ、余計な異物を本命のこの世界にまで招き入れた落とし前はどうするつもりさね? 詫び入れに来たのなら、その首落としてから来るのがすじってもんだろうに」

『何の申し開きもございませぬ! で、ですが……次こそは必ずや儂の手で怨敵仮面ライダーの首を上げてご覧に入れましょう』

 

 紫煙と共に吐き出されるツムカリの殺気に気圧されて、バンブーメタローは恥を忍んで強敵の打倒を宣言する。しかし、前線指揮官を担うツムカリの返答は冷たく乾いた野太刀の鍔鳴りだけだった。

 

『ぬぅおお……おおおお!?』

 

 鞘から僅かに抜かれた野太刀の白刃が収まった瞬間にバンブーメタローの下半身はバラバラに寸断されていた。言わずもがなそれはツムカリが放った剣撃である。

 常人を遥かに超える身体能力を持つメタローであっても、いまのツムカリの動作を完全に把握するのは不可能に近い。神域の剣であった。

 

「腰抜けは死ね。腑抜けは死ね。魔人教団の……いや、ネメシスの役に立たない逃げ癖のついた木偶人形なんざいらん」

『お許しくださいツムカリ様! どうか、どうかもう一戦の機会をお与えくださいませ!! 次こそは無様に死に果てるか、敵の首を獲るかの二つに一つと約束致します』

 

 苛立ちを隠さずに吐き捨てるツムカリに半身を失ったバンブーメタローは額をぬかるんだ地面にこすりつけて懇願する。

 

「そこまで言うなら好きにやるといい。特別に三途の川の渡し賃を持たせてやるよ」

『なっ……まさか、それは!?』

 

 地上に音もなく降りてきたツムカリの右手に漂う極彩色の火の玉にバンブーメタローは絶句した。それは紛れもなく同胞であるメタローの別個体。それも脱落者の烙印を押された曰くつきのものだ。

 

「悪いがあたしはお前に何の期待もしちゃいない。だから、融合強化(こいつ)を拒否する権利もお前にはない。文句は言わせないよ?」

『お、おお……おおおお!!?』

 

 高次元生命体として生身の肉体を一度捨て去った彼らメタローは個体同士で融合することでより強力な力を得ることが出来る。だがそれはそれぞれの自我の崩壊を招きかねない諸刃の剣でもある方法だった。

 ツムカリは容赦なく、用意した別個体のメタローをバンブーメタローに注ぎ込む。否応なしに融合は始まり、力を得る代償としてバンブーメタローは激しく悶え苦しみ、その場でのたうち回っていた。

 

「……お客人。どうか余計な口を挟まないでもらえるかね、これはあたしらの問題さね」

 

 突然、ツムカリは謎めいた独り言を呟いた。

 否――それは確かに自分でもバンブーメタローでもない第三者へと向けられた言葉だった。人語を用いず、テレパシーによって脳内に直接自分に意見を述べてきた同盟関係者への返答であった。

 

 ツムカリの視線の先――路地裏の枝分かれしたある道の向こうでそれはとぐろを巻いて、嗤っていた。

 

「ついでに良いことを教えてやるよ? あたしらは他でも無いネメシスの頼みであんたらとつるんでやってるんだ。お前も教団の役に立たないと判断したらいつでも切り捨てる」

 

 暗がりに潜む協力者にツムカリはあっけらかんと腹の底に秘めていた本音を打ち明けると挑発とばかりにその者の鱗のような肌でマッチを擦って火を点け、二本目の煙草を吸い始める。

 

『……!!』

「ハハ。文句があるなら聞こうじゃないか。あたしはこれでも寛容な方でねえ、聞く耳は持ってるぜ?」

 

 舐め切った態度に腹を立てた正体不明の異形は怒りを滲ませていたようだったがツムカリは涼しい顔でせせら笑った。

 

『……』

「安心しなよ、今回はあんたらの差配に従ってやるさ。けど、肝に銘じておきな。ネメシスがあんたらに飽きたら、死奏剣(あたしら)がいつでも戦争してやるからよ」

 

 とぐろを巻く謎の存在もあまりにも不遜な態度の彼女に思う事はあったがその場は怒りを治めた。ツムカリが気軽に喧嘩を売っていい相手ではないという事ぐらいは彼にも分かっていたからだ。

 

『ウゥオオアアアア―――――!!!!!!』

 

 そして、夜が深まる東京の街には一際大きなバンブーメタローの言葉にならない絶叫が轟いた。青竹の武芸者は自我を摩耗しながらも、更なる力を手に入れて再びその熟練の刃を大いなる宿敵たちへと向ける。

 

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