仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ THE FIRST CROSS 作:大ちゃんネオ
デュオルの世界。
木漏れ日の下で焚き火の炎が力強くパチパチと燃えている。
火の周りではついさっきまで川で泳いでいた鮎や岩魚といった新鮮な川魚が美味しそうな香りを放って塩焼きにされていた。
そんな焚き火の傍らにしゃがんで静かに魚の焼き加減を見守っている灰色の髪と金色の瞳を持った眼鏡の少年がいた。長身で引き締まった体躯のどこか狼のような剣呑な雰囲気を持つ彼こそが双連寺ムゲン。この世界を守る仮面の戦士の役割を担った男だ。
「よっしゃ、クーさん焼けたぜ。 熱いから舌焼かないように気をつけて」
「あはー! いただきますとも、ムゲンさぁん♪ 同じ外でする食事でもわたしがあちこち流離っていたときの野宿ごはんとはまさに雲泥の差! いやーBBQなる催しは最高ですね!!」
「そりゃよかった。俺もみんなでキャンプ場なんて来るのは数えるぐらいしかなかったから嬉しいよ。ケチャップも持ってきてはいるけど、どうする?」
「甘い誘惑のお言葉ですが今回は遠慮しておきましょう。この緑豊かな景色とお外ご飯のコンボにお昼から呑むお酒でわたしはただいま文句なしに無敵モードですよ」
右手に鮎の塩焼き、左手にはキンキンに冷えた缶ビールという最強装備で太陽のような良い笑顔をしているクーにコツコツと収集してきた自慢のアウトドアグッズを装備したムゲンは得意げに答えた。
本日、カフェ・メリッサ一同はクーの発案で魚釣り&BBQを楽しもうと近場のキャンプ場に出掛けていた。
普段はソロキャン派のムゲンも心を許した仲間たちと一緒なら、最高のアウトドア体験をさせてあげたいと朝から気合十分に場所取りから火起こし、魚の確保までフル活動中である。
「カナタとハルカ、そっちはどうだよ?」
「クス……食べてみるといいよ。カナタさん渾身の川魚のレモンバターソテー。ほぼ初挑戦のアウトドア料理も即興でできちゃう自分の女子力もとい才能が控え目に言ってこわいよね」
「だ、そうだ。苦労して釣った魚が残念な焦げの塊にならなくてオレも報われたよ。うん……流石カナねえ、美味そうだ」
スキレットを軽快に扱いながらカナタは余裕の表情で告げる。
ムゲンとクーのいる焚火とは少し離れた場所に設置された備え付けのかまどでオシャレな魚料理を作っていた天風姉弟の二人もあまり経験のないアウトドアを存外に楽しんでる様子だった。
忘れ物を取りに車に戻っているシスターを待ちながら四人が賑やかに焚き火を囲んでいると、ふと河原に視線を向けたハルカが奇妙なものを発見して立ち上がった。
「ね、ねえ。三人ともちょっと聞くけど……あんなの来た時からあったか?」
「ハルくん、どうしたの――って、公衆電話!?」
「久々にちゃんと見たなぁ。俺の地元だと結構現役だったけど、置かれてる場所おかしいだろ」
「あの透明な箱がどうかしましたかお三方? おわっと!?」
清水のせせらぎが心を癒す緑豊かなキャンプ場の河原にまるで蜃気楼のように出現して、何食わぬ顔でポツンと鎮座する公衆電話にムゲン達は困惑した顔で浮かべるしかなかった。
しばらく遠巻きに眺めているとなんとその公衆電話からけたたましい呼び出し音が鳴り響き始めたではないか。謎の現象の連続に表情を強張らせていた四人だったがクーに火の番を任せるとカナタを先頭に三人は公衆電話に近付いた。
鳴り止まない呼び出し音を少し不快に思いながら、それぞれでぐるぐると回って調べたり観察してからハルカが思い切ってそのドアに手を掛けた。
「――開かない。壊れてるのかな?」
「ハルカ代わってみろ。ブッ壊れても、文句は無しだぜ……管理人さん!!」
しかし、ハルカがどんなに力を入れても公衆電話のドアは開かなかった。
文字通り、ビクとも動かなかったのである。
そこで今度は数奇な人生から常人離れの怪力を持つようになったムゲンが片手に魚の串焼きを持ったまま、思いっきりドアを動かした。
「あ、ありゃ? 簡単に開いたぞ、ハルカ」
「ウソだろ!? オレ結構全力で力入れてたんだぞ!」
「ムゲン。とりあえず受話器を取ってみたらどうかな?」
「そうだな。やべーやつが相手なら応対代わってくれよな、頼むぞ二人とも」
公衆電話のドアはムゲンが手を触れたところ、いとも容易く動いた。
三人が一連のやり取りをしている間も途切れることなく鳴り続けている公衆電話にただならぬ雰囲気を感じていたムゲンだが、暗い苦笑いを浮かべながらも透明なスペースに入ると静かに受話器を取った。
「もしもし……公衆電話です!」
「ちょっ、あのなぁムゲン」
「ま、まあウソじゃないんだけどね、たはは」
ムゲンは真顔で受話器の向こうに気合の入った声でそう告げて、外にいた二人は思わず肩の力が抜けてしまった。
「あのー! もしもーし!! おーい……イタズラのつもりだったら、住所言ってみろ」
「……――! けて、……!! ライ――……ッ!!」
「むう? もしもし! あの! 俺の声、聞こえてますか!?」
最初は無音の電話に故障かタチの悪い悪戯の類かと思って電話を切ろうとしていたムゲンだったが微かに聞こえる子供の声のような音を聞きとると、繰り返し呼びかけながら耳を澄ませた。
「たすけて! 仮面ライダー!!」
そのどこの誰からも分からない悲痛な叫びはそれでも確かにムゲンの耳に、心に響き渡るように響いたのだ。
「ッ……いまどこだ!? そこで何が起こってる!!」
鮮明に聞こえてきた必死の叫び声に自然と目を見開いて返事を返す。
詳しい理由や事情は後回しでも構わないとムゲンは思った。
その戦士の名前を口にする誰かが助けを求めているのだ。
「すっ飛んで行くから教えてみろ!!」
正義だとか、人類の自由のためとか、綺麗な響きの大義名分で動くつもりはサラサラないが純粋に助けて欲しいと呼ばれてしまったからには意地でも応えるのが例え借り物だらけの模造品のような存在とは言え、その名を背負う者の心意気だと彼は無我夢中で受話器の向こう側の誰かに叫び返した。
ほんの一瞬の刹那、彼の意識が途切れたのをムゲン自身は知らない。瞬きをするようなあっという間の感覚なのだから気付けと言う方が無理な話だ。
「……ムゲン?」
「これ、かなり不味いよ。カナねえ」
けれど、デュオルの世界からしてみればそれは一大事であった。
双連寺ムゲンはカナタとハルガがいる目の前で急に現れた謎の公衆電話ごと突如として姿を消してしまったのだ。
まさに神隠し。超常現象の極みだ。
この時は天風姉弟もまさか自分たちの親友が世界を飛び越えて姿を消してしまったとは考えられるはずもなかった。