仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ THE FIRST CROSS 作:大ちゃんネオ
「アリス。どうして、君が……」
燐は鏡の中の少女アリスに問いかける。
どうやって、この世界にやって来たというのか。
自分はバンブーメタローの世界移動に巻き込まれての移動だったというのに、まさかアリスは並行世界の移動を容易く行えるのか。
様々な疑問と憶測が脳内を飛び交う。
『順を追って説明しますね。まず、どうして私が来たか。これは単純です。燐君を連れ戻すためです。というのも、貴方は
普段、燐と接する時とは違い少々強めの語気で語るアリス。
怒っている?
何故か、燐はそう感じた。
『そして、私がここに来ることが出来た理由。これもまた単純。私には世界を移動する手段がある。それだけです。あ、手段は教えませんからね。乙女の秘密というものです。これだけは絶対に言いません墓場まで持っていきます』
今ので、ようやくいつものアリスだと内心ホッとしてしまった。
彼女は敵だというのに。
しかし、敵とはいえ同じ世界の存在。
知り合いなどいるはずもない別の世界にあって唯一の同じ世界から来た者という共通点がこの安心感を生んでしまったのかもしれない。
『とはいえ流石の私といえど無数にある世界の中から燐君が辿り着いてしまった世界を見つけるのは砂漠でコンタクトを探すようなもの。ですが、燐君のおかげで見つけることが出来ました』
「僕の、おかげ?」
『ええ。この世界でカードを。アドベントを使ってくれたおかげでドラグスラッシャーがこの世界に向かってくれましたから。ドラグスラッシャーの後を追って、私もこの世界に辿り着くことが出来ました』
なるほど、だからあの時アドベントを使ったら遅れてドラグスラッシャーが召喚されたのか。
いや、だとしてもだ。
「それじゃあドラグスラッシャーにも並行世界を移動する手段があるってこと?」
『……ノーコメントです』
怪しい。
怪し過ぎる。
いや、アリスが怪しいのは今に始まったことではないのだが。
「アリスって言ったか? あんた、世界を移動する手段があるって行ったが本当は手段っていうより方法があるってのが正しいんじゃないか?」
「どういうことムゲン兄ちゃん?」
「手段ってのは自分だけがそれを出来るって感じに思わせたくて使ってる言葉だ。けど本当は世界を移動する術を知っていれば誰でも簡単に移動出来る。例えるなら自分の車を使うか電車とかバスとかを使うかってことだ」
アリスはムゲンの言葉にだんまりを決め込む。
別に答えなくていいと思っているからだ。
わざわざ、別の世界の人間。それも、仮面ライダーに。
『ま、なんでもいいです。とにかく迎えに来たんです。早く帰りましょう燐君。バンブーメタローに憑かれていた人物はもう私の方で処理しておいたので気兼ねなく帰ることが出来ます』
「けど……」
先程現れた謎の敵のこともあり、燐はまだこの世界にいるべきではないか?
そう思うようになっていた。
『燐君。貴方は本来この世界にいてはいけないんです。異物なんです。貴方という異物がこの世界に在り続けてはこの世界に大なり小なり影響を及ぼしてしまいます。それで、そこにいる方々に迷惑をかけるつもりですか?』
章太郎と権兵衛のことを引き合いに出す。
そう言われては、燐が動かざるを得ないということを分かってのこと。
「……大丈夫さ燐君。この世界に何かがあればまたあの声が俺達を呼ぶさ。その時はまた、この世界のために一緒に戦おう。だからそれまでは、自分達の世界で頑張ろうぜ」
「ムゲンさん……。そうですね。また、この世界に何かが起こった時には駆けつける。絶対に。仮面ライダーとして」
力強い眼差しで見つめあい、誓いをたてる。
仮面ライダーの誓いを。
「燐兄ちゃん。何もなくてもこっちに来てよ! 何かあった時だけってなんか嫌だしさ」
「そうそう。いつでも店の手伝い……じゃなくて、遊びに来なさい。部屋も空いたことだしな!」
「章太郎君……。権兵衛さん……。ありがとうございます。絶対に、遊びに来ます」
『それには私の許可が必要ですけどね~』
「お前は黙ってろ」
『……さっきから失礼ですね悪人面』
燐が章太郎と権兵衛に別れの挨拶を告げるなか、アリスとムゲンの間には火花が散る。
睨み合いはしばらく続き……。
先に、アリスが折れた。
『はぁ。悪人面、ちょっとここまで来なさい』
ため息をつき、仕方ないといった感じで手招きをするアリス。
「なに企んでやがる」
『なにも。いいから早くしてください。私の気が変わらないうちに』
仕方ないと、鏡の目の前に立ったムゲンにアリスが手を出すように言う。
そして、アリスは何も持っていなかったはずの手に一枚のカードを出現させるとカードだけを現実世界の方に出してムゲンに手渡した。
「これは……ライダーメモリア!? それも、ツルギの!」
ムゲンに手渡されたカードはツルギの姿が描かれたライダーメモリアであった。
何故、こんなものをアリスが持っているのか。
何故、自分に渡したのかと疑問は尽きない。
『本来であれば、それを手離したくはないのですが今は貴方がそれを持っている方が都合が良いので。一時だけ貸すのです。譲ったわけではありません。ですからくれぐれも、失くしたりだとか傷つけたりとかしないようにお願いします。……だって、それは私の大事な
最後の方は小声で聞こえなかった。
だが、これがアリスにとって大事なものということは伝わってきた。
「アリス、お前のことは好かないが感謝するぜ。これは大切にする」
『当たり前です。人から借りた物を大切にするぐらい人として当然ですから』
「あんたに人としてとか言われるとめっちゃ腹立つな」
二人の小競り合いが再び始まろうとしたのを燐が宥めて止める。
犬猿の仲だなぁと思ったが、そもそもアリスと犬猿の仲にならない人物の方が希少では?
そんなことを考えるくらいには、余裕が出来た。
「僕のカードがどんな風に役立つかは分からないけど、ムゲンさんの力になれたら嬉しいです」
「ああ、燐君の力だ。とってもおっかなくて頼りになると思うぜ」
「そんなにおっかないですか? 僕?」
「闘ってる時はマジでおっかないぜ。隣に立ってるとピリピリってする」
また、二人で笑う。
とても得難い志を共にする別世界の仲間が出来た。
もしも、彼が自分の世界にいてくれたら、なんてことを考えるがそれは無理な話である。
彼の世界には彼しか仮面ライダーがいない。
彼の世界には彼が必要だ。
それに、僕の世界には仲間がいる。
共に戦ってくれる仲間が。
「それじゃあ、またいつか会いましょう」
「あぁ。またいつか」
「じゃあね、燐兄ちゃん!」
「怪我してるんだから無理せずにな!」
別れを告げて、鏡と、アリスと向き合う。
『それでは、行きましょう』
アリスが手を差し伸べる。
僕はその手を……。
『ッ……』
「どうかした?」
『いえ、なんでもありません。寄り道しないで帰りますよ』
鏡の世界。
熱や風を感じさせないこの世界で、僕の右手は確かな熱を感じていた。
鏡から鏡へ。
いくつもの鏡を通り抜ける。
その間はずっと、無言であった。
ある、一時を除いて。
『……そんなに、傷だらけになって……』
「なにか言った?」
『いえ、なんでもありません』
「そっか」
そうして、僕らは僕らの世界へと帰還した。
暗い、駅前の小さな路地。
大通りを歩く人々は鏡の中から出てきた僕に気付きもしない。
「そう、いえば……」
『なんですか?』
「もしかして、こっちの世界も一日経ってる……?」
思わず、嫌な想像をしてしまった。
もし、一日が経過していたら僕はまた行方不明扱いにされているのではないだろうか?
もしそうだとしたらヤバいぞ。
父さん、母さんから叱られる。
『……並行世界同士の時間の流れは一定ではありません。こちらでは一日があちらでは五十年。なんてこともあります。もしかしたら燐君は現代の浦島太郎になるかもしれません』
「そんな……!」
『……というのは冗談で、あちらでは一日過ごしたんですか? でも、こちらでは燐君があちらに行ってからまだ七時間しか経っていません』
七時間。
バンブーメタロー達と戦ったのがお昼頃だったから今は夜の七時か……。
「早く帰らないと母さんに怒られるな……」
『そうですね~。今なら十五分発の神田行き普通列車に間に合いますよ~』
「時間、覚えてるんだ……。いいや、教えてくれてありがとう。それじゃあアリス。その……またね」
『……はい。また』
鏡の世界の少女にまたねと告げて歩き出す。
秋の風は冷たく、冬を運んできているようで……。
「そういえば、美玲先輩に連絡しなきゃ……」
心配をかけてしまっただろうし、ちゃんと帰還の報告をしなければ。
そう思ったのだがスマホは電池切れ。
こんな時に限って……。
どうしようもないので、家に帰ってから連絡しよう。
そう思った、時だった。
ベンチに座り、俯く美玲先輩の姿を見つけた。
「美玲先輩!」
「燐……? 燐!」
美玲先輩のもとへ駆ける。
美玲先輩も僕に向かって駆け出す。
そうして、美玲先輩は僕に抱き付いた。
「えぇ!? ちょっ! 美玲先輩!」
「よかった……。本当によかった……」
涙声で話す美玲先輩の身体は冷たかった。
きっと、あれからずっとここで待っていてくれたのだろう。
「美玲先輩……。ごめんなさい」
「本当よ……。次あんなことしたら、許さないわ……」
こうして、美玲先輩を宥めていたら十五分発の電車には乗れなかった。
そんなことよりも、今は彼女の傍にいてあげようと────。
ミラーワールド。
孤独の世界でアリスは燐と美玲の様子を窺っていた。
『はあ、まったく。タイムベント出来ないってなってすぐこれですか。まあいいです。全てが終わったらまたやり直せばいいのですから。それに……』
左の手のひらを見つめる。
久しく、感じていなかった彼の熱。
その温もりが、まだ残っているような気がして……。
ミラーワールドに一滴だけ、雨が降った。