仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ THE FIRST CROSS 作:大ちゃんネオ
御剣燐が謎の美少女アリスと共に彼らの世界に帰って行くのを見送ったムゲンは感慨深そうにしばらく喫茶店Hamelnの鏡を見つめていた。彼にとって初めて自分とは違う仮面ライダーとの共闘は驚きと同時に心強さを感じた得難い経験となった。
「なら、俺もそろそろお暇だな。藤堂さん、短い間でしたけどお世話になりました」
「えぇ! ムゲン兄ちゃんも元の世界に戻っちゃうの?」
「こらこら章太郎。駄々こねるもんじゃない。達者でなムゲン君」
権兵衛に一礼して手短に挨拶を済ませて、外へと出ていくムゲンをとても残念そうな顔をして章太郎は追いかけていく。
「悪いな。俺の場合は自力でその元の世界に変える方法から探さなきゃならないからな。ちょっと手間がかかりそうなのさ」
「だったら、家においでよ! お店のお手伝いすればおじさんもいいよって言うからさ」
「ありがとな章太郎。けど、俺には俺で帰ってこないことに心配してくれてる人たちがいるんだ」
自分を引き止めようと勢いであれこれと言う章太郎にムゲンはゆっくりとしゃがんで彼と視線を合わせるとできるだけ穏やかな声で伝えた。その言葉に章太郎はまだ未練深そうだが小さく頷いて、分かったと小声で言う。
「いい子だぜ。ま、あれだ……もしもまた怪人でも暴れて悪さするようならすっ飛んで来るさ」
「ホントに!?」
「……すまん。約束はできない。でも、俺じゃなくても他の誰かがきっと来るんじゃないかな? お前が教えてくれたじゃないか、ライダーも一人じゃないんだろ? 俺だって、他のライダーと一緒になって戦うなんて初めてだったんだ」
これで章太郎に納得してもらえたのかは少し不安が残るがムゲンは立ち上がるとアーティファクトの指輪から牡牛を模したフロントカウルが特徴的なカスタムバイク・ビッグストライダーを召喚して跨った。
「そういえばこれ、ゼロライナーのフロントみたい」
「んん? なんだ、電車乗るライダーもいるのか?」
「そうだよ! 仮面ライダーゼロノスって言って、電王の仲間なんだけど……むぐ?」
突然目の前に現れたビッグストライダーに興奮して、ライダーの話を早口で喋り出した章太郎の口元を人差し指で抑えて止めるとムゲンが陽気な笑顔で口を開いた。
「その話はまた会えた時にゆっくり聞かせてくれよ」
「うん! 絶対だよ!」
「じゃあな章太郎。元気でや……れ? おお!?」
少し乱暴に章太郎の頭を撫でてから、ムゲンはビッグストライダーを発進させようとしたのだが、目の前の空間がパリパリとスパークしているような光景を目にして思わず固まってしまった。
微かだった光の迸りはすぐに強烈になると一瞬、目も開けられないような白い閃光が周囲を包む。
「ダダン、ダン、ダダン! なんちゃって♪」
光が消えると青紫の長い髪をなびかせた見覚えのある褐色の女性が陽気な声で先日見たSF映画のシーンを真似しながら立っていた。念のために言っておくとちゃんと服は着ている。
「今度は女の人が急に出てきた! この人も仮面ライダー!」
「クーさん!?」
見るからに一般人には思えない恰好をしている女性を新しい仮面ライダーの一人かと想像を膨らませて盛り上がっている章太郎の隣でムゲンは目を丸くして、見間違うはずのない彼女の名前を呼んだ。
「はい? って、いたぁあああああ!!」
「クーさんだぁあああああ! やったーい!!」
気ままな猫のような愛嬌の良い顔で振り向いたクーと目の前の彼女が間違いなく自分が知っている本人だと確信したムゲンは全く同じリアクションで驚きに沸いた。そして、ムゲンは喜びが極まって猛然と駆け寄るとクーを抱きしめるとグルグルと振り回しはじめる。一見するとロマンチックな光景だが回転が速すぎて、まるで絶叫マシンである。
「おっとと!? ムゲンさん、どうどうどう」
「あ、ああ……ごめんなさい。つい嬉しさのあまり」
「無理もありません。まさかあんな妙なものに並行世界を超える力が秘められていたとは初見じゃわかるはずもありませんでしたし」
クーに宥められて、照れ臭そうに落ち着きを取り戻したムゲンに彼女は優しい声で答えた。言葉にするつもりはないがカナタやハルカならいざ知らず、知り合って日も浅いただの仲間でしかないはずの自分に再会しただけでこんなにも喜ぶムゲンの姿に胸が熱くなるのを感じていた。
「章太郎。この人がちょっと話してたクーさんっていう俺の仲間だよ」
「はっじめまして! クー・ミドラーシュといいます。この度はムゲンさんがお世話になったようで────」
「ねえねえ! お姉ちゃんも仮面ライダーなの?」
黙っていれば神秘的な美女といっても間違いのない美貌を感情豊かに破顔して自己紹介するクーに章太郎は目をキラキラと輝かせて飛びついて来た。
「わたしですか? いえいえ、ライダーではありませんとも。でも、お姉さんは実は魔法の道具をあれやこれやと作っちゃえる魔術師でしてね、クラスのみんなには内緒ですよ♪」
「ふーん……ライダーじゃないならいいや。よろしくね」
「え? あ、はい」
だがしかし、クーがライダーではないと知った瞬間に先程の情熱は一気に鎮火。今時の子供の性なのかビックリするほどの態度の移り変わりに流石のクーもこれには苦笑いだ。
「ところでクーさん。カナタとハルカたちはどうしてます?」
「ご安心ください。ムゲンさんが消えてからすぐにシスターも戻ってきて、すぐに原因も掴めたので落ちついていつものお二人に戻られてましたとも」
「良かった。俺もクーさんが昔話してくれた話のお陰でそんなにパニックにならずに動けてなんとかなりましたよ。よく迎えに来てくれましたね」
「あっはー! それはもちろん、世界の旅人としてはわたしってば大先輩ですし♪」
簡単にムゲンが体験した出来事を聞いたクーは鼻高々といった様子で得意げに笑った。事実、こんな突発的に個人が世界と世界の境界を超えて迷い込んでしまうなんて異常事態は彼女やシスターという平行世界を旅して巡り渡っていた経験者がいなければ解決は不可能に近かっただろう。
「では、帰りましょうかムゲンさん。カナタさんとハルカさんが待ってますよ」
「……ああ。お願いします。章太郎、そういうことで俺も帰るよ。また会えたらいいな」
「うん。今度はもっといろんなライダーのこと教えてあげるからね!」
慌ただしくも突然に帰還の目処が立ったムゲンはもう一度ちゃんと章太郎に別れの挨拶をすると初めて見るアーティファクトを操作しているクーの姿を見守った。それは一見すると機械仕掛けのバッタが中に入ったガラス玉に懐中時計のような装置が取り付けられたアンティークのような代物だ。
「そいではいきますよ! わたしの傍にいて下さいね」
「おう」
設定を調整して、クーは多次元渡航装置ホッピング・ジャーニーのスイッチを押した。ゆっくりと二人の周囲に光が迸り、やがて先程クーがやってきたように真っ白な強い閃光が瞬く。
「いっちゃった。夢じゃないんだよね……仮面ライダーは本当にいたんだ」
光が収まるとそこには章太郎が一人だけ。
ムゲンは無事にクーと一緒にこの世界から元の世界へと帰ることに成功したのだ。
光の奔流に身を任せて、ぼんやりとした意識が急に鮮明になった。
目の前には見慣れた建物。間違いなくカフェ・メリッサが自分と目と鼻の先に在るのを認識して、自然とムゲンの頬は綻んだ。
「流石に疲れた……弾丸スケジュールすぎる小旅行だったよ」
「お疲れさまでしたね。今夜はゆっくりと休んでくださいよ」
深い深いため息を吐き出して、ムゲンは歩き出して――すぐに足を止めた。
「ねえ、クーさん……あの世界って、また行こうと思えばいけるものです?」
「はあ? まあ、今回ので座標は分かっていますから、起動のための魔力さえちゃんと補充しておけば出来なくはないですけど」
突然そんなことを言い出したムゲンに首を傾げるクーを余所に彼の胸中には言い知れぬ不安のような物が芽吹いていた。あの時、章太郎が言った言葉がまだ引っ掛かっていたのだ。
あんな怪人知らない――。
燐がメタローを知らなかったように、自分がミラーモンスターを知らなかったように子供の章太郎が知らない怪人がいても可笑しくはないのだがムゲンにはどうにも悪い予感がしていたのだ。
「俺一人で考え込んでも仕方ないか」
「何か気になることでも?」
「いえ。いまはまだ……もしもそうなったら、ちゃんとみんなに助けてもらいます」
「そうこなくては♪ さあ、いきましょうムゲンさん。カナタさんとハルカさんとの感動の再会ですよー!!」
にししと笑うクーに手を引っ張られてムゲンは再び歩き出した。
そうだ。自分も一人ではないとムゲンは晴れやかな気持ちで前を向いた。
どんな困難や強敵がこれから先も立ち塞がったとしても自分には心強い友達と仲間が居てくれるのだ。
「それに仮面ライダーも一人じゃないんだからな。そうだろ、燐くん」
紺碧の夜空に戦友の姿を浮かべ、ムゲンは小さくその名前を呼んだ。
遠い異世界で戦った初めての戦友の名を────。
双連寺ムゲン/仮面ライダーデュオルの戦いは明日も続いていく。
『これで、一旦閉幕。しかしすぐにまた新たな戦いの火種が燃え上がろうとしています。その時の物語を彩る、次なる戦士達はまた異なる世界の仮面ライダー。彼等の活躍に期待しましょう────』
仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ
THE FIRST CROSS
完