仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ THE FIRST CROSS   作:大ちゃんネオ

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鏡の先

 眩しい光の中、濁流に飲まれたかのように身体の自由は効かず、ただ流れに押し流されていく。

 抗おうにも抗えない。

 このツルギという鎧を纏っていてでもである。

 

「くっそぉぉぉ!!!!」

 

 光がより強くなる。

 白い光が自身を包み込んでいき────。

 

『助けて! 仮面ライダー!』

 

 光の奔流の中で、確かに聞いたのだ。

 助けを、仮面ライダーに求める声を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 喫茶店Hamelnは都内にあるこじんまりとしたレトロな喫茶店。

 かつてはよくある喫茶店のひとつに過ぎなかったが時代が流れ、喫茶店と一口に言っても様々なバリエーションが増えたことにより、よくある喫茶店は数を減らしていった。

 その中でも時代に取り残されたかの如く現代まで残り、今では数少ないレトロな喫茶店としてそれなりに繁盛している。

 それが喫茶店Hameln。

 父から受け継いだ店を切り盛りする中年の男性マスター『藤堂権兵衛(とうどうごんべえ)』はこれまた時代に取り残されたかのような名前をしていた。

 独身の彼であるが現在、小学五年生になる甥の『藤堂章太郎(とうどうしょうたろう)』と二人で暮らしていた。

 今日は日曜日。

 時刻は8時55分。

 二人で開店前の掃除をしていた。

 

「おじさん。そろそろ()()()()()()始まっちゃうよ」

「ん? ああもうそんな時間か。よし、30分休憩だ。その前に椅子全部下ろしてしまおう」

 

 叔父の言う通りにテーブルに上げられていた椅子を下ろしていく章太郎。

 店の一番奥の席のテーブルを下ろす時は他の席よりも注意しなければならない。

 原因は鏡である。

 この店の開店祝いだかでもらったという大きな鏡であるが正直なところかなり置場所に困っていた。

 喫茶店には、そこまで必要なものではないからだ。

 鏡なら小さいが化粧室に行けばあるわけだし、こんな大きなものは必要ない。

 しかし折角開店祝いで貰ったのだから……ということでこんな隅に設置されたという経緯がある。

 そして鏡は簡単に割れてしまう。

 なので椅子を下ろす時に鏡に間違って当たらないように細心の注意を払うというわけだ。

 

「よし、これで全部終わりだ」

 

 全ての椅子を下ろしたので彼の朝食後のお手伝いは一旦終了。

 あとはいつものように仮面ライダーを見て営業が始まったら叔父の手伝いをしたり、友達のところへ遊びに行ったり、嫌な宿題を片付けたりというのがいつもの彼の日曜日。

 しかし、今日はわけが違ったのだ。

 手伝いを終えて、意気揚々と二階の住居に戻ろうとしたその時であった。

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 鏡の中から、人が飛び出てきたのだ。

 

 

 

 

 

 

 光に包まれたと思ったら、突然どこかに放り出されて床に叩きつけられた。

 

「いたたた……。ん? ここは……」

 

 身体を起こし周囲を見渡すと、そこは昔ながらのレトロな喫茶店的な……。

 あのバンブーメタローを追いかけてどこか聖山市内の喫茶店に出ちゃったとか?

 どうやら今はまだ営業時間前なので人がいなかったために見つからずに済んだのか……。

 

「か……」

 

 ふと、背後から声がした。

 振り向くと、小学校高学年くらいの男の子が尻餅をついていた。

 あ……これは、まずい。

 見られたか。

 

「えーと、その、こんにちは? ま、まだ営業前だよね? 間違えて入っちゃったごめんね~……」

 

 とりあえず、誤魔化すことにした。

 誤魔化せるか分からないけどとにかく誤魔化すことにしたことにしたのだ。

 

「か、鏡の中から人が出てきた!?」

 

 いや、やっぱり誤魔化せないなこれ。

 いくら子供とはいえ無理だ。

 さて、どうしたものか……。

 

「おーい章太郎。そろそろ仮面ライダー始まるぞ~」

  

 しまった。

 店の奥の方から大人の男性の声がした。

 流石にいまこの子しかいないというわけではなかったか。

 ん?

 それにしても何と言った?

 仮面ライダーが、始まる?

 いや、聞き間違いだとは思うが……。

 

「ねえ、お兄ちゃんミラーワールドから出てきたの!?」

「ミラーワールドからって……。どうしてミラーワールドのことを知ってるんだ!?」

 

 どういうことだ!?

 何故この少年はミラーワールドのことを知っている!?

 ミラーワールドについて知っているということはライダーかその関係者のみだが……。

 

()()で見たから! お兄ちゃんもライダーなんでしょ? デッキ見せてよ!」

 

 ライダー、デッキのことも知っているとなればやはり……。

 それよりも、リュウキ?で見たからとは……。

 

「ねえ、リュウキってなに?」

「え! ライダーなのに龍騎知らないの!?」

 

 少年はかなり驚いていた。

 リュウキというのはライダーなら知っていて当然のものなのだろうか?

 しかしリュウキという言葉に思い当たる節はない。

 地学の隆起なら知っているが。

 

「おーい。仮面ライダー始まるぞ~」

 

 再び、大人……恐らくこの少年のお父さんが呼び掛ける。

  

「あ、やっべ。お兄ちゃんも一緒に仮面ライダー見ようよ」

「仮面ライダーを、見る? それってどういう……?」

 

 少年は学ランの袖を掴み僕を店の奥へと連れていく。

 きっとここが住居なのだろう。

 畳にちゃぶ台というこれまたいつの時代か分からなくなる錯覚に陥りそうな部屋。しかしテレビだとか家電の類いはきっちりと最近のものが揃えられていた。そんな茶の間では白髪混じりの人の良さそうな男性がコーヒーを飲んでいた。

 

「章太郎、そちらは?」

「おじさん聞いてよ! このお兄ちゃん仮面ライダーなんだ!」

「なに? 仮面ライダー? この人が? あ、あれか俳優さんかぁ」

 

 僕をじろじろと眺める男性に会釈する。

 僕がライダーだということが信じられないらしい。

 まあ、僕以外は女子だし仕方ないのかもしれないが……。

 

「ほらお兄ちゃんも座って座って。仮面ライダー始まるから」 

「う、うん……」

 

 少年の隣に正座で座る。

 テレビに表示されていた時刻が9時になると、テレビの画面にはスーパーヒーロータイムと打ち出され番組が始まった。

 スーパーヒーロータイムというからにはヒーローもののようだ。

 何が何やら分からずにいるとOPが始まり、驚愕。

 

「仮面ライダー、セイバー!?」

 

 思わず身を乗り出すと少年に(たしかショウタロウと呼ばれていたか)見えないと怒られたので身を引くが……。

 

「一体どういうこと!? なんで仮面ライダーがテレビ番組になってるわけ!?」

 

 意味が分からなかった。

 だって、特撮ヒーローは色々あったけど『仮面ライダー』は番組なんかではない。

 確かに存在するもののはずだ。

 

「何を言っとるんだね君は。仮面ライダーはもともとテレビ番組だろう?」

 

 男性が僕に向かってそう言う。

 しかしそんなはずはない。

 現に僕は仮面ライダーとしてこれまで戦ってきた。

 テレビ番組という虚構ではなく現実で。

 しかし、目の前に繰り広げられるそれも確かに現実であった。

 ベルトで変身する仮面ライダーという戦士が異形から人々を守る。

 これだけ言えば確かにヒーロー番組のそれである。

 本当に、どういうわけなんだ……。

 

「お兄ちゃんはさ、ミラーワールドから来たから龍騎のライダーなんだよね?」

 

 少年が度々口にするリュウキという言葉。

 恐らく、このリュウキというのも仮面ライダーの名前……。

 

「ごめんリュウキのこと知らないんだ。だから教えてくれる?」

「いいよ! ちょっと待って」

 

 番組がCMに切り替わると同時に少年は茶の間から出た。

 すぐに戻って来て、何やら持ってきたようだった。

 少年が持ってきたのは結構厚めの本。  

 タイトルは『仮面ライダー大百科』

 ちゃぶ台の上に置くと、パラパラとページをめくり、赤い仮面ライダーをこれが龍騎だと指を指した。

 それは、確かに僕の知っている『仮面ライダー』に酷似していた。

 スーツの意匠やベルト、デッキ、バイザー。

 実際に遭遇してもおかしくはなさそうなライダーである。

 そして、この『仮面ライダー龍騎』という番組に登場するのは龍騎だけではなく、総勢13人の仮面ライダーが登場し、願いを叶えるために最後の一人になるまで争うというこれまた聞いたことある物語であった。

 なんせ、自分が置かれていた状況に酷似している。

 

「お兄ちゃんはどのライダーに変身するの?」

 

 目を輝かせながら訊ねる少年。

 しかし、この13人の中にツルギはいない。

 アイズも、グリムもヴァールもいない。

 皆、知らないライダーであった。

 

「この本、読ませてもらってもいいかな?」

「いいよ!」

 

 許可を貰って、1からこの本を読む。

 

「仮面ライダーは1971年に放送を開始した石ノ森章太郎原作の特撮テレビドラマである……」

「そうだよ! おれ、仮面ライダーの作者と同じ名前なんだ! 字も一緒!」

 

 なるほど。

 章太郎君というわけか。

 それにしても……。

 第1作仮面ライダーから始まった仮面ライダーシリーズは何度か途切れることはあったが現在にも続く人気テレビ番組ということらしい。

 当然だが、僕はこの仮面ライダーシリーズというものを知らない。

 これだけのシリーズが続いているのであれば例え番組を見ることは無くとも仮面ライダーという名前は知っているはず。

 ともすれば僕は……。

 

「一応聞くんだけど、ここってどこかな?」

「ここはハーメルンっていう喫茶店だよ」

「住所は分かる?」

「ああ、住所ならこれ」

 

 男性からカードを貰う。

 店の名刺のようなものだ。

 そこに書かれていた地名は……。

 

「と、東京……」

 

 まさかの日本の首都。

 ちょっと大きな地方都市の聖山市なんかとは比べ物にならないほどの都会であった。

 

「マジか……。ッ!?」

 

 色々と受け入れ難い現実に直面し項垂れた瞬間、あの音が脳内に響いた。

 モンスターが現れたことを告げる音。

 分からないことは多い。

 だが、とにかく行かなければ……!

 

「ごめん。ちょっと行かなきゃいけない」

「行くってどこに? もしかしてモンスターが現れたの!?」

 

 モンスターのことすらも見抜かれる。

 やはり、この世界は……。

 

「危ないから家にいるんだ」

「えぇ、でも」

 

 ごねる章太郎君。

 しかし、いくらミラーワールドの中の話とは言え用心に越したことはない。

 

『番組の途中ですが臨時ニュースを申し上げます。都内で謎の爆発事故が相次いでいます。また、現場近くにいた人達は怪人が出たとの証言をしており……』

 

 モンスターはかなり派手に暴れているらしい。

 余計に連れていくわけにはいかない。

 

「けどお兄ちゃん道案内もなしに行けるの?」

「うっ」

 

 痛いところを突かれてしまった。

 確かに、東京に土地勘なんてない。

 

「おれが案内するから行くよ! おじさんバイク借りるね!」

「ちょっ!? 章太郎君!?」

 

 バイクのキーを持って部屋から飛び出した章太郎君。

 というかバイクを借りるってなんだ、運転出来るのか!?

 

「こら! 待て章太ろ……ウッ!?」

 

 章太郎君を追いかけようとした男性が立ち上がった瞬間、ギクッという音がどこからか響いた。

 そして、突然の痛みに呻く声も。

 

「あぁ、あの大丈夫ですか!?」

「俺のことはいいから章太郎を……頼みます……」

 

 腰を押さえながら男性は僕にそう頼んできた。

 おのれぎっくり腰め。

 とにかく章太郎君を連れ戻そう。

 

 

 

 外に出ると章太郎君がこっちこっちと急かす。

 店の横にカバーをかけられて停められていたのはオフロードのバイクであった。

 詳しい車種とかは知らない。

 詳しくないから。

 

「ほらヘルメット被って被って」

「あ、うんありがとう……じゃなくて。君は家にいるんだ。危ないしさっきお父さんがぎっくり腰やっちゃったから見てあげてて」

「あの人はお父さんじゃなくておじさんだよ。おじさんなら大丈夫。それより早くしないと街が大変なことになるよ! おれが道案内するから早く乗って!」

 

 早く乗って、と言われましても。

 

「えっと、その、運転……出来るの?」

「なに言ってるのさ。仮面ライダーなんだから運転出来るでしょ」

 

 あ、なるほどそういうことか……。

 いや、流石に小学生には無理だろうバイクの運転なんて。足届いてないし。

 それはそれとして。

 

「あの、僕免許持ってないんだよね……あはは」

「ええ!? ライダーなのに!?」

「はい……」 

 

 いや、確かにライダーなんだけれども。

 なんだろう、特別バイクに乗ってるわけじゃないし……。

 言われてみると僕達が仮面ライダーっていうのは結構変だな……。

 みんな共通のバイクモドキみたいなマシンに乗ってるわけだし……。

 

「いいから乗ってみてよ!」

 

 そう言われてもなぁと思いつつ渋々跨がる。

 色々と操作してみて……。

 

「あ、いけた」

 

 そんなこんなで発進。

 なんというか、身体が覚えていたかのような感じ。

 いや、バイクを運転したことなんてなかったはずなんだけど……。

 まあいい。

 とにかく現場に急行だ!

 

「そこ右だよ」

「もっと早く言って!」

 

 

 

 

 

 

 なんやかんや、章太郎君を連れて来てしまったが仕方ない。

 ナビは必要だ。

 さて、爆発事故の現場近くまでやって来たが……。

 悲鳴、怒号、爆発音。

 そしてこの惨劇を引き起こしたものの正体を見つけた。

 

「ゲルニュートだ!!!」

 

 赤い人型のモンスターとしか僕は知らないが章太郎君はモンスターの名前まで知っていた。

 何度か戦ったことはある相手だが章太郎君の方が奴について詳しいかもしれない。

 というか……。

 

「やけに多いな……。群れじゃないか」

 

 モンスター、ゲルニュートは大量に跋扈していた。

 こんなに大量に現れるような奴等ではなかったと思うが……。

 

「ドラゴンナイトだとレッドミニオンって名前でたくさん出てくるよ」

「ドラ……? まあいい。とにかく倒す。章太郎君は安全な場所で隠れてて」

「うん!」

 

 走って物陰に隠れた章太郎君を確認して変身する。

 もう既にライダーだとバレているので気にすることはない。

 学ランのポケットからデッキを取り出し突き出す。

 すると近くの鏡張りのビルからベルトが現れ腰に巻かれた。

 突き出した腕を一度左腰に戻すと右腕と共に抜刀するかのように大きく回し、叫ぶ。

 

「変身!」

 

 デッキをバックルに装填する。

 舞い踊るツルギの虚像達が幾重にも重なり実像となった。

 

 仮面ライダーツルギ。

 

 白き剣の騎士が、戦場にその姿を現した。

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