「僕の愛の為に死ね。」   作:蔵之助

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1部:屋烏之愛-オクウのアイ-
愛は無敵の呪いだよ


 「愛は無敵の呪いだよ。だから愛さえあればなんでもできるのさ。」

 

 初対面は最悪だった。本当に、心の底から最悪だった。

 何せ先輩は、初対面の私たちを術式まで使ってボコボコに倒したのだから。

 まるで漫画のやられ役のように片手間で。悪役のように過激に。

 そして狂った妄言を垂れ流しながら馬乗りになって拳を振るってきた先輩を、どう間違えたら尊敬してしまったのだろう。

 

 「人は誰かを愛することで強くなれる。これは真理だね。

 僕は最愛の奥さんと最愛の息子を心の底から愛してる。だから僕は負けないし、君らは僕に勝てないのさ。」

 

 先輩は非術師家庭出身なくせに、やたらと術式を使うのがうまかった。

 まあ、私たちが一年で入学した時にはすでに先輩は四年だったのだから当然といえば当然だろう。

 だがしかし。五条家の呪術師であり、幼い日から呪術の英才教育を受けてきた五条悟までも屈服させるほどに強かった。

 幼い頃に術式を自覚して、行使してきた私よりも扱い慣れていて、そして自分の術式のことをよく理解していた。

 

 「僕が術式を使えるようになったのは12歳の時さ。その時は呪霊なんて見えるだけで怖かったし怯えてるだけだったけど。

 僕一人なら別にいいんだよ。でも凪さんがいるなら別だ。凪さんを傷つけるわけにはいかないだろう?

 砂埃一つだって許されない。触れれば壊れてしまいそうな、砂糖菓子のような人なんだ。

 ガラス細工よりも繊細な人だ。氷像を動かすよりも丁寧に、そう丁寧に扱わなければいけないんだ。

 凪さんの歩く道に呪霊なんて居てはいけない。凪さんの日常に呪霊なんて必要ない。

 ならどうすればいい? 排除しかないだろう。」

 

 後で知ったことだけれど、先輩の術式は「呪毒操術(じゅどくそうじゅつ)」というらしい。

 その術式は極めて悪質だった。

 等間隔で地面に並ぶ巨大な蛤により散布された毒の霧は、息をするだけで肺を腐らせる。しかもご丁寧に毒の範囲は指定されていて、指定された空間以外に毒霧が流れることはない。

 宙を泳ぐクリオネは、その存在が超高濃度の毒。奴らのバッカルコーンに捉えられればもうおしまいだ。しゅうしゅうと音を立てながら、皮膚が溶け肉が溶け骨が露出する。

 一度毒が付着したら完全に肌が戻ることはない。解毒方法は先輩の血液から抽出した血清のみで、完全に解毒しなければ反転術式の効果すら低減する。

 これらはすべて、幅広い薬学の知識で術式を理解し尽くしているから。繊細な呪力操作を要求される術式を完全に支配し、我が物にしている男。

 そんなおぞましい毒使いに、私たちは完全に鎮圧されたのだ。

 なぜここまで知っているのかと言われれば、術式開示の追い討ちがあったからと答えよう。

 

 「だから僕は死に物狂いで対策を立てて、それでこの術式を見つけたってワケ。使い方も研究してね、今では完全に使いこなせてる自信がある。

 わかる? これは愛なんだよ。愛が僕の術式を発現させ愛が僕を育て愛が僕を強くさせて愛が僕を僕たらしめる。

 凪さんという下界に降臨した女神のように美人で内面に一本筋が通った優しくて仕事もできて家事育児僕の扱いと全てが完璧な素晴らしい女性と順平という目に入れても痛くない赤ちゃんを僕は養わなくてはいけない。

 君らとは背中の重みが違うんだよ、うん。

 と、言うことでさ。食堂で喧嘩しないで欲しいんだ。君たちが暴れたら、埃が立ってしまうだろう? 皿が割れたら片付けをするのは誰だと思う?

 ぐちゃぐちゃになった残飯を処理するのは? 

 当然、君たちがやるよね。

 凪さんは「自分がやる」と言うかもしれないけれど、凪さんの優しさに甘えるような愚か者はいないよね?

 凪さんと順平に何かあったら、悲しくなっちゃうじゃないか。」

 

 これほどまでの残虐術式を行使した理由が、ただの喧嘩の仲裁なのだから笑えない。

 まあ、少しばかり手と足と術式が出てしまっていたかもしれないが、それでもこれは酷すぎる。

 ーーーこれが当時一年だったわたしたちと、特級呪術師である吉野公平先輩の初対面だった。

 

 




1部(原作前)と2部(原作)に分かれる予定です。

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