一部最終章、起承転結にわかれてます。 一時間ごとに一話あげます
あらかじめ予告しておくと、九十九由基に対する熱い風評被害があります。
私は呪術廻戦推しキャラが夏油傑、吉野順平、東堂葵なのでむしろ九十九さんは我が推し東堂のお師匠様で大好きなんです。信じてください。
[2007年.8月]
先輩の処刑から、一ヶ月が過ぎた。悟が最強に成った。あの日死にかけたのを最後のきっかけにして。
任務も全て一人でこなす。硝子はもともと危険な任務で外に出ることはない。必然的に私も一人になることが増えた。
死にかけてパワーアップとかサイヤ人みたいな生態してるな、とからかう気力も湧かない。
「あ! 夏油さん!!」
「灰原……。」
「お疲れ様です!」
先輩を殺したのを知ってるのに、灰原は私を責めない。いつも通りすぎて、今の私には少し辛い。
いっそ、「何で殺したんですか!」と責めてほしい。そうしたら、私だって……
「何か飲むか?」
浮かんだ考えはあまりにも自分本位で、私は首を振ってその考えを払拭する。
「ええ、悪いですよ」と遠慮の姿勢を見せながら「コーラで!」と乗っかる灰原に「フフ」と笑ってしまう。
「明日の任務、結構遠出なんですよ。」
「そうか、お土産頼むよ。」
「了解です!!
甘いのとしょっぱいの、どっちがいいですか?」
「悟も食べるかもしれないから、甘いのかな。」
日常。あまりにもよくある、平凡な生活に戻っている。吉野先輩という空白があるのに、平然と世界は回る。
それが、ひどく息苦しい。
「……灰原。
呪術師やっていけそうか?
辛くないか?」
「それは、吉野さんがいないのに、ってことですか?」
「そうだ」と頷けば、灰原は「そうですか」と頷き返す。
先輩を殺した私は、予言の通り「英雄」扱いされていて。誰もが口を揃えて同じことを言う。
『最悪の呪詛師、吉野公平を倒した夏油傑』と。
反吐が出る。それでも。そんな称号を背負って、私は着実に地位を確立していった。
革命の準備は整っている。これなら、5年以内に「予備校」は実現するかもしれない。
だけど、同時に。私たちは思っていたよりもずっと、悪意に晒されていたのだと知った。
「正直、この先どうなるのかなとは、思います。
僕はあまり深く考えない方だから、吉野さんみたいに暗躍できるとは思えないし……。
それでも。」
灰原は、笑った。あの日、「軽蔑なんてするわけがない」と言った時と同じように、無邪気に
「僕は、自分にできることを精一杯頑張りたいです。僕たちが理想とした水槽を作るために!」
その水槽に入れたかった人は、もういないのに?
「夏油さんは迷っているんですか?」
「……そう、かもしれない。」
今更、こんなことを考えて何になる。
灰原が「夏油さんが弱音吐くなんて珍しい」と声を上げて、「私だって弱音くらい吐くよ」と微笑み……はたと、気づく。
思えば、私が弱音を吐けるのは吉野先輩の前だけだったんじゃないか?
先輩を愚痴袋にしていたつもりはないけれど、そう言うことだろう。
「(後輩の灰原に弱音を吐くなんて。)」
また、
その点、吉野先輩はうまかったな。いつも情けないぐらい格好悪い姿を見せてたのに、なぜか尊敬してしまう。
「私は、先輩にはなれない。」
「そりゃ、そうですよ。
夏油さんと吉野さんは違う人間じゃないですか。」
「そうか、そうだな。」
当たり前のこと言われたのに、やけに胸がスッとした。最近、少し気鬱になっているのかもしれない。
話を聞いてくれてありがとうと、灰原に声をかけようとした、そのとき。
「君が夏油くん?」
その女は現れた。
ライダースーツのジャケットを片手に持って、黒のハイネックノースリーブとジーンズパンツ。長い髪を下ろしている、前髪を真ん中分けにした背の高い女。
一目見ただけで「強い」とわかった。
「君は、どんな女が
「どちら様ですか?」
見知らぬ女に警戒する。高専にいると言うことはこの人も呪術師か、その関係者だろう。しかし高専に入学して3年目の私が、一度も見たことがないとなると話は変わる。私を「夏油君」などと馴れ馴れしく呼ぶのも。
特級になってから。そして先輩を殺してから。部外者は総じて私を「夏油
私に対する敬意であり、礼儀だ。
こんなふうに馴れ馴れしく「夏油君」なんて呼ぶ輩は大体限られてる。
血統にしか自信のないゴミか、ゴミと繋がって私に取り入ろうとするカス、それか一部の「同格」の存在。
この女は、どちらだろう。
「自分はたくさん食べる子が好きです!」
「灰原……」
灰原が私の隣で平然と告げる。ほう、と謎の関心をする女に私は再度警戒したし、警戒心のない灰原に呆れる。
「大丈夫ですよ、悪い人じゃないです。」
人を見る目には自信があります、と灰原は笑う。「自分が敬愛する先輩を殺した男」の隣に座っておいて。
灰原が「そろそろ失礼します!」と席をはずして、空いた席に謎の女が座る。
「で、夏油くんは答えてくれないのかな?」
「まずはあなたが答えてくださいよ。」
ああ、悪い悪いなんて悪びれずに言った女が、得意げに笑う。灰原のおかげで警戒も薄れた。私が隣に座るように促す。
ベンチに腰掛けた彼女は、得意げに笑って言葉を紡ぐ。
「特級呪術師 九十九由基、って言ったらわかるかな?」
「!!
あなたが、あの……!?」
思わず、瞳を見開く。「お、いいね。どのどの?」なんて自分を指さす女に、先輩から聞かされた愚痴エピソードを並べていく。
大体「あいつが海外プラプラしてるせいで真面目で妻帯者な僕に任務がアホほど回ってくる」だとか、「あいつが真面目に受けてくれたら僕の負担は半分になる。」だとか大体家族関係の愚痴だったけど。
「私、高専って嫌ーい。」
「高専っていうより、吉野先輩ですけど。」
「っち、吉野くんか。そりゃ悪口吹き込まれまくるよね。」
親しかったのだろうか。どこか気安い感じで手足を投げ出した九十九由基が「じょーだん」と軽く告げる。
「でも彼と方針が合わないのは本当。
吉野くんは腐った上層部ひっくり返して「革命」したがってたけど、呪霊に対するスタンスは高専と同じで対症療法。
私は原因療法がしたいの。」
「原因療法?」
「そ、呪霊を狩るんじゃなくて、呪霊の生まれない世界を作ろうよってこと。」
まあ、吉野くんには『家族を養い続けるのにも、今のまま高給取りな呪術師のほうがいい。』って振られちゃったけど。
そう繋げて言った彼女が、視線を横に流す。すっと自然な動きで私と目を合わせて、薄く笑う。
「……夏油くんは興味があるみたいだね。」
少し、授業をしようか。そう言って始められた講義に、背筋がゾッと冷え込んだ。
全人類から呪力を無くす、もしくは全人類を呪術師にする。
前者はともかく、後者の方法。私は、それに心当たりがある。
「(まさか……。)」
憎悪。
私の脳を支配したのはまさにそれ。非術師を呪術師に変える。それは、「由緒正しき腐った呪術師が自分の利益のために追求した研究所」だと思っていた。けれど、まさか……!!
「九十九さんは、■■県の□□山の研究所の関係者ですか。」
「は?」
す、と。脳みそが冴え渡っていた。
私は、復讐するべき相手を見誤っていたのかもしれない。
私の殺気を浴びながら、呆ける九十九由基。片手で彼女の首を絞めながら、私は『ソレ』を追求した。
「それとも、□□県の■■市の方ですか?
どっちでもいい。お前はあの腐った研究に関与してたのか?」
謎だった、呪霊の提供源。特級呪術師のこの女なら余裕だろう。
考えれば考えるほど辻褄が合うような気がして、首を絞める手に力がこもる。
「何?
君、何か心当たりでもあるの?」
「答えろ。答えによっては殺す。」
「うわぁ、物騒だな。」
首を絞められておいて余裕綽々の女に、傑は舌打ちをする。九十九由基は降参するように手を挙げて、「答えるよ」とため息ついた。
「ああ、はいはい。
その研究所だっけ、知ってるか知らないかといえば、答えはYESだ。
知ってるよ、その存在はね。でも何の研究をしてたかは知らない。
任務でその研究所にいった後くらいから、急に吉野くんが「革命思想」を活発化させただろう?
その原因かもしれない、と言う程度だ。」
「お詳しいんですね。それだけじゃないだろう。」
「いいや、それだけだ。」
もうなんにもない、と。九十九由基は自白する。
「以前、吉野くんにも同じことを聞かれてね。
毒殺寸前で拷問されながら自白させられたんだ、流石に忘れない。」
……嘘ではないのだろう。言い分も納得できなくもない。結局、そのまま九十九由基は帰った。
見送りに赴けば当てつけみたいに「これからは特級同士、
「あ、そうだ。最後に。」
くるりと、ヘルメットとゴーグルをつけた九十九由基が「星漿体のことは気にしなくていい。」なんて言い出す。
「あの時もう一人の星漿体がいたのか、すでに新しい星漿体が生まれたのか。どちらにせよ天元は安定しているよ。」
「……でしょうね。」
そんなの、高専にいる私こそが一番わかっている。わざわざ言うなんて、やはり当てつけだったのだろう。
悪いことは連鎖して起こる。
翌日。灰原が瀕死の重傷で高専に帰還した。
▼九十九由基を熱い風評被害が襲う!!
九十九さん嫌味で言ったわけじゃないですし、気を遣って色々教えてくれたいいねーちゃんなんです!
ただ夏油くんは先輩殺して精神参ってて、腐った上層部のご機嫌取りしながら力を蓄えてて、ナイーブになって色々マイナスに捉えまくってるだけです
東堂葵がタッパと尻がでかい女が好きになった理由と思われる推定・初恋の人たる九十九さんを嫌いになる分けないでしょう!
最初はそんな敵対フラグはなかったんですけど、原作読み返しながら小説書いてたら夏油とパパが勝手に動き出してしまったんですよ!
2部では最高に輝いてもらいたい。