「僕の愛の為に死ね。」   作:蔵之助

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そして愛は呪いになった[承]

「なんてことはない二級呪霊の討伐任務のはずだったのに……!!

 クソッ!! 産土神信仰、アレは土地神でした。一級案件だ……!!」

 

 目を負傷した七海が嘆いていた。太ももから下。下半身を大きく欠損して、灰原は昏睡状態になって帰ってきた。

 何とか一命を取り留めた、と言う状態で正直再起は絶望的。

 

 「今はとにかく休め、七海。任務は悟が引き継いだ。」

 

 何となく、何が原因だかわかっていた。灰原と七海が襲われた理由。それは……

 

 

 「吉野さんがいなくなったから、当てつけでしょうね。」

 

 3日後、ようやく灰原が目を覚ました。硝子の反転術式で下半身は元に戻っていたが、昏睡した事実は変わらない。

 それでも、冷静に状況を分析して結論を出していた。

 「革命派は全部殺したいんですよ」ときっぱり言い切って、「やはり上は腐ってる」と嫌悪の表情で吐き捨てる。

 

 「じゃあ、何で私は殺されない。」

 「多分ですけど、夏油さんが吉野さんを殺したからじゃないですか?

 だから、反革命派になったって思ってるのかも。」

 「……笑えない冗談だな。」

 

 反革命派どころか、私が新しい革命派のリーダーなのに。メンバーは私と灰原と、七海しかいないけれど。

 吉野先輩の革命はひっそりと侵食していくというものだから、大袈裟に宣伝していなくて、メンバー探しも高専に入学してくる若く、染まってない一般家庭の呪術師をターゲットにしていた。

 おなじ一般出身でも、すでに呪術師として活動しているものは声をかけない。

 彼らは希望を抱かない。深いところまで「諦観」が染み付いているから、始める前に「無理だ」と首を横に振る。

 先輩の理想を応援してくれていた唯一の大人たる鴨川俊則だって、結局は加茂家の人間だった。

 大人は信用できない。

 

 「それで、灰原はどうするんだ。」

 「……七海が、呪術師をやめようって。」

 

 珍しく苦い顔をして、灰原は言った。

 一昨日の七海ならありえると思った。悟が引き継いだと聞いて、「もうあの人一人で良くないですか?」なんて投げやりに言った七海だ。一命を取り留めた灰原と共にこの世界から逃げ出そうとするのも当然の帰結に思える。

 

 『七海(アイツ)は、優しすぎるじゃん。』

 

 また、吉野先輩の言葉を思い出す。七海という人間がぶっ壊れる瞬間を、きっと私は目撃していた。

 灰原は「七海は心配性だから。」と言うけれど、七海はもうそれしかないのだ。

 七海の最愛は灰原なのだ。だから、失う恐怖に逆らえない。

 私たちには、もう吉野先輩がいないのだ。もう、先輩に守ってもらうことはできない。

 私では先輩の代わりに盾になることすらできない。

 

 「このまま呪術師を続ける限り、吉野さんが敵と言っていた腐った上層部は僕たちを殺そうとしてくる。

 脅威となる前に。」

 

 強くなって、革命なんてされたら堪らないって言うことですよね。なんて、灰原は言う。

 自分がこのまま呪術師あることを前提にする語り口に、「やめろ、灰原」と名前を呼んで静止させた。

 

 「やめません。」

 「もういい、何も言うな。」

 「僕は革命をやめませんよ、夏油さん。

 たとえ術師として復帰できなくても、僕の心は革命児のままです。

 僕は、絶対に革命を諦めません。」

 「……そうか。」

 

 思わず、眉間を親指で押さえる。先輩一人かけただけで、この有様か。少人数にも程がある組織なのに、今にも空中分解してしまいそう。頭が痛い。

 

 「でも、それでも言う。呪術師をやめろ、灰原。

 お前、死ぬぞ。」

 「知ってます。」

 

 だからなんですか、などと灰原は断固として譲らない。灰原は止まらなかった。

 

 「僕が呪術師をやめたら革命はどうなるんです?

 夏油さんは一人でやるつもりですか。」

 「そうだ。」

 「嫌です、許しません。」

 

 許す、許さないの問題じゃないんだよ。聞き分けろよ。

 余裕が1ミリもない。内心をあるがままに曝け出せば、きっと灰原も失望するだろう。

 でも、それは嫌だと思う。

 

 「……なら、せめて。今だけは呪術界から離れてくれ。今の私じゃ、お前を守れない。」

 「守られたいなんて思ってません!!」

 「それでも!!

 灰原まで死んだらどうすればいいんだ……!!」

 

 先輩が死んで、灰原が死んで。そしたら、あの三人で語り合った日々まで消えてしまう気がして。怖いと思った。

 今更、先輩の凄さを思い知った。守るとは、これほど難しいものなのか。そして私たちがどれだけ先輩から守られていたのか今更気がつく。

 先輩は、死ぬべきではなかった。

 

 「……わかりました。でも、今だけですからね!」

 

 灰原が、ようやく了承してくれた。私はほっと息を吐いて、「それでいい」と頷く。

 灰原の目は未だ闘志に燃えているけれど、それでもよかった。

 

 「僕は、いつか絶対に呪術界(こっち)に戻ってきます。5年以内に!」

 

 せっかくなので、教員免許取ってきます! と、灰原が笑った。

 予備校の講師は任せてください! と。やけにポジティブにそう言って、俯いて。泣きそうになりながら「だから」と小さく呟く。

 

 「だから、笑ってくださいよ夏油さん。」

 「……無理だ。」

 

 「すまない」とは、言わなかった。謝ることじゃないから。

 ただ、私が……嫌になる程弱いというだけの話だ。

 






まだ続きます!

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