「僕の愛の為に死ね。」   作:倉之助

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これにて一部完走です。
先に謝っておきます、ごめんなさい。





そして愛は呪いになった[結]

 双子を高専に連れ帰ると、案の定夜蛾に呼び出された。補助監督を通して夜蛾に報告されたみたいで、コッテリ絞られ拳骨が落とされた。

 謹慎処分だそうだ、二週間の。

 術式を使わなかったとはいえ、村人百人あまりを素手や角材で殴りつけて半殺しにして病院送りにしたら、流石に処分しないといけないらしい。

 とはいえ、私が非術師だったら少年法があるとはいえ暴行罪で逮捕されるだろうし、呪術師でなければ「理性的な行動だったので今回は特別に」などとは絶対にならないだろう。

 やはり先輩の言うことは正しかった。もしかしたら先輩も同じような経験をしたことがあって、それが故のアドバイスだったのかもしれないだなんて考える。

 

 ……吉野家空き巣事件がそれなのかもしれない。

 

 悟には盛大に揶揄われ、術式を使わなかったとはいえ村一つ病院送りにした理由を話したら「そりゃそうだ」と納得されてしまった。

 悟は、善悪の基準を私に合わせてるところがあるからちょっとアレだけど、硝子と歌姫先輩にまで肯定されるのは少し変な気分だった。

 見知らぬ呪術師(おそらく非術師出身の人)にまで「よくやった!」と肩を叩かれ、この業界は本当にイカれてるな、と再確認する。

 

 「夏油さーん!」

 

  灰原が手を振っている。「こんなところに来たら七海に怒られるぞ」と言ったら、「七海には内緒にすればいいんです!」なんて、堂々と言ってみせる。

 

  「それより、村一つ病院送りにしたって本当ですか!?」

 「本当だよ。」

 

 灰原の質問に頷く。理由を語ったら灰原は「そうですか!」と笑って頷いた。

 

 「吉野さんが聞いたら喜びそうですね。

 『これで夏油も愛の伝道師だ!』って。」

 「はは、言いそう。」

 

 むしろ、言ってる姿があっさり想像できて笑ってしまった。

 

 「それで、どうするんですか。」

 「革命のことだろう?」

 

 はい、と灰原は頷く。私たち革命児は吉野公平というリーダーがいなくなってからすこしふわふわし始めてしまった。

 特に七海は深刻だ。「革命などもう不可能だ」と諦めてしまってるようだし、最悪の場合存在を無かったことにしてしまいそうな勢いだと言う。

 私と灰原の意思は変わらず「吉野派」で「革命派」だけれど、これからの方向性について揉めるかもしれない。

 なにより、私は先日の任務で生き方を決めてしまった。

 

 「私は、先輩の遺志を継いで革命を続ける。でも、革命の内容よりも先輩を嵌めた奴らへの復讐を優先してしまうかもしれない。

 灰原はどうする?」

 「どういうことですか?」

 「これからのことだけど。」

 「そりゃあ当然、夏油さんについて行きますよ!」

 「……いいのか?

  先輩の革命、私が私物化してしまうよ?」

 「でも、夏油さんは吉野さんの遺志を継いでくれるんでしょう?」

 

 なら、それは僕が進みたいと願った道と同じです。灰原は、怒りと嫌悪に顔を歪めて吐き捨てた。

 

 「僕も、怒ってるんです。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 「……そうか。」

 

 灰原の言葉に動揺しないように、自然な動作で瞳を閉じた。そう、これは私の嘘だ。

 先輩の遺言を果たすために、私はいくつかの嘘をついた。

 

 

 「クーデターに感づいた上層部が、先輩への見せしめとして凪さんと順平くんを殺した。」

 「先輩が言う研究所とは、五条悟のクローンを作り出す研究をしていた。」

 「五条本家を襲撃した理由は、クローン製造の主体になって動いていたのが彼らだからで、研究の裏で無関係の非術師が大量に殺されていた。」

 

 

 そう、嘘をついた。凪さんと順平くんを守るためには、彼らが死んだことにするのが一番都合が良かったのだ。

 戸籍は新しく作り直した。苗字も名前も同じまま。

 いや、「吉野」の苗字は凪さんの旧姓ということにしたから、完全に同じわけではないか。

 本当は、苗字も名前も変えるべきだ。でも、先輩から凪さんと順平くんを取り上げたくなくて、凪さんと順平くんからも先輩を奪いたくなかった。

 

 そうだ、私は凪さんと順平くんから先輩の記憶を消した。関わらないのが一番幸せだと思ったし、それが先輩の願いだったから。

 

 順平くんの中の呪霊は封印特化の呪霊で魂ごと封印した。面白いと言っていいのかわからないけれど、呪霊を封印したら順平くんの脳は非術師の脳に変わってしまった。

 【特級人造怨霊】は順平くんの術式から生まれた呪霊だと言うし、呪霊を封印すると言うことは術式を封印すると言うことになるのかもしれない。

 「術師から術式を封印したら、非術師になる」という仮説を立証する為、呪詛師討伐の際に実験してみたら見事成功した。

 術式のみを抽出して封印するのは難易度が高く成功率は低いが、有用だ。

 将来、上層部のゴミを掃除するときに使えるかもしれない。

 記憶もこの封印呪霊で二人から消した。「吉野公平」の記憶を分離し、封印した。

 そう言うのがあっさりできてしまうから、吉野先輩には「ご都合主義みたいな術式」と罵られたのかもしれないな、と苦笑する。

 凪さんと順平くんから「吉野公平」の記憶を消して、父親という存在を無かったことにしてしまうのは悲しかった。あんなに二人を愛していたんだ、せめて苗字くらい、残しておきたかったんだ。

 でも、そんなこと灰原は知らない。当然だ。

 灰原には先輩の大虐殺の裏にある「クーデター」の汚れ仕事のことしか語っていない。凪さんと順平くんの「真実」は誰も知らない。

 知っているのは私ただ一人。悟にだって教えてない。

 これだけは、たとえ先輩の遺志でも譲れないのだ。

 全部話してしまえば楽になるだろう。でも、私は楽になりたいわけじゃない。

 私と先輩は運命共同体だった。だから、この秘密だって私と先輩ただ二人の秘密で、先輩が死んだ今は、私一人が守るべき秘密。

 これは、意地なのだ。

 

 「七海にも教えていいですか?

 七海も()()()()()ですし。」

 「ふふ、そうだね。今度は、七海にも教えてあげようか。」

 

 意外と本格的に進んでいたクーデター計画に驚くかもしれないね、なんて笑い合う。笑い事なんかじゃいけれどね。

 

 「悟だけハブって、怒るだろうね。」

 「五条さんはノリノリで協力してくれそうですけどね。」

 「ダメだよ、灰原。」

 

 これは、私たち一般出身の呪術師がやり遂げなければ意味がない。呪術師の名家の五条家の、ご当主様の悟がいては意味がない。特級呪術師の五条悟ではダメなのだ。

 御三家の実質当主が革命に参加したら、革命に成功しても将来的に「五条家」という家単位が余計な真似をする可能性がある。先輩によって本家は潰れたけれど、分家からすでに人が集まって「本家」を名乗っていると言う。

 私は、悟を愛してる。悟は私の最愛だ。信用しているし信頼している。でも、御三家の一角である五条家は信用できない。

 でも、そんな裏事情を灰原や七海に教えたりはしないさ。余計な気苦労を被るのは、()()の私だけで十分だ。

 

 「私たちでやりきった方が楽しそうだろ?」

 

 灰原が「そうですね!」と笑う。私も笑う。

 明るい未来というものを、幻視して。

 

 「(見ていてください、吉野先輩。)」

 

 特級呪術師の夏油傑が、この濁った水槽を浄化してみせましょう。

 

 

 

 

 

  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

 

 

 

  とある山奥の研究所。火災に遭い、煤だらけの廃屋で、一人の男が目を覚ました。

 

 「ああ、思ったよりいい調子だ。」

 

 体の具合を確かめるように、男は軽く運動する。手のひらを宙空に突き出して、男はニヤリと笑った。

 

 「蜃、氷月、織姫。」

 

 式神の支配権もしっかり手中に収まっている。うんうん、これは絶好調だ。

 この体に目をつけたのは、随分と前のことだ。この男が呪術の世界に来た当初から、狙っていた。

 正確には『蜃という式神を生み出したとき』から、評価していたのだ。

 

 『呪毒操術』という、新しい術式の可能性に。

 

 「未知の毒や、呪いの毒。ありとあらゆる毒と、呪い。自分が好きなようにデザインしたものをそのまま具現化する術式。

 彼の貧困な認識で【毒】止まりだっただけ。

 ……最初に仮説を立てたときは自分でも正気を疑ったが、実際に実現できてしまうのだから、ね。」

 

 この術式は可能性の塊だ。「呪力を毒に変化させる」というのは術の本質ではない。

 肉体と共に術式を獲得して「やはり」と笑う。

 この術式の根源は【穢れ】だ。

 

 「うーん、それにしても想定通りの行動だ。

 五条悟の2Pの存在を仄めかせば、五条本家に目を向けると思ったんだよね。大正解すぎて笑えるぜ。」

 

 この体を手に入れようと決めたはいいが、少し持ち主が面倒な男だった。これを庇護していた鴨川と言う男も。

 素直に手に入れるのは難しい。だから、ほんの少し遠回りをすることにした。

 長い時を生きる私だ、多少時間をかけても「通過点」として許容範囲内だ。

 『この男』に、唯一無条件で心をゆるす存在がいたのも好都合だった。

 魂を破壊するための、自然に体を手に入れるための布石をあっさり手に入れたときは笑いを堪えきれなかったし、その「布石」も自分の研究に役立つ珍しいものだった。

 とくに、女の方は1000年に一人生まれるか生まれないかというほどの稀有な体質で、似たようなのは「明治」の時に一人ぐらい。

 だが、明治の女よりも優秀な胎を持っていた。

 思わぬオマケに「運がいいな」と言葉に出すほど、満足のいく胎だった。

 

 「ーーーー君が心の底から憎んで、殺したかった子どもは()()()()()のにね。」

 

 からりと、一つの部屋を開ける。部屋の中央にポツンと一つ、NICU *1が置いてある。中にいるのは()()()()()()()

 

 「ふふ、肉体をもらったお礼だ。どうせ聞こえやしないだろうけど教えてあげるよ。

 コレは 五条替(ごじょうかわる)。その名のとおり、代替え品だよ。

 最後に君にも教えたけどさ、吉野凪の胎盤は本当に本当に優秀だったんだ。想像以上の完成度で笑えてきちゃうぜ。」

 

 悪辣に、悪烈に。男はにやにや頬杖をついて()()を嘲笑う。

 

 「安心しておくれ、これからは僕が『吉野公平』になってあげよう。

 吉野凪と吉野順平の『お父さん』として、彼らは僕が、骨の髄まで利用してあげるから。」

 

「だから、」と言って、男は自分の額をなぞった。額の、縫い目を「ついっ」と指でなぞった。

 

 「僕の(のろい)の為に死ね、吉野公平。」

 

 暗闇の中で、男は一人。「けひっ」と邪悪に笑っていた。

 

 

*1
新生児集中治療室




屋烏之愛
読み方 おくうのあい
意味 溺愛、盲愛のたとえ。
「屋烏」は屋根にとまっている烏(からす)のこと。
その人を愛するあまり、その人に関わるもの全て、その人の家の屋根にとまっている烏さえも愛おしくなること。
出典 『説縁』「貴徳」
類義語 愛屋及烏(あいおくきゅうう)
愛及屋烏(あいきゅうおくう)

[四字熟語辞典より参照]
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