食堂でフルボッコだドン!事件(硝子命名)から一週間。私たちは六本木の寂れたビルの中にいた。
私と五条、それから硝子と一年三人での合同任務。引率役は吉野先輩。
硝子はともかく、五条との合同任務は普通に嫌だった。なにせ、こいつは性格がゴミカスだから。
凄まじく傲慢で、傲岸で、不遜で、どう教育したらこんなクソ野郎が生まれるんだってぐらいひどい性格なんだ。
「おい公平。なんでこんなショボい任務俺がやらなきゃいけねーの?
雑魚にやらせりゃいーじゃん。」
ほら、今だって。「コイツみたいな」などと言いながらぴっと親指を私に向けた五条が、かったるそうに舌を出す。
私は血管が浮き上がるのが確かにわかった。
「オリエンテーションみたいなものだからね。
君たちの実力を見せてもらおうって感じの任務だ。」
吉野先輩は気狂いとしか思えない先日から一変、普通の良識的な先輩としてそこにいた。
三つ年上の先輩なのに妻子持ち(学生結婚)いうのはだいぶ倫理が死んでると思うが。
「あと、五条。お前はたしかに強いけど無敵って言うほど強いわけじゃないんだから、ちゃんと任務をやれ。」
「はぁ!?」
「夏油も。この業界入ったばっかなんだから五条に色々教えてもらいなよ。」
「あ?」
「家入は後方支援だから僕と一緒に外で待機だ。怪我したら直してやってな。」
「はぁい。」
「最後に一つ先輩アドバイスだ。
君ら、愛をちゃんと持ったほうがいいぜ。」
「じゃ、がんばれよクズども。」
「「ちっ!」」
舌打ちがハモった、最悪だ。
「おい、呪霊操術。俺はテキトーにやるからお前も好きにやれば。」
「私の名前は呪霊操術じゃない。夏油傑だ。」
「どーでもよ」
態度から何まで悪すぎる。こいつが同級生? これから五年間付き合うなんてうんざりだ。
「まあいいさ」
そっちがその気なら、私だってそうするまで。
目の前には呪霊が三体。見るからに雑魚、わざわざ戦って弱らせるまでもなく調伏可能。
「よし、取り込むか。」
手を伸ばして、取り込もうとしたその時。
「蒼」
呪霊が弾け飛んだ。
「……おい。」
「あ? なんだよ。」
「見てなかったのか? 今、私が調伏しようとしていたんだけど。」
「はっ、あんな雑魚取り込まなきゃいけないとか。」
「質より量という戦略を知らないのか?」
「量より質の間違いだろ。」
「世界大戦学んでから言え。」
「雑魚の理論なんざ知るかよ。」
カーン、と。
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ビルの外では男女二人が談笑していた。片方は喫煙しながら、もう片方は家族写真を眺めながら。
「ここ、最近ニュースでよく言ってるブラック企業ってやつでね。
すごいよ。仕事を苦にした会社員13人がオフィスで集団自殺。
お陰で一級呪霊爆誕って流れだ。
あとは二級三級がポロポロって感じかな。」
「うわ、やばくないっすか、それ。」
「あの子らなら大丈夫でしょ。」
まー、それに、と。吉野は薄く笑う。
「もう終わったみたいだし。」
「うっわ」
爆発して倒壊するビルの一角。降ってくる瓦礫。コンクリート片。そして呪霊の肉片。
ぽっかり穴の空いた壁の向こうに、見覚えのある二人が向かい合っている。
五条悟と夏油傑。二人は争うように呪霊を祓った。
夏油が調伏していた呪霊は蒼で祓われ、五条の蒼で吸い寄せた呪霊は片っ端から奪って取り込んだ。
やられたらやり返すを繰り返して、行き着く先はボス呪霊。
見つけた瞬間、五条が蒼で吹き飛ばしたが一撃では祓い切れず。
蒼が巻き起こした土煙の向こうから現れた呪霊に五条は一瞬動揺した。油断で無限をはるタイミングが遅れた五条の目の前で、呪霊が消失する。
調伏し、黒い玉に変えた夏油が見せつけるようにそれを飲み込む。
「調伏する手間が省けたよ、ご苦労様。」
「は、やるじゃん。」
「君もね。」
「じゃ、ねーよ。」
突如乱入した第三の声。くらりと目眩がして、立ちくらむ。そして、脳天に重い衝撃。
「はあ、全く飛んだ問題児だ。器物損壊は始末書ものだよ。」
「「〜〜!!!」」
嘘だろ、いまの拳骨か? 角材で殴られた並の衝撃だったんだが。
二重の意味で「グワングワン」と脳が揺れて、視界がシャットアウト。
下手人は「家族との時間が減る」と言いながらさらに拳と術式で追い討ちをかける。顎にえぐいアッパーが刺さる。
世界が真っ暗になる寸前、いけ好かない男と目があった。同じ理不尽を抱える二人は、視線がかち合った瞬間心を通わせる。
「「(
きっとそれが、二人が友人になった瞬間だった。
■■■
「すっぐるーー!」
「なんだい、悟?」
悟と私はめちゃくちゃ仲が良くなった。吉野公平という恋愛脳クソ野郎についてお互いドチャクソに愚痴りまくったら意気投合した。
「雑魚って言ったけど、強いじゃん」「君もね。」などと医務室のベットの中で拳を重ねてみたり、娯楽を知らない悟を自室に誘って、耐久RPGをしてみたりデジモンアニメオールで見たり。
仲良くなれないなんて言った過去の自分は見る目がない。今や悟は最高の親友だ。
「これ行こうぜ!」
「何これ、スイパラ?」
「そ!
全部同じ味の不味いケーキの食べ放題って気になるじゃん。どんだけ不味いのか試してみたい。」
「悟、それお店で言ったらダメだよ。
……あ、このスイパラはご飯系美味しいところだ。ピザとパスタが美味しいんだよね。」
「はー?
スイーツパラダイスなのになんでイタリアンがあるんだよ。」
「甘いものばっかじゃ飽きるだろ?」
そんなもん? と悟が首を傾げた。しまった、重度の甘味中毒者には通用しない理論だったか。
「というか、男二人で行くのか? これに?」
「え、なんかダメなの?」
「いや、ダメってわけじゃないけど……うーん。」
硝子を誘おうとしたら「ダイエット中」と断られた。歌姫先輩は声かける前に「絶対嫌!!」と拒否られた。
と、なると。残る女性はただ一人。
「スイパラ?
お、いいねいいね。久々に行こっかな。」
「凪さんが行くなら僕も行く。」
宿敵たる厄介先輩までついてきた。まあ想定内か。
これでメンバーは女一人と男三人という「男同士でこようとしたけど流石に気まずいから女の子さそって付き添ってもらうことにしました」感が凄まじいパーティーとなってしまった。いや、まあその通りなんだが。
「やっばっ!! 不味すぎてウケるんだけど!」
「こら、悟!!!」
始まって早々、ケーキ全種類持ってきた悟が食べ比べて「同じ味じゃん!」と笑う。ケーキはほぼ全部同じホイップクリームケーキ。色が違うのでたぶん、ホイップクリームのフレーバーだけ違うタイプのやつだ。あれ、確か生クリームにかき氷のシロップ混ぜて誤魔化してるやつだったか。
山盛りのペペロンチーノ食べながらそのことを教えてやれば、「言われてみたらかき氷のシロップの味がする! 気がする。」と爆笑する悟。
うんうん、君が楽しそうで何よりだよ。
「夏油、スイパラ来て飯モノオンリーはどうかと思うぜ?」
コーヒーゼリーを食べながら、先輩が「流石にマナー違反だろ」と苦言を呈する。
「ははは、私はスイパラのスイーツは食わないと決めてるんで。」
「は?
それは流石に意味不明だぞ。」
「デートでもないのにこんな不味いケーキ食べませんよ」
「お前、五条のこと言えねーからな?」
吉野先輩にドン引きされた。常識倫理慈悲その他もろもろが死滅してる先輩に言われるのは、流石にきついのだが。
「夏油君、このバナナケーキは美味しいよ。
甘さ控えめだし多分食べれると思う。」
「じゃあ、ちょっとだけください。」
「ほいよ。」
ほら、と切り分かられたケーキが小皿に乗って私の前に差し出される。ケーキは受け取る前に凪さんの隣に座る旦那が強奪した。
「夏油、悲しいよ。お前が間男になるなんてな。」
「ちょっと話が見えないです」
「凪さんとの間接キスを狙うお前のそのテクニカルな言動。相当遊んでるとみた。」
「話聞いてくださいよ。」
ヘルプの視線をさっきから送ってるのに、悟は不味いケーキを「不味い不味い」と言いながら永遠に食べ続けてる……いや、これはあえて無視ってやがる。
おのれ悟。
「公平、せっかく私とデートしてるのになんか夏油くんのことばっかりだね。……ちょっと、妬けちゃうな。」
「世界で一番愛してます凪さん!!!」
先輩の意識を全て掻っ攫った凪さんがパチンとウインク。飛んだ茶番に巻き込まれたと思ったが、私を助けるためだったらしい。この人本当に女神だな、女神か……女神だった……。
「悟!
そろそろ満足した?」
「んー……腹は膨れてないんだけど、味に飽きたからもーいいや。」
悟の言葉で持って、本日のスイパラは終了した。
今日のことで、よくわかったことがある。
先輩は、凪さんと順平くんと言った「家族」が関わるとアホほどポンコツになる。
もう一つは、凪さんは気遣いができる女神のような人だった。
ああ、あと最後にもう一つ。
「(凪さんに手を出したら殺されてたな。)」
間接キス疑惑だけであれだ。まじで手を出してたら死ぬより酷い目に合いそうだ。
手を出す前に気付いてよかった。
部屋のベットに寝転がり、そんなことを思いながら夢の世界に眠り落ちる。
とりあえず、人妻もののAVも捨てるところから始めるか。
公式クズの設定をいかしたい