「僕の愛の為に死ね。」   作:蔵之助

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番外編の位置変えました。
一章の後に0章はなんか気持ち悪かったっす


黒く、黒く

 「なるほど、夏油先生が言ってたのは()()()()()()か。」

 

【記録____2017年12月24日】

 

 「腐ってる。根本から変える必要があるな。

 とりあえずお前は____……」

 

【特級過呪怨霊 折本里香。

 二度目の完全顕現】

 

「ブッ殺してやる。」

 

 ____事態は、三時間前まで遡る。

 

 

 「【百鬼夜行】が確認されたぁ?」

 

 始まりは、真希さんのかったるそうな一言。それに頷くパンダくんと、狗巻くんの「こんぶ?」の一言。

 

 「そ、それで今日は日本中の呪術師が出払ってるっつーわけ。」

 

 人がほとんどいない、がらんとした高専。教室にいる4人だけが異常(イレギュラー)に思えて、少し落ち着かない。

 そんな中でもいつも通りなパンダくんが片手を振った。

 

 「祓っても祓ってもどんどん湧いてくるから、現場はさながらレイド戦。

 全然人手が足りてないらしくてさ。まさみちがぼやいてた。

 2年は京都に遠征。

 棘は3、4年と新宿でバックアップになんじゃねーの? 俺はまさみちの指示待ち。」

 「私は?」

 「真希と憂太はお留守番。」

 「ちっ!」

 

 舌打ちを一つ。椅子を蹴って立ち上がる。

 扉を雑に開けて、肩を怒らせて。しかし足音は静かすぎるほどに無音で真希さんが消えた。

 

 「どうしたんだろう……?」

 「トイレじゃねーの?」

 「いや、それは違うんじゃないかな。」

 「おかか……。」

 

  狗巻くんの呆れ声。

 待つこと十数分。戻ってきた真希さんの手には一枚の紙が。

 

 「ムカつくから、なんか依頼ないかって強請ってきた。

 一個良さそうなの回してもらったぜ。」

 「何やってんの、真希さん……。」

 

 真希さんの手には一枚の紙。ニヤリと笑った彼女は悪い顔で「別に悪くは(わるかー)ないだろ」と紙をひらひら振る。

 

 「でも、私らだけじゃ伊地知さん行かせてくれないって言うからさー、棘とパンダも来い。

 新宿のサポートはさっきミミナナに押し付けてきたからよ。」

 「何やってんの、真希さん……!」

 

 脳裏に、ブチギレの美々子ちゃんと奈々子ちゃんが思い浮かぶ。キレたらかなり面倒臭いことになる双子だ。暴虐のとばっちりを受けないことを期待したい。

 

 「んじゃ、表に車待たせたるから。さっさと行こーぜ。」

 「もうっ!」

 

 少し待ってて! と急いで刀袋を背負う。待ってて、と言ったのに真希さんとパンダくんは先に外に行ってしまってて、教室で待ってくれてたのは狗巻くんだけだった。

 2人で慌てて2人を追いかける。

 「ほんの数秒くらい待っててよ」「追いかけてくるだろ」と軽く会話をしながら階段を降りて、伊地知さんの運転で任務地に向かう。

 

 「低級討伐ねぇ……。

 視認できるのは四級か三級。弱いけど数だけは多い。

 百鬼夜行っていうだけあるな。」

 「しゃけしゃけ。」

 「ま、この程度ならすぐ終わんだろ。

 さっさと終わらせてクリスマスケーキ食おうぜ。」

 「悟にバレないようにしないとな。」

 

 パンダくんの一言に「あはは」と笑う。五条先生の甘党は知れ渡った事だ。僕たちだけでケーキを食べたりなんかしたら確実に拗ねてしまうだろう、なんて。思わず苦笑する。

 

 「しゃっけ!」

 

 Vサインをしながら、壁を指さす棘くん。商店街のポスターにはデカデカと【クリスマスパーティーを楽しもう!】と書かれていた。

 

 「うん!」

 

 そっか、クリスマスパーティか。里香ちゃん以外の誰かと過ごすのは初めてだ。すこし、頬が緩む。

 低級呪霊の討伐はスムーズに終わる。確かに数は多いけれど、僕たち4人ならすぐに祓除できた。

 完了報告を伊地知さんに告げる。

 電話の向こうで『わかりました』と神経質そうな男の声が聞こえる。

 そして、帳が上がる____はずだった。

 

 「……なっ!?」

 

 上がりかけた帳の上に、新しい帳が下ろされる。伊地知さんが貼った帳よりも濁った色の天幕。

 不気味な帳の出現と同時に現れたのは、一体の呪霊。ビリビリと肌で感じる凄まじい呪力。

 

 「なんで……。」

 

 ぽつり、と。真希さんが声を溢す。

 

 「なんで、こんなところに特級がいるんだよ!!」

 

 特級。

 その名前が、音が。腹の底に「ズドン」と響く。

 

 「数が多いだけの三級案件じゃなかったのか!?

 低級倒したらこんなの出てくるなんて聞いてねぇぞ!!」

 「わかってんだろ真希。これは罠だ!」

 「るせぇな、知ってるよ!

 くっちゃべってねぇで逃げるぞ!」

 

 走る。走る。みんな肩を並べて一直線に帳まで走った。

 

 「罠ってどう言うこと、パンダくん!」

 「だーかーらー!

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことだ!

 ____俺が“帳”を破る!! あとは()()で行くぞ!」

 「明太子!!」

 

 黒い壁と化した帳に、パンダくんが拳を振る。しかし、帳はそれを()()()

 

 「こんぶ!?」

 「くそ、破れないだと……っ!

 完全に閉じ込められた! 外と連絡は!?」

 「伊地知さんに繋がらねぇ……クソッ!」

 

 がん! と帳に呪具を打ち付ける。何も変わらなかった。僕も刀で切りつけたりしてみたけれど、びくともしない。

 背後で呪霊がケタケタ笑っている。不愉快な不協和音に焦りが募る。

 

 「手段選ばないにも程があるだろ上層部……っ!!

 どさくさに紛れて私と憂太(うっとうしい奴ら)を鏖殺ってか?

 〜〜〜畜生っ!!」

 

 振り上げた拳は、帳に当たるだけで終わる。

 ……そうだ。本来なら、僕と真希さんだけの任務になるはずだった。

 伊地知さんが出したアドバイスのおかげでパンダくんと狗巻くんもここに来たけれど、本当なら2人とも新宿でサポートのはずだった。

 仕組まれてた、全て。けど、だからこそ。

 

 「戦うしかないよね。」

 「はは。お前に言われなくてもわかってるよ。」

 

 退路はない。なら作るしかない。ごくりと唾を飲み込んで、向き直る。

 真希さんも呪具を構えて呪霊に相対する。

 「四級呪術師が特級を相手にするなんてどんな無謀だよ。」と、ぽつりと呟き、しかし耐えるように「ニッ」と笑った。

 

 「が、こいつら祓えば晴れて私も昇級だ。」

 

 ようやく念願が叶うなんて強気に笑うけれど、手がかすかに震えていた。

 

 「真希さん、震えて……」

 「るせぇな、武者震いだよ。」

 

 余計な一言のせいで、真希さんに睨まれる。うん、今のはいらないお世話みたいな言葉だ。だって、真希さんだけじゃない。僕だって震えてる。

 狗巻くんも、パンダくんも。怖いのを押し殺して戦う覚悟を決めている。僕だけじゃない。

 歯を食いしばって立ち向かって、腹の底から声を出す。

 

  「____行くぞ!!」

 「「「おう(しゃけ)!!」」」

 

 みんなで生きて、帰るために。

 真っ先に狗巻くんとパンダくんが呪霊に立ち向かった。パンダくんが呪霊に殴りかかるも呪霊はそれを避ける。

 真希さんがパンダくんのサポートをするように飛び出して、薙刀を振るう。

 

 「やれ、棘っ!」

 「【 堕 ち ろ 】!!」

 

 ズズン! 地面には大穴。呪霊のヘイトがパンダくんに向いている隙を狙った呪言での攻撃。

 狗巻くんが吐血して、のどナオールを一気飲みする。

 その隙に呪霊が狗巻くんを鷲掴みにした。

 

 「狗巻くんを離せっ!」

 

 斬!

 刀に呪力を込めて上段切り。すぱりと腕が切り落とされて、力が緩んだ手のひらから狗巻くんが脱出する。

 

 「棘! 大丈夫か!?」

 「い"……ぐらっ!」

 

 パンダくんが狗巻くんに駆け寄る。呪霊の影からわらわらと低級呪霊が湧いてきて、2人に襲いかかる。

 2人の前に立った真希さんが薙刀を一薙してそれらを祓う。

 

 「余所見するな!!」

 

 祓っても祓っても現れる大量の低級呪霊。それに気を取られて……いや。それらのせいで余裕を奪われて、ソイツにまで気が回らなかった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 「真希さん後ろっ!!」

 

 低級呪霊の群れの後ろに大きな影。

 真希さんが、巨大な腕で殴られ吹き飛ぶ。空中で血を吐く。己が呼び出した低級呪霊もとろとも真希さんに攻撃した呪霊に、怒りしかわかない。

 ずしゃりと地面に倒れ込んだ真希さんが「ぅぁ……」と小さく呻き、それすら鬱陶しそうに呪霊が無造作に蹴り飛ばす。

 

 「真希さん!!」

 

 足が折れてる。いや、足だけじゃない。僕じゃ詳しいことはわからないけれど、全身の骨が折れてるんだろう。

 手足はありえない方向に曲がり、肺に穴が空いているのか「ヒューヒュー」と空気が抜けるような呼吸の音が耳につく。

 背後から凄まじい轟音。振り返り、絶望する。

 

 「あ、ああ……」

 

 赤だ。地面も、彼らも、真っ赤に染まっていた。錆びた鉄のような赤い色。

 池のように広がる血溜まり。その中央に沈むのは……

 

 「パンダ君、狗巻君……!!」

 

 腕がもげて、中の綿があふれるパンダくん。口周りを血でベタベタにさせてだらりと手足を放り投げる狗巻くん。

 

  目の前が、赤く染まる。

 

 「来い!!! 里香!!!」

 

 荒廃した大地。不毛となったその場所に立つのはたった2人。乙骨憂太と、その恋人たる呪霊の折本里香。

 目の前には特級呪霊がそんな2人を「ゲラゲラ」嘲笑っていた。いや、()()()()()()1()()を嘲笑って、見くびって、嘲笑している。

 己の不甲斐なさに涙を流しながら、血反吐を吐くように叫ぶ。

 

 「ぶっ殺してやる……っ!」

 

 それは、魂からの言葉。ただひたすらに純粋な呪いの言葉だった。






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