「僕の愛の為に死ね。」   作:倉之助

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弱者に罰を

 特級呪霊が 低級呪霊(ぞうひょう)を召喚する。ウジのようにわらわらと増えるそれらから逃げながら、安全な場所に避難した。

 

 「里香。」

 

 格納していた【彼ら】を吐き出す。3人ともひどい怪我だ。特に真希さんは今にも死にそうな重体。

 

 「絶対に死なせない!!」

 

 家入さんの反転術式を思い出して、手のひらを広げる。広がった呪力の光。真希さんの呼吸が安定して、ホッと息を吐いた。

 

 「【ずるい……ずるい……っ!】」

 

 

 「何をしている、里香。」

 

 低い、怒りを孕んだ声。

 

 「その人は僕の恩人だ。

 蝶よりも、花よりも、丁寧に扱え……!」

 

 ゾッとするほど冷たい瞳で里香を見つめる憂太に、ピャッと震えて真希を憂太に返却する里香。

 

 「【ごめんなさい、ごめんなさい!!】」

 

 ポロポロ涙を流して、憂太に縋る。どこから流しているのかわからないが、おそらく目元から溢れる大粒の雫が地面を濡らした。

 真希をパンダと狗巻(かれら)の側にそっと寝かせてから、憂太は立ち上がる。

 

 「【怒らないで……。】」

 「怒ってないよ。」

 「【嫌いにならないでぇ……っ!】」

 「嫌いになんてならないよ。」

 

 するりと、里香を撫でながら微笑む。視線は一点集中。冷徹さを宿したまま変化はない。

 

 「僕らの敵だ、アイツだよ。」

 「【……憂太、アイツ嫌い?】」

 「ああ、大嫌いだ。」

 「【じゃあ、里香も嫌いぃぃぃぃぃ!!】」

 

 うん、そうだね。同じ気持ちで嬉しいよ。背後から覆い被さるように里香の腕が僕に巻きついて、僕はその腕を「ぽん」と優しく叩く。

 

 「里香、アレをやる。」

 

 召喚されたのは蛇の目と牙が模されたメガホン。すう、と息を吸って、声に呪力を込めながら一言。

 

 「【 死ね 】」

 

 僕が言葉にした通り、低級は死ぬ。呪いの言葉で死んでいく。

 ああ、でも。やっぱり難しいや。呪力が拡散して狙いが定まらない。

 

 「狗巻くんはすごいなぁ……。」

 

 そう、僕の友達は凄いんだ。それを呪霊(オマエ)は、上層部(オマエら)は……っ!

 

 「ぐちゃぐちゃにしてやる。」

 

 目の前の呪霊も、こんな任務で僕らを罠に嵌めた腐ったみかん共も。

 殺すしかない。先生の言葉に共感しかない。

 害悪だ。僕たちの世界に、アイツらはいらない。

 愛せないゴミに価値はない。

 

 「あわせろ、里香。」

 

 刀に里香を憑依させる。肉弾特攻。真希さんから教わった体術に翻弄される呪霊を見ながら、思う。

 やっぱり、真希さんはすごい。僕では狙いがうまく定まらないし、隙をつくのも下手くそだ。

 僕よりもずっとずっと、真希さんの方が強い。

 

 「【憂太……憂太ぁ……!】」

 「大丈夫。」

 

 攻撃するたび返り討ちに遭い、ボロボロになる僕を心配して、オロオロと里香の手が視界の端で彷徨っている。

 

 「慣れてきた。」

 

 力とともに呪力を込める。一閃。呪霊の首に叩き込んだ刀は、次の瞬間バラバラに砕けた。

 なんで? どうして? 

 疑問を抱くと同時に、刀を捨てる。呪力を拳に纏わせて、殴りつけた。

 でも、なんで刀が壊れたんだ。僕の何がダメなんだよ。

 僕はみんなを守りたいのに、うまく守ることすらできない!

 

 「もう、全部わかんないよ!!」

 

 仕方ないだろ、だって呪術を学んで一年くらいしかたってないんだ。わからないことだらけなんだよ。

 

 「高専以外の呪術師なんて知らないし、呪術師の派閥なんて知らない!」

 

 なんで僕が命を狙われなきゃいけないのかもわかんないし、僕を守る派閥とか、敵の派閥とか。そんなの本当に分からない。

 権力争いなんて、そんなのわかるかよ。

 でも、一つわかることがあるんだ。

 

 「でも僕が! みんなの友達でいるために……っ!

 僕が、僕を!!

 生きてていいって思えるように!!

 今ここで、お前を殺さなきゃいけないんだ……っ!!」

 

 だから僕は、全身全霊でもって目の前の呪霊(オマエ)を殺す。

 僕の拳が、呪霊の腹を抉る。里香も呪霊を殴りつける。

 僕と里香の共同作業だ。血に塗れながら「初めての共同作業だね。」と笑うと、里香ちゃんは「きゃー!」と頬に手をあげて恥じらう。

 ああ、ようやく終わっ________

 

 

 【強烈な、呪力の圧力(プレッシャー)

 

 

 目前に現れたその悍ましい肉の塊に、絶句する。形としては人に近い。大きさだって、それほどではない。

 だけど、僕がさっき苦戦して倒した呪霊以上に高い呪力を感じる。

 

 「二体目……。」

 

 感じる絶望。しかし、自然と心が凪いでいる。

 今の僕では、どうやったってあいつに勝てない。みんなを守りきれない。

 

 「里香。」

 

 でも、それでも。 初めてできた友達を守れるなら、別にいいかって思えるんだ。

 

 「いつも守ってくれてありがとう。僕を好きになってくれてありがとう。

 最後に、もう一度力を貸して。」

 

 都合の良いことはわかってる。でも、僕はきっと、最初からこれを望んでいた。

 

 「こいつを殺したいんだ。その後はもう何もいらないから。

 僕の未来も、心も、体も。ぜんぶ里香にあげる。

 これからは本当に、ずっと一緒だよ。」

 

 ああ、本当に。こんな身勝手で、優柔不断で、自己中で、良いとこなしな僕を好きになってくれてありがとう、里香ちゃん。

 

 「愛してるよ、里香。」

 

 一緒に逝こう?

 

 キスを捧げる。里香、こいつを殺して、2人で死のう。

 これが、僕ができる精一杯の愛情表現。

 

 「【あ、あ あ あ あ あ あ あ あ!!!!】」

 

 里香ちゃんの呪力が膨れ上がる。これを、きちんと呪術を学んだ呪術師が見たならこういうだろう。

 ____自らを生贄とした呪力の制限解除

 

 「【憂太!!! 憂太っあ"!!!!】」

 

 まともに学んでいない憂太がそれを狙って行ったかどうかはわからない。

 だけれど、ただ、なんとなく「こうすれば良い」と思ったから、と思った。だからこうした。

 それは、ひどく悍ましい【愛】を踏み台にした超火力攻撃。女を誑かす男の最終局地。

 

「【大大大大大大大大大大大大大大大大っ大好きだよぉ!!!!】」

 

 愛を呪いだと、誰かが言った。

 ある人は言った。

 「愛ほど歪んだ呪いはないよ。」

 ある人は言った。

 「愛は人間が最初に抱く欲望だ。」

 ある人は言った。

 「愛は無敵の呪いだよ。」

 

 ならば、僕はこう言おう。

 

 「失礼だな、純愛だよ。」

 

 そして、折本里香の呪力の高圧放出(ぼくと里香ちゃんの愛)に焼かれて、二体目の呪霊は半身を失った。

 

 

 ■■■

 

 

 「素晴らしい、素晴らしいよ。

 私は今、猛烈に感動している。」

 

 満身創痍で倒れる彼らを、上空から1人の男が鑑賞していた。彼が見ていたのは一部始終。

 乙骨憂太が呪力の制限解除してから現在までの短時間。下手に着陸したら巻き込まれると感じての観察だった。

 

 「呪術師が呪術師を自己を犠牲にしてまで慈しみ、敬う。私が望む世界が今、目の前にある!!

 私たちの革命は、成功している!!!」

 

  すとん、と。呪霊から飛び降り滞空する。重力任せに落下しながら、帳を破り中に押し入る。

 帳の中では体を半分失ってもなお、まだ息の根が残っている呪霊。

 呪力による補填・治癒。見かけ上完全回復した呪霊(ソイツ)は、己の脅威たる呪術師ーーー乙骨憂太の息の根を止めんと手を振りかぶる。

 

 「やはり、私が望む世界に【ゴミ】はいらないな。」

 

 ズドン!

 重力加速も加わり生み出されたエネルギーが大地を割る。

 そんな中でも平然と。自らが作り出したクレーターの中央で、男は冷静に分析する。

 乙骨が苦戦していた呪霊を一瞬で祓ったその男は、くるりと振り返り「やあ!」と笑う。

 

 「やあ、一年諸君。助けに来たよ。」

 

 それを最後に、彼の視界は暗転した。

 

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