「僕の愛の為に死ね。」   作:倉之助

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二部、始動。これから王道救済ルートで頑張ります!!


2部1章:鳶飛魚躍-エンピギョヤク-
それは僕にもできますか?


「君たち、マナーは守ろうね。」

 

 映画館で「その人」を見たとき、妙な胸騒ぎがした。ゾワゾワとした不気味な既視感。それから、なぜか郷愁。

 追いかけた先で、彼を見つけた。引き寄せられるように。

 

 「あの……っ!」

 

 「俺が見えるんだ」と薄く笑ったその人は、「君、面白い魂をしているね」と僕に告げた。

 

 

 

 ■■■

 

 

 「はい、今日の授業はここまでです!

 お疲れ様でした!」

 

 キーンコーンカーンコーン。

 チャイムと同時に、教室にいた生徒たちは騒めく。

 

 「はー、今日もつっかれたぁ〜!」

 「灰原ぁ、今度の課外活動っていつ?」

 「せんせーせんせー!七海っち今度はいつ来るの?」

 「うんうん、元気なのはいいけど一人ずつ言おっか!

 僕は聖徳太子じゃないからね!」

 

 ここは非術師家庭出身の呪術師が呪術の基礎を学ぶ予備校、『吉野塾』

 高専入学前の、16歳未満の呪術師の卵たちが切磋琢磨する場所だ。

 もちろん、呪術だけを教えているわけじゃない。希望を出せば普通の塾と同じように国数英理社の5教科の勉強も見てくれる。

 教えてくれるのは呪術の基本だけじゃない。呪術師としての生き方もだ。

 

 そんな吉野塾だが、入塾するまえに【登竜門】と呼ばれるとある授業を受けねばならない。

 それは適正審査とも言われるその授業で、入塾希望者のおよそ半分が呪術師になるのを諦める。

 その授業内容とはどのようなものなのか。

 テストなどでは全くない。ただ、現実を知るだけ。

 

 端的に言おう、「呪術師とは6Kを極めたクソ職業である」という夢も希望もない授業が行われるのだ。

 実際に呪術師を招いて、経験談とともに「クソ」さを学ぶ。

 そして、そんな呪術師という職業にドン引いて「そんなの嫌だ。」と諦める。

 そして呪術師にはなりたくないと言った生徒には自衛程度の呪術の手解きを受ける【通常コース】のカリキュラムを。

 そんな講義を聞いても「呪術師になりたい」といった生徒は【呪術師養成コース】のカリキュラムに進む。

 ちなみに、後から転科するのは本人の自由だ。

 

 この塾ができたのは今からおよそ5年ほど前。発足したばかりだが確かな功績を着実と積み上げている。

 由緒正しき呪術師の方々には当然のように敵視されまくっていて、出会うたびにぶちぶちと嫌味を言われるが。

 それでも、そんな程度で済んでいる。小言はウザいが無視すれば実害はない。

 あの、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 これは驚くべきことである。非術師家庭出身の術師を下に見て見下す権威欲の塊が、だ。自分たちの領分を犯すものに容赦がない生ゴミの塊が、だ。

 心を入れ替えた? とんでもない。もちろん、理由()【存在】する。

 予備校は有力な後ろ盾を持っている。呪術師上層部ですら手を出すのを躊躇うほど強固な盾。

 

 「やあ、灰原。今日も頑張ってるね。」

 「夏油さん!」

 

 東京都立呪術高等専門学校教員、特級呪術師にして「革命派筆頭」の、夏油傑という後ろ盾を。

 

 現在、日本呪術界の勢力はおよそ4つに分けられる。

 腐った呪術師上層部を打倒し、根本から仕組みを覆すことを目的とする「革命派」

 革命派と同じく上層部打倒を目的とするが、根本はそのままに制度を改めることを目的とする「革新派」

 現在の体制を保持しようとする「保守派」

 どちらでもない日和見主義の「中立派」

 

 革命派は前述した通り夏油傑が筆頭であり、革新派はその親友の五条悟のワンマンチーム。

 両陣営は手を取り合い、お互い協力関係にある。しかも両方特級だ。

 そんな状況下で、下手に「吉野塾」に手を出せばどうなるか。火を見るよりも明らかだ。

 夏油傑は大義名分を得て、本格的な革命へと乗り出すことだろう。

 革命派が台頭すれば、保守派・中立派は駆逐されてしまう。

 しかし、保守派・中立派の両陣営には高い地位に座るものが多く、権力で革命派の頭を押さえつけることが出来る。

 絶妙なパワーゲーム。先に付け込む隙を見せた方が敗北する。

 ゆえに。塾生、及び塾講師は「小言(それ)以上の干渉」を受けずに済んでいる。

 

 「こっちに来るのは珍しいですね。何かありました?」

 「いや、ちょっと七海を探していてね。

  今日は来てないのか?」

 「その予定だったんですけど、少し用事ができたみたいです。

 急ぎの用事なら、僕から七海に伝言しましょうか?」

 「……いや、別にたいしたことじゃないからね。七海に私が探していたことだけ伝えて置いて欲しい。」

 「了解しました!」

 

 灰原はにこりと笑って元気よく告げた。

 灰原は5年ほど前から、七海とルームシェアをして同じ家に住んでいる。

 以前、呪術師上層部に命を狙われ死にかけた灰原が再び呪術界に戻るために、七海が枷した条件だったらしい。おそらく、いや確実に、()()()()()()()()()()()()()()の提案だ。

 目の前で灰原が死にかけたことが完全にトラウマになってしまっている後輩(ななみ)に、流石の夏油も精神状態が心配になる。

 友人相手にまあまあの束縛、これも愛という名の呪いだろう。

 

 「あ、そういえば夏油さん。」

 

 灰原がくるりと振り返る。夏油と同じぐらいの目線の高さで向かい合い、なんでもないように言葉を作る。

 

 「例の両面宿儺の器の子、今どうなってるんですか?

 基礎は吉野塾(こっち)で面倒見るって話でしたが、連絡が来ないのでカリキュラムが作れてないんです。」

 「ああ、虎杖ね……。

 そのことだけど、無かったことにしてくれ。」

 「?」

 

 灰原が眉を寄せる。怪訝な顔で「何かあったんですか?」と聞く灰原に、私は告げた。

 

 「死んだんだ、あの子。」

 

 しん、と。張り詰め、ピリついた空気。言葉を吐くのも躊躇われるなか、夏油は重々しく唇を開く。

 

 「悟がバックについてたけど、誅殺された。

 おそらく保守派の奴らだろう。」

 「証拠は?」

 「ない。」

 

 隠蔽されたよ、と首と一緒に片手を振ってみせる。掴んでいたらとっくに乗り込んでいたところだ、とも。

 

 「証拠がなければそれは無実。完全犯罪だ。」

 「今も昔も、上は変わりませんね。」

 「まあ、やってることは私たちも同じだけど。」

 「全然違います!

 味方に対するスタンスが!」

 「ははは」

 

 『スタンス以外はほぼ同じ』と肯定していることに気づいていない灰原に、思わず笑う。

 

 「そうだな、さっぱり違うな、スタンスは。」

 「そうですよ!」

 

 全ての術師に平等であれーーーー。

 たったそれだけのことを、どうして理解してくれないのか。

 それがわからぬバカしかいない、濁った水槽。浄化するには【革命】と言う名の劇薬しかあるまい。

 

 「やはり、一番の手段は教育なんだよね。ここ数年、前に比べたらだいぶマシになってる。」

 「そうですよね!」

 

 それでも、未だに差別は横行しているし、選民思想は深刻だ。

 権力にものを言わせて虎杖悠仁や乙骨憂太のように脅威となりうる存在に「秘匿死刑」の判決を下す老害は数多く存在するし、隙あらば夏油や灰原、七海を殺そうと暗殺者がやってくる。

 歳を重ねるごとに増えていく懸賞金は、今どれだけ膨れ上がっているのだろうか。

 

 「私と悟の目指す未来は同じだし、あとは私たちの妥協点を模索するだけだ。」

 「五条さんは『家』のしがらみが多くて大変そうですね。」

 「ほーんとほんと。ちょー大変だよ。」

 

  どすん、と灰原と夏油の肩に長い腕が回る。

 

 「すーぐーるぅ、僕がトイレ行ってる間に置いてくって酷くない?」

 「連れションなんて勘弁してくれ、子どもじゃあるまいし。」

 「五条さんも来てたんですね!

 お久しぶりです!」

 「おー、久しぶり灰原。」

 

 ひらりと、灰原の肩に回した手を振った悟。学生時代と違い、アイマスクで目を覆うようになったせいで不審者さながらの容貌になってしまった男が間延びした声で言う。

 

  「なー傑、僕たちもルームシェアしよーよ。どうせほとんど家に帰れてないし、共同管理の方が楽だって!」

  「いやだよ。悟、部屋めっちゃ散らかすだろ。片付け全部押し付けようったってそうはいかない。」

 「ちっ、バレたか。」

 「あからさますぎ。それに私だけの家じゃないからね。」

 

 軽口を叩き合う先輩の姿に、「相変わらず仲がいいですね」と灰原は笑った。

 

 「でも、五条さんと夏油さんって同じマンションの隣部屋じゃなかったですっけ?」

 「そうだよ。」

 「それ、ルームシェアする必要あります?

 合鍵渡しておけばいいんじゃないですかね。」

 「それだ!」

 

 きょとん、と首を傾げた灰原に、悟が「パチン!」と指を鳴らした。

 

 「じゃあ俺の部屋の合鍵あげるから、傑も合鍵ちょーだい。」

 「……一応聞くけど、なんのために?」

 「飯たかりに行ったりベット借りに行ったり?」

 「まずは寝れないぐらい散らかったベットの上を片せ。無理なら家事代行サービスでも頼んだらどうだい?」

 「暗殺され放題じゃん。絶対嫌だね。」

 

 まあ、そうだよな。悟の言葉に「そりゃそうだ」と頷く。

 「伊地知にやらせるか」

 「やめてあげなさい。」

 「あで!」

 不穏なことを呟いた悟の後頭部に裏拳を入れた。伊地知が可哀想すぎる。

 

 「それで、五条さんは何のために(ここ)へ?」

 

 灰原のもっともすぎる疑問に、「あ、そうだった」と声を上げる。ピシッと人差し指と中指で灰原を指さした悟が、さらりと簡潔に要点を告げる。

 

 「灰原、七海から伝言。「二、三日連絡取れないかも知れないが心配するな」だって。」

 「わかりました!

 「了解だよ」って七海に伝えておいてください!」

 「七海と連絡取れなくなった原因はお前か。」

 「は?」

 

 私の言葉に悟が振り向く。

 

 「傑、灰原じゃなくて七海に用があったのかよ。言ってくれりゃよかったのに。」

 「君が七海の伝言預かってるとは思わないだろ。」

 「でも珍しいですね、七海が五条さんに伝言任せるなんて。」

 「いやさー、今朝七海に任せた任務がちょっと厄ネタ案件っぽくて。もしかしたら特級案件かも、見たいな?

 まあ僕が任せたのは調査だけだし、七海なら無茶なことはしないでしょ。」

 「ならいいけどね。」

 「大丈夫ですよ。よほどのことがない限り、七海は無茶なんてしませんって!」

 

 いい歳の大人が三人並んで帰路につく。未曾有の災害が待ち受けていることなど想像せずに……

 

 






Qどうして七と灰はルームシェアしてるの?
A灰原が死ぬことが七海のトラウマになってる。束縛といってもルームシェアの強制だけでスマホチェックだのスケジュール管理だのはしない。
ただ彼女と同棲することになっても七海はルームシェアは続けます

Q夏五が隣に住んでるのなんで?
A有名税で四六時中見張られてるから、革新と革命の論争をするときとか聞かれたらまずい話をする時に隣の部屋の方が色々都合が良かったから。
(夏の家は「家族」の溜まり場になってる)
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