「僕の愛の為に死ね。」   作:蔵之助

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*五条替くん(オリキャラ・ショタ)に対するメロンパンの暴行シーンがございます。
*前半がただただひたすら胸糞ですが後半はほのぼの展開書いてます。
なお、コレは替くんの不幸な人生を印象付けるための演出で、メロンパンへのヘイトを集める目的(?)であり、断じて彼の人生を踏み潰したり破滅させたりするつもりはないんです。
むしろ彼はちゃんと救われて欲しいと思ってるんです。将来的に「お母さん、お兄ちゃん、お父さん!」と晴れやかな笑顔で笑えるキャラになって欲しい。
愉悦なんてしません。
だって俺は、キャラに優しい作者でありたいから……っ!







君には期待してるんだ

 一級呪術師の七海健人が戦闘を行った跡地。積み重なる瓦礫の山が、かすかに動く。うにょうにょと蠢く物体が隙間を縫って蠢き、そして「どうりゅん」と体積が膨張し人の形になる。

 

 「あっはっは、見かけによらず無茶するなぁあの術師!」

 

 瓦礫の下から這い出た真人はケラケラ笑う。それをどこからか現れた男が眺めていた。

 

 「ずいぶん派手にやったね。」

 「吉野!!」

 

 全裸の真人が声を弾ませる。どうだった? と聞いた吉野に、真人はつい先程の戦闘を思い出して笑った。

 

 「面白いやつだった。いろいろ勉強になったよ。」

 「へえ。」

 

 どんな? とフードのパーカーを下ろしながら男が含笑を浮かべる。それに真人は答えてやった。

 

 「バラバラにすり潰されても魂の形を保てば死にはしない。呪力の消費も自己補完の範疇だ。

 それと、自分の魂の形はどれだけイジってもノーリスクのようだね。

 次は思い切って色々やってみるよ。」

 

 ついでに「服ちょうだい」と求めてみたら「やだ」と胡散臭い笑顔で黙殺された。

 

 「で、相手の呪術師はどうした?」

 「どうかな。一度退くと言ってたけど瓦礫の下かも?」

 「ふぅん、どんなやつだった?」

 「金髪七三面白眼鏡。あ、布巻いた鉈が武器だったよ。」

 「あー、七海か。

 なるほど、そりゃそうなるか。」

 

 「知り合い?」「まあちょっとね」と真人と吉野が笑い会う。

 それを「まあいいや」の一言で終わらせて、真人がニィッと悪辣に笑う。

 

 「で、さ。そろそろ教えてよ、吉野。」

 「ん?」

 「順平だよ順平。

 あれ、()()?」

 「ふ、ふふ、ふふふふふっ!」

 

 腹を抱えた吉野に、真人が「何笑ってんだよ」と頬を膨らませて尋ねる。吉野は目尻の涙を拭いながら「ごめんごめん」と軽く謝る。

 

 「君、もうわかってんじゃないの?」

 「やっぱ、俺の生まれた場所(じっか)の関係?」

 「正解! 花丸あげるぜ。」

 「わーい!」

 

 軽口の応酬。どこか仄暗さを匂わせる会話。ドブ川から漂うヘドロ臭が、血の匂いと肉が腐った甘ったるいような匂いと混ざり合って悪臭を放つ。

 

 「じゃあさぁ、なんであいつの脳みそ非術師のだったの。

 あの実験って呪術師を呪霊にするってやつじゃなかったっけ。」

 「あー、やっぱ弄られてたか。どうりで見つからないわけだよ。」

 「ふぅん?

 まあ、俺が弄ったから今は関係ないけどさ。」

 「そうかいそうかい。 ……ぷ、ぶははははっ!!」

 

 なんでもないように告げた真人に、とうとう吉野はバンバン床を叩き出す。

 

 「そっかそっか、真人は順平の『術式の解放』をやったんだね。」

 「なに、ダメだった?」

 「いいや?

 大正解すぎて笑えてくるってだけ。 」

 

 「残念だったね夏油傑。」と、吉野はそこにいない男を嘲笑う。

 ふぅん。と真人は呟き、わらった。その笑い方は「笑う」という言葉で形容するにはあまりに邪悪で、「嗤う」という言葉を当てるにふさわしい。

 とろりと愉悦でとろけた瞳で、真人がため息をつく。

 

 「俺、楽しみだな。『人間が呪霊に生まれ変わる瞬間』を見るの。」

 「……ダメだよ、真人。」

 

 小さな人影がひょこりと顔を出す。真人はその存在を視界の端に捉えて、「ああ」と興味なさげに吐き捨てる。

 

 「居たんだ(かわる)。」

 

 吉野との会話に水を刺されて、鼻白んだ真人。そんな彼をを見ないふりして、替は続ける。

 

 「呪霊になんてさせない。お兄ちゃんには、呪術師になってもらわないと困るんだ。

 だからお兄ちゃんを刺激して、わざと呪霊化させるようなことはやめてほしーーー」

 

 い、と。言い切った瞬間、替の顔面がコンクリートの地面に叩きつけられる。ごしゃりと、ひどい音が鳴り響き、子供の頭がコンクリートに陥没した。

 替の後頭部を鷲掴んだまま、吉野がにこりと笑う。

 

 「ああ、気にしないでね。『これ』が勝手に言ってるだけだから。」

 「知ってるって。」

 「……突然の暴行はやめてください。」

 「どうせ怪我しないんだからいいじゃん。」

 

 むくりと、無傷で起き上がった少年が静かに告げる。ついでとばかりに投げつけられた瓦礫は、「ビタリ」と空中で止まった。

 

 「それじゃ、コレ渡しておくよ。

 吉野順平の家に放り込んでおいてくれ。」

 「宿儺の指じゃん。」

 「そ、これで呪霊を誘き寄せて、吉野凪を殺す。」

 吉野がそう言い切った瞬間、指を握っていた右手が「メキッ」と力を込めた。

 指をもらおうとしていた真人が「なに、くれないの?」と首を傾げ、吉野は「いいや?」と笑う。

 「替、真人に宿儺の指あげて。」

 「……。」

 「あーげーてー。」

 「……はい。」

 

 不服そうに、子供が小さな声をあげる。真人は首を傾げた。

 

 「いや、それでいいじゃん。」

 「これはちょっと渡せなくなっちゃったんだ。」

 「あっそ。」

 

 どーでもいいや、と替から指を奪った真人が立ち去る。それを最後まで見送って、吉野は浮かべていた薄ら笑いを「すん」と消した。

 真人が立ち去った溝の中で。未だにギリギリと宿儺の指を握る右手を眺めた吉野は「オエッ」と舌を出す。

 

 「はー、キッショ!」

 

 そんな吉野の姿を、替だけが人形のような冷めた瞳で見つめていた。

 

 

■■■

 

 「そんで、そんで!?」

 「そんでね!

 たかしくんが自信満々に『外来種の幼虫だ』っつーから拾ってみたら給食の糸こんにゃくだったんすよ!」

 「ぶははは!!」

 

 順平は、少し遠い目をしてその光景を見ていた。母が、さっき出会ったばかりの虎杖君に盛大にからみ酒をしている光景を。

 

 「糸こん!

 糸こんにゃくだってぇーー!」

 「母さん、飲み過ぎ。」

 

 赤い顔で呂律が回っていない上に、ぐわんぐわん頭が揺れている。下手したらそのまま寝るな、これ。

 絡まれてる虎杖君はニコニコ笑って許してくれてるけど、これは酷い。

 いつもよりハイペースで飲んでる上に二缶目だ。

 酔いででろっと緩んだ顔で、お盆を持ってきて虎杖君に差し出して、「ほら虎杖くん。モノボケモノボケ」と無茶振りする有様。

 

 「(最悪の酔っ払いだ……)」

 

 我が母ながら恥ずかしい。お盆を受け取った虎杖くんが「じゃあ渾身の一発ネタを!」とお盆を持って床に跪く。

 居た堪れなさに水を飲む……

 

 「ウィルソーン!!

 ウィルソーーーン!!!」

 「ぶほっ!!」

 

 吹き出した。

 

 「それ『キャストアウェイ』だろ!!」

 「正解〜!」

 

 げっほげっほと咳き込みながら言えば、虎杖君がすごくいい笑顔で笑って親指を立てる。

 

 「順平ならネタわかると思ったんだよね。」

 「普通知らないって、10年以上前のネタじゃん!」

 「私わかんなーい、映画ネタ?」

 

 現に母さんは分かってないし。虎杖君洋画好きなのかな。

 それからやることなすこと面白くって、目尻に涙を浮かべながら大爆笑した。

 そして、散々絡んだ挙句寝落ちした母さんを最後に夕飯会は終わった。

 

 「母ちゃん、いい人だな。」

 「うん。」

 

 テーブルで爆睡する母さんの背中にブランケットをかけながら、頷く。

 そうだとも、母さんはいい人だ。

 

 『学校? 

 いいんじゃない、行かなくても。

 アンタぐらいの年頃はなんでも重く考えすぎるからね。』

 

 僕が学校に行きたくないと言った時、母はそう言って笑った。

 

 『学校なんて小さな水槽に過ぎないんだよ。海だって他の水槽だってある。好きに選びな。』

 

 引きこもりの息子を肯定して、自由に生きろと笑える母親が世の中にはどれだけいるのだろう。自分はシングルマザーで苦労してるのに。

 わざわざ水族館に連れて行って、「海の生き物だって水槽で環境分けてるんだから、人間だってそれでいいんだよ」なんて言って微笑んでくれる人。

 

 「虎杖君のお母さんはどんな人?」

 「あー、俺会ったことねーんだわ。

 とうちゃんはうーっすら記憶あんだけど。」

 

 「俺にはじいちゃんがいたから」と照れ臭そうに頬を描く虎杖くんは、これ以上ないほど善人に見える。

 

 「虎杖君は呪術師なんだよね?」

 「おう。」

 「人を……殺したことある?」

 

 目を見開いて、虎杖君が少し息をのむ。「ない……。」と首を振る彼に、僕は続け様に疑問を投げかける。

 

 「でもいつか悪い呪術師と戦ったりするよね。その時はどうするの?」

 「……それでも、殺したくはないな。」

 「なんで?」

 

 虎杖くんは、真面目な顔で言葉を連ねる。なんつーか……。」と、言葉を考えながら音にする横顔は真剣で、声音は柔らかいのに言葉は強い。

 

 「一度人を殺したら、「殺す」っていう選択肢が俺の生活に入り込むと思うんだ。

 命の価値が曖昧になって、大切な人の価値までわからなくなるのが、俺は怖い。」

 

 虎杖君の言葉は、なんだろう。心臓が痛くなる言葉なんだ。

 いちいち心隙間を縫って、こじ開けて、深いところに突き刺さっていく。

 窓ガラスに映った僕が、泣きそうな顔でこちらを見ていた。

 

 虎杖君は「じゃあ、そろそろ帰るわ。お邪魔しました!」と言って帰っていった。僕はそれを見送って、それから自室のベットで寝転がる。

 

 【人に心なんてない。】

 

 その考えに救われた。

 ()()()()()()()()()

 でも僕が人を殺すことで、母さんの魂が穢れてしまうなら……

 

 「(僕に人は、殺せない。)」

 

 これは、僕が母へと抱くこの感情は。魂の代謝によるまやかしなんかじゃないと思うから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 ぱち、と。テーブルで目を覚ます。どうやら飲み過ぎて寝落ちてしまったらしい。

 

 「うーん、悠仁くん帰っちゃったかな。」

 

 んー、と伸びをしながらみまわす。もしかしたら順平の部屋にいるかもしれないけど、どうだろう。

 今何時かな、と時計を見ようとして……

 

 「ん、なにコレ。」

 

 テーブルにころりと、変なものが乗っかっている。手に取って確認してみて、首を傾げた。謎の既視感。

 

 「……指?」

 

 拾いあげて、まじまじと見る。なんでだろう、私、コレ知ってる気がする。

 

 『凪さん、この指を見つけたらね……』

 

 ざざっと。砂嵐がかかったような朧げな記憶が、私を呼んでいる。

 山の、森の匂い。ネギ。

 取り止めのない記憶がポロポロと断片的に蘇る。思い出の波。

 

 「どこだっけな……?」

 

 唸る。悩む。思い出そうとする。誰かに見せてもらったんだった。どこでだっけ、忘れた。

 

 

 『なにがなんでも、逃げるんだよ。』

 

 

 「あ、」

 

 そして、背後に妙な気配を感じて振り返る。不気味なバケモノが、口を開けてそこにいた。




*ご安心ください、生きてます(誰とは言いませんが)

次回番外編・『あなたと同じ水槽で生きたい』
凪さんとパパの馴れ初めです。
私の当初の想定よりも凪さんの人気があったので皆さんの需要に添えていたら幸いです。
今のところ、番外編ネタが何個かあって、

・吉野公平がいない世界との交流(つまりは原作トリップ)
・脳がいない幸せな世界(誰かの夢オチになるかもしれない)
・2部のメンツがタイムスリップ的に1部軸に行く

みたいなのが頭の中にあります。まああるだけなんですが
番外編リクエストとかあったから活動報告のコメ欄に送ってください
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=257908&uid=246858

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