「僕の愛の為に死ね。」   作:蔵之助

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これは順平物語が始まるために必要なことなんです。断じて愉悦じゃありません。みなさん、俺を信じてください!
これはあくまで!!王道救済物語なんです!!
一部にだって希望()はあったじゃないですか!!
どうか二部の希望も信じてください!!!





人間の美徳とは無関心です①

 

 

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 2018年、9月。神奈川県川崎市。

  里桜高校での事件後、吉野順平の自宅から実母・吉野凪の血痕と剥き出しの宿儺の指「副左腕小指)が見つかる。

 吉野凪の遺体は見つからず、血痕からは1000cc程度の血液が流れたと推測できる。

 現場には呪霊の残穢が残存しており、これにより当事件を呪霊による被害だと結論づけた……。

 

 

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 「闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊祓え。」

 

 どどど、と黒いインクのようなものがドーム状に広がる。それを眺めながら「おー、できたできた」と真人が笑った。

 

 「悪いね真人。僕の残穢を残すわけにはいかないからさ。

 で、帳の効果は?」

 「・内からは出られない。

 ・僕の外からは入れる。

 あくまで呪力の弱い人間は、だけど。」

 「ん、十分だね。

 住宅地での事前告知のない帳……すぐに“窓”が通報するだろうさ。

 真人が考えている絵図が描けるといいね。」

 「大丈夫じゃないかな。

 順平が宿儺の器を引き当てた時点で流れはできてるんだ。」

 

 薄ら笑いを浮かべ、真人は立ち尽くす。

 

 「二人をぶつけて、虎杖悠仁に宿儺優位の“縛り”を科す。

 あと、順平の中に寝ているやつを起こすんだっけ。」

 「そうそう。後半ちょー重要ね。

 ……あーあ、漏瑚も君くらい冷静だと助かるんだけどなぁ。」

 「あれはあれで素直で可愛いじゃない。

 それよりよかったの?」

 「んー?」

 「指、回収しないでさ。

 貴重な呪物なんだろ?」

 「ああ、それね。」

 

 吉野が「けひっ」と引き笑う。企み事をしている、いやらしい表情で。

 

 「いいんだよ。あれは高専に回収させるのが目的だからさ。少年院のは虎杖悠仁に取り込まれちゃったからね。」

 「悪巧み?」

 「そゆこと。それじゃ、僕はお暇させてもらうよ。夏油傑の足止めもこれ以上は無理そうだし。」

 「えー、吉野も見ていけばいいのに。きっと楽しいよ。」

 

 ひらりと身を翻した吉野の背中に声をかけて、真人はうすら笑う。

 はるか数十メートル先。学校の中にいる【オモチャ】を見つけて、目を細める。

 

 「愚かな子供(ガキ)が死ぬところは。」

 

 つぎはぎだらけの顔を愉悦に染めて、真人は楽しそうに嗤った。

 

 ■■■

 

 黒い服は持ってなかったから、母のクローゼットを開けて初めに目についたものを羽織った。

 嗅ぎ慣れた朝の空気も、見慣れた通学路も。今日は違って見えた。

 思い出すのは昨晩のこと。足だけになって消えた母。足を食べている呪霊。机の上には人間の指みたいなのが置いてあって、今まで感じたことのない非日常に泣き喚いた。

 澱月で呪霊を溶かして殺した。残った母の足を抱えながらわんわん泣いてたら、真人さんが家にやってきて、「なんてことだ」と口を押さえる。

 テーブルの上の指を持って、「一度落ち着こうか、順平」と声をかけて、僕を僕の部屋まで連れて行く。

 

 「これは呪いを呼び寄せる呪物なんだ。」

 

 真人さんの手のなかにある指が、おどろおどろしく見えた。

 

 「なんでっ、そんなものが家に……!!」

 「人を呪うことで金を稼いでいる呪詛師は多い。そう言う連中の仕業だろう。」

 

 真人さんの声がふわふわと、どこか遠くから聞こえてるような気がして、縋り付く。そこに確かにいるのだと確かめたかった。

 

 「コネと金さえあれば人なんて簡単に呪い殺せるんだよ。

 心当たりはないかい? 君や母親を恨んでいる人間。

 ーーーーもしくは。」

 

 校門の前。嫌な思い出ばかりの校舎を睨む。

 

 『金と暇を持て余した薄暗い人間に。』

 

 ああ、心当たりありますよ真人さん。だからそいつを殺すことにします。

 学校に到着した。学校集会で全校生徒が体育館に集まっていた。

 後ろから体育館に入った。誰も僕に気が付かない。気付こうとしない。

 

 《表彰状。

 全国読書感想文コンクール最優秀作品賞、伊藤翔太。》

 

 金と暇を持て余したクズが、舞台に立っている。もう僕の代わりを見つけたみたいで、舞台袖に陰気な生徒が怯えていた。

 ああ、やっぱりあいつは変わらない。

 

 「……やれ、澱月。」

 

 どぷん、と。膨張したクラゲが体育館を飲み込んだ。面白いくらいバタバタと人が倒れていく。

 澱月に飲み込まれ、捕らえられた奴から順に、死ぬように眠っていく。

 澱月が大気中に吐き出した「高濃度の毒」は、人を選んで侵食していく。毒に侵すものと侵さないもの。

 前者はその他大勢。後者は……

 

 「おい!!

 どうしたオマエら!!」

 

 しっかりしろ、大丈夫か、と。豚が騒いでいる。うるさい。僕は無関係な人は殺さない。

 

 「死にはしないよ。」

 

 僕がいるのに気づいて、豚が目を見開く。信じられないと言いたげなその目が腹ただしい。僕が学校(ここ)にいるのが信じられないと言いたげに。

 一体、僕をなんだと思ってるのだろう。

 

 「■■■(吉野)……■■■(なんで)■■(いや)……。

 ■■■■■■■(知っているのか)■■■■■■■■■(何が起こっているか)……?」

 

 言葉は理解できないけれど、戸惑っているのはわかる。

 

 「先生。」

 

 一言。これ以上は正直話したくない。でも、今からやることを忘れさせないために言葉を連ねる。額に手を添える。前髪をするりと持ち上げて、ずっと隠していた「恥」を晒した。

 

 「ちゃんと見ててね。」

 

 額に残る、タバコの痕。知っているくせにひゅっとわざとらしく息を飲んで、何か言っていた。

 

■■■(オマエ)■■■(その傷)!! ■■(それ)……!!」

 「これまでのことも、これからのことも……。」

 

 目を逸らすことなんて、僕は許さない。全部見て、生き証人となれ。

 

 生徒(ぼく)が、生徒(伊藤)を殺す瞬間を。

 

 「聞きたいことがある。

 アレを家に置いたの、オマエか?」

 「……?

 なんの話?」

 

 「吉野…」と壇上から僕を見下ろしたゴミが、素知らぬ顔で(とぼ)ける。これでは話にならない。

 澱月の触手を伸ばして、毒針を腕に刺した。ドチュッと肉が破ける音。腕に空いた小さな穴。

 腕からじくじくと痣が全身に広がる呪毒。痛みと恐怖で顔を歪めた豚が唾を撒き散らしながら叫んでいた。

 

 「なんだよ! 何したテメェ!!」

 「なってないな。」

 

 ドーピングによる身体能力が向上のさせる。顔面を殴るだけで、伊藤は簡単に吹き飛んだ。

 僕の術式は応用が効く。だから、こんなことも楽勝だ。

 

 「まだ自分が質問を質問で返せる立場だと思っているのか。」

 

 おもちゃみたいに「ぽーん」と人間転がる様を見ても、なにも思わなかった。心は1ミリも揺れ動かない。

 

 「オマエは死ぬんだよ。質問の答えがイエスでもノーでも。だって僕にお前の嘘を見抜く術はないし、そうされるだけのことをオマエはしてきたからね。」

 

 腹を蹴り付けて、踏みつける。過去に自分がそうされたように、何度も何度も何度も。

 

 「最期くらい誠意を見せてくれ。」

 

 澱月の触手に絞められ、持ち上がる肉体。

 血反吐を吐きながらみっともなく涙を流して……

 

 「ごめんなっ、さい…!!」

 「で?」

 

 ここまでしても、僕の心は凪いでいる。いっそ清々しいほど、無風だ。

 

 「だから?」

 「なにしてんだよ、順平!!」

 

 だん!!と。体育館の扉を勢いよく開けた虎杖君が叫ぶ。ほんの少し、風が吹いた。僕は冷めた心地でそれを眺めた。

 

 「引っ込んでろよ、呪術師。」

 

 だって、全てはまやかしだ。

 




*次回も引き続き逆罰回ですが順平の結末は希望に満ちているはずです。最近のブラックファンタジー的な覚醒回があるだけです。
*次の次ぐらいにちゃんと凪さん回挟むので今話と次話は勘弁してください(by.作者)







p.s.
アンケートの結果、①ルートに投入が決定しました。

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