・術式発覚して二、三日なのに術式使うのが上手い順平
・替くんのセリフ「お兄ちゃんは僕の希望」
・人造呪霊はなぜ必要?
・吉野パパの本気(一部夏油の「背後霊でも〜」)
・凪さんの生死
・順平の頭痛と失われた記憶
・キャラシートに最初から領域展開が記載されてる
・一般家庭出身は基本的に「吉野塾」上がり
「澱月!!」
巨大なクラゲが触手を伸ばす。僕は虎杖君を殺したいわけじゃない。せめて終わるまでの間寝ていてくれ、と願いながら呪力を眠り毒に変えた。
「もう一度言う、引っ込んでろよ呪術師!!
関係ないだろ!!」
「それはオマエが!! 決めることじゃねぇ!!」
「無闇な救済になんの意味があるんだ!!」
拳に呪力を纏わせた虎杖君に対抗するように、片手で印を組む。さっきから、鈍い頭痛が波のように押しては引いてを繰り返す。
わかない。さっきから、よくわからない情景がフラッシュバックしている。
大きな鳥居、長い階段。抜けた先にある寺のような建物。
「命の価値を穿き違えるな!!」
澱月の触手の檻に封じ込め、無力化。これで彼は「詰み」だろう。
澱月の触手に囚われるということは、僕の毒を受けるということ。
僕の澱月の毒は「僕のイメージ」通りのものになる。僕が「そう言う毒」だと思ったら「そうなる」、それが僕の呪い。
解毒の方法はない。というか、検証してないからまだわからない。
けど、多分……解毒剤は僕の血液なのだと思う。
「霊長ぶってる人間の感情……心は!!
全て魂の代謝、まやかしだ!!
まやかしで作ったルールで僕を縛るな!!」
食堂。銀髪。変な前髪。タバコの匂い。ネギと、親子丼。サングラス。
土の匂い、枯葉の香り、大きな手のひら。苦しい抱擁。
激しい頭痛に頭を押さえる。ドクンドクンという血液の脈動。
ひとつ脈打つごとに、一つの情景が強烈に甦る。
『愛は、無敵の呪いだよ。』
ーーーーオマエは、誰だ。
「奪える命を奪うことを止める権利は誰にもない。
そこで寝ててよ、僕は戻ってやることがある。」
雨の匂い。泣き声。水族館。
腐った卵のような、嫌な匂い。怖いと泣いた僕を慰めたのは……
「誰に言い訳してんだよ。」
背後から伸びてきた手に襟首を掴まれて、窓に叩きつけられる。ガラスが割れて、四階の窓から外へ放り出された。
「(なんで、何が起こった…!?)」
4階の廊下から身を乗り出して、虎杖君が僕を見下ろしている。
「(なんで、澱月の毒が効かない……!?)」
効かなかった? そんなはずない。僕の毒は「絶対」だ。じゃあ、最初から毒を注射できなかったのか?
でも確かに、毒針は彼を刺した。
「来い、澱月!!」
澱月を召喚して、駐輪場の屋根の上に降りる。転がり、体勢を立て直す。なぜ虎杖君に毒が効かなかったのかわからない。
でも、効かないならさらに濃度を上げるまで!
「(なんで邪魔をする。
なんで!)」
窓を見上げた。睨みつけた。虎杖君が窓枠に足をかけて、飛び降りた。
「(なんで!!!)」
一瞬浮かんだ、母さんの顔。死体すら残らなかった。残った足も全部食われた。ただ、血だけが残るリビング。未だに生きてるんじゃないかと期待する。
ーーーそんな、僕の心だってまやかしなのに。
「(なんで!!)」
澱月を背後に呼び寄せる。空中、身動きが取れない。
やるか? 否だ。
潰すなら……着地寸前!!
澱月の触手をけしかける、その直前。
虎杖君の手に呪力が集まり地面、否、ベニヤ屋根を殴りつけた。
叩きつけられた拳でベニヤの屋根を大きく揺れて、姿勢が崩れる。
「順平が何言ってんだか、ひとっつも分かんねえ。」
足元に意識がそれた一瞬。明確な隙。
虎杖君が、懐に入り込んでいた。距離を詰めて拳を引いて……
「それらしい理屈こねたって、お前はただ
自分が正しいって思いたいだけだろ!」
突如、順平の脳裏に蘇った
顔のわからない男が、チンピラっぽい二人をボコボコにのして僕の頭を撫でている状況がよくわからない光景。
低い視界、背の高い大人に僕は囲まれていた。母がネギを振りまわし、何かに気づいて、そして。
……母さんが、とても幸せそうに笑うんだ。
「(誰だよ、誰だ!なんなんだよさっきから!
誰なんだよオマエ、オマエは僕の何なんだ!)」
頭が痛い、痛い。割れるように痛い。
頭を抱えたその瞬間、腹を殴られ、2階の窓に叩きつけられた。
割れるガラス。殴り飛ばされた僕は、ガラスを突き破って廊下に転がっていた。
「順平の動機は知らん、何か理由があるんだろ。
でもそれは本当にあの生活を捨ててまでのことなのか?」
しっかりとした足音が、順平の前で止まった。
「人の心がまやかしなんて、あの人の前で言えんのかよ!!」
座り込んだままの僕の胸ぐらを掴んで、虎杖君が叫ぶ。それでも、僕は言わなければならない。言い張らないといけない。
「人に心なんてない。」
「お前、まだ……」
「ないんだよ!!」
鼻の奥がツンと痛んで、目頭に熱が集まる。込み上げてくるものを堪えて、唇を噛んで。
「そうでなきゃ、そうでなくちゃ……。」
死体すら残らなかった。足と血だけしか残らなかった。そんな、そんな死に様が、誰かに、呪詛師に呪われたんじゃないなら……
「母さんも僕も、人の心に呪われたって言うのか?」
そんなの、あんまりじゃないか。
心の声が、唇から溢れていく。もう、何が正しくて何が間違っているのかもわからない。
僕にできるのはただ、呪うことだけ。
澱月に虎杖君を攻撃させた。勝ち筋なんて見えてないのに、無鉄砲に。単調な攻撃は戦略も何もなかった。
「なんで、避けないんだよ……っ!」
歯を食いしばって、血を流して。虎杖君に澱月の毒針が刺さる。
「ごめん。」
なんで、
「何も知らないのに偉そうなこと言った。」
だから、君がそんな泣きそうな顔して、謝らなくていいんだよ。歩み寄らないで。心の隙間をこじ開けないで。
「何があったのか、話してくれ。」
僕はもう、誰かを好きになりたくないんだ。「好き」と言う脳みその錯覚に、魂の代謝に、振り回されたくないんだ。
愛したくないんだ。愛してしまったら、失った時どれだけ心臓が苦しくて、痛いのか、身をもって実感したばかりなんだ。
僕は、無関心でいいんだ。無関心でいたいんだ。いさせてくれよ。
「俺はもう、絶対に順平を呪ったりしない。」
無関心が、反転した。好きになってしまう。
君と言う人間に、救いを見出してしまいそうになる。
どうしようもないこの感情に、友情と名付けて依存してしまいたくて、縋りたい。泣きたい、吐き出したい。
そんな感情は、涙と一緒に言葉になって、濁流として心の内側から身の外側に止めとなく溢れていく。
「そんな……母ちゃんが……」
そんなに親身にならなくていいんだ、ならないで欲しい。僕は他人に見切りをつけたい、それなのに。
君があんまりにも悲しく呟くから、僕も苦しくなって泣く。
緩くなった感情の蓋。唇から滑り落ちる僕の弱さ。
「順平、高専に来いよ。
バカみてぇに強い先生とか、頼りになる仲間がいっぱいいるんだ。
みんなで協力すれば、順平の母ちゃんを呪ったやつもきっと見つかる。」
居場所を失って、やけになっているなんて。そんな軽い言葉で僕の行動は言い表せてしまう。客観的な僕は、自分の行動についてとっくの昔にそんな判断を下していた。
だから、こんなにも自暴自棄になって暴れて、泣いて、泣いて。
罪に塗れて、何もかも終わらせてしまいたい。
ーーーーそれでも。
「必ず報いを受けさせてやる。」
新たな居場所を作るとするならば。
「一緒に戦おう。」
「……うんっ」
僕は、君の隣を居場所にしたいよ、
「順平くん!!」
そんな僕と悠仁の世界の中に、知らない声が割り込んだ。