「明日を呪う人間不審者は、明日を夢見る人間信者に」ってフレーズ大好き。まさに順平ってかんじ。
吉野公平は「愛にできることはまだあるかい」
これに尽きる。
替くんは「だから僕は不幸に縋っていました。」
とても不幸な替くん。その出生すら不幸にみちているショタ…
君の現在は変えないけど、幸福な結末を夢見て反逆して、人生変えて見せようね。
「順平くん!」
血塗れの男が髪を振り乱して名前を呼んでいた。「間に合った……っ」と安堵するその人に、見覚えはない。
「誰だよ。」
「夏油先生!?
どうしてここに……!」
「なんで虎杖が生きてるのかは今はいい。どうせ悟の仕業だろう。
今は、順平くんだ。」
血がベッタリと付着した顔。ボサボサの長い髪に大量の血が付着して、固まってる。無理やり掻き上げたみたいなオールバックのワックス代わりに血を使ってるの? というのが順平の感想だ。
高そうな袈裟はどす黒く変色していて、長い髪と相俟ってまるで破戒僧。
そんなやばい男の前に悠仁が立って、ばっと両手を広げた。
「先生、順平は悪いやつじゃないんだ!」
「ああ、知ってるよ。」
「だよねぇ。」
4つ目の声。一斉に振り返り、踊り場を見つめた。
ゆったりと階段を降りてくる、つぎはぎの男。順平の恩人にして教師のような人。
「はじめましてだね、宿儺の器。それと、夏油傑。」
ぼこぼこと真人の左腕が膨張し、二又に別れる。なにをするつもりかわかって、声を張り上げる。
「待って真人さん!!」
間髪入れずに悠仁と夏油と呼ばれた男へ襲いかかった腕。
ものすごい勢いで窓ガラスに押さえつけられた悠仁が「逃げろ、順平!」と叫んだ。
「よくもまあ余計なことをしてくれたね、呪霊。」
腕から逃れていたらしい長髪の男が、僕と真人さんの間に立つ。真人さんをギロリと睨みつけて、男が腕を突き出す。
「随分過保護じゃないか、順平の知り合いだったりする?」
「ああ、とても
鋭い眼光、釣り上がった眉、そして盛大な舌打ち。
知っているという割には、僕の記憶には一切存在しない男が放つプレッシャーに思わず震えた。
「本当に、術式を自覚せずに一生非術師として生きて欲しかったよ。」
「あは、やっぱあんたが封印したんだ。順平の
「……え?」
予想だにしない発言に、緊迫した状況だというのに一瞬
「(僕の術式を封印した?)」
それって、どういうことだ。僕は、脳が非術師だったから術式が使えなかったんじゃないのか?
だから真人さんに脳を弄ってもらって、術式を発現したはずだ。
当事者の僕の困惑なんて知ったことかと状況は進展し続ける。真人さんと夏油とか言う人は喋り続け、内容は衝撃の結末へ移行していく。
「でも残念、順平はもう呪術師だ。」
「まだ封印は解けきってない。かけなおせばいい話だ。
お前を祓った後にでも、ゆっくりと。」
「なんでわざわざそんな事すんの?」
真人さんが「ニィ」と笑った。目元も、唇も、三日月型に歪めて、答えられない夏油を嘲笑う。
「いいよ、答えを言ってあげる。
「「……は?」」
「そうだろ?」と。夏油の返事なんて求めてないくせに、真人さんは尋ねた。
その解答は
未だ壁に押し付けられたままの悠仁が「信じられない」と言いたげに僕を見下ろしていた。僕だって、そうだ。
「(僕の中に、呪霊?)」
母さんを殺した奴らと一緒?
うそだ、そんなことはない。僕は今まで生きてきて「そう」だと思ったことはないし、それらしいこともなかった。
何より僕は人間だ。人間の母さんから生まれて、人間として生きてきた。
そう、
「順平って面白いよね。人間でも呪霊でもない。何から何まで中途半端なんだ。
魂がふたつに分裂してるし、片方は鎖で雁字搦め。
よく見てみれば、呪霊じゃないか!」
ゲラゲラ笑って、可笑しそうに片手で口を覆って。真人が全てを嘲笑う。
「宿儺みたいに受肉してるのかとも思ったんだけど、そうじゃない。呪霊でも呪物でも、人間でもない。
本当、めちゃくちゃで不完全で、面白い。」
「真人さん、それってどういう……」
言葉は、不自然に途絶えた。
「なあ、言っただろう順平。
君は、もっと自由になるべきなんだよ。魂の赴くままに生きるべきなんだ。」
「……呪霊として生きろと、そういう事ですか?」
にこりと、真人は笑う。そうだよ、なんて微笑んで。
残酷な真相に僕は「ひっ」と息を呑む。
ずっと、真人さんは悪い人じゃないと思っていた。僕を救ってくれたから。
でもそれこそがまやかしで、そもそも真人さんは、最初から……
「可哀想に、人間だって思い込まされてさ。
でももう、わかっただろ?
「(人じゃ、ない。)」
最初から言っていた。この人は、呪霊だ。
「黙れ……!!」
振り絞るように出された夏油の声。怒気が膨れ上がり……
「はは、でも残念。もう遅いよ。」
怒りが形になる前に、不意打ちでやられた奇襲。普段の夏油傑ならば決して犯さなかったミス。
吉野家に接近する呪霊の影を確認してから今日で丸二日。その間休みなく行われた呪霊の祓除。何度要請しても辿り着かない救援。呪霊の中に混ざる改造人間の数々。
夏油傑を足止めし、疲労を蓄積させるためであろう襲撃の数々。
ちらちらと見え隠れする保守派の影と、自分の怨敵。
「ーーーーじゃあね、順平。生まれ変わったらまた会おう。」
順平の体に、真人が触れた。
【無為転変】
その術式を見た瞬間、夏油はその呪霊の
ーーー順平の魂の形が変わる。魂の楔が、外される。
「あ……れ?」
突如順平の脳内に溢れ出したのは、7歳以前の記憶。
父の記憶。母の記憶。家族三人で暮らしていた頃のーーーー!!!
「う、わぁぁぁぁぁあ!!」
「やめろ、順平くん! 思い出すな! 忘れろ!
全部忘れて閉じ込めろ!」
「あーそういうことか。“忘れる”ことがトリガーだったんだ。
じゃあ残念。もう無駄だよ。」
完全に目覚め始めたからね、と真人が邪悪に笑う。
それどころじゃなかった。ぐるぐると脳が回転している。頭蓋骨の内側で小人が暴れまわっているような衝撃と激痛。記憶の濁流。
父に対する人質のために呪詛師に狙われた記憶。
父が信頼する術師に保護してもらうからと恩師という人に僕らを預けた瞬間。
別れの際の涙。父の嘆き。
実験場。研究者。呪霊の餌にされる子供達。毎日人が死んでいく。
悲鳴。嘆声。断末魔。
そして、そしてそしてそしてーーー!!!
「あ、あああああああっ!!!」
ぐにゃりと。順平の体がかわる。体積が膨張していき、毒の涙を流す。呪霊が、産声の代わりに慟哭をあげる。
ーーーー差別的に人を殺害した最悪の呪詛師。その男の能力を忠実に再現させた「クソども」の力作。産まれることも許さず、眠らせたはずの兵器。最低で最悪の大災害。人間の罪の集大成。
【特級人造怨霊】が、目を覚ました。