「僕の愛の為に死ね。」   作:蔵之助

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お待たせしました、 久しぶりの投稿です!!
今回は端的にいうと、【おれのかんがえたさいきょうのじゅつしき】の設定披露回です。



たとえ無茶でもやるんです②

 「でも、同じ術式を持った呪霊相手をどうやって倒せばいいんでしょうか。」

 「ふふ、簡単だよ。

 技術(テクニック)で上回る、たったそれだけさ。」

 

 あっさりと告げられた解決法は、とても簡単なものじゃなかった。さらりと聞き流しそうになるが、テクニックで上回るとか言わなかったかこの人?

 困惑する僕に、夏油は愉快に笑う。

 

 「断言しよう。吉野公平ならば君の中にある()()()()()()()()、片手間で祓除できたよ。

 一級以下なら術式を使うまでもなかった。」

 「そんなに、お父さんは強かったんですか。」

 「強かったよ。」

 

 一級以下、という基準がどれほどすごいのかはまだ僕にはわからない。だがきっと、それはすごい事なのだろう。

 

 「彼も私や悟と同じく特級呪術師。並外れた実力を持つと認められたが故に与えられる称号だ。

 安心しな順平くん。私は()()()()()()先輩の戦闘スタイルは知り尽くしていてね。

 君の術式についていくつかアドバイスができる。同じ高みに君を導くさ。」

 

 夏油の瞳に映るのは多分僕じゃない。真っ黒な糸目は、僕を通して父さんを見ているのだろう。

 でもそんな懐古の色も瞬きひとつで隠される。胸元に一本、指を立てる。続けて二本、三本と数を増やす。

 

 「呪毒操術は汎用性が高い術式だ。

 基本となるのが式神の使役。種類は三つ。

 

 ① 毒の霧を大気中に散布して体の内側から腐らせる式神の『蜃』

 ② 肉体そのものが毒の塊で体の外側から攻撃する式神の『氷月』

 ③ 物理攻撃や空中戦を可能にするだけではなく、形態変化により武器化する式神、『織姫』

 君の澱月は②の氷月と同じ役割だろう。」

 

 夏油による呪毒操術の術式開示。解説される術式の本質。

 極論を言えば、弱点知らずのオールマイティーな万能型。僕が父から受け継いだたった二代の相伝術式。

 

 「式神の武器化って、そんなこと可能なんですか?」

 「可能だよ、鉱物毒を利用するんだ。

 吉野先輩は硫砒鉄鉱の刀身の刀を使っていたかな。」

 「なるほど……。」

 

 ーーーそうか、鉱物毒か。盲点だった。

 それなら武器化して運用することもできるだろう。

 納得と同時に、考える。

 

 『式神の武器化』

 

 奇抜で巧妙な術式だが、それやるには優れた技術が必要になるだろう。

 呪霊の調伏の鍵となるのが技術(テクニック)という夏油の言葉に納得した。

 しかし体術の訓練を今から積むとして、短期間の付け焼き刃でどこまで通用するだろうか。

 

 「それから……」

 「え、まだあるんですか?」

 「こんなの序の口だよ。」

 

 夏油は4本目の指を立てる。続けて5本目。手のひらを広げてから、「6」と親指を折りたたむ。

 

 「④で肉体のドーピング。

 強制的に興奮状態にさせることで、肉体の枷を外す。身体能力を爆発的に向上させる代わりに視野狭窄になる。

 多分、これは術式反転を応用していたのかもしれない。

 

 ⑤が拡張術式。

 先輩の拡張術式は()()()()

 【毒を以て毒を攻む】という諺をもとに行われる、【自分の式神(どく)を捕食した呪霊(どく)も己の毒と認識する】と言った術式の応用。大量殲滅に向いている。

 

 ⑥は術式反転。毒を薬に変える。

 

 たった一つの術式でここまで多くのことが出来る。シンプルでわかりやすいからこそ、応用の幅も広い。

 自由度は加茂家の赤血操術に並ぶ……いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。

 極めれば他人に対する反転術を使える可能性だってある。現に、吉野先輩は高専襲撃事件の際に反転術式を使っていた。」

 

 反転術式という耳慣れない言葉に首を傾げる。

 夏油がふむ、と視線を斜め上に向けて、顎に拳を当てて考えるポーズをする。

 「まあ、簡単に言えばゲームの回復技だね」と考え込んでいた割にはさらりと流した夏油が、脱線した話を無理やり元に戻した。

 

 「呪毒操術の最大の利点は『これらの呪毒の解毒方法は基本的に術師本人の血液でしか行えない。』ということだ。

 解毒手段のない呪毒は対術師戦でも高いアドバンテージが取れる。」

 「すごい……。」

 「まあ、だからこそ君は体術を磨く必要があるのだけどね。せっかく相手を毒で侵しても、接近戦で負けたら全部パァだ。」

 

 戯けるように肩をすくめる。暗に「お前はもやしだ」と言われて、今までのインドア生活を思い出して視線をさっと床に落とした。

 

 「顔をあげな。体術もおいおい私が仕込んでやるから。」

 

 肩を叩かれる。顔を起こす。

 「強くなれるでしょうか」と尋ねた。夏油の唇がゆるりと弧を描く。目元が狐のように細まって、短く漏れ出る息。

 真剣に聞いているというのに笑われたことが癪に触って、こめかみに血管が浮かぶ。

 一拍。一呼吸分の間隔を置いてから、パチン。

 

 「それが私の仕事だ。」

 

 指を鳴らして、ウインクを一つ。ギザったらしい態度が大変胡散臭く、しかしながら一級品の顔面力でゴリ押ししたポーズはそれなりに似合っている。

 明らかに己の容姿に自信を持つ男のする行動だ。実際にやる奴なんて、僕は海外映画の俳優以外に見たことがない。

 

 「と、いうことで順平くん。君には一週間、ひたすら呪力操作の技術をあげてもらう。」

 「……呪力の操作、ですか?」

 「ああ。」

 

 まあ、なんと言うことか。切り替えが早いと言うか。

 突然に話が切り替わるから、一瞬タイミングが遅れて間抜け面を晒してしまう。

 うざったらしい気取った態度から一変、真面目な教師面に変わり身を遂げた夏油がつらつらと言葉を連ねる。

 

 「呪毒操術という術式は呪力の緻密な操作を行うことで初めて真価を発揮する。

 実際、吉野先輩は気持ち悪いほど精密に呪力の制御をしていたさ。

 君が今すべきことは術式の応用でも必殺の技の開発でもなく、地味で冴えない技術の積み重ね。術の理解は実際に先輩が戦っているところを見れば勝手に身につく。

 納得した?」

 「はい、とても。」

 

 必殺技一つで急に強くなるなんて漫画じゃあるまいし、夏油の理論には納得だ。甘い言葉で騙されて痛い目を見たことがあるから、余計に。

 

 「でも、実際に戦っているところって……父さんは死んでるのにどうやって?」

 「ここは高専だよ、順平くん。」

 

 質問の答えになっているんだかなっていないんだか、よくわからない解答。夏油が芋虫のような呪霊を呼び出し、それがゲプッと分厚いファイルを吐き出した。一つ、二つ、三つと山になっていく紙媒体。

 この時代ではとんと見かけなくなったビデオテープ。

 「これは?」と聞いたら、意味深な笑みが帰ってきた。

 

 「呪術師は任務終了後、討伐記録として報告書の提示が義務付けられている。

 紙面での報告になるけれど、使用した術式や詳しい状況が記載されている。

 そして姉妹校交流会に限り、呪具を用いて撮影した戦闘記録が動画として残される。

 先輩が高専生として出場した5年分の記録がらここにはある。

 参考資料にはもってこいじゃない?」

 「それ、僕が勝手に見てもいいやつですか?」

 「バレなきゃ無実さ。」

 「犯罪者の考え方ですよ、それ。」

 「ふふ、君のお父さん直伝だ。」

 「何言ってんだよ父さん……。」

 

 夏油の返しに思わず頭を押さえてため息をついた。

 まったく、我が父ながら頭が痛い。

 


 

 

 「で、はい。」

 

 ぽん、と手渡されたものを思わず両手で受け取る。もふっとした質感と、そこそこの重量。

 まじまじと【それ】を見つめて、首を傾げる。

 

 「なにこれ、ぬいぐるみ……?」

 「そ、悠仁から借りて(パクって)きた。

 (まあ、もともとは悟が夜蛾からパクってきて、さらに虎杖が借りパクしたやつをさらに私がパクったんだけど。)

 名前はツカモトくんらしい。」

 「はあ……。」

 

 名前ついてんのかよ。しかも絶妙にダサい。つーか人名。

 

 「(というか、悠仁ってこういうの好きなの? なんか意外だ。)」

 

 悠仁の意外な一面を知れたことにちょっと嬉しくなりながら、掲げるように持ち上げる。

 ……うーん。僕にはブサイクな人形にしか見えないけど、どこが気に入ったんだろう? ブサかわ系とか言うやつ? 

 いや、可愛くないな。オッサンみたいないびきかいてるし。クレーンゲームの景品押し付けられたとかそういうオチだったりする? いらないやつ。

 悠仁はお人好しだから、そういうの拒否しなさそう。

 ぼそぼそ独りごちる僕。夏油の唇がうっすらと、愉悦に歪む。

 

 「あ、そうそう」

 

 その声につられて視線をずらした、その瞬間___人形がブレた。

 

 「は……ぶふぉ!?」

 

 顎に強力な痛みを感じで、浮き上がる。跳ね上がり、地面に無様に落下する我が身。ボクサー並みのアッパーカット。なんだこいつ!?

第二波とも言えるぬいぐるみの暴行から逃げるために式神を出して応戦。

 1秒たらずで行われた超速の攻防戦。攻防の割合は8:2ぐらい。もはや一方的な暴力で、攻撃封じが精一杯。

 

 「そいつ、一定量の呪力を流し続けないと殴ってくるんだ。

 それに呪力流しながら、吉野先輩の資料読み漁りな……と、少し言うのが遅かったね。」

 「早く言ってくれません!?」

 

 まあいいか、と興味をなくしたようにあくびをする夏油に血管がいくつか切れそうだ。

 ぎぎぎ、とさっぱり可愛くない人形が澱月の拘束を突破しようと動いてる。手足を使って人形を羽交締めにする。

 必死に呪力を流すのをイメージして、実際に流してみて、ようやく人形は動きを止めた。

 大人しくなった人形にほっとしつつ、ふさがった両手に「ん?」と眉間に皺を寄せる。

 

 「でも、これ持ちながら資料読むってどうやれば……?」

 「ははは、何あまっちょろいこと言ってるんだ順平くん。」

 

 笑い声がやむ。すん、と冷えた視線と薄ら笑い。

 

 「手が使えないなら足でやれ。以上。」

 

 ふざけんなクソ教師。

 

 「足で紙をめくれと!?」

 「そっちじゃない。足で呪力を流せって言ってんの。

 手より足の方が難易度は高めだし、君にはちょうどいいだろう?」

 「は?」

 

 足で流せるようになれば手も出来る。コレぐらい少し考えればわかるだろ? などと、ふざけたことを()かして胡散臭く微笑む夏油。思わず頬が痙攣した。

 

 「無茶苦茶だ……。」

 「無茶しないと君が守りたいものも守れないけど、いいの?

 君の愛はそんなものかい?」

 「‼︎」

 

 守りたいものが守れない。母さんと悠仁の顔が思い浮かぶ。

 それだけで、あっさりと闘志は膨れ上がる。

 僕は単純なのかもしれない。だけれどそれ以上に、夏油が僕の動かし方を熟知しているのが気色悪い。赤の他人のくせに。

 行動哲学から掲げる倫理まで。いっそ気持ち悪いほど、僕という人間を知っている。

 

 「(一から十まで、全部手のひらで転がされてる。)」

 

 腹立たしい。ムカつく。ふつふつと腹の底から不快感が迫り上がってきて、嘔吐きそうになる。

 気に食わない。それでも、僕はこの男に学び乞わねばならない。

 僕に残された道は他にない。僕の目の前にあるのは、夏油が作った茨道だけ。楽な道なんてありっこない。

 

 「(歩かないとダメだ。)」

 

 泥に塗れようが、傷だらけになろうが、死にかけようが。その果てにしか僕の幸福がないと言うのなら。

 

  「夏油先生、父さんの報告書全部ください。あと、映像資料も5年分。」

 「ご自由にどうぞ。」

 

 夏油が手のひらを広げた。

 テーブルに山積みの資料。木が遠くなるような細かい文字と、手書きゆえに癖が強い十人十色の手書き文字。

 「報告書」のテンプレートだけがゴシック体。見やすさ・わかりやすさ度外視の、もはや暗号文の数々にくらりとした。

 

 「先輩が呪術師として活動を始めた15歳から21歳で死ぬまでの七年分、その数驚異の一万件。先輩が戦ってるビデオ見ながら全部読破して理解しな。

 できないなんて言わないよね?」

「もちろん。」

 

 だけどそれがなんだ。僕は強くならねばならなのだ。

 真人さんの時と同じ? 学習しない?

 うるさい知るか。そんなのどうでもいいんだよ。

 僕は、僕の愛のために最強にならないといけないんだ。()()()くなねばならないんだ。

 その過程がなんだろうと、結果的に強くなるならなんでもいい。

 必要ならば這いつくばって靴を舐めてやる。それぐらい、僕の覚悟は決まってる。

 

 「僕が、愛を貫くために。」

 

  廃車でチキンレースだろうが、なんだってしてやる。





p.s.
替くんの設定増えたのでキャラ設定に追加しときました

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