「僕の愛の為に死ね。」   作:倉之助

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みなさん、大変お待たせしました
新章、水魚の交____交流会編始まります


2部3章;水魚の交–スイギョのコウ-
それでは各自、謀略たてて


 薄暗い廊下に軽い足音が響く。その軽さの割には落ち着いているそれは、薄ら寒い(コンクリート)の中に反響して、新たに生まれる音に重なって無数に聴こえる。

 

 「こんにちは、___さん」

 

 都立呪術高等専門学校京都校。仮にも呪術師たちの二大本拠地のうち一つのこの学校に、土足で足を踏み入れる子どもが一人。

 

 「僕と取引しませんか?」

 

 神が作った芸術品の如き美しい容貌の子どもが、丸みを帯びた滑らかな手を差し出す。

 その手を、___は取った。

 このクソッタレな現実に叛逆するために。

 

 

 


 

 

 「ななみぃー、なんか面白い話してぇ〜」

 「お一人でどうぞ」

 

 ぼーん、ぼーん、ぼーん、ぼーん……。8回鳴る掛け時計の音を聞きながら七海建人は新聞を眺める。

 場所は高専の一室。外部からの依頼者と依頼の話をする際にも使う客間の一つに七海と五条と、あと二人。合計四人が待機していた。

 間違っても、仲が良いわけではない。人を待っているのだ。このでかい子どもみたいな厄介男の手綱を握れる別のベクトルで厄介な男と、あと2人。こちらをちらりとも見ようとしない少女たち。

 だが大人として、自分より一回り年下の彼女らに頼るわけにはいかないだろう。この迷惑 OF THE 迷惑男を上手く操縦できるのは一人だけだ。

 なので、もうしばらくは一人でこの面倒くさい男を相手しなければならない。

 再度時計を確認する。約束の時間を過ぎているが、律儀なあの人のことだ。短くて数分、長くて十数分もすれば来るだろう。それまでの辛抱だ。

 

 「よし、わかった!

 じゃあ廃棄のおにぎりでキャッチボールしながらぁ、政教分離について話そうぜ〜!

 動画あげて炎上しようぜ〜!」

 「お一人で」

 

 何がわかったのですか、とは七海の心の一言。全くもって度し難い。頭の中身が常人とは違いすぎるのだろう。全く良い迷惑だ。

 「なんだよケチー!」とひとしきり喚いたところで、「じゃあこうしよう!」と無駄にキメ顔で指を向けてくる。人差し指で人を指すな。

 

 「五条悟の大好きなところで山手線ゲーム!」

 

 パンパン

 

 軽快に打ち鳴らされる拍手の音にうんざりしながらぱらりと一枚、新聞の頁を捲る。至極楽しそうで声で「全部!」と言えるこの男は自信しかないのか。己の欠点を自覚した上で言っているのなら大したものだ。

 パンパン、パンパン。続きを探すように打ち鳴らされた拍手の音。「はーやーくー」、駄々をこねるな。

 繰り返されること数回。「はいせーの!」の掛け声と、急かすような拍手の音。

 

 パンパン

 

 「皆無」

 

 無視を決め込んだ七海の代わりに、スマホに視線を落としていた少女が吐き捨て打ち切る。それ以降五条がどれだけ掌を叩いても誰も乗っかってこない。

 

 「みんなノリ悪くない?

 暇すぎて死にそうなんだけど」

 「一人で死んでろよ」

 「あっ、いっけないんだ〜! 今回の一番の功労者に対していう言葉じゃないからね?」

 「シンプルにウザい」

 

 鋭い舌打ち。上がった眦と寄る眉間。不機嫌な態度を隠そうとしない二人が五条悟の後頭部に冷ややかな視線を送る。

 

 「つーか、今回あんたなんもしてないだろ五条悟」

「ひっどいなー、僕色々頑張ったんだけど。傑の任務変わってやったり、順平の執行猶予もぎ取ったりね。

 さて、ここでクエスチョン! 今回の一番の功労者は誰だ! 

 僕で〜〜す!!」

 

 ウザ絡みの極みのようなテンションで喋り倒す五条に七海が向ける視線は厳しい。だめな大人の見本に、呆れて物も言えない。

 

 「はいはい、お疲れお疲れ」

 「いつも夏油様に押し付けてるんだから当然だろうが」

 「夏油様に甘えてんじゃねーよ、このクズ」

 「うっわー、口悪ぅ〜。

 で? ()()()()は僕になんかいうことないの?」

 「どうしたもこうしたも、二人の言う通りだろう」

 

 ふと、窓の外に顔を向けた上司がうすら笑いを浮かべて語りかける。誰もいない『其処』、しかし地面に不自然な影が落ちる。上空から聞こえた声は待ち人のそれ。

 

 「やあ、遅れてしまったかな?」

 「うんうん、大遅刻だよ傑」

 「これでも呪霊を飛ばしてきたんだけどね」

 

 とん、とテーブルにケ○タッキーの大袋と、馬鹿みたいにでかい箱(四角い持ち手のついた小綺麗な箱。おそらく中身はケーキだろう)を置く。

 きゃいきゃい騒ぎながら、紙皿やフォークをローテーブルに並べて準備していく二人に「こんなのが私の上司……」と頭を抱えた。

 頭の中で、親友が「それが二人のいいところだよね!」と拳を握ってなんかほざいていた。どこかだ。

 

 「それで、なんの話をしてたの?」

 「んー、今回の任務の話ね」

 

 声のトーンを少し変えて、五条が告げる。一息の沈黙。何かを思い起こすような、そんな重たい静寂。

 

 「重めって、そういう意味じゃなかったんだけどなぁ」

 

 どちらにとっても。言葉の外側の副音声は己の耳にも重く響く。かさりと、持ち直した新聞が音を立てた。

 

 「で、七海。順平の家にあった指について悠仁にーーー「言ってません」」

 

 食い気味に答える。

 

 「彼の場合、不要な責任を感じるでしょう」

 「お前に任せてよかったよ」

 

 唇がゆらりと弧を描く。座り直し、少し前屈みになって指を組んだ五条さんが「で、指は?」と尋ねてきたので「ちゃんと提出しましたよ」と返す。

 

 「あなたに渡すと虎杖君に食べさせるでしょ」

 「チッ」

 

 不機嫌を隠そうともしない舌打ち。もう一人のろくでなしが自分を指差して「じゃあ私は?」だなんて聞く物だから鼻で笑ってやる。

 

 「あなたはそもそも高専の方が副業でしょ。何に使われるかわかったもんじゃない」

 「チッ」

 

 二人揃って、似たような仕草で唇を尖らせ拗ねる。似た物同士も行きすぎればなんとやら。まったく、普段は全然似ていないのに、ごくたまに「あなた方は双子か何かですか?」というほど同じことをするし、気があった時はとことん同じ方向に突き抜ける。

 まさに悪友。あの歳になってまで親友だと恥ずかしげもなく言い切れるのはいっそ清々しいが。

 

 「あ、先生ーー!」

 

  少年の声に顔を上げた。案の定元気溌剌な虎杖くんが手を振っていて、パタパタ走ってくる。その後ろを追う吉野くんは少し疲れてるのだろうか、こめかみが少し濡れていた。

 

 「集合場所分かりづれーよ!」

 「お、来たねー悠仁」

 

 ひらりと手を振って、手招き。とことこと幼女めいた仕草で近寄ってきた虎杖君に危機感を持てと言いたい。体格は普通の男子校生よりも立派だから誘拐をされることはなかろうが……いや、彼の場合はあるかもしれない。

 

 「言われた通り順平連れてきたけどさ……って、何してんの?」

 「ふっふっふ……」

 

 少し目を離した隙に不審者はパーティー帽子を被り、鼻眼鏡をかけていた。流石の虎杖くんも苦笑いで首を傾げる。

 テーブルの上にはいつの間にか、大きなケーキと○ンタッキーのファミリーパックがパッケージのまま雑に並べられていて、これで食えと言いたげに紙皿の上にフォークが置いてあった。

 席に座るように促された虎杖くんが私の隣に座り、吉野くんもその隣に座る。三人がけのソファが定員いっぱいになったところで、五条さんが音頭をとった。

 

 「と、いうわけで!

 順平調伏成功おめでとうパーティーだ、好きなように食べて良いよ!

 あ、ホールケーキは僕の分ね」

 「台無しだよ、悟」

 パーン! とクラッカーを鳴した私の上司と、『生還おめでとうパーティー』の襷をかけた親友の上司(兼、上司の親友)。

 高校生の少年らの困惑があまりにも可哀想で、その原因たる年上二人の姿に七海は大袈裟にため息を吐いた。

 が、困惑も喉元過ぎればなんとやら。虎杖君が吉野君と肩を組んでピースを決めて、奈々子さんがパシャリと写真を撮った。

 

 「イェーイ! サンキュー先生!」

 「夏油さん、これ食べて良いやつですか?」

 「それは、どういう意味で聞いたのかな?」

 

 ちゃんと麓のケンタで買ったやつさ、とレシートを見せられてようやく納得した吉野君の姿に「あの人は一体何をしたんだ」と一人苦い顔になる。

 普段はまともな女子高生二人も、この男を前にしたら「夏油様!」が鳴き声のポンコツに成り下がる。

 

 「いやぁ、それにしても驚いたよ。まさか順平が生きてるなんてね。

 あ、どうどう? 僕のこと覚えてたりすんの?」

 「……なんか僕の記憶の中の人と違うんだけど。

 まあ、覚えてはいます」

 「固い(かったい)ね〜、昔みたいに『悟くん♡」って呼んでも良いんだよ?」

 「絶対呼んでないし、呼ばない」

 「ん?

 順平、五条先生と知り合いだったんだ」

 「そうだよ〜!

 僕らが学生時代の時ね、順平高専にいたから」

 「へぇ〜」

 「あんまり実感ないけどね」

 

  会話を盗み聞きながら、過去に想いを馳せる。あの頃は平和はなかったが平穏はあった。私たちははちゃめちゃな先輩たちに振り回されているだけでよかったし、無駄に考えなくてもそれなりに生きていけた。

 今になると、それがどれほど得難いものだったのか理解する。大人になるとはこういうことだ。

 宴もたけなわ。フライドチキンは開始数十分で姿を消して、宣言通り五条さんがホールケーキの3/4を完食した(残り1/3は子どもたちが食べた)後。虎杖くんが指についた肉の油を舐めとりながら「そういやさ」と切り出す。

 

 「この後こーりゅーかい?ってやつなんでしょ?

 早くみんなのとこ行こーよ」

 

 時計に視線を向ける。少し早いが、集合を考えればちょうどいい時間。私が「そうですね、遅刻しないように気をつけて」と言う前に余計な横槍が入る。

 

 「悠仁……もしかしてここまで引っ張って普通に登場するつもり?」

 「え、違うの!?」

 

 何を言い出すんだこの人は。なにも違くないですよ虎杖君、と突っ込みつつ、言葉に出してまた絡まれるのは勘弁して欲しいので雄弁の銀より沈黙を選ぶ。

 

 「死んでた仲間が二月後、実は生きてましたなんて術師やっててもそうないよ」

 「ああ、殺した敵キャラがラスボス戦後に現れて真ラスボスになるぐらいレアだね」

 「それってレアなん?」

 

 きゅぴーーん! と視線(?)で通じ合った悪ノリ二人が、初心で純心な少年を騙くらかすのを白い目で見つめた。やはりこの二人は一緒にすべきではないな、と改めて理解したところで、楽しげに、そして高らかに響く。

 

 「「やるでしょ、サプライズ!!」」

 「「サプライズ……」」

 

 重なる声が2回分。上のは28歳、下が16と17歳。10歳以上の差があるのに、対応がまるで逆。

 虎杖君はぽかんとしているだけだけれど、吉野君は呆れ返って今にも舌打ちし始めそうだ。

 ちらりと枷場さんたちに視線を向けてみたが、謎に目を輝かせている。夏油さん全肯定botに期待するだけ無駄だった。

 彼女たちの目が覚める日を心から願う。




水魚之交
読み方 すいぎょのまじわり(すいぎょのこう)
意味 とても仲がよく、離れがたい交際や友情のこと。
その関係を魚と水にたとえた言葉。
三国時代、蜀の劉備が仲の良かった孔明を軍師に迎えたときに、古参の武将は不満をもらしたが、魚に水が必要なように私には孔明が必要だと言ったという故事が由来。
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