元気に京都校を追い回す順平を映像越しに見て、冥冥はくすりと笑った。
「フフフ、吉野くんにそっくりだ。面白く育てたね夏油くん」
「悠仁を凪さんと順平に変えればまんま公平だよね〜。 どうやったらあんな風になるわけ?」
「吉野先輩が戦ってる映像資料をみせたらいつのまにか、ね」
「洗脳は良くないよ」
「そんなのしてませんよ。
ああでも、たまに家でも凪さんとみてるって言ってたな」
「あー、あのビデオね。ビデオデッキなんてうちになかったからさ、中古ショップで買ってきたんだよ」
「ホームビデオじゃん」
「よくドン引かないわね」
「むしろ、順平は全力で自分達に愛を叫びながら戦う先輩の姿見て喜んでましたよ」
「こっわ」
「きっも」
「嘘でしょ……」
夏油の言葉に五条が軽く返す。ニヤニヤ笑って肩をすくめあう二人を流し見て、声をあげたのは歌姫だ。最悪だわ、と顔を覆って悲観に暮れている。
歌姫にとって順平はすさんだ高専時代での唯一の癒しだったのだ。死んだと思ってた子が大きくなって再び己の前に現れたことに感動すらしてる。
あんなにいい子だったのに、なんでイカれてしまったのだ。ネギを抱えて満面の笑みを浮かべていた頃は純粋だったのに……などと、
だって、歌姫にとってまともな感性を持って歌姫個人を尊重してくれたのは硝子と凪、順平の3人だけだ。
よって、歌姫は砂漠で見つけたオアシスの如く3人をありががり可愛がった。
特に順平は将来的にイカれないように、五条・夏油・吉野(父)の3人を指差しては「ああなっちゃだめよ」と言い聞かせていたものだ。
ゆえに、衝撃ビフォーアフターを果たした順平は絶望以外の何者でもない。地道な
二度目のため息。歌姫はビフォアフを嘆く権利がある。
忘れがちだが、庵歌姫の同期は吉野公平。一年の頃から
だからまだ純粋な順平くんだけでも守ろうと……。
嗚呼。それなのに、それなのに…
「(
ああ、忌々しい。諸悪の根源(後輩のクズども)を殺気を込めて睨む。
頼みの綱の凪まで「いーじゃん、父親似ってことで」などと笑って許してしまってる。今更性格矯正は無理。
「順平だけは、まともな呪術師になって貰いたかったのに……っ!」
「んー、そんなもんかな?
過保護拗らせて盗聴とGPSとか使い出してからが本番でしょ」
「凪さん感覚狂ってない?」
「ストーカーかよ吉野公平……」
凪さんの護衛役として待機してるミミナナの二人がドン引きしてた。
「どうよ、
順平強いでしょ」
ガタン。パイプ椅子に勢いよく体重を預けてやや後ろに斜める。微妙なバランスで静止するスチールの枠組みがギシギシ悲鳴を上げる。
老人は沈黙する。何も言わない。その様に何を思ったのか。
アイマスクで隠れた目元をいたずらに細め、口角を引き上げる。
ガタン。
後ろのパイプ一本で支えられていた椅子が元に戻り、日本のパイプが五条の体重を支える。
「あいつはなるよ、特級」
「……………」
言葉の真意も読めない鈍感な人間など、当然ながらこの場に一人だっていない。重たい沈黙がずしりと肩に乗る。
「ところでさ、冥さんってどっち側?」
■■■
「……ここにいる中で一番強いの、あなたですよね」
帳の闇は時間感覚を狂わせる。団体戦が始まってどれほどの時間が経ったのだろう。
腕時計はぐるぐると激しく回って意味をなさない。明らかな異空間。森が終わるスレスレ。
強い呪霊を探していたら、確実に会場ではない場所に迷い込んでしまった。
道中見つけた低級呪霊を祓除しつつ進んだその先。濃厚な血の匂い。肉塊に変わり果てた呪術師を一瞥して、順平は静かに告げる。
そも、悠仁のためと念仏のように唱え、帰りのことを考えずにがむしゃらに進んでしまったのがことの始まり。変なところに迷い込んだと気づいた時点で引き返さなかったのがここまでの過程。
狗巻さんと別行動になってしまったのはちょっとした理由があって、先輩はなにかやることがあったらしい。なので、しばらく僕一人で祓除してくれと頼まれた……のだと、思う。
はっきりいうと、行動に至るまでの理由づけは僕が考えた憶測である。より詳しく言えば狗巻さんのジェスチャーから僕が判断した内容だ。
「ツナマヨ」にどんな意味が込められていたのか。わかるわけがない。
ニュアンスで理解するしかないので相互不理解が起きた可能性は多分にある。僕に
で、最初の話題に戻る。この場にいる一番強い呪霊。僕は正直、この人以上に強い存在があるとは思えない。でも、課題用の呪霊ではないというのはわかる。
悪意を持って人と関わる筆頭とも言える
だから、僕はその人の前に姿を現した。
「こんなところで会うなんて奇遇ですね、真人さん。」
「やあ、久しぶりだね順平。」
ふわりと微笑んだその表情は、見慣れた顔だ。優しげな表情。その裏にある醜悪すぎる好奇心。
思い出すのは忌まわしい記憶。彼に心酔しきった自分がたどったかもしれない結末を想像して、同時にこれから辿るかもしれない僕の未来を連想する。
無傷で帰れるなんて、そんな甘い考えは最初から抱いてない。無意識に膨れ上がる呪力を制御して、均一に整える。
「わあ、ずいぶん呪力の操作が上手くなったね。
「それはどう言う意味でしょうか」
「さあ、なんだと思う?」
耳まで裂けた悪辣な
見えないように体で右手を隠し、そっと掌印を握る。いつでも呼び出せるように準備をして睨みつける。
「僕の中の呪霊ならもういません、調伏したので」
「へえ、それはずいぶん無駄な努力をしたね。
調伏したところで二つの魂が一つに戻るわけでもないのに」
「それでも僕は呪霊じゃない」
膨れ上がった呪力で髪が浮き上がる。怒髪天をつくというが、身の毛がよだつというのはこう言うことなのかもしれない。
「今から証拠を見せますよ」
「へえ、やってみなよ」
いやらしく笑って、長い舌で唇を舐めた。それを合図に僕は術式を放った。