「僕の愛の為に死ね。」   作:倉之助

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交流会編最終回です
地味に難産で時間かかりました。
次章は完全オリジナル編、ミミナナ+順平の三人がトリオになってとある「施設」の調査に行き、呪霊を祓除しにいく原作でいう八十八橋編の裏側の章、「 涸轍鮒魚(こてつのふぎょ)」です
時間がかかるかもしれませんがよろしくお願いします






そして愛は形になった

 こんにちは、クソ雑魚の順平です。

 自分で雑魚とか言いつつも「まあそこまででもないでしょ」とか思っていました。 嘘です。だいぶ調子に乗ってました。

 でも昨日(さくじつ)、自分から真人に挑んでおいてボロ負けしてしまい羞恥に震えてます。

 カッコつけて第二ラウンドとか言って領域展開(おくのて)使ったのに速攻破られるとか赤っ恥以外の何物でもないです。

 おまけに野外で爆睡*1してたとかあり得なさすぎる。服丸めて枕にする余裕あるなら寝ないで帰れよ……。

 というか、よく殺されなかったな僕。確実に情けかけられてるな僕。京都のメカの人(ドローンver.)に発見されなければ今頃遭難してたかもしれないっていうのも笑えない理由の一つ。

 そんなこんなで中止になると思われた交流会。

 とりあえず一日挟んで……僕たちは今、野球をしてます。

 

 


 

 [AM 8:00、東京校応接室にて]

 

 「っつーわけでさ、いろいろあったし人も死んでるけど。

 どうする? 続ける? 交流会」

 

 突然収集がかかり集められた僕たちに五条先生がそんな言葉を投げかけたのがことの始まり。

 悠仁が「どうするって言われてもなぁ」と腕を組む。その隣に立つ僕は「(どっちでもいいな)」と思いつつ、悠仁に合わせて神妙な顔をつくる。

  なんとも言えない微妙な空気。打ち破ったのは低い声。

 

 「当然、続けるに決まっているだろう」

 「東堂!!」

 

 悠仁がちょっと後ずさる。僕は一歩前に出た。それを面白そうに東堂が観察し、ふん、と大きく息を吐いて胸を張る。

 夏油先生が面白がって「その心は?」なんて問いかけたら東堂はビシッと指を一本立てて眉を釣り上げる。

 

 「一つ、故人を偲ぶのは当人とゆかりのあるものたちの特権だ。俺たちが立ち入る問題ではない」

 

 2本目、ゴツい指が裏ピースの形で固定される。

 

 「二つ、人死が出たのならば尚更俺たちに求められるのは強くなることだ。

 後天的強さとは結果の積み重ね、敗北を噛み締め勝利を味わう。

 そうやって俺たちは成長する。結果は結果としてあることが1番重要なんだ」

 

 ……くそ、粗を探してるのに見当たらない。全くもって正論だ、反論のしようがない。

 3本目、指を立てて目を瞑った東堂が笑みを作る。

 

 「三つ、学生時代の不完全燃焼感は死ぬまで尾を引くものだからな」

 「オマエいくつだよ」

 

 これは五条先生に同感だ。夏油先生が「ああ、あるある」と実感のこもった一言を言ったせいで余計に「コイツいくつだよ」という気持ちが高まる。

 年齢詐欺ってるのかな、見た目的にもそんな感じする。

 そんなこんなで話は流れ、個人戦の話は流れてくじ引きとなり。そして結果はまさかの野球。(くじのはしっこには さ⃝ とかかれてた) *2

 

 そして現在だいたい正午。

 生徒教職員一同、ユニフォームをきてグラウンドに立っていた。

 

 

 【京都姉妹校交流会、二日目:野球(一回目表)】

 

 

 2番セカンド、三輪。大きくスイング。ヒット。ボールは高く打ち上がりフライ。

 

 「打ち上げた!」

 「西宮まだ走るな!」

 「え!? なんで!?」

 「ルール知らないなら先に言いなさい!」

 「知ってるわよ、打ったら走るんでしょ!!」

 

 呪術師家系出身の多い京都校のベンチはまあまあ混乱してる。速攻三振取られてたり呪具が出てきたりピッチングマシーンが出てきたりして一回表終了。

 

 「フッ……キャッチャーか。捕球、送球らリード、フィールディング、etc……。

 虎杖(ブラザー)に相応しい役割と言えよう」

 

 2回目表、バッターボックスに立つは東堂葵。

 

 「だが俺が望むのは投手(ピッチャー)虎杖との一騎打ちだ!」

 

 バットを肩に担ぐ姿は最高に柄が悪い。「お前がピッチャーやればいいじゃん」という至極真っ当な悠仁の意見もピッチングマシーンのせいで拒否される。

 

 「ピッチャーにはキャッチャーが不可欠……。

 そこでお前だ、吉野順平!」

 

 ズビシィ!と効果音がつきそうな勢いで東堂が僕にバットを向ける。キメ顔と決めポーズは必要か?

 東堂の演説は佳境に入り、やたらと熱と唾が飛ぶ。……おかしいな、僕、だいぶ離れた距離にいるはずなんだけどなんか近い。

 

 「聞いたぞ、お前はブラザーの親友を名乗っているそうだな。

 「そうだね。

 (自称親友の君とは違って)正真正銘、悠仁は僕の親友だ」

 「そうか、ブラザーの親友もまた俺の親友……。

 しかし、これを聞かねば俺たちは真の親友にはなれない。」

 

 バットの先端が僕に向けられる。謎の緊張感。飽きた様子の真希さん(ピッチャー)

 

 「吉野順平、お前の好きな女のタイプはなんだ!!」

 「は?」

 

 静まり返る空気。背後で棒立ちの釘崎さんがゲボ吐きそうな表情してた。

 

 「聞こえなかったのか?

  好きな女のタイプはなんだと聞いたんだ。男でもいいぞ」

 「それ今聞くか普通」

 

 空気読めと野次(ブーイング)が飛ぶ。しかし「答えを聞くまで意地でも動かん!!」と仁王立ちされてはゲームが進まない。

 よって、僕は渋々答えを返す。

 

 「女は別に……強いて言うなら、好きなタイプは悠仁かな」

 「俺!?」

 「うん、見るからに善人って感じで」

 

 即答、驚愕、納得(当事者)

 男三人、誰も得しない三つ巴。周囲の反応も白けてる。「(クッソどうでもいい〜〜)」って感じで。

 女じゃねぇんだけど!と叫ぶ悠仁に僕は苦笑いを浮かべる。それくらい流石にわかるよ。

 

 「僕、女の人ちょっと苦手だし……胸がでかいだけの脳空(のうから)女とか吐き気がするほど嫌いなんだ。

 僕の最愛は悠仁と母さん、それから今は亡き父さんだよ。

 夏油先生は敬愛してるけど最愛ではないし。五条先生は助けてくれたことは感謝してるんだけど……まあ、うん。

 ミミナナの二人もなんか違うし。友愛と言うわけでもないし、恋愛なんかもってのほかって感じで例外というか…………論外?」

 「誰が論外だ! こっちもアンタなんか願い下げだし!」

 「ムカつく……! 吊る!!!」

 「(外野がうるさいな……生理かな?)」

 

 口に出したら女子生徒全員の反感を買って半殺しにされるようなことを考えても雉も鳴かずば撃たれまい。

 余計なことは言わないでおくに限るとよく知ってるので、思うだけにとどめて言葉にはしなかった。英断である。

 ……まあ、短い付き合いだが濃い関係を築いたゆえに考えてることを察した某双子は同じタイミングで中指を立てたけれど。*3*4

 

 「ふ、よくわかってるじゃないか吉野順平、いやマイフレンド!」

 「いやお前もどうした東堂」

 

 悠仁が真顔でツッコミを入れる。東堂は無視って無駄に白い歯を輝かせた。

 

 「女ではなく、男。ならばブラザーを選ぶのも当然だ。お前もまた俺の親友だ!!」

 「よくわかんないけどこれも愛なのか……?

 悠仁の親友は僕だけど親友は一人じゃなくてもいいわけだし、悠仁を親友に選ぶあたり人を見る目がありすぎる……。

 友達と友達は友達理論的に、親友の親友も僕の親友になるのかもしれない。そんな気がしてきた。

 ……うん、よし。よろしく葵くん」

 「落ち着け順平!!」

 

 差し出された手に己の手のひらを重ねようとして、悠仁がチョップでそれを叩き斬る。「エンガチョ!」 効果音係(五条悟@審判)がウルセェ。

 肩を掴まれて「オマエまで洗脳されてんの!?」と聞いてくる悠仁も愛おしい。

 「おい! キャッチャーが動くな!」と真希さんの怒声。ようやくバッターボックスに立つ葵くん。

 

 「約束してくれ虎杖(ブラザー)、そして吉野(マイフレンド)

 この打席、俺がホームランを打ったら……

 次回はお前らが」

 

 振りかぶる真希さん。黄金の肩により放たれた送球は「ギュン!!」と加速し一直線に目標(ゴール)に向かう。

 

 「バッ!!」

 

 顔面にめり込むボール。裏返った声。「テリー……」と、かぼそく続けられた言葉とともに倒れる葵くん。

 

 「と、東堂!! しっかりしろ!」

 「葵くん!!」

 

 まあ、つまり、何が起きたかというと。ごちゃごちゃ言ってるうちに葵くんの顔面にデッドボールがめり込んで話は流れてしまったので有耶無耶なのである。

 

【東堂葵、デッドボールにて退場】

 

 そのあとどうなったかというと、割と接戦であった。

 結局、個人戦より白熱したと思われる野球戦は2-0で東京校の勝利で終わった。そのあとにリベンジ戦をやって再リベンジ戦までやって、新幹線の時間が来て京都勢は帰って行く。

 試合が終われば、そのあとやってくるのはグランド整備。夕暮れを背負い、トンボを持ちながら土を(なら)すのは一年、後片付けを押し付けられたとも言う。ちっ、これが日本の悪いところだ、年功序列なんて古臭い制度を律儀に取り入れやがって。

 ……なんて、実際に言葉に出すわけにはいかないので、心の中でぶちぶち文句を言う。

 

 「てか、一昨日(こないだ)から思ってたんだけど。あんたゲイ?」

 「は?」

 

 突然尋ねられた質問にちょっと殺気が漏れる。気にすることなく釘崎さんは「いや、だってさぁ」とトンボで地面を均しながら言う。

 

 「虎杖(コイツ)に愛してるだなんだの言ってたじゃない。

 モヤモヤするからはっきりさせたいのよね。あ、別に偏見あるわけじゃないから」

 「いや、違うよ……」

 

 即座に否定。でもその後が出てこなかったのは、少し考えてたからだ。

 不名誉な勘違いを正すための説得力のある理由についてを。

 

 「なんか勘違いしてるけどさ、僕別に悠仁のことを恋愛的な意味で好きなわけじゃないからね。

 僕の悠仁への愛はそういう愛じゃないんだよ。移ろい変わる程度の想いじゃないんだ。

 未来永劫悠仁の友達として見守りたい。すぐそばで悠仁が紡ぐ愛の軌跡を見守りたい。

 悠仁の恋愛相談乗ったり、結婚式で親友代表スピーチをしたり、悠仁の血を引く赤ちゃんをたまに預かったり、そういう家族ぐるみの付き合いをしたいとか、そういう純粋な感じなんだよ」

 「いや重すぎだろ、引いたわ」

 「あれ!?」

 

 ドン引きされたことに驚く僕。助けを求めて伏黒くんを見るが目を逸らされた。嘘だろ、同類だと思ってたのに……!

 

 「そこら辺、虎杖(アンタ)はどう思ってるわけ?」

 「んー?

 まあ、重いか軽いかで言ったらちょい重いケド。でも順平がやりたいならいーんじゃねぇの?」

 「心広いなお前」

 

 それは本当に同意だ。悠仁の心は青空よりも広いしマリアナ海溝よりも深い懐の持ち主なのだ。

 僕がこうしてここにいるのも全部悠仁がいたからであるし、僕が人間として生きているのも悠仁がいてこそだ。

 

 「(……人間、か)」

 

 一昨日の死闘を思い出す。僕は、何もできなかった。僕は泣きたいほど弱い。弱くて弱くて、吐き気がするほど弱い。

 

 「(強くなりたい。悠仁と母さんを守り切れるぐらい、強く)」

 

 愛の力で、理不尽と困難を押しつぶすことができるのは強者だけだ。

 真人の言う通り、僕は人間の皮を被った呪霊なのかもしれない。

 とっくの昔に魂のバランスは呪霊側に傾いていて、あと一足があれば簡単に転がり落ちるような貧弱な命なのかもしれない。

 それでも、僕は人間でありたい。

 白線ギリギリでも、踏みとどまりたい。

 

 「(それこそ、きっと愛の力で乗り越えられる困難だ)」

 

 ざり、と砂を蹴る音がやたらと耳について、頭を上げる。夕日を背後に、真っ黒な顔のシルエットだけの男が「や!」と手を挙げる。

 

 「そろそろ終わったかな?」

 「「夏油様!!」」

 

 観客席で雑に応援してた美々子と奈々子の二人がぱっと顔を上げる。「差し入れ持ってきたよ」とコンビニのレジ袋を腕にぶら下げた夏油がにっこり笑う。

 

 「夕日に照らされるグラウンド。吹き出す汗と深まる絆、確かめ合う友愛……いやぁ、青春だね!」

 「アンタが言うと急に胡散臭くなるのよね……」

 

 夏を生き損ねた秋蝉の鳴き声も今日は不快じゃない。なんだか僕のようだと思った。

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「まだ、虎杖と吉野(あの二人)が嫌いですか」

 「好き嫌いの問題ではない」

 

 ベンチに腰掛ける大人が二人、徐に話を始める。切り出したのは俺であり、巌楽寺学長はそれに続く。

 年寄りの口数は多いと言うが、この翁もそれに該当するらしく。一を聞けば十が返ってくる。俺は口を挟まずに静かに聞く。

 

 「呪術規定に基けば虎杖は存在すら許されん。吉野順平もまた同じ、やつはそもそも呪霊なのだろう? そうでなくとも元は呪詛師。

 あいつらが生きているのは五条のわがまま。

 個のために集団の規則を歪めてはならんのだ。何より虎杖と吉野が生きていることでその他大勢が死ぬかもしれん」

 「だが彼らのおかげで救われた命も確かにある。

 現に虎杖は今回東堂と協力し特級を退けた。

 吉野もまた、一人でそれを成し遂げた」

 

 反論。黙ったご老体に今度は俺の口数が増えた。思い起こすのは九年前に死んだあいつだ。

 いまでも、ふとした時にあの時代を思い出すだけで強烈な印象を与える男。

 あの唇から吐き出される強烈な愛情理論にどれだけの生徒が影響されたことか。

 その代表といえるのが夏油と灰原で、次が……意外かもしれないが五条だろう。

 あいつの場合はあいつの思想を「人間の基準」にした節がある。

 夏油が五条にとっての善悪の指針になったのならば、吉野は行動指針だったのだろう。

 愛があるから人は無茶な行動をとる、愛が裏返るから人間は残虐になる、愛があるから他人を信頼する、愛が裏返るから人は裏切る。

 ……それが良い影響かといえば確実に悪影響だろうが。

 だが、歪んでようが歪だろうが、五条悟に愛を教え込んだのは吉野公平だった。

 

 「学生に限った話ではありませんが、彼らはこれから多くの後悔を積み重ねる。

 ああすればよかった、こうして欲しかった。

 ああ言えばよかった、こう言って欲しかった。

 あの二人についての判断が正しいかどうか正直私にもわかりません。

 ただ、今は見守りませんか」

 

 もしも、俺があいつにとって頼れる大人ならば、今は違っただろうか。

 鴨川ではなく、彼女たちを託されたのが俺だったなら。吉野は今もここにいたのだろうか。

 

 「大人の後悔はそのあとでいい」

 

 ……なんて、救えない大人の妄想だ。

 少し先を立ち、物陰で煙草をふかす。久しぶりに、なんだかニコチンが欲しくなった。背後に何かの気配。がさりと草が揺れて、振り返って、目を見開く。

 

 「夜蛾さん」

 「……なんだ、吉野」

 

 一瞬、()()と空目した。顔も背格好もそっくりで、雰囲気まで似てる。でも彼は吉野公平ではない。その息子の吉野順平。

 かつては俺も面倒を見た覚えのある子供が大きくなって、呪いとともに忌まわしいこの地へ帰ってきた。

 

 「さっきの話を聞いてたんです。で、少し聞きたいんですけど」

 「あ、ああ……」

 

 どこで聞いていたのか。まあそれはいい。聞かれて困るような話でもないのだし。だが、なぜか居た堪れなくて目を逸らす。「なあ、夜蛾さん」吉野が尋ねる。「なんだ」と答えた。

 

  「あなたは、吉野公平を後悔してるのか?」

 

 ……口調まで似ると、一瞬どうすればいいのかわからなくなる。口籠る俺に吉野が「教えてくださいよ、夜蛾さん」と。その一言にハッとする。同じようなことを昔、言われた気がする。

 

 「そうだな、してるよ、後悔」

 

 ふと、飛び出たのは紛れもない本音。ああ、思い出した。吉野の進路調査の時に同じことを言われた。

 呪術師以外の道も考えろと言う俺に、吉野が「家族を養う父ですよ、僕」と苦言を呈した時の言葉。

 

 『お前は他の道もある』

 

 あいつに世界を広げてほしいと思って告げたそんな一言も結局、「僕は他の道を望んでないし、それを言うなら五条はどうなんだよ」と返されてしまって有耶無耶になり、「教えてくださいよ」と吉野が聞く。

 なのに言った本人たる俺自身が言葉に詰まって押し黙る。吉野はそのまま教室を出て行って、それから二度とその話をすることはなかったのだけれど。

 あの時はまだ俺も青くて、理想主義的なところが残っていたのかもしれない。もしくは、吉野の危うさに気づいていたのかもしれない。……何を今更。

 

 「あいつに何があったのかは、今でもわからない。だが理由がなかったとも思わない」

 

 馬鹿な生徒だった。問題児だった。でも悪い生徒ではなかった。

 

 「革命も、間引きも、処刑も。

 俺は全て生徒にさせてしまった。

 あいつに恩師を殺させてしまった」

 

 結論として、俺は困った時に頼れる大人ではなかったのだ。だから肝心な時に吉野に頼られなかった。 

 彼を気に掛ければ、気が付けば、救えたはずだった。そんなどうしようもないIFを思い浮かべては自嘲して。

 ……あいつを助けられなかったことを、ずっと後悔してる。

 

 「そうか……そうですか」

 

 俯く吉野。数秒の静寂。さらさらと流れる水の音だったり、木の葉を揺らす風の音が響く。

 吉野が、顔を上げた。

 

 「少し、安心しました。吉野公平の敬愛は嘘ではなかったと」

 

  笑顔だ。どうしてかわからないけれど、吉野公平にしか見えない笑い方で吉野順平が微笑む。ぞわりと背筋が凍る。ありえない、ありえないけれど、そこにはたしかに()()が立っていた。

 

 「(いや、違う。彼は吉野()()だ)」

 

 悲しいくらい生写しで瓜二つ。重ねてはならないと変わっているのに嫌でも重ねてしまう。涙は流さない。けれど心臓が痛む。

 

 「だから、これはほんの保険です」

 

 手が伸ばされる。吉野の掌が体に触れる。

 伸ばされた手は()()()()()()。心臓を通して魂に直接触れているような、悍ましい気配。

 息を呑む。

 微笑まれる。

 なんとなく、視線を落とす。いつのまにか、落としていたタバコに気づく。

 まだ先端が赤い。ジリジリ燃えて、燃えて、根元まで燃え尽きたそれが、枯葉に燃え移りそうになっていて、慌てて足で踏みつける。

 吉野の手は離れてた。意味ありげに緩く拳を握って、「夜蛾さん」

 口角を引き上げる吉野を、見ることしかできない。

 

 「夜蛾さん、僕はあなたを敬愛します。だから……裏切らないでくださいね」

 

 そして、吉野は身を翻す。グランドに向かって小走り気味に歩いて、「悠仁ー!」と元気に手を振っている。

 もう、先程感じた薄ら寒さは彼にはない。吉野の雰囲気はどこかおさなげで、どれだけ似てても違う存在なのだと線引きされているのだと感じる。

 失礼なことだろうけれど、俺はそれに安心した。もうタバコを吸う気にならなくて元いたベンチに向かう。

 きっと、気のせいなのだろう。錯覚していただけだ。

 ___先程話していたのは()()()()()()()()()()()()()()()など、そんなことあるわけないのだ。

*1
×爆睡→○気絶

*2
ちなみに箱の中にはあと二枚ほどくじが残ってて、それらの内容は「サッカー す⃝」と「格付けチェック し⃝」だった

*3
クソ失礼。土下座で謝れ(by N)

*4
デリカシーがないにも程がある(by M)




水魚之交
読み方 すいぎょのまじわり(すいぎょのこう)
意味 とても仲がよく、離れがたい交際や友情のこと。
その関係を魚と水にたとえた言葉。
三国時代、蜀の劉備が仲の良かった孔明を軍師に迎えたときに、古参の武将は不満をもらしたが、魚に水が必要なように私には孔明が必要だと言ったという故事から。
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