「僕の愛の為に死ね。」   作:蔵之助

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*閲覧注意
*胸糞展開
*脳味噌出現
*児童虐待描写があります(人体実験を思わせる表現あり)

1.5部のストーリーは基本的に読み飛ばしていただいてもストーリー上問題はありませんので、以下の注意事項に地雷を感じた方はご遠慮ください。

*五条替くんのサイドストーリーになります
いつものように替くんのストーリーは胸糞展開になります。替くんの精神破壊や脳破壊シーンがございます
替くんの友人キャラが登場しますが救いはありません。
以上の注意事項に同意していただいた方のみご閲覧ください


少年モルモットの記録

 「ねえ、キミはだれ?」

 

 ガラスドームみたいな、透明な檻の中。そこで僕たちは出会わされた。

 

 

 

 _______少年モルモットは夢を見る。

 

 

 

  僕が名前を聞いたその子は、自分のことを「S」だと言った。たくさん兄弟がいるらしくて、彼らはAとかBとかアルファベットで呼ばれてる。記号が重複していない兄弟の方が珍しくて、つまり、彼らは動物だ。S.A.B.C.Dの中でS、個体名ですらない識別名を己の名前と勘違いする人間の形をしたラット。あまりにも酷い(むごい)有様だろう。

 でも、しかし。僕は、その、本当にひどいことなんだけど。それに安堵してみたり。結論を言うと、僕より酷い扱いのその子を……自分より下にいる実験動物(モルモット)を見て安心したのだ。「ああ、僕ってこの子よりか可哀想じゃない」って。

 お母さんとお兄ちゃんから引き離されてその存在を認知されることもなく、意味のわからない研究とやらで目や体を弄くり回される日常を送る僕より、兄弟まとめて一括りに記号呼ばわりされて研究され、時にはDの兄弟がいなくなっていたりするらしい「S」のほうが可哀想だった。

 しかも、よく聞けば兄弟たちはみんなみんな同じ顔で、同じ体格で、違うのは呪力の量ぐらいだという。そしてここはバイオ研究施設。モルモットになるために作られたクローン人間。それが S たちの正体だ。ああ、可哀想。本当にSは可哀想だ。

 だって愛された記憶もないんだ。僕にはある。お腹の中にいた時と、生まれたあとの数分だけだけど、お母さんとお兄ちゃんに祝福されたことがある。だから、それすらないSが可哀想だって、見下して安心してた。

 僕より酷い子がいるんだから、僕の方がマシ。僕よりSの方が可哀想だから、僕の方がマトモなんだ。醜い思想。でもそれに僕は救われた。

 多分、僕をSに引き合わせた研究者はそういう目的でSを連れてきたし僕もそう言う目的でSと話してた。

 便利な愚痴袋だったし、鑑賞物だった。Sもそれをわかってた。

 

 「俺は、替が好きだよ。」

 

 だと、いうのに。ある日Sははにかみながらそんなことを言う。「友達だと思ってる」と。

 どんな目的があろうと、君と会う時間が好きだと。クソみたいな理屈に巻き込まれて、それを知ってるのにSは「君と話す時間はかけがえのないものだから」という。意味がわからない。憐れまれるのが好きというわけでもなさそうなのに。

 Sと一緒にいると自分が劣っているように感じた。僕がすごい嫌なやつに思えてくる。

 だから会うのをやめた。ら、今度はSのほうから僕に会いにきた。

 

 「俺のこと、嫌いになった?」

 「……べつに」

 「じゃあ、無視するなよ」

 

 黙って俯いてたら、腕を引かれた。びっくりして顔を上げたら目の前にSの顔があってーーー久しぶりに見た顔は、泣き顔だった。

 

 「俺には、替しかいないのに。替だけが俺を俺にしてくれるのに、替にまで無視されたら、俺……俺……っ!」

 「S……」

 「俺を有象無象に戻さないで、俺を個人として見てよ。替の目的とか心象とかどうでもいいから、無視だけはやめて……」

 

 言葉に詰まって、しゃくりあげて。Sらしくない態度だけど、吐き出された慟哭には既視感がある。お前も僕のことを利用してたんだなとか、そういうの。

 Sが聖人君子? とんでもない。こいつだって僕と同じ穴のムジナだ。僕を自分のための道具にして、己の虚を満たしてる。だから、僕も安心してSを利用していいんだって、醜悪な思想を抱く。

 

 「ねえ、S。僕たち、似てるね」

 

 「だから僕の友達になって」、なんて。全く、クソみたいな理論だ。クソみたいな関係性だ。それに頷くSもSだよ。提案した僕が言えた義理でもないけどさ。

 僕たちが普通に生きてて、そんなふうに言われたらさ、中指立てて「そんなのごめんだね」と吐き捨ててるよ、絶対。でも僕たちは普通じゃないから。そんな関係もアリなんじゃないか。友達と言ってもいいんじゃないか? ねえ、そうでしょう。

 自分の同位体を「有象無象」とか言っちゃうお前と、生まれて間もない頃の数分だけを大切にしてその他はゴミだと見下す僕は、実にお似合いな二人だろう。

 喧嘩して、数日開けて、仲直りして。なのに僕たちの友情は長く続かなかった。

 忘れもしない2013年の九月。外は雨が降っていたらしい。僕たちはそんな「外界」の変化に気づけないほど徹底して管理されていた。

  Sは死んだ。最後の会話もなかった。予兆も感じなかった。厳密には死んでないのかもしれないけど、僕の友達のSは死んだ。

 

 僕たちは忘れていた。所詮僕らはモルモットで、研究のための「道具」であると言うことを。

 

 


 

 

 そもそも、Sは実験素材として利用するために作られたクローンだ。特別検体として優秀な性能を持っていたから取って置かれていただけで、いつかは彼が有象無象と呼んでいた「同位体(きょうだい)」と同じように消費される運命(さだめ)だった。

 僕たちはそれをわかっていながら「自分なら大丈夫だろう」と根拠のない自信を抱いていただけで、それをへし折られてしまったと言うだけ。勝手に信じて、慢心していた。それだけ。

 

 「やあ、替。久しぶりに友達に会いに行く?」

 

 久しぶりに会った創造者(生みの親)に連れていかれた研究棟。嫌な予感はずっとしていた。円柱型の水槽に詰められている大量のクローン体。同じ顔がずらっと並んでいるのは悪夢そのもの。中には人間としての形を放棄しているものすら存在してる。

 なるほど、Sが彼らを兄弟と呼びたがらない理由も分かる。赤の他人の僕からしても気分が悪くなる光景だ。S評価を受けているとはいえ彼らと同じクローンであるSが、自分を「コレ」と同じなのだと認めるのはきっと苦しい。

 でも、現実はもっと苦しい。

 

 「S……」

 

 久しぶりに見た彼は、もうSじゃなかった。人形のようにしんと静かで、僕が目の前にいると言うのに黙りこくって会話の一つも交わさない。僕がSから目を逸らしても、「無視しないで」と喚かない。

 もしかしたら、コレは僕がよく知るSじゃないのかもしれない。Sはどこか別のところにいるんじゃないか。そう、きっとそうだ。だって、僕のこの忌々しい六眼が教えてくれている。本来なら彼の体に刻まれていない()()が存在を。

 ……そんなわけない。こいつはSだ。僕がSの呪力を間違えるわけないじゃないか。他のクローンをみても動かなかった僕の魂が、目の前の肉人形こそがSなのだと、涙を流して震えてる。

 

 「ああ、気づいた? 術式を移植したんだ。さすがS評価の個体、拒絶反応で半呪霊化せずに人間としての形をとどめてる。

 ま、ちょっと脳が破壊されたみたいだけどそんなのは()()()()()()しね。むしろ都合がいい」

 

 飄々と、悪びれもなく僕に語りかける、()()()()()()()()()()()()。聞きたくもないのに、Sに行った残虐非道な実験内容を僕に語り聞かせるのは嫌がらせだろうか。嫌がらせだろうな。

 耳を塞ごうとしたら両手を纏めて掴まれて「ダメだ」と嗤う。残忍で下劣な男。

 

 「替、君さ、なんか勘違いしてないか?

 君たちは僕の野望のために生かされている資源なんだよ。

 君の飼育員から報告があった時は驚いたよ」

 

 ーーーーダメじゃないか、実験拒否なんて。

 

 耳元で囁かれた言葉に絶句する。不愉快な声、内容、そして恐怖。

 

 「なん、で……なんでSなんだよ。僕が気に食わないなら僕の脳を壊せばいいじゃないか!」

 「いやだな、そんなことするわけないじゃないか。君は本来ならあり得ない()()()()()()だよ。唯一無二と言ってもいい。

 その点、Sは千体のクローンの中でたった1体しかいないS評価クローン。貴重ではあるけれど、彼でなくてはいけない理由もない。彼の代わりは文字通り()()いる」

 

 視線が思わず水槽に向かう。もういやだ。何も見たくない、耳を塞ぎたい。でも塞げない。耳触りの悪い言葉ばかり羅列して気分が悪い。うるさい、どうでもいい。

 

 「それに、替に会わせた時にはすでにSの術式移植は決まってたんだぜ。君らが反抗的だからちょっと予定を繰り上げたけど……まあ誤差ってもんでしょ」

 

 ………?

 

 「……は?」

 

 言われた言葉が、うまく頭に入ってこない。僕に会わせたときにはもう決まってたって、じゃあなんで僕に会わせた?

 知らない、知らないよ。最初から知ってたら、僕だって身構えてたさ。心の半分をあげたりしなかった。なんで、なんで、なんで、どうして?

 

 「僕だって人の心はある。だから楽しい時間を増やしてやろうと気を回してやったと言うのに、君はーーー」

 「そうじゃない!」

 

 声を荒らげたのは初めてだ。腸がぐつぐつ煮だって、頭が沸騰する。まだ不完全な蒼で吉野の腕を弾き飛ばし、無限を張って拒絶する。呪力をコントロールできない。憎しみの炎が身を焦がす。

 

 「なんで、なんで、なんでSと僕を引き合わせた! なんで今Sに移植した!? いつかやるって決まってたならもっと前にやれよ! なんで時間を開けたんだよ!

 僕が心を許すのを待ってたってたとでも言うつもりか!」

 「ああ、そうだ」

 

 冷たい瞳が僕を見下す。背中に氷を入れられたような寒気がして、全身に鳥肌が立つ。

 届くわけないのに、無限に触れる吉野の手が恐ろしくて仕方ない。

 

 「そうだよ、Sは替を精神崩壊させるための生贄だ。ねえ、替。君はラットなんだよ。君を飼育してるのは僕だ。君を使用するのも僕だ。

 君に自由なんてものはないし、君に安寧なんてものはないんだ。君に人生なんてものはないし、権利もない。尊厳なんて高尚なものもない。君の人生はすべて僕が掌握してる」

 

 手が、手が、手が。僕に近づいてくる。僕に触れようとしている。なんで、どうして。僕の無限が破られる?

 この男の術式は術式を強制解除するような物じゃないし、それができる呪具も持ってない。

 じゃあなんで、なんで、なんで、なんで、なんで!?

 僕が五条悟じゃないから? 不完全だから? だから無下限呪術が上手く使えない? ちょっと生まれが違うだけで、こんなにも違うのか、こんな目に遭わなきゃいけないのか?

 五条家に生まれなかったから、悟じゃなくて替だから、所詮代替え品でしかないから、だから僕はモルモットとしての人生しか用意されてないの?

 自由じゃなくて権利もなくて尊厳を凌辱されてせっかくできた友達もぐちゃぐちゃにされて。

 僕だって六眼を持つ無下限呪術師なのに、なんでこうも違うんだ。どうして僕だけこんな目に遭わなきゃいけないんだよ……っ!

 

 「ここにいる動物(にんげん)はすべて僕の所有物。

 全て僕が管理してるし、生かすも殺すも僕の自由。

 だから君の無限は僕を阻むことができない」

 

 ……そう、なのかもしれない。 僕は人間じゃないから、モルモットだから。

 ……そもそも僕がいなければお兄ちゃんたちは苦しい目に合わなかったんだ。吉野公平が脳に寄生されることもなかったし、お兄ちゃんは呪霊にならなかった。吉野一家はいまも幸せに暮らしてたんだ。

 Sだって、僕に会わなきゃそもそも生まれなかったかもしれない。僕という五条悟の代替え品なんかが生まれなかったら、Sは___■■■のクローンなんて最初から作られなかったんじゃないか。

 

 「(……なぁんだ、全部僕のせいじゃないか。)」

 

 お母さんの不幸も、お兄ちゃんの不幸も、吉野公平の不幸も、Sたちの不幸も、全部僕のせいだ。

 僕が生まれたせいで、そうなった。だから僕に自由なんて合っちゃいけない。

 

 「なあ、替。君は幸せになる権利なんてないよ」

 

 べきり。心が折れる音と同時に、生暖かい掌が僕に触れる。吉野公平の皮を被った寄生虫がニコニコ笑って僕をみてる。僕はただ、大人しく撫でられる。抵抗する自由なんてものも、僕にはないから。Sはそんな僕らを見てる。きっと僕を恨んでる。

 全部、全部、僕のせい。僕が悪い。僕の自由はどこにもない。権利がない。だから僕は自殺することもできなくて、ただいつかくる終わりを待つことしかできない。死にたい、死ねない。

 ……ああ、でも。お兄ちゃんなら。お兄ちゃんなら僕を殺す権利がある。お兄ちゃんは僕のせいで人生を壊されたから、僕を殺す権利がある。

 五条悟を殺しかけた吉野公平の術式を持つお兄ちゃんなら僕を殺すこともできる。お兄ちゃんが僕を殺してくれるなら、僕は「死ぬ」自由だけ得ることができる。

 顔を上げれば、額に余計な傷があるけれど吉野公平の顔がある。お兄ちゃんそっくりの、吉野公平の顔がある。歪に嗤う表情は「らしく」ないけれど、面影を追うことができるのは幸せなことだろう。

 ……お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん。どうか僕を殺してください。お兄ちゃんは僕を殺す権利がある。お兄ちゃんだけが僕を殺せる。

 お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん。僕はあなたと一緒に生きたいなんて図々しいことは言いません。なので、たった一つの自由をください。僕に死に様の選ばせてください。過ぎた我儘だけど、これだけでいいから自由をください。

 僕はこれから、そのためだけに生きるから。どうか、その時は僕を惨殺してください。




S…()()()()()()のクローン。(あまりにえぐいので活動報告にのせた日記風ストーリーに詳細があります。)
術式移植で脳を破壊されてしまった。しかし術式に適合してもクローン最大の問題である「同一視」問題が待っている。
再登場の予定は……?

五条替…精神的に敗北してしまったので「側だけ吉野(けんじゃく)」に逆らえなくなった。替くん風にいうなら「調伏された」
これが某31話(君には期待してるんだ)で脳野郎が行った無限貫通虐待現象のトリックである

ここで予告ですが、次章でミミナナと順平が今話でSや替のいた実験施設に凸ります。

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