「僕の愛の為に死ね。」   作:蔵之助

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*自分の原作に対する考察も含む内容になります。
*呪霊の発生に対するオリジナル要素含みます。
*本誌で追えてないので内容が矛盾する可能性があります、すみません
今回は胸糞悪くならない一部主人公の一人語り的な内容になりますのでご安心ください


吉野公平の記録

 あなたは、死ぬほど人を好きになったことがあるだろうか。好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで胸が物理的に張り裂けそうになったことがあるだろうか。僕はある。

 好きが過ぎて呪力の制御を失い術式が暴走して無意識に体内の呪力を呪毒に変貌させ本来製造者特権により無効になるはずの自家製の毒に殺されかけるというある種の自己免疫疾患を患ったことがある。これには俊則先生もドン引き大層驚いて、「呪力のコントロール身につけないといつか「凪さん」に悩殺(物理)されるぞ」と真顔で忠告されたことがある。

 僕的には凪さんに殺されるなら全然ありなのだが、それで凪さんが泣くのも悲しむのも苦しむのも自分自身をぶち殺したくなるほど嫌なので一()懸命頑張ることにした。文字通り命懸けだ。凪さんの生を守るために僕が懸命するのは自然の摂理。小学六年生の決意にしてはあまりにも気持ちが悪いとほうほうに不評なのだが知ったことではない。

 とにかく、僕は凪さんが大好きであるということを知ってもらえればいい。

 世の中には「好き過ぎて殺したい」とかほざくボケがいるらしいが僕には理解できないね。好きな相手殺すとか意味不明だ。好きな人を幸せにできないならお前が死ね。好きな人に危害を及ぼすありとあらゆる有機物無機物を排除してからひっそりと自殺するのがベストだと思う。

 

 

 

 ……ん? ああ、これ僕の持論だから君たちは気にしなくていいよ。僕はありとあらゆる「愛」を肯定するけど愛し方にはこだわるタチでね。僕も人間だから、気に食わない愛し方というのもあるさ。『愛』とはすなわち人間の価値。DVだってストーカーだって「愛」という形は肯定してやろう。だが僕はその愛し方が嫌いだから、僕の愛し方で打倒するまでのことさ。

 ああ、そんなのどうだっていいんだよ、僕の凪さんへの愛の方が重要だ。もっと聞いてくれ、僕がどれだけ彼女を愛しているのかということを。

 そしてもっと愛を確かめさせてくれ! 僕の愛を語り尽くしたら君の愛を聞き尽くそう! そして愛情論を遍く世界に広め、愛情論者で地球を埋め尽くすのだ! ああ、愛は素晴らしい! 愛こそ絶対無敵の法則! この呪いで穢れた世を愛の力で浄化するのだ!!

 

 

 

 

 ……え? 今度は愛の力で呪霊が生まれる? それならいいだろう、愛の呪いは愛の力で打倒しよう。とても素晴らしいことだね、世界平和かな?

 

 

 

 ……いやいや、呪霊が生まれない世の中になるのは僕的に困るよ。呪いってある種の防衛機構だぜ?

 非術師だけが呪いを生むのだとすれば、それは呪いを外に昇華したということ。ようは、呪いを溜め込んで暴走せずに済んだということたろう。

 だって呪いが生まれないということは負の感情を溜め込むということで、「負の感情」をなんらかの行動に起こす人間が多いということだ。

 海外に目を向けてみろよ、呪いの発生が少ない分人的災害が多いだろ?

 呪いが生まれない土地ってのは犯罪者が多いってこと。僕ならそう推測するね。

 世界的に見て日本の呪霊の発生率が高いというのは、それだけ日本の治安がいいということだろう?

 だからね、呪いが生まれないということはいつ、どこで、だれが、どんな理由で犯罪者になるかわからない世界になるってことさ。全世界米花町化なんて笑えなくない? 僕は嫌だね、そんな世界。ハンガーが原因で殺されるなんて冗談じゃない。

 かといって、全人類を術師にするっていうのもおすすめしないな。だってさ、呪術師ってのは当号(イコール)で人間失格イカレ野郎って意味だよ? 

 全人類キチガイっていうのは……ちょっと……なぁ?

 じゃあ呪力から脱却すればいいって? どうやんの、それ。

 

 

 あーうん、なるほど。でも無意味じゃないか?

 全人類が例の術師殺しになるならまだしも、そうじゃなければ多少の呪力は残るんだろう? じゃあ結局、呪霊は生まれる。

 一定以上の呪力を持つ人間を作らないようにするなら呪術師が生まれないってわけだし、呪霊に対処できる人間が皆無になるから不審死とか怪死事件増えるだろ。世の中にはどうにもならないことがある。

 つまり、世界のシステム的には現状維持が一番最善。というか、長い年月の中で最適化した形が今のシステムなんだから下手にいじらない方がいいと思うぜ。

 肝心なのはトップだよ。屋台骨が腐ってるからこんなことになる。まず、上が誠実な対応をする、これが基本だろ。

 呪詛師に離反する輩を減らせば人材だってそれなりに確保できるし、まだろくに育ってない学生のうちから任務に派遣なんかするから人材不足になる。

 だから僕的には革命しかないと思うんだけど、あなたはどう?

 

 

 

 ■■■

 

 

 「……なるほど、君とは致命的に思想が合わないみたいだね」

 「僕もそう思うよ、九十九由基」

 

 同じ特級同士仲良くしたかったんだが、と肩をすくめる女に僕も苦笑いを浮かべる。ビリビリと、殺気じみた呪力の応酬をしながら。

 気づけば周辺に人は誰もおらず、遠巻きに僕らを見ている。

 

 「君の言うことも一理ある。だが、ただの推論だ。呪力の介在しない世界こそ本当の平和といえるだろう」

 「そうだろうね。じゃあ統計データをまとめて貰おうか。手っ取り早く決着がつくいい方法だ」

 「なら、私も作ろうか。呪力から脱却した世界を作るための研究論文とか……ね」

 

 致命的に価値観が合わない。出会って早々に感じたこと。彼女と僕が同じ道を歩くことはないだろう。だって、ありとあらゆることが噛み合わない。

 世界に関する認識の違い。非術師への関心の違い。呪霊に対する考察。変革か現状維持か。人類という概念を愛するか、個人を愛するか。

 彼女が「呪力から脱却した世界のほうが幸せだろう」と僕に愛を押し付けてくるなら、僕は「んなもんごめんだね」とその愛を突っぱねる。

 相容れない「愛」の形をもつもの同士だ、他人の愛を良しとできない。愛と綺麗に飾っても、結局は誰かに押し付ける「エゴ」にそれっぽい名前をつけただけなのだし。

 でも、まあ。僕はもう二度と彼女会うことがないだろう。そう、思いながら。僕は彼女を見送った。

 

 

 


 

 

 非術師からしか呪いが生まれないなら、僕は一体なんなのか。可愛い息子の魂に寄生する己を自嘲する。

 僕は呪いだ。紛うことなく呪いだ。術師により呪い殺されたにも関わらず、死後呪いとして生まれ変わった。多少のタイムラグは空いたけれど、僕は呪いとして生まれ変わった。

 そしてきっと、僕は純粋な吉野公平(ぼく)でもない。僕という個人を恐れた人から生まれた仮想怨霊に死体が動かされてるせいで死に切れてなかった自我の残り滓みたいなのが寄り付いたよくわからない呪いだ。

 

 「(そうなると、僕という呪霊の鋳型を作った「恐れ」はきっと……)」

 

 考えるまでもないが、そういうことだろう。なあ、これをあなたはどう思う?

 どのみち、僕もあなたも、「愛した」人には声が届かないんだろうけど。


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