前回の更新から軽く一年経ちそうですね。思いつき突発衝動ネタから始まったこの呪術廻戦二次創作もとうの昔に50話を超えて59話目。
死滅回遊の展開がいい感じに落ち着いたら続き書こうかな、とか思ってたら全然死滅回遊終わる気配がないので当初考えてた「ある程度原作を意識しつつ、順平が生きてたらどうなったかを妄想する」というルートから大きく外れて完全オリジナルルートに突き進むことにした次第ですが、これがまた大変で。
プロット組み立て直しからの書き直しからの矛盾の嵐で死にそうになったり。筆投げようかと思いましたね。
ですが私は思い出しました、「二次創作はなんでもあり」、素晴らしい呪文です。
と言うことで渋谷事変からの死滅回遊ルートはキャンセル、こっちはこっちの独自ルートに舵を切らせていただきます。
*なお、今章はちょっとSCP要素入ってますがぶっちゃけSCP関係ないです。
ただただ、道幅の広い一本道。無限に広がる田畑が窓越しに見える。
「○○県の山奥にある廃墟を撤去しようとすると事故が起きるって言うのは、だいぶ昔からわかってたみたいなんですけどねぇ〜。
なんかぁ、県から廃墟の取り壊すように条例が出たらしいんですよねぇ」
ピンクのパッソに乗ってそうな雰囲気の補助監督が地味なセダンを運転しながら妙に間延びした甘ったるい声で説明する。
後部座席は二列。前列に双子が座り、僕は後列。席と席の間から顔を出して、奈々子が持つiPadを覗く。
「そんなわけだから、八月の頭あたりから三回業者が取り壊しに向かってるんですけどぉ〜、やっぱ事故起きたみたいでぇ。
怪我人が出ても死人は出て無かったけどぉ、とうとう先週現場監督が死んで……って感じですかねぇ〜
えへ、その写真よく撮れてません? わざわざ撮りにいったんですよぉ。3回も!
めるぅ、偉くないですか?」
「はいはい」 「そーだね」
喋り方に相応しい、ふわふわした外見でまあまあ残酷なことを言う。現場検証用の写真の中に紛れる自撮り写真に狂気を感じる。
「がんばりましたよ」の言葉に合わせてハーフアップのツインテールと髪飾りのピンクリボンが揺れる。赤信号で停車してれば後部座席に顔を出していたであろう。
彼女の名は
双子が言うには「性格、外見、年齢全部NGのスリーアウト地雷女」……らしい。よくこの人に送迎してもらうとかでちょっと詳しいとかなんとか。
補助監督としてはベテランで伊地知さんの後輩。アタオカで地雷だが仕事はちゃんとするとのお墨付き。ちなみに結婚願望はあるらしく狙ってる男は伊地知さんだとか。
確かに資料はまとまってて見やすいし、安全運転で快適なのだが……本人の癖が強いのが難点だ。
「なんかぁ、すごい死に方なんですよ。
こう、ぎゅっと、巨人の手で丸めまれたみたいに丸められたみたいな」
美々子の呟きを拾い、おにぎりを握るみたいに「ぎゅ」とハンドルから手を離して空気を握った彼女に「ハンドル離すんじゃねーよ」と奈々子が注意を飛ばす。
「んでさ、佳代子。なんでこれ準一級案件に設定したの?
被害者の数的にニ級が妥当じゃない?」
「あれれー? めるぅって呼べって言ってるよね?」
「あーうん。はいはいめるぅ。んで?」
液晶画面に映る画像をみて、生返事。報告書に貼り付けられた写真は原型を失った 赤黒い塊……人間団子が鎮座する。
「えぇっとぉ、なんで準一にしたのかでしたよねぇ?
たしかにこの呪霊、噂の割には被害者数が少ないです。
直接的な被害で死人が出たのも最近からでぇ、先週の三人が初めてみたいですぅ」
「へえ」
「でもぉ、おかしいですよね?」
赤信号。黄色い旗を上げた小学生の集団がワイワイ騒ぎながら横断歩道を渡るのをフロントミラーの向こうに見えた。
「噂の広がり方に対して被害者の規模が釣り合わない。被害者が大袈裟に噂を流したにしてもその痕跡はない。
誰が言い出したかもわかない、でも誰もが知ってる噂。
口裂け女やメリーさんのような都市伝説系の特徴がまさにこれです。
これで二級なんて軽すぎる、三級なんて尚更。なんならもっと等級が高い可能性すらあります」
ハンドルを硬く握りハキハキ喋る。うざったらしい喋り方も鳴りを潜め、聞き取りやすい少し低めのトーンで流れるような語り口。青信号、動き出す車。殺伐な空気感か漂う車内。
「あんたの予測だと何級?」
「最低二級、妥当が準一級、……最悪一級以上」
「あー、だからうちらね」
「とーくーにー、吉野くんは特級呪術師に認定されたそうじゃないですか。(乙骨さんみたいな特例とも聞きましたが。)
暴走しても枷場さん達ならどうにかできると夏油さんからのお墨付き貰ってます」
「「え!!」」
夏油の名前に、ミミナナの瞳がきらりと光る。バックミラーに極悪な表情で笑う岡田さんの顔が映っていた。
「とりあえずぅ、当時事件現場を目撃した社員さんにアポとってあるんでぇ、キキコミよろ⭐︎」
「「語尾うざい」」
「えぇ〜〜」
ぷく、とわざとらしく頬を膨らませ、路肩に車を止めて停車する。
菜々子たちが降りてから後部座席から降りる。田園風景が広がる田舎の駅。東京と比べて少し肌寒い。
視線をずらせばコインロッカーに野菜を入れた直売所とパンの自動販売機が隣り合い、横断歩道を挟んで自動販売機。ロータリーの一部で青空商売をしている雑貨屋もいる。
無人改札を通りぱらぱらと人が出てくるが、現時点で学生がわずか三人だけ。女が1人、男が2人。頭の中でそれぞれを少女A(紅一点)、少年B(見た目的に不良)、少年C(いじめられてそう)と仮称することにする。ちょっとした区別にはなるだろう、B級映画の登場人物みたいで少し面白いし。
…僕の内心を見透かした美々子が「なんか変なこと考えてるでしょ」とぬいぐるみを腕に抱きながら見咎める。別に、と僕は目を逸らして田んぼに視線を移す。
「てか、ヒト
「学校も微妙じゃない? 限界集落っぽいし生徒数少なそう」
「まあ、実際少ないですしぃ〜。
でも、まいったなぁ、事前調査では学校より駅の方が人いるってきいたんだけどぉ……」
「あんまりdisらない方がいいんじゃない? どこに耳があるのかわからないんだから……ま、内容には同感だけど」
「人のこと言えないじゃん。
……はー、しゃーない。とりまあいつらに聞くか」
「いってらっしゃい、菜々子」
「お前も行くんだよ。
あ、
「壁役よろ」と吐き捨て、たらたらとかったるそうに歩いて学生に近寄る奈々子。その隣を肩で風を切りながら進む美々子。風貌と合わさり完全にカツアゲをするギャルにしか見えない。
手をカーディガンのポケットに突っ込み、道のど真ん中に仁王立ちする様は堂に入った
「ねえ、ちょっと聞きたいことあんだけど」
少し首を傾け、下から舐めつける。バラバラに歩いていた田舎っ子三人が恐怖と困惑の声を上げる。逃げようと後ずさるのを「聞いてるだけじゃん、逃げんなよ」と美々子がカバー。僕もなんとなく、美々子の対面に立ち三人を囲む。壁役ってこれでいいのかな?
アイコンタクトで聞いてみたら頷かれたので多分これであってるのだろう。囲まれた三人はたまったもんじゃないだろうけど。
「はぁ?
余所者がこの街になんのようだ。てか邪魔、どけよ」
「だーかーらぁ、話聞かせてって言ってるだけだっての。
怖いことはしないから落ち着きなって」
「知ってること素直に話せばいいだけ」
「はは……まあ、そう言うことだから……」
せめてものフォローでできるだけ優しい声で語りかけるも三人組は口を固く閉ざしたまま。むしろ心なしか警戒が増した気がする。……いや、普通にカツアゲ風景だな。最悪すぎる。
「……何が知りたいんだよ」
「藤見山。あそこで起きた事故について」
代表してしゃべっていた不良くんが眉間に思いっきり皺を寄せ、菜々子*1を睨みつけた。対抗するようにガン飛ばす美々子と睨み合いをしていた少年Bだが、ふと口を閉ざす。地元民なのに聞いたことがないのだろうか、「ふじみ……?」と言葉を繰り返す。
「淵見山のこと言ってんのか?」
口籠もり、何かを思案して。そして冷ややかな敵意を瞳に宿す。
「やめとけ、何も知らずに帰ったほうがいい」
「あ? なんか知ってんの?」
「……しらねぇよ」
俺は何も知らない。知らないし、知ろうと思ったこともない。だから、勘弁してくれ。
苦い顔でそう、言い切る。ヤンキーみたいな面構えをしてるくせになかなか律儀な性格のようで口調以外態度も悪くない。ちょっと拍子抜けをする。
「その反応はなんか知ってんでしょ。なんでもいいから教えてくれない?
ちょっと聞いたらうちら帰るしさ」
「ほら、一週間前に人が死んだって山。この辺なんでしょ?」
「……逆に、なんでそんなに知りたいんだよ、アンタら」
「……あー、あれだよ。えっと___」
「お参りだよ」
菜々子が下手なことを言う前に、食い気味に口を挟んだ。「お参り?」と聞き返すBに「そう、知り合いなんだ」と息を吐くように嘘をつく。
「それは、なんつうか……運が悪かったな」
「運が悪いって何? あれは明らかに事故として処理されていいものじゃない」
「だろうな。
……山調べてるって言うのも、それで?」
「警察に聞いても無駄だし。理由は話せないのにそれで納得しろだなんて言われても、さ」
「……そー言うこと、だから私たちで調べてやろうと思ってここまできたの」
よくもまあ、こんなにするする嘘がつけるものだ。あっという間にできた
双子の嘘に完全に騙されてるBは痛ましそうな眼差しで「そうか」と一言呟いたけれど、「でも、やっぱり俺からは何も言えねぇ」と口を閉ざした。
「ちっ、つかえねぇ……」
「納得できないかもしれないけど、山に入るのだけはやめとけ。 これ以上は禁忌に触れる」
「……禁忌?」
「だって、あの山は……」
また、口籠る。するとさっきまでずっと黙っていた少女が舌打ち混じりに吐き出した。
「行きたいなら行かせてやればいいじゃん。私たちは別に何も教えてないんだし」
「おい」
BがAを咎める。やたらと「禁忌」という言葉が出てくる。これは、何かがおかしい。
「……それ、どういうこと?」
「は、だれがよそ者に教えるか。勝手に入って勝手に死ね」
「ふぅーーん、あっそ」
菜々子がたまらそうに舌打ちし、そして……急に腕を振り上げたかと思ったら少女Aの背後のコンクリ塀を破壊した。障子にでもするように、コンクリートの分厚い壁に拳サイズのまあるい穴が開く。
呪力で腕力を底上げしたのだと僕はすぐに理解したが、カラクリのわからない彼女には突然の暴力にただただ恐怖しかないだろう。強気な態度から一変、ぱらぱらと舞う粉塵を目で追いながらカタカタと震えている。
「あのさー、さっきから何度も言ってるけどさ、うちは知ってること教えろって言ってんの、言葉わかる?」
「同じこと何回も言わせないでくれない?」
「まあ、難しい質問してるわけじゃ無いんだからさ。
優しく聞いてるうちに喋った方がいいと___」
「あ、あのっ!」
恐怖に青ざめ震える少女。その子を庇うように………と、言うわけではなく。一歩前にでて僕に近づいた彼は青いような赤いような顔色で詰め寄る。
「あの、もしかして貴方達は
ボタンを見ても無反応だったのに、菜々子のコンクリ粉砕パンチをみて何か思い至ったのか。Cの顔はなにかを確信している顔だ。
「そうだと言ったら?」
「そうですか。なら、いいですよ。
僕が知ってること、全部教えます。だから、山に行くなら僕も連れて行ってほしい」
「はあ?」
唐突な質問に一瞬呆ける。何で今それを聞くのかと内心首を傾げる僕をよそに会話は進む。
少年Cの急な変化対応にBとAが「何を考えてるんだ」「考え直せ」と言い募っているが彼の瞳は変わらない。
「足手まといとかいらないんだけど」
「てか、邪魔すんなし」
「……同行させてくれないなら、僕も何も話しません」
……。
ふー、と片目を瞑り、親指を眉間に当ててため息をつく。舌打ちをして、不遜に鼻を鳴らす。
「じゃあ、とりあえず座って話せる所に行きましょう」
■■■
この町は呪われている。
この街の人間なら、きっと一度は考えたことがあるはずだ。そして今は、みんながそう思ってる。一度思い浮かんだ考えは脳にべったりと染み込んで離れなくて、芯から冷え込むような恐怖に代わる。
そういうのは必ずしも、根拠要因があるから思い浮かべてしまうのだ。
根拠のない偶像めいたものならばここまで恐れない。呪いというのは大抵、そういうふわふわした不明確なものなのだろう。でも、この町では違う。そうではない。
この町に住む九割近くの住民が、呪いのものとしか思えない実害を受けたことがあるから、そう思うのだ。
……昔からよく人や動物が死ぬ山だったらしい。いや、昔と言っても二十年くらい前までは時々そんな話が出るくらいで、ひどくなったのはここ十年だという。「山向こう」に関わらなければちゃんと無事だった。それに、死ぬというのもあくまで予想で、正確には行方不明だったから。
山の頂上に研究施設ができた後だ、と親の世代の人間は言う。なんでも、祠を潰して、その上から建てたらしい。
……そのせいで、「境」が広がってんじゃないかとみんな噂している。
なんでそんな無礼なことをしてしまったんだ、なんで止めなかったんだといえば、年寄りも比較的若い人も、口を揃えて同じことを言う。「気づいた時には建てられてきた」と。
それが、ひたすらに怖いと僕は思っていた。街のみんな、誰も気づかずに造られた失礼極まりない研究所。何を研究してるのかすらも知らない、怪しい場所。
曰く、生態系を調査していた、とか。
曰く、星の観測をしていた、とか。
施設が閉じるまでの7、8年間、誰も気にしたことがなかったと言うことが不気味で不気味で仕方がない。
不気味といえば、あの荒れ方もそうだ。廃墟になってせいぜい2、3年しか経ってないくせに、十年以上経過してるとしか思えない風化の仕方をしてる。あの山は何かがおかしい。そんなのみんな分かりきってるから山に近づきたがらない。子どもなんて山の近くを通ることすら禁止されてる。まあ、それは元からだけど。神社の爺さんはあの森を「禁足地」だと言っていた。山から悪いものが流れ込んでこないように結界を張ってるから、封印をして
状況が変わったのは大体ひと月ぐらい前。
県の政策とかで、山に工事の人が立ち入るようになった。それ以来、街がおかしくなっていく。僕は見ていた。だから知ってる。
最初は、比較的山の近くの珈琲屋のおじさん。両腕を残して失踪した。
次は神社の爺さん。「背中に手がみえる」と数日間言い続けてから、珈琲屋のおっさんとおなじく失踪。死体の代わりに小さな土の山が一つ残ってて、たったそれだけで警察は爺さんを死亡扱いにした。
賽銭泥棒が入ったのだと警察は言っていた。爺さんは驚いて死んでしまったのだと。
次は校長。次はスーパーの店員。次は、次は、次は……。
じわじわ、じわじわと。死体が残らない死人が増え続ける。腕だけ残ってればまだマシで、人型にみえる黒いシミと砂の山を残してみんな消える。山から溢れ出した瘴気が街に流れ込んできてるような悍ましい感覚。不自然が積み重なっていく異常に誰も、何も言わない。
神様を怒らせたせいだと、みんな噂していた。
……そうじゃない。怒らせたとか、神様だとか、的外れだ。そんなじゃない。もっと怖くて、悍ましいものだ。きっと僕しか知らない。いや、僕だって覚えてなかった。かつてそれに巻き込まれて、そして今まで忘れていた。綺麗さっぱり。封印してもらったのだと今ならわかる。
なぜ今かって言えば、思い出してしまったから。言われたことがある。封印の鍵は一回緩んでしまうとたちまちのうちに崩壊すると。だからきっかけから離れて暮らすようにと言い含められていたから。
まあ、僕はその教えすらさっぱり忘れていたわけだけれど。なんなら、あいつのことすらイマジナリーフレンドか何かだと思ってたんだから最高にクソッタレだ。
話を戻そう。この封印が緩んだ原因はもうわかってる。一週間前のニュースだ。
なんとなく、朝、テレビをつけていたらふと耳に入ってきた言葉。
「
ニュースキャスターの言葉ひとつで思い出した。たぶん、キーワード的なやつだったんだと思う。薄ぼんやりとした「恐怖」の記憶。そして緩んだ封印は最後の鍵だった『仲間』との遭遇で完全に破られた。
とある少年との会合。
巡り合った醜悪な運命。
繋がったまま別れた手と手。
血と骨と臓腑と、それからテラテラと光る脂肪の色。
怨嗟と悲嘆に彩られた日々。
意図的に消し去った忌まわしい記憶。
……あの街に奪われてしまった、大切な人の記憶。
『協力ありがとう、君たち兄弟のおかげで次のステップに進めるぜ』
『……君が生きていくのに、この記憶は重すぎる』
伸ばされた、血に汚れた手。うっすらと微笑む唇の形が、今も鮮明に思い出せる。
僕と兄さんが過ごした、死臭に満ちた研究所での記憶。救い出されたのは僕だけだった。
『■■■■■■■』
悍ましい記憶の蓋が開いてしまった。勝手に消された苛立ちよりも、今は仇に対する憎しみの方が強い。許せない、絶対に殺してやる。大切な大切な、僕の片割れ。僕の半身を奪った奴ら全てに報復する。
今度こそ、僕は逃げたりなんかしない。