「僕の愛の為に死ね。」   作:倉之助

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倫理/崩壊

それを見た瞬間、言語化できないめちゃくちゃな感情が僕を内側から焼いた。

【PM.9:00】

 

「ここ……」

 

既視感。そう、多分、これは既視感だ。デジャヴとも言うそれは多分僕にとってどうでもいい軽い何かか、もしくは思い出したくもない悪い思い出のどちらかだろう。そしてそれは後者だと、耳元で誰かが教えてくる。

ずきずき痛むこめかみを押さえる。ああ___吐き気がする。

 

「なに、なんか知ってんの?」

「いや、なんでもない。多分オカルトサイトとかで見たんだろうな」

 

無骨な裸コンクリートの塀と金属のフェンス。コンクリの中に嵌め込まれたプレートをなんとなく拭いてみる。

 

「……バイオ研究所」

 

そんな物ではないと脳みそが揺れた。僕の中にいる誰かが怒鳴り声をあげている。その怒りに釣られて、僕の憎悪も強く燃えた。

 

「なんでわかるの?」

「ほらここ」

 

塀に埋まる金属板ーーーおそらく表札か何かだろう。錆が酷くて読み辛いが、かろうじてバイオと研究所という文字が読み取れる。馬酔木が「まあ、バイオと言えばバイオですね」と歯切れ悪く答えた。

「そういや、アンタは昔ここで遊んでたんだっけ」

「はい。スグルに連れて行かれた場所だけですけど」

「……ふぅん」

キッズルームみたいなやつですよ、と思い出し笑いを浮かべる馬酔木に苦虫を噛んだような顔で「そうなんだ」とだけ言う美々子。多分、彼の友人で全ての元凶だとかいう少年の名前に引っ掛かっているのだろう。その名前は彼女らが敬愛してやまない恩師と同じという一点のみに。

 

「研究所ってキッズルームっておかしくね?

フツーないでしょ、そんなもん」

「まあ、それだけココが特別だったんじゃないですか。知りませんけど」

「何か心当たりとか?」

「……ありませんよ、そんなもの」

 

舌打ち。嫌悪に満ちた表情で、馬酔木が研究所の廊下を歩く。一歩一歩、恨みつらみを込めるように丁寧に、踏み躙るように。

 

「行きましょう、早く。僕たちの目的は化け物でしょう?」

「……そうだね」

 

捌縁。縁が捌かれる街。境界線を超えた山向こうの死んだ土地。

 

「(……痛い)」

 

苦しい。さっきから心臓がバクバクいって息苦しい。呼吸がしずらい。生きているのか死んでいるのかわからない。ぐちゃぐちゃにされて、蘇って、嗚呼、本当に……

 

「(生き苦しいよ、■■さん。どうしてこんなことするの!)」

 

……あれ、今誰のことを考えたんだっけ?

目の前に浮かぶ白衣の人影。聞こえてくる悲鳴、荒ぶる鎖に鉄格子。僕は何かを見上げてる。

 

「散々禁忌がどうこう言ってたくせに、あんま気にしてないんだね」

 

美々子の声。意識が現実に戻る。まずい、トリップしていた。任務中に何をしていると両頬をを叩く。

 

「淵見山の禁忌はたくさんありますが、要約すると『山向こうに関わることを禁止する』って内容に収まるんですよ。山さえ越えなければ禁忌を破ることはほぼないんです」

「人、死んでるんじゃないの?」

「ああ。あれは捌縁町とは関係ありません。今山の下で起きてる失踪の原因は全部この研究所から沸いてくる化け物どものせいなので」

「さっきと言ってることが違くない?」

「え、そうだったかな……そうかもしれない。僕の目的はあなたたちを連れて研究所(ここ)に来ることだったので」「嘘ではないけど本当でもないってところ?」「や、まあ、狂言回しですよ」

「は?」

 

ぴきり。美々子の顔に血管が浮き上がる。日本人形みたいな清楚な見た目に似合わぬ凶悪な表情。そんな美々子を至近距離で見たというのに、馬酔木は飄々とした態度を崩さない。

 

「だったら、最初から1人で行けばいいじゃん」

「そう簡単な話じゃない」「……けど、僕の個人的な理由ですよ」

「あっそ」

違和感。馬酔木は1人で喋っている。それは確かだ。でも、なぜか2人が交互に喋っているように感じる。意味がわからない。

僕の感じた違和感を美々子も感じたのだろうか。首を捻る彼女に語りかける。

「ねえ、君も何か感じる?」

「……なんか、変」

 

小さく頷く。「綺麗すぎる」と美々子がぼやいた。なんだ、馬酔木についてじゃなかったのかと内心がっかりしながら、「確かにね」と彼女に同意を返す。

白い壁は煤けているがまだ白いとわかる程度の汚れ方で、全面ガラス張りの廊下は夜だというのに月明かりで明るい。それは窓が砂ぼりで汚れていないからで、山奥なのにこんなにも窓ガラスが綺麗なのは人の手を感じさせる。

 

「本当はまだここ、使われてるんじゃないの」

「そんなことは……」

 

馬酔木が「そんなのはありえない」と小さく言った。

 

「ありえません。だってここの研究者たちはみんな死んでます」

「言い切るね」

「知ってますから」

やはり、何かおかしい。はじめは小さな違和感の積み重ね。でも今の言葉で確信した。

馬酔木陽太は何かを隠してる。

 

 

 

【代表者:■■の証言】

 

「あそこはほとんど根の国みたいなものだから。捌縁町はどこもかしこも死という穢れで満ちた町だ。禁忌で縛ってギリギリ人が生きられる程度の地獄。呪術連が禁足地に指定するのも当然だよ。しかし、死んだ土地から生まれる呪いを一つの町にだけ押し込めるなんて天元も残酷なことをする。

その分、町に入るのはめんどくさい。境目ギリギリにこの施設を立てるのには苦労したよ。その分重宝したけどね。

あの頃はまだ、呪毒操術術式の解釈が上手く行ってなかったんだ」

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