▼閲覧注意
「最愛」二人が畜生にも劣る外道な扱いを受けています。
描写はないんですけれど、 R-18Gの匂わせがあります。
覚悟を決めて読んでください。
[一年後]
2007年.7月7日
今日は七夕だ。
僕と凪さんの結婚記念日だ。僕の誕生日でもある。18歳を迎えて速攻入籍したので自動的にそうなったけれど、織姫と彦星が年に一度出会う日が結婚記念日とはなかなか縁起がいいと気に入っている。
なので、いつも任務で引き離されている
結婚記念日と、凪さんの誕生日と、純平の誕生日の三日間は意地でも家族三人でパーティをすると決めている。ちなみに、任務で潰されてしけたバースディを送る同期や後輩どもには恨まれまくってる。一年のうちに確定休日が3日しかないんだからそれで許してほしい。
しかし、今年はそういうわけにはいかない。凪さんと順平に会いたくて会いたくて震えているけど、我慢をせねばならぬのだ。
二人を鴨川先生に匿ってもらってから、約一年。ずっと会えてない。会うわけにはいかない。
仕方ないじゃないか。僕を狙っている
ら、病気を疑われて医務室に送られた。ひどい話だよね。休んだら文句言われるのに仕事するって言ったらこれだもの。
僕の突然の奇行は鴨川先生にまで届いてしまって、お見舞いに先生が現れた。
先生は僕が危篤と聞いて慌てて駆けつけてきてくれたのだ。本当に申し訳ない。
「いやいや、吉野君が無事でよかったよ。危篤なんて言うから、何事かと慌てちゃった。」
「本当、申し訳ありません。」
ああ、本当に、伝令をした補助監督はなんてことをしてくれたのだ。……先生はまだ怪我が治りきっていないのに。
そう、先生は未だに怪我と戦っている。ほとんど完治してると自分では言うけれどね。
先生の額には、縫い目が痛々しく残っている。頭を怪我してしまった理由は「秘密」と言って教えてくれなかった。
呪霊との戦いのせいでとか、呪詛師に呪いをかけられたとか色々と噂されているけれど、本当のところは誰も知らないし、そもそも教えてくれない。ただ、この頭の怪我が転勤の理由であるのは間違いがない。
最後にあった時、凪さんと順平を預けたときは包帯を巻いていた。あれから一年。もう包帯は取れたみたいだけど、縫い目は残り続けている。
それを含めて心配したら「大丈夫だよ、吉野君は心配性だなぁ。」なんて笑われてしまった。
「どちらかと言うと、私は君の方が心配だよ。」
「先生までそんなこと言うんですか?」
「そりゃ、そうだろう。幾つになっても、君は私の可愛い教え子だよ。」
久しぶりに会ったせいだろうか、先生の笑い方がなんかいつもと違う気がする。いや、どこが違うのかと聞かれたら答えられないのだけれど……感覚的な話だ。
2年前まで、僕はいつも先生の後ろをカルガモのようについて回っていたから、なんとなくそう感じるだけ。こう言うのを、ロックバンド風に言うなら「魂が叫んでる」と言うのかもしれない。そこまで大袈裟じゃないけどさ。
でも、それを指摘する勇気はなかった。
脳神経がどーのこーので表情筋の神経がどーたらこーたらって話になったらどうしよう、という恐れがあった。
僕は薬学を嗜んでいるから、そう言う生物学的なものにも理解があるのだ。
もしそうなら、どうだ。僕はあまりにデリカシーのない最低のクズ生徒になって、先生の可愛い教え子ではなくなってしまう。
愛する人を故意に傷つけるなんて絶対に許せない。先生が許しても僕は僕を許せない。
だから、沈黙を選ぶ。きっと、心配しすぎなだけだ。
「吉野君」と僕を呼ぶ、羊水のように穏やかな声は変わってないのだから。
「なあ、吉野君。君だって、なんで自分が心配されているのかわかっているんだろう?」
「そりゃ……まあ、はい。」
「ふふ。だからね、私からささやかな誕生日プレゼントだ。」
先生がお茶目にウインクする。ど下手くそで両眼が半開きになってる状態をウインクと言っていいのかわからないけれど、先生はそれを頑なに「ウインク」と言い張っていたのでウインクなのだろう。
ウインクがゲシュタルト崩壊しそうなウインクをした先生が、唇を僕の耳に寄せる。密やかな、しかしぽーんとゴム毬のように弾ませた声音で、先生は僕に囁く。
「久しぶりに、奥さんと息子くんに会いにいこう。君だって会いたいだろう?」
「めっちゃ会いたいです!!」
「はは、元気がいいなぁ!」
折角先生が気を遣って、ひそひそ話にしたと言うのに、僕は歓喜を抑えることができなかった。だって、ずっと会いたかった。この一年間、会えない間もずっと二人を愛してた。
早く再会したくて、必死にあの研究所に関わってそうな呪術師を調べ上げ、時に吊し上げ、拷問しながら情報を探っていた。
最有力候補のとある呪術師を偶然見つけたから、捕縛して拷問して問い詰めたのだが、悲しいことに白だったので振り出しに戻ってしまった。
それが、大体半年前のことだ。まだ、当分会えないなぁ、と悲観に暮れていた時に、この提案。
さすが先生、僕のことをよくわかっている。
「じゃあ、行こうか。」
「うん、ありがとう先生。」
「なーに、まっかせない。
君は私の可愛い生徒だからね。」
先生がほら、と手を差し出した。僕は久々に先生に甘えて、子どもみたいにはしゃいで、先生の手を握って歩いた。
ーーーーそれが、どうしてこうなってしまったのだろう。
「先生?」
ぴたりと、足が止まる。先生が向かっている場所が「自分の知っているところかもしれない」と、疑う。
まさか、そんな、嘘だ。間違いだと、自分に言い聞かせて重たい足を引きずって歩いた。でも、目的地に近づくにつれて不気味な確信が首をもたげるのだ。
違う、嘘だ、そんなわけない。
その三つを連用して、歩いて、歩いて、歩いて……到着してしまった。
目的地は、僕の想像通りの場所。
「ちょっと待って、どうして、ここって……」
「来ないのかい、吉野くん。
君の大事な奥さんと息子くんはここだよ。」
最近掴んだ、例の研究所の別支部。本部かもしれないと囁かれてたその白い建物の中に、僕の最愛がいると先生が嘯く。
一目散に駆け出した。どこにいるのかなんてわからなかった。がむしゃらに走って走って、……見覚えのあるガラスドーム越しに、二人を見つけた。
「凪さん、順平……っ!」
順平は牢に繋がれていて、凪さんは透明な個室の中で眠っている。狭い部屋に大きなベットが備え付けてある。
きっと、親子二人で寝てるんだ。そう、きっとそう……
………じゃ、ねぇだろ。
「なんで、どうしてですか先生。
どうして、凪さんと順平が……っ!」
「吉野君、現実見てる?」
先生が、白衣を着てそこに立ってる。羊水のような落ち着く声だと、今までずっと思ってた。でもそれは間違いだ。冷水をぶっかけられたような、ヒヤリと冷たい冷徹な声。
「どうしてもこうしても、君の家族は僕の研究材料になっただけさ。」
瞬間、僕を支配したのは殺気じみた強烈な怒気。
「お前がやったのか……っ!」
「そうだ。私がこの研究の責任者なんだ。」
「なんで!!!」
先生は、そんなことしない。先生は優しい。そもそも研究畑の人間じゃなかったじゃないか。
それが、どうして急に。まさか、ずっと僕を騙してたのか?
そんなまさか。もしそうならなんで、四級の中学生の頃からつきっきりで教えてくれたんだよ。
矛盾してるじゃないか。そもそもその時、僕は凪さんとお付き合いしてたけど順平は生まれてなかったし、いやそれ関係ある?
とりあえず、先生が強烈な悪意を持ってそれを成し遂げたと言うことだけは分かる。だから、苛つく。憎らしい。
「なんで、なんでなんで! なんであなたがこんなことを! なんでこの二人だったんだ!
どうして凪さんと順平を利用した!」
「そりゃ、君の嫁と息子だからだ。」
絶句とは、まさにこのことを言うのだろう。
信頼を裏切られた悲しみ。
信用を利用された憤怒。
思い出を汚された哀切。
そして、僕の最愛を踏み躙られた殺意。
「君、非術師出身のくせにちょっと強すぎるんだよね。
最低なタイミングで、最高だったはずの恩師が、嗤った。もはや言っていることが理解不能で、呆然と立ちすくむ。
「人造呪霊計画。面白いとおもうだろう?
人間の術式をもとに、呪霊を作り出す。呪術師が死後呪いに転ずるケースってあるだろう、あれを故意に行うのさ。
君の息子は君と同じ術式を持っていた。だから、君と同じ性能の呪霊を作りたかったんだが、半分失敗してしまった。
いやぁ、術式を呪霊にするのは概ね成功したんだけど、【肉体と分離】するのが難しくてね、生まれながらに受肉した呪霊、と言ったところか。
これはコレで面白いのだけれど。」
「ふざけるな!!!」
おもろしい!?
どこがだ、ちっとも面白くなんてない!
なんでわざわざ人間を呪霊なんかにする必要がある、新しく呪霊を生み出すことになんの意味がある?
そして、何よりも。僕の順平になんてことをしてくれた!!
「未来のためだ、多少の犠牲は仕方ない。
本当に素晴らしいものは、地獄の底で生まれるものなんだよ。」
「〜〜!!」
先生はとろりと眠くなるような穏やかな声で、言い聞かせるように語る。
地獄の底から生まれるものに、素晴らしさなんてあるはずがない。それを言えるのはジブリのアニメーターだけだ。
フーッ、と興奮で荒くなる呼吸を無理やり整えようと大きく息を吸って、睨む。視界が赤く染まっていた。
先生が「あ、そうだそうだ!」と。「言い忘れてたよ」なんて、手のひらに拳を打ちつけて言う。
「吉野順平もだけど、吉野凪も面白いね。君が選んだ
配偶者の血統における潜在能力を最大限引き出した子を産む特異体質なんて初めて見たよ。
すこし利用したけれど、素晴らしい成果をもたらしてくれた。」
「……は?」
こいつは、いま、何を言った??
頭が、理解を拒絶する。分かりたくない、知りたくない。ただただ身の内側から溢れ出す純粋な殺意が、僕を支配する。
「お前、今、なんて言った?」
「だから、吉野凪の胎盤を利用させてもらった。分かりやすく言おうか?
孕んでもらったんだよ。」
意味がわからなすぎて、いっそ頭が冷静だ。
凪さんが孕む? 乱暴したと言うのか、僕の凪さんに。
ふざけるな。何しやがる。僕の最愛に、手を出しやがって!!
凪さん、僕の凪さん。僕だけの奥さん。僕が愛してやまないたった一人の最愛のお嫁さんに、何をしてくれたって?
先生はベラベラ喋る。ああ、口を開くなクソッタレ。
耳を塞ぐことすらできない。体が固まって、動けない。
聞きたくもないことを、楽しそうに笑いながら、
「使ったのは五条家だ。残念だが時間的に一回しか試せなかった。
もう二、三年くらい、君がこの施設のことに気がつくのが遅ければよかったのに。あと2回は試したかった。」
使う? 試すだ? ふざけるな。
僕の凪さんをなんだと思ってやがる。五条家、絶対に許さない。ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなこんなの絶対ふざけてる!!
「殺す。五条家も潰すがそれより先にまずお前だ。
“トシノリ”先生……いや、鴨川俊則。僕はお前を愛さない。
一度は愛したことすら憎い。」
嗚呼、アイツが憎い。世界が憎い。全てが憎い。情報部の老害が憎い。目の前で笑う男が憎い。凪さんの尊厳を穢した連中が憎い。順平を弄んだ奴らが憎い。
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いに決まってる!!!
殺意に身を任せて、術式を使う。
こんな奴、呪術師じゃない。呪詛師だ。
こんなふざけた男を支援した奴らも呪術師じゃない。呪詛師だ。
こんな、こんな、こんなふざけた男に大切な家族を任せてしまった僕も、呪術師じゃない。呪詛師だ。
呪力がめちゃくちゃに膨らんでいた。何が起きてるかわからないけれど、ひたすら僕は【式神】を呼び続ける。
「はははっ! やっぱりそうか、そうだったか!
ああ、吉野公平。私は、
「そうか、死ね。」
ばしゅん!
僕の氷月が、心臓を食いちぎった。動かなくなった先生。ぽっかりと穴が空いた胸から、どくどくと血が流れていく。
「あー、やるか。」
ちょっと予定は早いけれど。
そう、やけに冷静な頭で考える。
ああ、やろう。今すぐにやろう。今しかないだろう。
「
驚愕の事実! なんと、「鴨川俊則」先生はメロンパン入れだったのです!!
ちなみに鴨川先生(ご本人)は反骨精神で加茂本家に反逆し、吉野パパに気持ち悪いほどの術式の制御と共に「革命」の精神を植え付け、全幅の信頼を獲得した一級呪術師です。
めちゃくちゃ善良な人です。「のりとし」には関係がなかったのです!
「としのり」と名付けられたのもみそっかすな忌み仔野郎だったのでクソな親が「のりとし」文字って名付けたってだけなのですよ!!
それがなんの因果か、吉野パパの術式に目をつけたメロンパンが確実に吉野パパの肉体(術式)を手に入れるためだけと言う理由で、メロンパン入れに抜擢されてしまったのです!!
いやあ、衝撃ですね!! まさか、あんなにすばらしい人格者のトシノリ先生が!! こんなの、誰も想像していなかったでしょう!(すっとぼけ)
たくさん感想もらえて嬉しいです!