はじめに。この作品は、しねきゃぷしょんフォントにて全文作成していましたが、好きなフォントで読めるようになったようなので、特殊タグを削除しました。
前書きと後書きは、登場キャラや用語などの補完しか行なっていないので興味ない方は見飛ばして全然構いません。
それでは皆様──良い旅を!
この宇宙には、化け物みたいなやつらがゴロゴロといる。
でも、僕は思う。一番怖いのは、人の嫌がる顔を見て喜ぶような……そんな存在だ。
仕事に没頭している間は、昔に浸る暇なんてなかったから良かった。しかし、それが終わってしまった今、仕事で訪れた星系であるルゥアンで、することもなく星空を見上げていると、どうにも不安な気持ちがこみあげて来る。
しかし、今はそんなことを考えている暇はないと頭が警鐘を鳴らす。
……なぜなら、今突如として目の前に発生した存在もまた、僕の平穏を脅かす化け物だったからだ。
異星体グノース、正体不明の存在。姿形はうまく把握出来ないのに、そこにいることだけは分かる不気味な存在。
グノースは、宇宙中に知れ渡る危険な存在だ。人間がグノースに遭ってしまったら、間違いなく襲われる。運が良ければ助かるが、運が悪ければ……
そこまで考えて、僕はその場から逃げ出した。グノースの移動速度が速いわけではないが、数が多すぎる。このままじゃ、確実にジリ貧だ。なんとか、移動手段を手に入れなければならない。
僕が乗っていた宇宙船は、もう別の星系へと行っている。次の船が来るまで確実に1日はかかるだろう。それを悠長に待っていたら手遅れになるのが目に見えて分かる。あちこちから人の悲鳴が聴こえる。つんざくようなそれを聴かないようにして、僕は走った。
周囲には、グノースだけではなくグノーシアもあふれかえっている。そのため、周囲に聴こえる声もだんだんと少なくなってきている。今日は……なんて厄日だろう。下唇を噛み、ただただ走る。
周囲を見渡すと、近くに宇宙船が見える。それに乗り込むことが出来れば或いは……!
希望が見えたせいで、気持ちが緩んでしまったのだろう。それに気づくのが遅れてしまった。
グノースが足元に迫っていたのだ。そして──僕の体に触れた。
「ひィ……!」
今までの人たちのように、酷い怪我を負ってしまう。そう思ったのに、僕の体には傷ひとつつかなかった。その代わりに、グノースの姿は消えていた。僕は幸運にも偉大なるグノースによって生かされたようだ。だから僕は走った。多くの人がいるところに行かなければならない。僕は怯えている振りをして走った。走って走って、息切れして、それで……
「そこの君! 早く乗って!」
宇宙船に乗り込み、幸運にも生き残れた。
……なにが幸運にも、なのだろう。全く幸運なんかじゃなかった。幸運じゃないから、こんなことになっているんだ。
ルゥアン星系から、命からがら逃げ出した僕ら。船内にいる人数は僕を含めて15人らしい。グノースが大量発生したことを考えると、こんなにも多くの人が生き残ったのは奇跡のように思える。
きっとこれは、軍に所属しているというセツさんが現場にいたからだろう。そのときのセツさんはすごくて……とにかくすごかったから。
乗員たちは浮かれているのか、パーティーのように色んな星のごちそうをテーブルへと乗せて、談笑しているようだった。
無事に生き残れたと、安堵する彼ら。それを横目で眺めながら、僕は今後について考える。
僕はグノースによって生かされた。だから、きっと……僕はグノーシアになったのだろう。
グノーシアは、未知の存在だった。でも、僕はもう知っている。グノーシアに存在を消されることは恐ろしいことじゃない。むしろ、それはきっと素敵なことなんだ。だって、グノーシアに消された人は蓋然計算領域*1に行けるに違いない。
僕はグノーシアなのだから、この船内から1人残らず消して、そしてこの船を支配して誰もいない深宇宙に向かうのも良いのかも……
「……食べないの?」
聞き覚えのない声が聞こえた。振り向くと、やはり見覚えのない顔の人がいた。
「食べる?」
「えっ……はい」
妙な圧に押され、頷いてしまった。周りを見渡すと、他の人は談笑しながら食事をしている。僕だけ食べていなかったから、浮いてしまったのだろうか。
「目刺し」
「……これは魚、焼き魚ですか? その……いただきます」
差し出されたものを、食べる。
「あ……美味しいですね、これ」
「……うん」
その人は、嬉しそうに笑った。そして僕に、他の食べ物を差し出す。
「おみそ汁」
「……は、はい」
「ごはん」
「……あ、あの」
「ジナ」
一瞬、何を言われているのか分からなかった。でも、それが名前だということに気がつき、慌てて答える。
「……あ、僕は……レムナンです」
「……そう」
そこで、会話は途切れた。僕は勧められたものを食べることに専念し、ジナと名乗る人物を見る。
僕よりも少し年上に見える、紫色の髪の女の人。よく見てみると左右で色が違う瞳。それが少し特徴的にも思えたが、それ以外には目立つところもない。
女の人は苦手だ。でも、ジナさんは僕のことを好きじゃないだろうし、社交的なタイプではないようだ。だから、こうして話している分には問題が……
「目標発見!」
今の空気に場違いなほど、明るい声が聴こえた。その声の方へと目を向けると、長い赤髪をひとつに束ねた女の人の姿があった。頬に赤いハートのペイントのようなものをしている人。見覚えのない顔。
「ナニナニ? ジナとレムナンって仲良いの?」
「違う」
ジナさんは間髪いれずにそう告げると、席を立った。
「……またね」
ジナさんはその場から去っていった。
そのことは惜しいとは思わない。でも、僕にはひとつ気になることがあった。
「あの、なんで、僕の名前」
「実はアタシ、レムナンがジナと話してたのを聞いていたのDEATH……と、そうそう。アタシはSQちゃんだZE」
女の人、SQさんが笑いかける。友好的なその姿を見て……僕はどこか、妙な違和感と寒気に襲われた。
なぜなのかは分からない。とにかく、気にしないようにして返事をするべきだろう。
「……よろしく、お願いします」
「……グノーシア仲間としても、よろしくNE?」
小声で告げられた言葉の内容に、驚いて彼女の顔を見る。彼女は何も言わず、笑みを浮かべて、他の人のところへと向かったようだ。
グノーシア仲間……彼女が?
グノーシアと人を見分けるすべは、今この船には存在していないはず。なのに一発で見破られたということは……きっと、本当にグノーシア仲間なのだろう。それなら、さっきの違和感はそれによるものだったのだろうか。
SQさんに見られていると、なんだか寒気が止まらなくなる。自分でもなんでなのか分からないが、怖くて怖くて仕方がない。
気分が悪くなったので休みたいと告げると、この船の擬知体*2であるLeViさんに1人用の部屋へと案内された。机の上に荷物を置いて目をつぶると、少しは気が楽になってきた。
……僕は、これからどうすればいいのだろう。
大勢の人がいるような場所で乗員を消したら、他の人たちは僕をこの船から追放しようとするはずだ。今は僕以外同じ部屋にいるのだから、消したらバレてしまうのは明白。それなら……空間転移、空間転移をするときなら、他の人が目が覚めていない状態で1人消せる。それならそのときにやるのがいいのかもしれない。
──翌日、船内にてグノーシア反応が検出されたためメインコンソール室に集まるようにとアナウンスがされた。これからいったい何が行われるのだろう。グノーシア汚染された人間は、この後どうなってしまうのだろう。
分からない。分からないが、きっとろくなことにはならない。でもどうか……痛いことも、酷いこともしないでほしい。そんな思いを胸に抱き、メインコンソールへと向かった。
グノース:正体不明の存在。ゲームを進めていくとその正体は分かるが、姿形は独自解釈。その他の設定も独自解釈多め。
グノーシア:グノースによって汚染された人間で、一晩に一人消すことが出来る。つまり人狼。人間のときの記憶や性格は基本的には変わらない。個体によっては極度の加虐傾向や動物的本能を満たそうとするケースがあるらしい。
レムナン:白髪の内気な少年。直感に優れていたりと結構有能なイメージがあるが、影の薄さと控えめな性格ゆえか、発言が場に与える影響が少ない。なにかと酷い目に遭いがち。
グノーシアについて
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知っている
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知らない
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知らないけど、興味は出た