レムナンは協力することにした   作:笹案

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6日目


Day6(前編)

 グノーシア反応の検出を告げるアラームの音で目を開ける。

 

 布団から出るのが億劫(おっくう)だった。なぜかわからない。でも、いつもの気味の悪い夢だって、夢だということさえ分かっていれば、少しは気も楽になる。僕は、マナンにやり返せばいいだけ。その日までは遠くないだろう。

 僕を疑うジナさんは、ステラさんがグノースのもとへと送り届けた。この調子で行けば、きっと僕は……深宇宙に行ける。船の支配権をLeViさんからもぎとって、ただ静かで誰もいない深宇宙へと行ける。

 僕が望んでいた願いは、ようやく叶えられそうだ。

 

 部屋を出て、メインコンソールへと向かおうとしていると、ユウさんの姿を目にした。

 ……ひとりになる前に、この人からは話を聞きたい。そしてこの頭のモヤが晴れてからひとりになりたかった。

 そのことを思い出した僕は、ユウさんへと声をかけた。

 

「ユウさん、おはようございます」

「ああ、レムナンおはよ」

 

 返事をしてくれたが、すぐに僕から目をそらされた。

 

「昨日消滅するかもしれないとか言っておいて、これは流石に恥ずかしいな」

 

 乾いた笑いを浮かべて、そう告げるユウさんだったが、すぐに取り繕うようにぽつりと言葉を吐いた。

 

「……もう、6日目か」

 

 6日目。それは、議論を始めてから経った時間だろう。 

 そんなになのか、まだそれだけしか経っていないのか、自分でも判断がつかない。それでも、ユウさんにとっては感慨深く思えるほどの日々ではあったようで、物憂げにどこかを見ていた。

 

「……そういえば、今日は……どこかに用事でもあったんですか?」

 

 ユウさんは、個室とは違う方角から歩いてきた。

 

「ああ、洗濯物をしていたんだよ」

「洗濯物を……」

 

 そう言われてみれば、ユウさんからは洗剤のような香料の匂いがする。

 

「議論終わった頃には乾燥は終わっているはず」

「……ユウさんが今日、コールドスリープしたらどうするんですか?」

「あー……時間があるなら自分で取り込ませてもらおう。ないなら……そのまま処分してもらってもいいよ」

「でも、ユウさんがコールドスリープしても、あとから解かれると思いますし……処分は、やりすぎなのでは、ないでしょうか……?」

 

 そう尋ねると、ユウさんは微かに目を見開いた。

 

「レムナンは、私を人間だと信じてくれるんだな。別に処分しても問題ないが……まあ、そのときは誰かに頼むよ」

 

 ユウさんは息を吐くと、僕を見て思い出したように口を開いた。

 

「そういえば、レムナンっていつも同じような服だよな」

「僕は……この船に服を持ってくる余裕はなかったので、合成プラントで着れるものを作りましたから、その……あまりパターンを思いつかず」

「服を作れるなんて、すごいな」

「いえ、操作は難しくはないですから」

「私にとってはすぐに覚えられるものでもなかった。謙遜はしなくていいんだよ」

 

 目を細めて、優しげな声音で語りかけるユウさん。

 

「でも、同じような服ばかりだと飽きがこないか?」

「……飽き、ですか?」

 

 思わず言葉をそのまま返してしまった。

 

「君がそのままでいいのなら、私から言うことはないが……気分転換に服を替えるのもいいんじゃないか。ま、作るのも大変だろうし強制はしないが」

 

 別に服なんて着れればいい。機能性が優れていれば、もっといい。バリエーションなんて考えすらしなかった。

 

「ああ、でもその服は似合っていると思うよ。レムナンだなって感じがするし」

 

 なぜかフォローするかのようにそう告げられた。僕のような感じとは、褒められているのだろうか。

 

 雑談混じりに、メインコンソールに向かう。

 

 今日は、グノーシア仲間が減ってしまう可能性が高い。ステラさんは、さり気なく今まで僕を庇ってくれていた。そんなステラさんがいなくなる……? 嫌だったが、他にそれらしい投票先が見つからない。ラキオさんなら、うまく転がせばコールドスリープさせられるだろうか。実際に始まってみないことには分からない。

 出来る限りのことはしてみよう。でも無理なら……ステラさんの言う通り、切り捨てるのが一番かもしれない。

 

 

「頑張ろうな、レムナン」

 

 メインコンソールを目の前にして、ユウさんはそう告げた。

 

「頑張って頑張って……それで、生き残るんだ」

「……はい」

 

 

 

 

 いざ、メインコンソール内へと足を踏み入れると、まだセツさんしかいなかった。どうやら今日は、早めに到着出来たようだ。

 

「セツ、おはよう」

「おはよう。今日も隣に行っていい?」

「うん、もちろん」

 

 昨日のように、セツさんはユウさんの隣に座り、そして他の人たちが揃うのを待った。

 僕たちの次にステラさん、ラキオさん、沙明さんの順で部屋へと足を踏み入れた。

 それだけだ。もう15人いた乗員の半分以下の人数しか存在していない。そのため、誰が来ていないのかなんて一目瞭然だった。

 

「……ジナのやつがやられたか」

 

 沙明さんは、悲しそうな表情でそう告げる。同じ人間であると確定している人間同士ということがあいまってなのだろうか。ユウさんは、沙明さんの言葉に目を伏せたあと、ノートを開いた。

 

「じゃあ、議論を開始しようか」

 

 セツさんが、そう仕切る。リーダーシップのあるセツさんが議題を提供し、議論を円滑に回してくれるのは乗員にとってはありがたいことなのかもしれない。ここ数日で、見慣れてしまった光景だ。

 

「そんな議論らしい議論が必要とは思えないけど?」

 

 ……そして、ラキオさんがそう話の腰を折るのも、よく見る光景だった。

 議論らしい議論が必要ないとは、どういうことなのだろう。不思議に思い、彼の顔を見る。

 

「今日投票すべきはステラ……他に、手がかりはないしね」

 

 ……ここで疑いの目をそらすためにはどうするべきだろう。

 人間である沙明さんを疑うことは出来ない。それなら、残りはセツさんかラキオさんだ。

 セツさんを疑えればいいが、ユウさんは反対するだろう。心象を悪くしたくはない。それならば、ラキオさんか。昨日ユウさんはラキオさんに投票されていた。それに昨日は沙明さんがラキオさんに投票していた。これなら、うまくやればラキオさんに票を集めることが出来るのかもしれない。

 そんな僕の考えを()んだかのように、ユウさんは意味ありげにラキオさんを見る。

 

「……そういうラキオがグノーシアだったりしてな」

「へぇ……。君、この僕を疑ってるンだ?」

 

 ラキオさんは冷ややかな目で、ユウさんへと言葉を返す。ユウさんがその言葉に返事をしようとしていたが、すぐに不思議そうに横へと目を向けた。

 注意して見てみると、セツさんがユウさんの服の裾をつかんでいる。

 

「ユウ。まずはステラを凍らせるべき、そうだろう?」

「……セツ?」

 

 ユウさんは、先ほどの表情から一転し、困惑した様子でセツさんを見る。

 

「この際言ってしまおうか。私は、ククルシカのことを本物のエンジニアだと思っている。だから、ステラのことはグノーシアであると確信しているんだよ」

 

 セツさんは昨日も、ステラさんへの投票を決行しようとしていた。今回こそは、なんとかしてステラさんをコールドスリープさせたいのだろう。

 

「……そう、そうか。ラキオもセツも、ステラを凍らせることに賛成で……沙明は?」

「ステラのことはジナも疑ってた。ならステラは怪しいんじゃね?」

 

 沙明さんが怪しんでいるというよりも、グノースへと送り届けたジナさんが言ったからこそ疑いに乗ったように見える。彼自身はそこまで特定の誰かを疑ってはいないようだ。

 ユウさんは、最後に僕を見た。

 

「……レムナンも、ステラに投票すべきだと思う?」

 

 ステラさんは残したいし、出来ることなら別の人に票を入れたい。

 でも、セツさんとラキオさんはステラさんに投票するだろう。残るのは沙明さんとユウさんだが……ユウさんはともかく、沙明さんは意見を変えたとしても投票先をラキオさんにしてくれる保証はない。

 

 今日ステラさんが生き残ることが出来れば、明日一緒にこの船を掌握出来る。それでも、3票がステラさんに入ることはほぼ確定だ。だから、再投票にもつれこむことがいいのか。

 再投票で決着がつかなければどうなるのか。それが明確ではない以上、その可能性にかけるにはリスクが高いように感じられる。

 考えても考えても、ステラさんを庇うのには危険がつきまとう。

 

 いざとなれば投票してくれと告げた、ステラさんの言葉を思い出した。

 今が、そのいざというときではないだろうか。

 極論、僕が生き残ればいい。僕がコールドスリープさえしなければ、別にいつだってステラさんを目覚めさせられる。ここで無理に食い下がれば、怪しく思われるだろう。

 

「そう、ですね。昨日はオトメさんをコールドスリープ出来たので……今日は、ステラさんに入れたほうが、着実かも……しれません」

 

 罪悪感でステラさんの方は見れず、うつむいたままでそう告げた。

 

「君たちがそう言うのなら……今日はステラに投票がいいんだろうね。うん、分かった」

 

 ユウさんの言葉を皮切りに、誰も言葉を発することはなくなった。

 周囲を見渡す。時が止まったときのように、静まり返った部屋の中。誰もが息をひそめて、互いの様子をうかがっている。

 

 

「……お前ら、何か言うことねーの? つっても俺にもねーからな……。投票いっちまうか?」

 

 この沈黙を破ったのは沙明さんだった。彼は気だるそうな様子で、他の乗員の顔を見る。

 そんな沙明さんの言葉を受けてなのか、我に返った様子のユウさんは席から立ち上がって声を上げる。

 

「沙明以外のみんなは、今のうちに話しておきたい話題はある?」

「このまま投票に移っても、僕は一向に構わないよ」

 

 ラキオさんの言葉に頷いたユウさんは、周囲を見渡す。セツさんは静かに首を横に振った。ステラさんは、困ったような表情でユウさんを見ている。ユウさんの視線が僕へと向かったときには、視線をそらしてしまった。

 

「……うん、ないみたいだね」

 

 ユウさんは小さく息を吐くと、ステラさんの方へと目を向ける。

 

「ごめんな、ステラ。ゆっくりと休んでくれ」

「ユウ様、謝らないでください。皆様が決めたことですし、わたしも重々承知していますので。わたしはコールドスリープしながら、皆様を応援してますね」

 

 ステラさんは、乗員の顔を見渡した。一瞬、彼女の目は僕を捉えて、微笑んだ。

 

 

 

 

「コールドスリープは、私がやっておこう」

 

 セツさんはそう名乗り出た。昨日もそうだったが、セツさんは責任感が強いのだろう。

 

「それなら、僕も動向することにするよ。君がステラと行動しているときに不審な行動を取っていたら困るからね」 

「わかった」

 

 セツさんは頷いて、ステラさんとラキオさんと共に部屋から出ていき、沙明さんもそれに続いてどこかへと歩いていった。

 

 

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