レムナンは協力することにした   作:笹案

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夕里子:1日目に襲撃された人。存在感がとても強い女王様タイプ。彼女を疑うと返り討ちにあうこと多数なので気をつけなければならない。ただ、ヘイトを集めがちなので案外投票されたりグノーシアに襲撃もよくされる。この作品において出番は特にない。

──2日目


Day2

『空間転移完了時にグノーシア反応を検出いたしました。乗員の皆様は上申された手続きに従い、グノーシア汚染者を排除してください。繰り返します……』

 

 グノーシア反応が検出されたとアナウンスを聞き、メインコンソールへと向かう。

 

「やっほー、レムナン。無事で何よりデス!」

 

 不意にSQさんが声をかけてきた。得体のしれない緊張と恐怖で体が震える。

 

「あ……え、SQさんも、無事で、よ、良かったです……」

 

 僕らが襲われないことは、僕ら自身が一番分かっている。こんなのは茶番だ。でも、様子が不審だと周りの人に思われたら、コールドスリープさせられるかもしれない。だから……下手なことは言えない。

 何気なさを装って、SQさんから距離を取る。そして、昨日と同じように、隅の方へと腰掛ける。

 

「よっ、レムナン。今日も無事で良かったよ」

 

 安堵したような表情で、当たり前のように僕の隣に座ってきたのは、やはりユウさんだった。

 

「……ユウさんこそ、ご無事で何よりです」

 

 ユウさんは、昨日いなくなるはずだった。いや……僕が止めなかったらこの宇宙から消えていたはず。なのに、こうして普通に会話しているのが不思議だった。

 ……僕が消したら、この人と話すこともなくなる。そう考えると、なんだか不思議な気がする。

 

「ん? なんか私の顔についてるのか?」

「……いえ」

 

 

「今日は……夕里子がやられちまったみたいだな」

 

 他の乗員は集まったが、彼女の姿だけは見つからない。そのことから、彼女がグノーシアに消されたと考えたのだろう。乗員たちは、誰かが発した言葉を皮切りに、沈黙した。明日は我が身、そう考えているのだろうか。

 

「……ん? なに黙り込んでるのさ? あ、話す事ないならさ、僕から皆に伝えたいことがあるんだ。話していい?」

 

 昨日は黙りこんでいたコメットさんが、突然立ち上がり、そう切り出した。

 

「すまない。まず初めにエンジニアの報告を聞きたい。その後でいいか?」

「まっ、別にそのあとでもいいよ」

 

 コメットさんはあっけらかんと言い放つと、席へと座り直した。

 

「それでは……エンジニア権限者の皆さま、報告をお聞かせ下さいませ。わたし、記録いたしますから」

 

 まず、ククルシカさんの報告から始まった。彼女の調べでは、コメットさんはグノーシアではなかったそうだ。

 

「オレは別の奴を調べたぞ。ステラはオレと同じ、人間だ。オシ、次はグノーシアを当ててやるぜ!」

「別のターゲットを調査いたしました、サー! ジナをチェックしました! グノーシア発見ならず! ジナはシロでありマス!」

 

 エンジニアを名乗る3人から報告。そしてしげみちさんは、グノーシアであるステラさんに人間報告を出している。だから……間違いなく、バグかAC主義者だろう。そして、この時点でククルシカさんがエンジニアであることが確定した。

 

「もういいよな? なら、今のうち言っとこ、ドクターは僕だ。君たちがコールドスリープしたら、バッチリ調べてやるからな」

「あの、信じてもらえると、嬉しいんですけど……お医者さん、コメットさんじゃないの。あたしなのです」

 

 コメットさんとオトメさんがドクターとして名乗り出た。

 複数人が名乗り出たが、昨日という前例があったためか、驚いているのはしげみちさんくらいのものだった。

 ただ、やはり本物が確定していないというのは乗員にとって不都合だからか、セツさんは困ったような表情で口を開く。

 

「ジョナスはどうだった?」

「昨日コールドスリープしたジョナスは、違った。グノーシアじゃなかったんだ」

「あたしが調べても、おんなじでした。ジョナスさん、コールドスリープしたけど……グノーシアさんじゃなかったの」

 

 ……きっと、本物のドクターはオトメさんだ。コメットさんからは、口笛でも吹きそうなくらい白々しさを感じる。

 でも、コメットさんが偽物であると仮定したとき、ククルシカさんから人間だと報告されていたのが引っかかる。

 ククルシカさんは、本当のエンジニア。だからコメットさんがバグなら、調べられた段階で消滅するだろう。そうなっていないということは……コメットさんがAC主義者で、しげみちさんがバグ?

 

 ……いや、まだそうと決めるのは早いのかもしれない。コメットさんはなんとなく嘘を吐いているように見えるが、そう見えるだけで本当のドクターなのかもしれない。

 とにかく、今いる人数的にバグもAC主義者も騙りに出ているのは明らかだ。バグを排除しなければならないことを考えると……ドクターの人も、うまくコールドスリープに持ち込みたい。

 

「エンジニアもドクターも報告ありがとう。それと……議題として、皆に聞いておきたいことがある」

 

 セツさんは咳払いをすると、一段と声を張り上げた。

 

「昨日、2日目以降にエンジニアをコールドスリープさせるのが良いんじゃないかと言ったね。皆は今日はどうするべきだと思う?」

「俺は、今日からで良いと思うぜ。疑いたくはねーけど、怪しいやつがいるからな」

「なぁ、シピ。その怪しいやつって誰なんだ?」

「しげみちだ」

「オレかぁ……」

 

 がっくりと肩を下げ、しげみちさんは見るからにしょぼくれる。シピさんはその姿に同情した様子ではありながらも、続けて口を開いた。

 

「だから、今日は……しげみちでいいと思うぜ」

「僕も……賛成、です」

 

 今回は、ユウさんが僕の意見に同調することはなかった。聞き耳を立ててはいるみたいだが、意見をノートにまとめているのに集中しているのか黙り込んでいる。ただ、他の乗員は、しげみちさんにコールドスリープしてほしいと思っているようで、票はまばらに割れたものの、なんとかしげみちさんがコールドスリープすることに決まった。 

 

 

「くぅーっ、悔しい! オレのこと信じてもらえなかったのが悔しいな! コールドスリープしながら反省タイムだ!」

 

 特に反対者もいなかったため、涙を浮かべるしげみちさんをコールドスリープさせて、議論は終了した。

 

 

 

 今日は話し合いという話し合いを必要としなかったせいか、空間転移まで時間があるようだ。

 どうするべきかと迷っていると、ドアからノック音が聴こえた。……声が聞こえない。その事実に、開けるのを躊躇う。

 

「レムナン、今いるか? いるなら出てほしい」

 

 SQさんの声ではない。

 

「……ひとりですか?」

「そうだけど……駄目だった?」

「いえ、今開けます」

 

 小さく扉を開き、そこにいるのがユウさんの姿ひとりであることを確認する。そして安堵し、扉を開けた。

 

「やあ、レムナン」

「あの、ユウさん……あんまり一緒にいると、怪しまれるんじゃ……」

「怪しいことは何もないんだから、堂々としてればいいじゃないか」

「それは……」

 

 一理ある、とは思う。でも、いくら怪しくなかったとしても、他の人たちからどう見えるかなんて分からないから堂々となんて出来ない。

 

「でも、ひとりになりたいときもあるよな。今がそのときというのなら、私も部屋に戻る……」

「いっ、いえ!」

 

 声がうわずる。

 ユウさんは、僕がこんな声を出すとは思わなかったのか、驚いたように目を丸めていた。

 

「ひとりは……嫌です。怖いんです」

 

 また、いつSQさんが来るか分からない。それが怖い。

 ユウさんがいれば、昨日のように防波堤になってくれる。それだけで、僕の心の有り様は全然違うような気がする。

 

「ん、そうか。まあ、嫌なら嫌って言ってほしい。私って、そこらへんの機微に疎いようだからさ。バッサリ言ってくれたほうが助かるんだ」

「わ、分かりました」

 

 僕が頷くと、ユウさんは少し安心したように笑った。

 

「……ありがとう。でも、密室で2人きりなんて、グノーシアが今日消す人の算段を考えていると見られてもおかしくないし、レムナンの言うことも正しいよな。だから……とりあえず、今日はどこかに行こうか。ひと目につくところがいいね」

 

 悩ましげな顔をしていたユウさんだったが、妙案を思いついたとばかりに口を開いた。

 

「あ、そうだ。ステラが変な誤解しているみたいだから解きにいかない? なにげなーくでいいからさ」

「僕は……構いません」

「じゃ、行こっか」

 

 ユウさんは笑みを浮かべて、部屋を出た。そしてLABに迷うことなく進んだが、誰もいなかったので別の部屋へと向かっていった。どうやらステラさんはロビーにいたようで、誰かと話している声がする。……もしかしたらSQさんといるのかもしれないと思い、物陰へと姿を隠した。

 

「ユウ、そんなに慌ててどうしたんだ?」

「あら、ユウ様。昨日に引き続きレムナン様探しですか?」

「違うよ。昨日君とお茶したいって言ったじゃないか。その言葉を有言実行しようと思ってね」

「まあ、嬉しいです」

 

 ……ステラさんの声は弾んでいる。ユウさんの来訪を快く思っていることが伝わってきた。

 近くにいるのは、セツさんだろうか。聞く限り、SQさんはいないようだった。その事実に安心する。

 

「おひとりで会いにきてくださったのですか?」

「いや、レムナンと来たんだ。あれ……レムナン? レムナーン?」

 

 ここで出なかったら、ユウさんに不審に思われるだろう。恐る恐る、僕はロビーへと顔を出した。

 

「こ、こんにちは、ステラさん。それに……セツさんも」

「レムナン、こんにちは。うまくやれているようで、安心したよ」

「レムナン様もいらしたのですね。こんにちは」

 

 ステラさんは、微笑ましそうにこちらを見ている。

 

「セツがいるとは珍しいな。ステラとお茶してるのか?」

「ああ、グノーシアらしい人物の目星をつけようと思ってね」

 

 この場にはグノーシアが2人もいるのに、気づかずに真面目な顔をしているのがなんだかおかしかった。でも突っ込んだことを聞けはしない。神妙な顔を保ったまま、頷いた。

 

「そう、なんですね。セツさんは……どなたが怪しいと、思っていますか?」

「私は沙明が怪しいと睨んでいる」 

「ど、どうしてですか……?」

「昨日今日と、全く沙明の声を聞いてない。乗員の利益になるようなことを言わないなんて、なんなら乗員でも不要な存在じゃないか?」

「そんなこと言って、沙明が苦手だから今のうちに消しておきたいだけじゃないのか?」

「ユウじゃないんだから、そんな感情では動かないさ」

「セツが言うと説得力がないな」

 

 セツさんと話しているユウさんは、どこか苦い笑みを浮かべている。

 疑われているのなら、今日は沙明さんはやめておこう。

 

「……そういうユウは誰を疑っているんだ?」

「SQと、ククルシカかな」

「つまり、君はしげみちを真エンジニアとして見ているんだね」

「そうであってほしいなって」

 

 苦言を(てい)したのは、ステラさんだった。

 

「失礼ながらユウ様。しげみち様が本物のエンジニアである可能性は低いと思われます」

「……どうして?」 

「しげみち様は嘘をついているようにお見受けしたので……」

「そうか? しげみちは本物のエンジニアだと思うんだが」

 

 ユウさんは、釈然としなそうな顔をしているが、ステラさんもセツさんも微妙な表情でユウさんを見ている。2人ともしげみちさんの嘘に気づいていたようだ。ここにいる3人にバレるほどの演技力。それに気づかないユウさんは……本当に人の機微に鈍感なのかもしれない。

 

「レムナンは、誰を疑っているんだ?」

 

 仕切り直したかったのか、咳払いをしたセツさんに突然問いかけられた。

 

「ぼ、僕は……SQさんが……怖いです」

「ああ、SQか。確かにSQは胡散臭いな」

「そうでしょうか。わたしはSQ様のリスク評価は低いと思っていますが……」

 

 ステラさんから、(とが)めるような目を向けられた。申し訳ないとは思う。それでも……この、自分の気持ちに嘘をつきたくはなかった。

 

 それからも、僕たちは疑わしい人物を探した。出来るだけ、僕らに疑いの目が向かないように気をつけて話し合う。そうしているうちに、気がつけば空間転移の時間が近づいていたようで、LeViさんがアナウンスをしてくれた。

 

「あ、そろそろ空間転移の時間なんだな。部屋に戻ろうか」

 

 セツさんの目があったためか、それとも最初の目的を忘れてしまったのか、ユウさんがステラさんに何を誤解しているのか聞くことはなかった。

 

 でも、きっとそんなに重要なことではない。そのことは、することもないからとりあえずステラさんのところに行こうというユウさんの雰囲気で察しがつく。

 

「じゃあな、レムナン。また明日」

 

 ユウさんは手を振って、自分の個室へと向かった。だから僕も部屋へと戻り、ベッドに入る。そしてLeViさんによるカウントを聞き……空間転移の時間がやってきた。

 

 

 

 

 今日は、シピさんを消すことに決めた。

 シピさんは優しい雰囲気の人だから。味方がたくさんいるから。だから……グノーシアの僕らにとっては、厄介な存在だった。

 昨日と同じように、彼の境界に触れる。そして、彼の存在はこの宇宙から消え去った。うまく行ったことに安堵し、目をつぶる。しかし……

 

 

「このままじゃ、SQちゃん消えてしまうのデス……」

 

 静かな部屋の中、沈黙を破るようにして、その声は聴こえた。いつもの、飄々(ひょうひょう)とした声音ではなく……静かでいて、どこか(なま)めかしい声。

 

「だから、言ってみることにしたんだ」

 

 僕は、振り向いた。そこにいたSQさんは、うっとりとしているような、ゾッとするような顔で微笑んでいた。

 

「ねえ、レムナン。レムナンってSQちゃんのパパなんだZE」

 

 ……今しがた言われた言葉の意味が、理解出来なかった。したくなかった。SQさんが、僕の……子ども? そんな行為した覚えがない。した覚えが……

 

 ……吐き気がした。

 

「やっとアタシのこと、思い出してくれたかにゃ……レムにゃん?」

 

 理解なんてしたくなかった。でも、その言葉が、答えを示していた。

 声が遠く聴こえる。僕はいったい……どうしてこんなことになってしまったのだろう。

 




ドクター:役職のひとつであり、人狼での霊媒師。コールドスリープした相手がグノーシアか人間かを調べることが出来る。

コメット:ビビッドピンク色の髪の元気な僕っ娘。下乳。野生の勘が鋭い。よく騙りに出たがるが嘘は下手。彼女としげみちとグノーシアになったら……まあはい

オトメ:喋る賢いシロイルカ。優しく愛らしいので吊りにくい。
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