レムナンは協力することにした   作:笹案

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Day3(後)

「──嘘。SQは、嘘をついてる」

 

 

 そう発したのは、誰だろう。

 小さくて、それでも芯の通った女の人の声。ああ、そうだ……これはジナさんの声だ。今まで寡黙だった彼女は、確かな意思を持って口を開いた。

 

「私はルゥアン星系のとき、船に残ってたから。沙明が船に残ってたこと、証明できると思う」

「悪いけど俺、グノーシアじゃないぜ? ジナの言う通り、こないだの停泊中、船から出てないから。襲われた可能性はゼロってわけ」

 

 沙明さんがそう告げるのを見届けると、ジナさんはSQさんへと視線を戻す。そして今度は明らかな敵意を持って、口を開いた。

 

「SQは嘘をついてる。凍らせた方がいい」

「LeViセンセ、これってホント?」 

『ルゥアン星系で2人、船内に残っていることは確認しています。グノーシアにより情報が汚染されているため、それがジナ様と沙明様かは分かりませんが……』 

「他に、名乗り出る人いる?」 

 

 ジナさんは、部屋の中を見渡す。しかし……誰も名乗り出なかった。 

 グノーシアは、まだ2人残っている。でも、ここで名乗り出るようなリスクはとりたくないし……助けたくなんてなかった。

 だから、今は良かったという気持ちの方がおおきい。これでマナンは信用されないだろうから。

 他の船員を見てみる。彼らは、ジナさんと沙明さんが人間であるという証言を信用したらしく、マナンへと疑いの目を向けていた。

 

「ははっ、ボロを出したねSQ。君の論理、破綻してるけど。どうすンの? どうしようも無いよね。あははははは!」

「……一昨日言ったようにエンジニアを全員コールドスリープさせるべきだと思う。もし本物だけ凍らせて、他を逃す……なんてあったら目も当てられない」

 

 部屋にいる全員が、マナンへの投票に賛成している。ステラさんも、これではいい言い訳を思いつかなかったらしく、口をつぐんで議論の行く末を見守っている。

 

 重苦しい空気の中、手を叩く音が近くから聞こえた。その音の方を見てみると、案の定というべきか……隣でユウさんが手を合わせていた。

 

「よし、もうみんなの投票先は決まったようだし、お昼にしないか? SQも最後の晩餐がしたいだろ?」

「最後の晩餐? アタシはグノーシアじゃないから、後で解いてほしいんだZE……」

「はは、そうだな。そのときはそのときだ」

 

 あっけらかんと笑って、ユウさんはやり過ごす。

 

「んー、ユウのこと嫌い」

 

 マナンは、冗談交じりにそう告げる。でも……その目は全く笑っていない。

 

「ええ、そうなのか? 私はSQのこと大好きなんだけどな」

 

 その目には、深い親愛の情が見える。冗談をいっているようには見えない。

 

「つまり、晩餐うんぬんは善意ってコト? いやー、ユウの思考回路は理解出来ませんなー

 アタシ、やっぱりユウのこと苦手だZE」

 

 今度はどんな顔をしているかなんて見なかった。見ずとも、あいつが悪魔みたいな顔をしていることくらい、想像がつく。

 

 

 

 昼食は、普通の食事だった。

 食べて、談笑して、それで終わり。

 食欲は、なかった。今食べてしまえば、戻してしまいそうだと告げると、飲み物だけ渡された。ユウさんは……なぜかマナンに話しかけて、そばから離れなかったため、その間ひとりで座っていた。時間は長かったが、その間マナンに話しかけられることがなかったのは……救い、だったのかもしれない。

 

「へぇ、君はイートフェチじゃないンだ?」

 

 挑発するような声音が聴こえてきた。その声の主が誰なのかは想像がつく。だから、彼の顔を見ることなく、返事をした。

 

「いえ、今は……食べたくなくて」

「ふぅん」

 

 ……全く立ち去る気配はない。

 不安に思い、彼の方を見る。予想通り、そこにはラキオさんがいた。

 

「普段食べないのは君の勝手だけどね、こうして今日を生き残り、明日も君が生き残っている可能性を考慮すると、議論中に倒れられても困るんだよね。君が話す機会が減ったせいで、君がグノーシアであるか否か、バグであるか人間であるかの判断材料も減るなんてことがあったら僕ら乗員の勝機も減るんだよ」

「……すいません」

「幸いにもここの調理用プラントではサプリもあることだしそれくらいは口にしたらどうなんだい?」

「……分かりました、取ってきます」

「非効率的だよ。君がサプリを取りに行っていると、僕が情報集めに勤しむ時間も減るという悪循環が生まれる。僕はそれなりに余分にサプリを持っている。なら君に渡す分も存在しているというわけさ」

 

 一瞬、何を言われているのか混乱した。でも、つまり……ラキオさんがサプリをくれるということなのだと思う。机にはサプリの入った瓶が置かれ、そして僕の方へと向けられていたから、間違ってはいないはずだ。

 

「……いえ、すいません、あの……いただきます」

 

 当然のように隣の席に座ってきたラキオさんは、興味深そうに僕の顔を見てくる。

 

「あの、なにか……?」

「いつも君に引っ付いているのがいない間にでも話そうかと思ってね。ああ、君はユウのことをどう考えているんだい。見たところ君らは協力関係にあるようだけど、投票先を示し合わせていたりすンの?」

「……いえ、そういうのは……ないですけど、ユウさんは、いい人だと……思います」

「そんな感情論を聞いているわけじゃない。今まで過ごしてきた中で、ユウに違和感を持った場面はないかと聞いているんだよ」

「……ラキオさんは、ユウさんがグノーシアだと考えているんですか?」

「視野は広く持つべきだろう?」

「……そう、ですね」

 

 さっきの話でも出ていたように、僕も人間であるか疑われているのだろう。そして、ユウさんの方も疑っている。

 他の人は結構その場の雰囲気で凍らせる先を決めているのを考えると……ラキオさんは、ある意味、この船で一番真摯に、グノーシアを見つけ出そうとしているのかもしれない。

 ……でも、彼を襲撃するのは今はまだ考える必要はない、はず。ラキオさんにはまだ、グノーシアが誰かなんて分かっていないだろうから、他に優先すべき人たちがいる。

 

「ああ、そういえば君、今日はいつもよりも怯えているね。あれ、議論初日も、なんなら船に乗った当初からそうだったっけ、ならいつも通りってわけか」

「……SQさんが、昔の……知り合いに似ていて、怖くて」

「それじゃあ君はSQをコールドスリープさせることが出来て万々歳というわけか。ははっ、思惑通り行って満足した?」

「……はい、本当に……安心しました」

「……そう」

 

 なんの感慨もなさそうな声音で、ラキオさんは告げる。そして、少しの間のあとに、僕の方へと顔を向ける。

 

「君はユウよりはいくらか使えそうだ。そうだ、簡単なテストをしよう。そうだな……今エンジニアとして名乗り出たのはSQとしげみちとククルシカ。そして……」

 

 それからラキオさんは、僕の隣であれこれ聞いてきた。少々気が張ってしまったが……何も考えずにいるよりはマシだったのかもしれない。

 そして、終わりの時間が来た。

 

「アタシをコールドスリープさせるなら、ちゃんとククルシカもやって」

「みんなのことは分からないが、私はそうしようと思う」

「なら、ちょっとは安心カナ」

 

 

 

「またね……」

 

 うつむいていても、別れの言葉に『レムにゃん』と、そう続いているのが嫌でも分かった。

 またね、なんて……もう二度と姿も見たくない。

 

「おお、またなSQ」

「……」

 

 マナンは、その後ひとことも話さずにコールドスリープ室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 マナンは、もういない。凍らせることが出来た。だから……そう、後は僕が生き残るだけ。

 

「……落ち着いた?」

「はい……」

 

 今、僕の個室には、僕とユウさんしかいない。そのことに安心して、深く息を吐いた。

 

「ユウさんは、すごいですね。場の空気がすごく、変わりました」

「……私はラキオみたいに頭が良くないし、コメットみたいに野生の勘ってのがあるわけでもないから……もちろんレムナンみたいにオールラウンダーでもないし……」

 

 妙にたどたどしい口調に違和感がして、ユウさんの顔をちらりと見た。ユウさんは、うつらうつらとしている。それにあくびもこぼしている姿を見たら予想がつく。 

 

「……眠いんですか?」

「よく分かったな。今日はなんか疲れたんだよ。気い張り詰めたっていうか……」

 

 ユウさんが自覚しているかは分からないが、マナンにとても敵意を向けられていたから、無意識的に気を張っていたんじゃないだろうか。だから、こうして全てが終わったあとにほっとしている。

 

「……それなら、今日は早めにお休みしますか?」

 

 そう提案すると、ユウさんは首を傾げた。

 

「無理してるわけじゃ……ないけどな」

「でも、ユウさんだってずっと一緒だと疲れてしまうのでは……」

「んー……確かに疲れたって気持ちはあるが……かなり眠いし……レムナンベッド貸してもらっていい? 正直動きたくない……というか……」

 

 ぎょっとした。意識がない状態で、人の部屋に居座ろうとするなんて正気とは思えない。睡魔で判断能力が鈍っているのかもしれないが、僕がグノーシアである可能性もあるのに、とても普通とる選択とは思えない。

 ……ユウさん、か。なんとか今日を乗り切れたのは、ユウさんとジナさんのおかげだ。そもそも、ユウさんが来なかったら、僕は……現実と向き合おうなんて考えなかっただろうから、そのことは感謝している……のかもしれない。

 

「……いいですよ」

「うん、ありがとう……」

 

 今にも消え入りそうな声で感謝を告げて、ユウさんは布団の中にもぐりこんだ。あまりにも躊躇のない行動に、少し驚いたあとで今後について考える。今日、まだ空間転移まで時間がある。

 

「ユウさん、少し散歩に出ます」

 

 ユウさんの返事がない。もう寝落ちしてしまったようだ。

 

 ……今日は、やらなければならないことがある。

 この先のことを考えたら、今日行動したほうが生存確率が上がる。

 

 部屋を出て、彼女がいそうな場所を探す。

 他の乗員に見つかる可能性を考慮すると、早めに話は終わらせたい。そして船内を歩くと、水質管理室で彼女は魚を見ていた。

 周りの大きな水槽の近くにある、小さめの鉢の中で揺らめくのは、赤くて小さな魚だった。優雅に、それでいて楽しそうに泳ぐ姿は、なんだか彼女に似ている。

 

「あれ、レムナンがひとりなんて珍しいな。ここに用?」

「ここというよりも、コメットさんに用があって……」

 

 不思議そうに僕を見ているコメットさん。その周りには人はいない。しかし、もしもを考えて声を小さくして彼女に問いかけることにした。

 

「コメットさん、貴方はドクターですか?」

「……ずっとそう言ってんじゃん?」

 

 ……やっぱりコメットさんがドクターのようには見えない。

 

「……AC主義者、ですよね」

「僕はドクターだってば」

 

 しげみちさんが嘘をついていることからして、真エンジニアはククルシカさんに間違いないと思う。ククルシカさんに解析されて人間であると言われているコメットさんは、AC主義者で間違っていないはず。嘘っぽく感じるだけで、まだオトメさんがAC主義者かバグである可能性は存在している。それでも、僕は賭けに出ることにした。

 

「僕は──グノーシアです」

 

 そう告げた瞬間、明らかに場の空気が張り詰めた。コメットさんは、僕の顔を食い入るように見め、すぐに目を細めた。

 

「んー……嘘はついてないっぽいね」

「……貴方には、次の鑑定結果で、SQさんのことをグノーシアだったと報告してほしいんです」

 

 AC主義者。つまり、僕らの味方。なら……僕らに利があるように行動してくれるはず。

 

「そうしたら、今度は貴方を消してあげますから」

「……」

 

 コメットさんは、僕をじっと見た。真正面から見られることは怖いが、今日は退けない。彼女を見返すと、ふっと笑った。

 

「ん、分かった。レムナンの言う通りにするから、約束は守ってくれよ?」

「……はい」

 

 コメットさんとの話し合いは3分にも満たなかっただろう。すぐに自分の部屋へと戻った。

 

 まだ、ユウさんは熟睡していた。そのことに安心しながら、明日以降のことを考える。

 コメットさんが思惑通りに動いてくれるか、明日もうまく立ち回れるか。そして……ユウさんのこと。

 

 思考に没頭すると、つい時間を忘れてしまうのは悪い癖なのかもしれない。気がついたら時刻は空間転移の時間に差し迫っていた。そこで、もう一度気持ちよさそうに寝ているユウさんを見る。全く起きる気配がない。

 

「ユウさん、起きてください」

 

 とりあえず呼びかけてみたが、起きる気配がない。そのまま放置していてもいいのかもしれないが、空間転移が間近に迫っているため、ずっとこのまま放置は出来ない。

 触れるのは、怖い。

 自分が、マナンと似たようなことをしてしまうのではないかと、怖くて気持ち悪くなる。

 仕方がないので、もう少し声を張り上げることにした。

 

「ユウさん、起きて……起きてください! 早く!」

「……く、ククルシカ騒動!?」

 

 ユウさんは飛び上がるように起き上がり、周囲を見渡した。

 

「あ、なんだ夢か」

「……どんな夢を見てたんですか?」

「船内にグノーシアが発生したのに、争いとか起こらずに平和的に解決したって夢だよ。ああ、本当に幸せな夢だよな……」

 

 なんだか遠い目をしているユウさん。なぜだか分からないが、深掘りすると自分にもダメージがきそうな気がしたため、何も聞けなかった。

 

「とにかく、起こしてくれてありがとうな」

「あ……はい、もう空間転移が近いので……」

「寝過ぎたか。別に迷惑ならもっと早くに起こしてくれても大丈夫だったんだけど……顔色は、朝に比べると良さそうだね。うん、なんか安心した」

 

 ユウさんは頬をかくと、また一昨日と昨日同様の定型文となった挨拶を告げる。

 

「レムナン、また明日会おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 空間転移の時間がやってきてしまった。

 しかし、今日はマナンがいないという点だけで、昨日までに比べたら雲泥の差だ。

 

「レムナン様、今日はどなたをグノースへと捧げましょうか」

「あの、ステラさん。お願いしたいことがあって……」

 

 ひとつ、試して起きたいことがあった。今日、ユウさんと話してみて浮かび上がってきた考え。それを問題なく行えるのか、少し不安だったし、彼女の協力が必要不可欠だった。だから、ステラさんに話してみることにした。

 

「わたしは構いません。リスクは高いですが……ふふ、応援していますので」

 




留守番:人狼での共有者。グノース騒ぎの船内に2人の乗客が残っていたことをLeViが保証してくれる。ゲーム内では人狼による騙りは行われないため確定で人間。

ジナ:すみれ色の髪。何気にオッドアイ。嘘をつくのが嫌いでグノーシアに向いていない筆頭格だが、嘘を見抜く力は高い。おとなしい性格だが、バッサリと物を言いがち。地球出身で、和食が好きらしい。

沙明:緑髪の青年。下半身直結型な女好き。ステルスが高いらしい。男主人公でプレイすると名前の読み方を最後まで教えてくれない。彼から伝授される雑談と土下座のコマンドはとても使い勝手が良い。なぜか一日目の開始当初から行方不明になることが多く、彼が本物の役職持ちだと大変困る。


AC主義者:ACはアンチコズミックの略。グノーシアに消されることを望む人間。なので、エンジニアに調べられても人間ということしか分からない。人狼における狂人。

ククルシカ騒動:自分は大好きです(断固たる意志)
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