東方曲戯録   作:Sanc.マッドカイン

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二話 父の宿敵&魔法修行 

アリストスは、妖怪の跋扈する世界において、王と名乗るに相応しい力と格を有している。

 

持ち前のカリスマ性、膨大な魔力、吸血鬼の中でも特異な能力、いずれの三拍子揃った要素を備え、大妖怪としての地位を確立した。

 

紅魔館を建設し、一か所に定住しているのも、そこが、彼が定めたテリトリーだからで、多くの同胞をはじめ、周辺の妖怪らは続々と傘下入りし、世界でも有数の妖怪勢力を形成している。

 

それこそ東洋の百鬼夜行のごとく、多くの妖怪が付き従っているが、彼を殺さんと牙を向ける妖怪もまた、過去何百と存在した。

 

妖怪同士の縄張り争いは、珍しくもない。

彼のテリトリーの外から、大妖怪が攻め込んできたこともあった。

 

 

紅魔館がある地形の場所は俗に、秘境と呼ばれる区域であり、未だ魔力が豊富に漂う、妖怪にとっては、オアシスのような場所で、当然、独占したがるものだって現れる。

 

しかし、彼はそうした輩を悉く返り討ちにし、テリトリー内から反逆の芽を嗅ぎ取ると、画策した妖怪たちを残らず血祭りにあげてきた。

 

 

まさしく『粛清』。

 

彼は、こうした粛清には余念がなく、彼に刃向かう妖怪たちの一切を蹂躙してきた。

 

しかし、最近、彼の完全なる支配を一匹の妖怪が反抗し続けていた。

 

アリストスの私室を訪れたレミリア。

 

室内には、アリストスとメイド長がおり、アリストスの方は、身に纏う漆黒の衣服の所々が裂け、脇腹からは流血していた。

「お父様、お怪我をなさったのですか?」

 

「・・・かすり傷だよ。心配することはない。」

 

吸血鬼の長所は、再生能力だ。重傷や致命傷に至る傷ですら、時間を掛ければ回復し、軽傷であれば、治癒は秒で終わる。

 

アリストスが傷を負う機会と言うのは大方、妖怪との戦闘であるが、彼の再生能力は、普通の妖怪との戦闘でも紅魔館に帰るころには、傷が完治するくらい強力で、脇腹を穿たれる傷ですらも軽傷に当たる。

 

「もしかして、闇喰らいとの戦闘だったのですか?」

 

傷口の再生が鈍いことにレミリアは気づいた。

 

戦った相手を言い当てられたアリストスは無言でうなずく。

 

「一妖怪風情にここまで手こずるとは、屈辱だ。」

 

「当主閣下。復讐を志すのも構いませんが、じっとしていただけなければ、傷の治りが遅くなります。ただでさえ、闇喰らいの攻撃によって与えられた傷は吸血鬼の能力でもってしても治りづらいのですから。」

 

メイド長が、怒りと屈辱に打ち震えるアリストスを嗜める。

 

銀髪に片目モノクルを装着する紅魔館のメイド長は、ロングスカートのメイド服を着用しているが、どちらかと言えば、執事服の方が似合うと思ってしまう凛然とした立ち振る舞いの女性である。

 

メイド長の嗜めで、アリストスもやや冷静さを取り戻したように息を継ぎ、ゆっくりと治癒していく自身の傷口を見つめる。

 

闇喰らい。それは、アリストスが、ここ最近、制圧に手こずっている一匹の妖怪の通称だ。

正確な名前は判明しておらず、その外見と攻撃方法から、名付けられた通称で呼ばれている。

他の妖怪と、徒党は組まず、ただ夜闇を漂い、闇を操る存在。一妖怪とカウントするには、強大すぎる力の持ち主であるため、大妖怪のアリストスと同等に渡り合うことのできる怪物だ。

 

メイド長が、指摘した通り、闇喰らいによって与えられたダメージは、どう言う訳か、吸血鬼の能力をもってしても治癒が鈍い。

こちらの攻撃も通ると言えば通るが、アリストスは未だに、闇喰らいの底を暴いた感触はなく、互いに痛み分けを繰り返しては、退くと言うのをこれまでに何度も繰り返している。

 

勝手気ままに、振舞うのは妖怪の性だが、放埓が過ぎれば、格上の怒りを買う。

 

アリストスが自身に刃向かう妖怪たちを幾百と殺してきたように、その代償を払うのである。闇喰らいとの交戦は、そうしたありふれたきっかけだった。

 

闇喰らいは、彼に従わない妖怪の内の一体であり、より正確に言えば、闇喰らいは加減を知らない妖怪として知られていた。

 

人間を喰らうのは構わない。妖怪が繰り返してきた摂理の一つなのだから、それも当然。

 

しかし、闇喰らいには、ルールがまるで存在しない。好きな時に好きなように、人間を、妖怪を、殺し喰らう。

 

 その中には、彼の直属の吸血鬼すらも含まれていた。

 

あろうことかアリストスの配下の吸血鬼による警告を受け取るどころか、逆にその吸血鬼を殺している。

 

明確な敵意と服従の拒否、闇喰らいは、アリストスに真っ向から喧嘩を売ったのだ。

そして、アリストスが赴き、蓋を開けてみれば、終りの見えない交戦を幾度も繰り返し今に至っている。

 

傷が治りきると、彼は言った。

 

「・・・もはや、闇喰らいは、単なる敵、ではない、私が屠るべき宿敵だ。奴を我の格下と位置付けるべきではなかったな。奴は紛うことなき同格だ。」

 

怒りの様から一転、濡れ羽色の髪を優雅な仕草で掻き上げた彼は獰猛な笑みを浮かべる。

 

闇喰らいとの交戦は、彼に久しく忘却させていただろう闘争心を呼び起こしているのだ。

「お父様、楽しそうですね。」

 

レミリアはその笑みを見て、からかうように言う。

「ふっ、そうだな、最初はただ忌々しいばかりだったのだが。」

力強さの宿った青い瞳は、とても楽し気だ。

 

「けれど、限度は弁えてくださいね。お父様ったら、たまに周りが見えなくなってしまう時があるんですから。それこそ、太陽の光みたいに熱くなって、燃えてしまわないか心配です。」

 

「はっはっは、中々良い冗談を言うようになったではないか。

ところで、レミリア、私の部屋に来たのは、何か用事があったのではないか?」

 

言われて、レミリアは、ハッとここに来た用事を思い出す。

「そうだったわ、お父様、魔法の稽古をつけてほしいの。能力の練習は続けてるけど、そろそろ魔法を覚えてみたくて。」

「ふむ、魔法か。確かにお前には、魔力を教えたが、魔法に手を付けるには少し速いのではないか?」

「いいえ、お父様。速すぎることなんてないわ!紅魔の主になるなら、必要な知識は速いうちから触れておくべきだと思うの!」

その主張も一理あるな、とアリストスは、しばし黙考し、やがて頷く。

 

「ならば、私よりも魔法を教えるのに適した魔女が紅魔館にいる。その人に教えてもらうのがいいだろう。」

 

レミリアは、その言葉を聞いて、少しだけ眉を顰めた。彼女にとって最高の師となる相手は、父であるアリストスであるため、それ以外の人物に教えを乞うという考え自体が浮かばなかったので、不安が表情に現れてしまったのだ。

 

 

「心配しなくていい。私が知る限り、最高の魔女だ。師として不足が生じる、なんてことにはまずならんから、安心しろ。」

 

「お父様がそこまで言うなら・・・いいけど。」

 

「それと、能力の練習と並行して行うことを忘れるな。」

「分かりました!」

 

数日後、お母様が例の魔女のいる場所へと案内してくれた。

広大な紅魔館の一角にある膨大な魔導書が所蔵された巨大な図書館、ヴワル魔法図書館だ。

 

「それじゃあ、レミリア、魔法のお勉強頑張ってね。」

「うん、ありがとう、お母様。」

 

案内してくれたお母様にお礼を言って、私は、図書館の入り口の扉を開け、中に入る。

 

初めて入ってみて抱いた印象は、すごく広い。本棚一つ一つが、レミリアの何倍も大きく聳え立ち、そこに一つの隙間もなく魔導書が敷き詰められているというのは壮観の一言だ。

 

お父様の趣味3割、ここの主である彼女の収集物7割という比率らしいが、比率云々がどうでも良くなるくらいの規模。

 

ここにある蔵書全てを読むつもりなら、たとえ妖怪であろうとかなりの時間を要するだろうということは、はっきり分かるし、同時に魔法の壮大な縮図を見ているような気分になる。

 

お母様の案内は扉の前までだったけれど、行き方は教えてもらった。

 

図書館内唯一とも言える開けた場所まで辿り着き、積まれた本の間にぽてっと収まるようにして、本を読んでいるのはパジャマとローブの中間みたいなゆったりとした紫色の服に身を包む少女。

 

「こんにちは。パチュリー、であってるよね。」

 

声を掛けられて顔を上げた彼女は、怪訝そうに首を捻る。

「ごめんなさい、自己紹介からだよね、私は――」

 

「いいえ、知っているわ、アリストスさんの娘さんでレミリアさんよね。

初めまして、パチュリー・ノーレッジです。」

 

そう言って、ぺこりとお辞儀をするパチュリー。

「そんなに他人行儀にならなくても。」

どうにも会話の挙動と言うか導入が記憶をなぞるかのように不自然さに思わず、突っ込みを入れてしまった。

 

「ごめんなさい、あまり他人と接する機会がないものだから、話し方を忘れてしまったみたいで、貴方に声を掛けられた時、咄嗟に対応できなかった。」

 

どれだけ人と喋ってこなかったのだろう。

 

「と・・・とりあえず私のことは、普通にレミリアでいいわ。私もパチュリーって呼ぶから。」

 

「そう、分かったわ、レミリア。」

「えーと、それでパチュリー、そこに置いてある本、全部読むつもり?

とても時間かかりそうだわ。」

 

私が、示したのはテーブルに積まれている10数冊はある分厚い魔導書について指摘するとパチュリーは肩を竦めた。

 

「否めないわ。取り入れたい知識は山とあるし、生憎私時間には困っていないから、つい、たくさん積み上げてしまうのよね。」

 

そうだ、パチュリーは魔女という種族。寿命、食事による栄養補給などの生物制約を必要とせず、ただひたすらに魔道を極めんとする思想の持ち主だ。

 

お父様からは、魔女、または魔法使いはそのような種族だとあらかじめ聞いていた。傍目に言ってストイックすぎる。

事実、私が声を掛けるまで、ずっと本から目を離さなかった。

 

「もしかして、私が来たのは迷惑だった?」

「それは、これからの貴女次第ね。」

 

言葉の意味を計りかねて、レミリアは首を傾げた。

 

「今の私たちは、形式上、先生と生徒の関係に位置するわ、私は教えることにできるなら手間を掛けたくないの、お互い実りある機会にしたいのよ。」

 

傍らに置いていた魔法書を手に取り、立ち上がったパチュリー。図書館の本棚一つ一つが、結界によって保護され、魔導書から、魔力が泉の如く湧き出る。

 

「そう、たとえアリストスさんの娘さんでも、魔法に関して、私は無駄なことをしたくないから。」

 

浮き上がったパチュリーの周囲に魔法陣が現れる。

「魔法、学びに来たんでしょ?退屈させないで頂戴。」

言葉と同時に、魔法陣から挨拶代わりの光線が飛んでくる。

「上等じゃない。」

 

レミリアは笑って、撃ちだされた光線を回避し、翼を羽ばたかせて飛び、パチュリーと同じ浮遊位置に到達する。

 

「まずは、初級よ。魔力を操り、攻撃として飛ばすことから、形も威力も私のことは考えず、思ったままに、飛ばしてみなさい。」

 

「じゃあ、遠慮なく!」

 

紅魔館の紅に、色濃く影響を受けたかのような赤色の魔力が充填され、生み出された光球がパチュリーへと殺到した。

 




闇喰らいが何者かは、ともかくレミリアによる魔法修行が始まりました。
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