フラン視点が初めて登場します。適切なタイトル付けが難しい。
十八話 傷は甘い嘘で包みましょう
目を開けると見知った紅い天井が、映った。
「私の部屋だ。」
呟いて起き上がり、寝る前の記憶を思い出そうとするが、さっぱり浮かんでこなくて、思わず首をかしげる。
「フラン!目覚めたのね。」
「お姉様。」
何だかお姉様の顔を見るのが久し振りな気がする、どうしてだろう。
あっ、分かっちゃった。心配そうに見つめるお姉様。その表情を見れば、私がどうなったのかなんとなく察しが付く。
「もしかして私また狂気になっちゃってたの?」
「えぇ、貴女は何日も眠っていたわ。2週間ほど、ぐっすりとね。」
「に、2週間!?」
さすがに驚いた。どうりで何も思い出せないと思った。私ったら寝すぎにもほどがあるよ。
「あは、あはは、そんなに寝ちゃってたんだ。お父様達、呆れてない?」
自虐するように笑いながら、お姉様に尋ねる。
お母様はまだしもお父様は怒っているかもしれない。それに、パチュリーも私が魔法の練習に来れないのを寂しがっているかもしれない。
するとどうしたのか、お姉様は少し悲しそうな顔をする。私なにか変なことを言った?
「フラン何を言っているの。お父様たちはずっと前に死んでしまったでしょう?」
「えっ?」
頭が真っ白になった。
「お母様も?」
「えぇ。」
お父様もお母様も死んでる?俄に信じられなかった。だって、私にはそんな記憶はなかったから。お母様の笑顔もお父様の声も昨日のように思い出せるのに、あれ、あれ?
「フラン、どうしたの?」
「思い出せないの、私、お父様とお母様のこと思い出せるのに!いつ死んだかも分からなくて、なんで、どうして?」
パニックを起こしそうになるフランの肩にレミリアはそっと手を置いて、視線を合わせる。レミリアにじっと見つめられたフランは沈黙する。
「落ち着いて、フラン。無理もないわ。目覚めたばかりで記憶が混乱してる、辛い記憶を思い出す必要はないの、忘れなさい。貴女は、いつもどおり、狂気で気を失っただけ、それだけしかなかったの。」
不思議とお姉様の言葉がすっと入ってきて、そういえば、そうだったと今更のように、私はお父様たちが何年も前に死んでしまったということを認識した。
それでもなにか変な気がして、首を捻る。大事なことを忘れているような感じ、狂気の時の記憶は、毎回覚えていないけど、でも夢とおんなじで思い出そうとすれば思い出せそう。
けど、私が記憶を掘り返そうとする前に、お姉様は私を抱き寄せ頭を撫で始めた。心臓の鼓動が間近で聞こえる。
頭を撫でる心地よい感覚で思考がどうでも良くなり、私は結局、追求を諦めることにした。お姉様が、それだけっていうなら、きっとそれだけしかなかったんだ。
「・・・そう言われると、そんな気がする。」
そのまま促されるままに深呼吸をすると、心が落ち着いてきた。
「しばらくは安静にしてもらうからね、フラン。」
「あ、うん・・・分かった。」
身体が重くなってまた眠くなってきた。
たっぷり寝ていたのに、まだ眠り足りない自分が少し、情けないけどお姉様の言う通りにしていたほうが良さそう。
フランは緩やかな眠気に身を任せ、眠りについた。
「上手くいったわね。」
「そうね、上手く言ってしまったわ。はぁ、複雑な気分。」
部屋の外では、レミリアとパチュリーが、嘆息していた。
どうもこうも自分たちが取った手法に憂鬱になっているのだ。
フランが気絶した後、2週間も目覚めることなく眠り続けたのは、力の過剰消費による疲労が原因だった。あの戦闘で発揮していた力は、フランの限界以上を要求するものであったのは言うまでもない。
いつもよりも長い時間の休養が必要であり、そう簡単に目覚めることはないだろうということは彼女らには予想がついていた。
その間、レミリアたちは、今回の惨劇で起きたことをフランにどう説明するかについて考えなくてはならなかった。
フランは、戦闘で父と母をその手にかけてしまった。
たとえ当時、記憶がなくてもいくら狂気の反動で記憶に影響が出ているとしても目覚めたら、両親が共々いなくなっているというのは、異常な状況である。
それにフランのことだ。
こちらが何も言わなくても自分が殺してしまったことに気づいてしまうだろう。ありのままに伝えても罪の重さに耐えかねて、精神が再起不能になってしまうかも知れない。
だから、カバーストーリーを用意した。フランにはお父様達が、惨劇以前に死んでいたという記憶を刷り込むことにした。
勿論、パチュリーが催眠魔法をかけることで、私の言葉を受け入れやすくして、嘘の記憶であることを露見させないよう細工も施していた。
記憶の混濁と当人の意識の混乱によって、魔法自体は問題なくフランにかかり、違和感も霧散してしまっただろう。
下手に嘘を付くよりかはマシだし、お父様もお母様も死んだことには変わりない。
正直、フランが疑うよりも説明する側の私がボロを出さないか心配だった。
「何ていうかレミィ、ああいういうのは悪魔らしい嘘だったと思わない?」
「パチェ、思っていても言わないでよ。悪魔でも道徳の一つくらい持ち合わせているんだから。」
これから嘘を貫き続けることになるのかと考えると、さらに憂鬱になる。
経緯を伝えなかっただけで、真実を知れば、フランは更に傷つくだろうから、こんな方法取りたくなかった。
でも今更後悔しても遅いし、できることをやるしかない。
「改めて言うけど3人になっちゃったわね。」
「寂しくなったわね。」
数日前の惨劇を整理すると、紅魔館全壊。お父様とお母様、メイド長が死亡。
生き残ったのは、レミリア、パチュリーそしてフランの3人だけだ。
紅魔館の主という地位はレミリアになし崩し的に受け継がれたが、今や当主の肩書は形だけ。たしかに憧れてはいた。だが正直、あまり意味はなかった。お父様に認められたわけでもなく、きっかけが、フランの暴走という身内争いだったのだから、本当に笑えない。
しかもフランが目覚めるまでは誰一人紅魔館に襲撃を掛けてくるようなこともなく、ただひたすらに平和な一時だった。
レミリアとしてはむしろ好機とばかりに、下剋上目当ての妖怪でも義憤に燃える妖怪ハンターでもあるいはルーミアでもなんでも戦ってくれる相手が欲しかった。
その方が、惨劇での諸々を直視しなくても済んでいただろうから。
「気持ちは切り替えられた?」
「まぁ、ね。・・・ねぇ、そのパチェ、貴女も身の振り方考えたほうが良いんじゃない?
お父様もお母様もいなくなっちゃったし、ここを去っても私は何も言わないわ。少なくともその方が長生きできると思う。」
「長生き?魔女に長生きを勧める余裕があるの?そのくらいじゃ、私がここを出ていく理由にはならない。レミィ、やっぱり貴女まだ調子が戻っていないんじゃないの?」
うっ、何も言い返せないや。魔女は不老で妖怪と同等の時を歩むことができる種族だ。パチュリーの実力は、私もよく知っている。戦ったことはないけど、お父様、お母様とも互角なのではないかと、思っている。だが、それでも友人として私は、警告しなくてはならない。
「でもこれ以上、貴女を巻き込むわけにもいかないわ。今度は貴女が死ぬかも知れないのよ。」
「それ、私が死ななくても代わりにレミィが死ぬってことよね?遅かれ早かれ。」
「・・・死ぬ前提の話はしないでよ。フランの狂気はこれからどうなるかわからないんだから。」
「たしかにその可能性を示唆したのは私、でも判断するのは私一人じゃない。」
「パチェ・・・。」
「抱え込もうとしないで。」
「ありがとう、パチェ。」
「あと、私がいなくなったら、誰が図書館の膨大な本を読むのよ。」
「ふふ、たしかに。パチェ以外は、読みきれそうにないわね。」
最後はとってもパチェらしい。
そっちのほうが本音だったりするかなって思ったけど、顔、若干背けてるもん、分かりやすいわ。
「話を続けましょうか。」
「そうね。」
さて、私達を悩ませる課題は一つ、解決したが、もう一つ問題がある。単純に人員が少なくなったという問題だ。今までは、フランが暴走したら、最低でも2人で、最高4人までで対抗することができた。しかし現状、私とパチュリーしか、残っていない以上、再度あのように狂気を暴走させた際、フランを単騎で相手取るのは厳しい。
「人員の補給が不可欠ね。」
「だけど、新しいメンバーを迎えるのは、時間と労力がかかるわよ。」
自慢でもなんでもないが、お互い知り合いもいないし、頼れる相手がいない。紅魔館の主という肩書を使追うかとも考えたが、そこまで集まりはしないというのは目に見えている。仮に集まったとしても有象無象の輩にフランが傷つけられるのは、私個人が許容できない。
「来る者拒まず、去る者追わずのスタンスで行きましょう。選り好みはいいけど、最低でも狂気のフランと渡り合える実力を持った使用人が必要だわ。」
「そんな都合のいい相手が見つかる?」
パチュリーの提案にレミリアは懐疑的な様子だが、彼女は微笑して続ける。
「さぁ?そこはお得意の能力で引き寄せてみたら?自然に見つかるよりも自分で見つけるのが得意な能力でしょう?」
宝探しじゃあるまいし、とレミリアは即座に出ようとする否定の言葉を飲み込んだ。
そういえば、私の能力って戦闘以外にも使えたわね、とレミリアは、自身の能力について再考する。
自然に能力を使えるのはメリットだが、私の場合は日常的に活用するには、活用法がありすぎて、一々使っていたら逆に日常生活の幅を狭めてしまうくらいの汎用性である。だが、一方で一々使っていられないというもったいなさというか、思考が限定されるというか、とりあえず良くも悪くも扱いに困る。
戦闘でも使い勝手は良いけどルーミアのときみたいに私の意図しない現象も発生するし、能力の使い方を整理する良い機会かもしれない。
ならこの際、パチェの提案にリハビリがてら、乗ってみるのも悪くない。
コイントスの練習もすっかりご無沙汰だし、久しぶりにやってみようか。
「その運絡みのスカウト、乗ったわ。」
「期待しているわよ、レミィ。」
まるで迷路のスタート位置が一個横にずれていたみたいな。
偽の記憶を真実と誤認させられるのは、その時点では本人のためかも知れないけど途中からは、完全に他人都合になっていくんですよね。
傷を手当するのは良いですがどこが傷であるか果たして彼女らは見えているのでしょうか?