東方曲戯録   作:Sanc.マッドカイン

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三話 修業の日々

光球はいずれもパチュリーの前面ではじけ飛ぶ。

命中の瞬間、彼女の正面が、波立つように震えたのが見えた。

 

精霊魔法だ。

 

水のような性質を纏った防壁は、攻撃が止むと見えなくなるが、ただ不可視になっただけで別に、魔法を解いたわけではない。

 

表情を変えず、ただ浮かび上がり、次の攻撃を待っているパチュリー。

彼女の方から攻撃をする様子はないのを見て、レミリアは察した。

 

彼女を守る防壁を破壊しなければ、次のステップに進めないということを。

 

ならば、魔力の出力を上げて、魔力弾そのものを強化する。

 

光球は大弾となって、飛来し、パチュリーの魔障壁に大きなダメージを与え、漸く罅を入れることができた。

 

罅の入った部分を集中的に狙って、光球を発射し、程なくして盾を破壊することに成功した。

 

「よくできました。」

「さすがは、スカーレット家の息女と言ったところかしら?元々の魔力出力は悪くないわ。少し、時間はかかったけど。ちなみに、今の防壁は大妖怪クラスの攻撃を想定したものだから、貴女の弾幕で壊すのに時間がかかったのを見るに、まだまだ魔力を扱いきれていないってことが良く分かった。」

 

「褒めてるの?それとも乏しているの?」

 

「ただ評価しているだけよ。それと意図していないだろうけど、魔力と妖力が、うまく使い分けられていないようね。」

 

「え?そうなの?」

 

「やっぱり無意識か。自分では、魔力を操っている、と思っていても自分のなじみ深い力である妖力を練っている。はっきり言って矯正が必要だと思う。」

 

「妖力で、魔法を発動したらダメなの?」

 

パチュリーのその言葉に、当然生まれる疑問をレミリアは、投げかけた。

 

「ダメということではないわ、妖力主体で魔法を発動しても構わないし、そちらの方が性に合うっていう妖怪もいるっちゃいるし、変換効率に対した差も現れないわ。

けど、レミリアみたいに、魔力と妖力、どちらの素養も持ち合わせているならば、私は魔力の方をおすすめする。理由分かる?」

 

彼女の淀みない解答に付与された問いにレミリアは、学んだ妖力と魔力の性質について思い返しながら考える。

 

吸血鬼、その種族の本質を悪魔とする私たちは、生まれつき魔力と妖力を併せ持つ。

 

さらに正確に言えば、魔力は古くを悪魔と言う立ち位置を占めていたからこそ有し続けているものであり、妖怪としてこの世界にある私たちにとって、魔力は、自身の存在維持において絶対、必要なものでもない。

 

「えっと・・・妖力は、妖怪にとっての根源だから?」

 

「大雑把だけど、合ってるわ。妖怪の根源は妖力、自身に必要な存在の維持が主体になる。能力の使用にまで、魔力を用いろとは言わないわ。けど、魔法に関しては、それに適合した魔力を有効活用した方が、遥かに得よ。」

 

「そっか、本当なら魔力って魔法使いに宿っている力だよね。」

 

「正確には魔界の性質に近しいものが宿すのよ。

魔法使いや魔界に暮らす悪魔や人々が該当する。現代に伝わっている魔法のほぼ全ての原点は、魔界からもたらされているわ。」

 

私の単純な理解をパチュリーがさらに補足していく。

 

「ところでレミリアは、まだ魔界に行ったことがないでしょう?

 

 吸血鬼はね、魔界に行くと悪魔としての側面が強くなるの。

 

魔界に身を置いたなら、今度は、存在の維持に魔力が大きな比重を要することになるわ。

 

悪魔で吸血鬼とはよく言ったものよ。

 

別に性格などに影響を及ぼすわけではないけれど、少なくとも貴方達が持っている魔力は魔界由来のものであることは間違いないわ。吸血鬼は、魔界出身の悪魔だからこそ、魔力を備えているということ――――コホ・・・コホッ。」

 

言葉の終わりかけのところでパチュリーが、軽く咳込んだ。

「大丈夫?」

「えぇ、ただの持病よ。ただの喘息だから、心配しないで。」

少し、待って頂戴、と言って、パチュリーは、喘息の発作が収まるのを待つ。

 

発作が収まるとレミリアが心配げな表情をしながら、問いかける。

「魔女って病気にかかるの?」

 

「大抵の病気は問題にならないわ。けど、生まれつきのものは治らないのか、これだけは、ちょっとね。」

 

それに、体力も全然ないし、とパチュリーは肩をすくめて付け加えた。

 

「話が途切れたけど、特に付け加えるようなことはないわね。

とにかく、レミリアは吸血鬼だし、魔界とのつながりを持つ悪魔の末裔だから、魔力を活用したほうが、妖力よりも効率がいいということよ。」

 

「物知りだね、パチュリー、そんなことお父様は教えてくれなかったわ。」

 

「私は魔女だから、魔界とは縁が深いし、研究の過程でそうしたことを知る機会は多い。

 

大半の吸血鬼、特にこの世界で生まれた若い吸血鬼ほど、その事実を知らない事の方が多いわ。

 

アリストスさんをはじめとする古くから生きる吸血鬼は、まだ魔界との繋がりが、強いけれど、重要性で言えば、すっかり無くなってしまったから、教えても教えなくても同じことと思っているのかもね。」

 

 

 

「さて、寄り道が長くなったわね。まだ本題の魔法について全く触れていない。ここからは、雑学ではなくて、魔力と魔法についてしっかり教えるから。ちゃんと覚えなさい。」

 

「うん。」

 

そうして、本格的に魔法の勉強が始まったのである。

 

 

 

▷あくる日のヴワル魔法図書館。

 

紅い鎖が次々にパチュリーへと伸び、その間に混ぜられた複数の光球が、飛来する。

最初は、光球のみで攻撃していた私は、魔力で練った鎖を扱えるようになり弾の形をいくらか、変化させて、幅が利くようになった。

 

「弾のバリエーション自体を増やすこと、悪い発案ではないわ。

 

良い弾幕ね、けど単発ばかりは隙を作る。貴女のそれは、まだ魔法に片足をかけた状態よ。

 

芸を凝らし、コンビネーションを意識してこそ、魔法は魔法として、その真価を発揮する。」

 

パチュリーは飛来する攻撃を丁寧に一発ずつ撃墜、迎撃しながら、まだ余裕綽々と言った様子で、言葉を放る。

 

けれど、レミリアが、魔法の腕を上げるにつれて、彼女も防御一辺倒だったのが、迎撃を絡めるようになり、彼女を包む魔障壁は、1つではなく多重となり、段々と受け身のまま破砕される、なんてことはなくなった。

 

 

迎撃と言う名の反撃、として、彼女が放つ弾幕を避けながら、パチュリーの言葉をレミリアは、考える。

 

コンビネーション、か。具体的にはどういう感じだろう?

 

パチュリーが言っていることは何となく分かる。

 

単発の弾によって生み出す弾幕では、やみくもに撃とうと、限界点がある。

 

それに、一々、弾幕の配置に気を配らなくてはならないというのは、パチュリーの言う通り、確かな隙が生じてしまう。

 

曰く、自分の攻撃にばかり、意識が向いてしまって相手を見失う、今の私はそういう危険性を帯びているのだ。

 

パチュリーの迎撃も時々、私が攻撃するような位置を見抜いているかのように、先読みをされることがある。

 

となると、彼女が言ったように芸を凝らした魔法を発動してみたくなるもの。

 

とはいえ、レミリアはまだ迎撃と防御に終始するパチュリー自身の魔法を目にしてはいないので、発動するなら、ぶっつけ本番の自分頼り。

 

ならば今ある手札で、レミリア自身の魔法を体現するしかない。

 

一息の呼吸で、イメージを作り、そして魔力の溜めと同時に、一斉に鎖型と光球の弾幕を撃ちだす。

 

それらは、ものすごい勢いで、パチュリーの多重シールドを削り切ることに成功し、パチュリーに回避を強いることを成功させた。

 

「やるわね。」

 

感心した風に、パチュリーは呟き、頷くと高度を下げて着地する。私も応じて、着地する。

 

「今の魔法は素晴らしかったわ。貴女の魔法として、スペルにするには、十分な代物よ。」

 

「スペル?」

聞きなれない単語に私は首をひねった。

 

「スペルと言うのは、使い手が開発した魔法や技を記録するための手段のこと。

『開け、ゴマ』みたいに、扉を開けるおまじないも大体決まりきっているでしょう?それと同じ。自分の得意技をいつでも発動できるようにするための一種の覚書ね。」

 

まだ釈然としていない表情の私に、パチュリーはしっかり方法を説明してくれる。

 

「方法は簡単よ。魔導書の破片を切り取ったこの紙片に、魔法のイメージを刻み込んだら、それで完成。」

 

「そんなに簡単なの?」

 

「問題は、それが実戦で、ちゃんと機能するかよ。ただ魔力の弾をばらまくだけの魔法なんて、わざわざスペル化する程の労苦に見合わないわ。実戦で機能しない魔法をいくらスペル化しても、魔力の無駄遣い。スペル化する魔法って言うのは、オリジナルに限られるわ。既存の魔法をスペル化しても、特段意味はないし、わざわざ魔導書から切り離す必要もないから。」

 

「つまりは自分だけの技のレパートリーを作るというようなもの?」

 

「そうね、あの鎖と弾の組み合わせは良かったし、手始めにそれをスペル化することから始めなさい。イメージが固まったら、あとは反復して理想的な形に落とし込むだけよ。」

パチュリー、それが一番時間がかかることをわざと言ってないでしょ。

「あら、でもその工程は、特段苦行ではないわ。魔法を自分で開発するのは存外楽しいものよ。貴女もある程度、攻撃の幅が増やせているし、作っても損にはならない。

まずは、次の修練までに、大よそのスペルのイメージを作ってきて。」

 

「分かったわ。」

 

 

▷パチュリーに示された課題を持ち帰ったレミリアが、次にヴワル魔法図書館を訪れたのは数日後のことで、何だかとても意気消沈した様子で、やってきた。

 

「パチェ、私魔法向いてないかもしれない。」

 

「唐突にどうしたの?魔法の勉強しすぎで頭でもやられた?」

 

机に頭をついて落ち込むレミリアを珍しいと思いながらも、読んでいる魔導書から目を上げないパチュリー。

 

「違うの。この前、能力の練習してたら、間違えて弾幕ばらまいちゃったのよ、勢い余って。」

あぁ、とパチュリーは、少し前に館内でひと騒ぎになっていた小震動について思い出す。

そしてレミリアの様子と出来事を結び付けた彼女は、すぐに原因を導き出す。

 

「アリストスさんに怒られたのね。」

 

「うん。怒られた。それもこっぴどく。しかもその後の実戦練習の時間が倍になったわ。色んなものを壊した私に原因があるのは分かってるけどさ~。」

 

「それはお気の毒に。あぁなるほど、能力と間違えて、魔力を暴発させてしまったから、自身を失くしたのね、レミィ、貴女意外と打たれ弱いのね。」

 

新たな発見をしたかのような驚いた口調でパチュリーが、言い当てれば、レミリアは頬を膨らませる。

 

「むぅ。」

 

パチュリーは、そんな彼女をやや感情を乗せ、励ますように、言葉を続ける。

 

「初日に言ったように、筋は悪くないわ。一度、失敗したからと言って、落ち込んでたら、次代の紅魔の主も肩なしよ。」

 

「否めないわね、ねぇ、魔法を失敗しないコツとかないの?」

「弛まぬ努力と緻密な分析。」

 

淀みなく答えるパチュリーに、興が削がれた振りをして、レミリアは、いじいじと指先で髪の先を弄り始める。

「がちがちの理論型ね。パチェらしい。」

 

「根暗ってこと?ジョークもほどほどにしたほうが良いわよ?」

 

片手に精霊魔法の輝きを閃かせながら、パチュリーは、レミリアを軽く睨んだ。

 

といってもそこまで本気ではない。互いに軽口を挟めるようになるくらいには、二人は打ち解けるようになったからこその戯れだ。

 

「あはは、ごめんごめん。それで?」

「大方、前に言ったスペル開発が原因でしょう?」

 

「うん、どんな感じにすればいいか、考えれば考えるほど、色んなのを詰め込みたくなっちゃうんだけど、どんどん作りたいのから遠ざかっていくの。」

 

属性、系統、妖力、今まで習った魔導書の内容を思い返して、あれこれ試行錯誤してみるのは良いが、求めるものすべてを入れられなくなってしまうという悪循環だ。

 

欲張りと言えばそれだけだが、正直、記念すべき一枚目のスペルくらいは理想的な一枚に仕上げたいというのがレミリアの考えだった。

 

「色んなのを入れようとするからよ。レミィの場合は、自己イメージに拠った魔法、専門性を強化するよりアバウトなスペル開発を行ったほうが良い。」

 

「アバウトねぇ。」

 

「私が、最初にスペル化するべきと言ったあの鎖と光球の合わせ技。何も無理やり属性などを付与しなさいと言ってない。

また妥協を提案する気もないわ。スペルは世界に当人一枚だけ、そこに貴女らしさが欠けてたら、スペルの価値がなくなるわよ?」

 

なるほど、私らしさ、か。

確かに魔導書の内容をなぞるばかりでは、迷走するのも納得だ。

 

「ありがとう、パチェ。スペルづくり、もう一回頑張る。」

 

 

▷スペルづくりはパチュリーのアドバイスで、大いに捗った。パチュリーの言う通り、魔導書から、アイデアを攫ってくるより、自分がこうしたいってイメージで作る方がはるかに完成した後の満足感が違う。

 

私が最初に編み出したスペルの名前は、運命『ミゼラブルフェイト』。

 

当初は、鎖と弾幕を撃ちだす魔法だったのが、鎖に追尾性を持たせることによって、より後続の弾幕の被弾を誘いやすく改良し、スペル化した。

 

鎖を使うって言うのが、自分の運命操作の能力を魔法で再現したような風なので、一番最初に作ったことも相俟って、お気に入りだ。

 

幾度の被弾は回避技術を、豊富なスペルは初見の対応力と言うのをビシバシ鍛えてくれた。

 

 

「パチュリーはいくつ魔法を持ってるの?そのスペル化した魔法。」

 

ある日の修行後に、私はふと気になって尋ねてみた。

スペルづくりが本格化すると、パチュリーとの修業に、新たにスペルの回避と言う項目が加わった。

 

彼女が放つスペルをひたすらに避けるというシンプルな修行だが、私は、彼女の持つスペルの数に驚かされた。

 

精霊魔法は、五つの元素属性を操り、様々な現象を具現化させる魔法の一種だが、とにかくその操作範囲は自由自在で、火と水という相反する属性のものですら、彼女は調和を齎し、一体の魔法として成立させる。

 

火かと思えば、水となり、水から、風が生じて、土を生み出す。果てはそれらを複合し、新たなスペルとなって、飛来する。

 

彼女自身が七曜の魔女と呼ばれ、精霊魔法の全属性を自在に操ることができる稀有な才能を有しているから、というのもあるだろうが、それでも恐ろしい程の多彩ぶりだった。

 

「さぁ?作った数は正確に覚えてないわ。」

 

「ほんとに?はぐらかしてないでしょうね。貴女の性格だったら、全然覚えてそうなんだけど。」

 

どこかごまかすようなその答えにやや不満げになった私に、パチュリーは微笑む。

 

「はぐらかす?ふふ、手の内を安易に晒さないのは、常識じゃないかしら?」

 

「・・・それもそうね。」

 

そんなこんなで、数週間。

 

私が制作したスペルは合計四種類となり、弾幕戦もほとほと慣れてきたころ、一つの節目として、遠慮なしの勝負をすることになった。

 

免許皆伝、卒業試験、言い方は色々考えつくけれど、要はレミリアがどれだけ魔法で、戦えるかの実力判断である。

 

勝利条件は、どちらかが戦闘不能になるまで、だ。

 

場所はいつもと変わらぬヴワル魔法図書館。時刻は真夜中、2人は空中で向かい合う。

 

さぁ、華麗なる魔法合戦の始まりだ。

 

「行くわ。」

「いつでもどうぞ。」

 

まずは、挨拶代わりの弾幕を差し向ける。

 

パチュリーを覆う水の精霊の盾を余すところなく360°全方から放たれた流星のような魔力弾が、盾に命中し、炸裂した。

 

魔力の爆発を微塵も内側へと侵入させず、盾もまた傷1つついていない。

 

爆発が収まるころには、彼女の正面にレミリアはおらず、代わりに右斜めの方向から、魔力弾が、盾にぶつかり弾ける。パチュリーが、そちらに意識を向けたと思えば、また別の方向から、魔力弾が飛んでくる。

 

レミリアは、蝙蝠の翼で、彼女の周囲を飛行しながら、散発的な攻撃を仕掛けていた。

 

高速で、視界を通り抜けていく彼女を目で追うことは諦め、パチュリーは魔力を充填し始める。

 

手に取る魔導書から、水が溢れ出し、彼女が展開し続ける水符『アクアセルド』と融合する。

 

挨拶の返礼として、彼女のスペルだった。

「水符『アクアセルド上級』」

 

7発もの人間大の水弾が、最初に飛び出し、図書館を縦横無尽に飛び回るレミリアを追尾する。

 

「初手から、吸血鬼の弱点ついてくるなんて、殺意ありすぎでしょ。」

 

スペルはこれで終わりではない。

 

彼女を包み込む水球は、その表面を渦巻かせて、上下左右に水柱が噴出する。

 

レミリアが、水柱に意識を向けた半瞬後、視界に映る小弾の雨。ただばらまかれるだけだが、追い立てられているレミリアにとって、空間が制限されることは、回避運動に致命的なラグを生む。

 

 

 

水弾が命中。レミリアは弾けた。

 

 

「弾けた?」

彼女は、眼前で生じたその現象について思わず、口に出して確認した。

 

 

「運命『ミゼラブルフェイト』!」

 

パチュリーが訝しむのも束の間、下方から、紅い鎖と弾幕が昇ってきて、『アクアセルド』の水球に直撃する。

 

そこには、傷1つ負っていないレミリアの姿、彼女は、吸血鬼の特徴の一つである霧化によって、攻撃の回避に成功していたのである。

 

「っち!」

小細工に感心している暇はない。

 

思わず漏れた舌打ちは、レミリアが放ったスペルの対処を誤ったからだ。

 

アクアセルド上級は、防御のみのアクアセルドを攻防一体に押し上げるためのスペルだ。

 

 

それゆえに、元のアクアセルドよりも防御が薄い。

 

突き立てられた鎖は瞬く間に、水球を貫くと、内にいるパチュリーへと向かう。

 

スペルを解除したパチュリーは、反射的に土塊を形成し、鎖による攻撃を防御する。

 

 

一度弾かれた鎖は柔軟に、軌道を変更し、再びパチュリーを目指すが、寸前で土塊が鎖を巻き込んで、その伸縮を止める。

 

「金符『シルバードラゴン』。」

 

鎖を食んでいた土塊に黄金が浸蝕し、まばゆい光を放つと、硬質な輝きに照る竜の形へと変化した。

 

まるで、魔法そのものというよりも魔法によって竜を召喚したと言っても過言ではない迫力が宿っており、首をもたげる咆哮のような魔力の放出は、黄金色の弾を生み出す。

 

ミゼラブルフェイトのスペル効力が尽きた。

 

即座にレミリアは、シルバードラゴンに対抗するべく、新たなスペルを発動する。

「紅符『スカーレットシュート』!」

 

 

中弾と小弾を大弾が連なった、弾幕が竜を仕留めるべく、飛んでいく。

 

ミゼラブルフェイトと同程度の規模と密度を持つ、それらは、次々に弾着するが、その身は僅かと傷つかず、守られるようにして、背後にいるパチュリーにも届かない。

 

仮初の命を持って、伝説上の存在である竜を再現せしめたスペルの強度は、パチュリーが有するスペルの中でも断トツの強度を誇り、一枚や二枚のスペルで、破壊できる程、柔ではない。

 

そして有する鋼鉄の硬度は、何も防御目的のためにあるのではない。

 

シルバードラゴンは、動き出す。攻撃方法は単純明快、突進だ。

 

遅れて、生成された黄金弾も続き、レミリアの回避ルートを限りなく潰していく。

 

パチュリーの視点からは、シルバードラゴン本体とそれが生み出す無数の弾幕によってレミリアの姿が見えなくなる。

 

 

 

そしてその数秒後、弾幕を全て潜り抜けてレミリアが飛び出してきた。

 

 

Side レミリア

金符シルバードラゴン。初見のスペル名を聞いた私は、集中力を引き上げて、スペルが組み上がるのを見守っていたが、完成したスペルは、今の私では手が付けようもないほどに、強力だった。

 

まず、防御力。鋼と同等と言っていいほどの硬質さは、私の二枚のスペルを容易く耐えきった。

 

攻撃力は・・・正直、当たったら絶対ただではすまないだろう。

 

動かぬ障壁ならば、まだよかった。しかし、突進をしてきたときには、対処方法は迷子同然。回避を許さないと言わんばかりの黄金弾が、宙を占め、パチュリーの姿は見えなくなってしまった。

 

腕を振り、紅い大玉をばらまくがスペルですらない弾幕程度では、竜の突進は止まらない。

 

三枚目のスペルの相殺、霧化、などパッと思い浮かぶ対抗方法が、浮かんでいくがレミリアの意識はどれも正答ではないと、それらを流していく。

 

極限まで高めた集中力が、無意識のうちに彼女に能力を発動させていた。

 

しかし、それは常の運命視とは、異なる風景を映し出し、レミリアを困惑させた。

 

(今の、もしかして?)

 

 

一瞬だけ、だがその一瞬、脳内で奔った光景を実現できるという確信がレミリアに宿り、困惑を押しのけた。

 

避けられるのか?いや、確実に避けられる!

 

短く呼吸を整え、シルバードラゴンを真っ向から見上げたレミリアが羽ばたく。

 

迫るシルバードラゴンの動きが手に取るように分かる。シルバードラゴンの噛み付きを紙一重で躱したレミリアは、周囲の弾幕を最小限の弾幕で相殺することで、一気に、金符シルバードラゴンを捌き切った。

 

 

「っ!?」

パチュリーの驚いた顔が、弾幕の隙間で判別できた。

 

そりゃあそうだ、避け切った私だって驚きだ。

 

確かに私も初見だったら、ほぼ必ず、被弾してしまっただろうけど、不思議なほどに頭が冴え、まるで、知っていたかのように、私の身体は、反応できた。

 

それに、私の脳裏に翻った光景はまだそれで終わっていない。

 

パチュリーが驚くのも束の間で、即座に今度は2つのスペル・・・否、2つの同一の複合スペルが紡がれる。

 

「土&金符『エメラルドメガリス』―――!?」

 

 

彼女が、次のスペルを言い終わる前に、近接の間合いへと接近した私は、自身の爪を魔力を纏いて、魔爪とし、振るう。

 

ガリンっ!

 

ノータイムで展開された障壁が、爪撃を危ういところで防ぐが、障壁に魔爪は食い込み、

 

パリンっ!

 

と言う音と共に、振り抜かれて破砕され、パチュリーの首筋に、ヒットする直前で止まった。

 

沈黙が二人の間で流れ、レミリアが勝者の笑みを浮かべて問いかける。

 

「私の勝ちで良い?」

 

「・・・降参よ。まさか、お互いほとんど無傷で終わるなんてね。」

 

そう言われればそうだ。来ている服の一つの繊維も綻びていないなんて、ちょっと意外だ。

 

「私も。もっと魔法を当てっこして終わるものかと思ってた。」

 

結界内は、シルバードラゴンの直撃を受けた部分が罅入ってることを除けば、大して被害はない。

 

パチュリーからは無事に、魔法の実力を認めてもらい、互いの戦闘を振り返ることにした。

 

「シルバードラゴンを回避された時は本当に驚いた。あの回避からの動きは、信じられないくらい、洗練された動きだったわね。人が変わったみたいだった。」

 

確かに、あのまま続けていれば、パチュリーの三枚目のスペルによって私は戦闘不能になっていたに違いない。

 

それを回避したのは間違いなく、一瞬だけ見れた光景のおかげだが、なぜ、その光景を見ることができたのかレミリアには見当がつかなかった。

 

いや・・・一つだけ説明できる要素があった。

 

「多分、私能力を使ったんだと思う。」

 

「貴方の能力はまだそこまで熟達していないと聞いていたけど?」

 

「ううん。運命に干渉するんじゃない。運命が、未来が見えたのよ。」

 

『運命を操る程度の能力』、まだ全容が曖昧な自身の能力なら、恐らくは、未来の光景を使用者に見せることも可能なのではないかと、レミリアは考えたのだ。

 

「・・・興味深いわね。貴方の能力は、運命視とその操作とばかり思っていたけど、予知能力すら兼ね備えているのかしら?」

 

「要検証。能力の練習中にはそんな経験はなかったし、ひょっとしたら・・・。

あぁ、だめ頭が働きそうにない。」

 

話はこれから、というところで、戦闘の疲労感が、ドッと襲い掛かってきた。

 

眠いし寝たい。今すぐベッドで、睡眠を貪りたい。

 

夜は更け、吸血鬼の活動時間のはずなのに、夜明けに感じるような眠気がさす。

 

「そうね、さすがに今日はこれでお開きにしたほうが良いわね。疲れているでしょうし、貴女の能力についての謎は、また今度ゆっくり話しましょう。」

 

気遣ってくれるパチュリーの言葉が温かい。お言葉に甘えて、その日は解散となり、

私室に戻った私は一足早く惰眠を貪るのであった。

 

 

 





一挙に時が進みすぎてる感が・・・、修行の終了が早すぎる・・・。



魔法だのスペルと散見しておりますが、スペルカードに近い、出力装置 製図のようなものかと考えていて、言うなれば即席魔導書でしょうか。



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