一斉に打ち上げられたコインが地面について転がる。コインの目はいずれも表。同時に10個の表を能力を用いて出した私は、ふぅ、と一息つく。
以前の目標である10回連続コインの表を出す、その課題をクリアしてから、2週間、着実な能力の成長が現れている。
「お疲れ様、レミィ。能力は、順調に使えているようね。」
話しかけてきたのは、パチュリーだ。最初はぎこちなかった、
彼女との会話も最近は自然とできるようになったし、愛称で名前を呼び合うようになっている。
「ありがとう、パチェ。まだまだ、使いやすくなってきた程度よ。私が求めている水準はまだまだこんなものじゃない。」
『運命を操る程度の能力』、実体のない不確定な要素である運命に干渉することのできるこの能力は、選択肢の優位権が、常に自身の側にあるようなもので、相手の選択肢もまた彼女の手中にある、というよりも転がり込んでくる。
だが、それを自在に行使するには、まだ彼女の力が足りない。
与えられてはいても、それを十全に扱うには、何回も使って勝手を確かめるしかない。
「そう、慌てないで。能力を早期に使いこなそうとする向上心は、立派だけど、貴女は今の時点でも十分優れているわ。」
「うー、けど・・・」
「けど、じゃないわ。根を詰めすぎて、ダウンする方が、非効率よ。」
私の反論を返すでもなく一蹴したパチュリーは、ぜんそくの発作で、咳をする。
確かに一理あるな、と納得してしまう。
我武者羅に能力を繰り返し使うという練習方法も見直したほうが良いのかもしれない。
今度、お父様に能力の扱い方についてアドバイスを聞いてみよう。
レミリアが心の中で決意したのと同時、喘息の発作が収まったパチュリーは立ち上がる。
「次はアリストスさんと、実戦形式の訓練でしょう?中庭行くわよ。」
「そうね、パチュリー・・・ありがとう。」
「お礼を言われるほどのことはしてないわ。」
照れているのが声に現れている。素直じゃないんだから、とレミリアは、笑い、2人連れ立って、中庭へと向かった。
外へ出れば、青白い月光の光が照らす夜が私たちを迎える。
吸血鬼の活動時間の真っただ中である深夜、紅魔館の広い中庭で、行われるのは、レミリアの実践訓練だ。
相手は、アリストスではなく彼が召喚する召喚獣だ。
青白い渦のような魔界ゲートから呼び出される魔犬を倒し続けるというシンプルな訓練。
だが時々、アリストス自身も魔法を飛ばしてくるので、魔獣だけに気を取られていることもできない。
戦闘は、能力の訓練においても貴重な経験値だ。能力の使用には魔力を用いる。
ごく最近になって能力の発動を自然に行うことができてきているレミリアは、魔力を用いれば用いるほど、より高精度の運命操作を行うことができる事にも気づいていた。
近づこうとする魔犬を、魔力弾で撃ち抜きながら、数を減らしていく。
数を減らしてもアリストスは、減った分を次々に補充していくので、アリストスの魔力が尽きるか、レミリアが限界を迎えるまで、訓練は続く。
「おっと。」
アリストスが放った槍型の魔法弾を躱した隙を突かれ、危うく、魔犬の一匹に噛みつかれそうになった。攻撃を喰らわなかったのは、能力によって、その運命を回避したからだ。
しかも相手の運命を常に干渉下に置くと言うのは、それだけ魔力を使い続けているということでもあるので、自分で、対処できるところはしっかり見極める必要がある、というのが、魔力の節約、もとい効果的なタイミングでの能力の活かしにつながるのだ。
ついでに言うとパチュリーとの魔法の実力勝負で、知るところとなった未来予知、これは、どうやら運命操作とはまた別枠の代物であることが分かった。
能動的な発動というよりも閃きに近く、脳内に予知となって現れる映像は、レミリアが、数十手以上の運命操作を一瞬の後に完結させてくれる。
何度も何度もパチュリーのスペルによる実験で被弾した末に、そう結論づけたはいいが、『閃き』といったように、発動タイミングは選べない。
さて・・・残り5匹ほどとなった魔犬を見回し、あと一息、と思った途端に、30匹ほど魔犬が、一度に出現した。
それを皮切りに、魔犬たちを召喚していた魔界ゲートは、閉じ、アリストスは、中庭を見下ろすバルコニーへとひらりと飛び上がる。
不敵な笑みは、この程度の数はどうとでもなるだろう?とでもいうような煽りを含んでいるようだった。
鬼め・・・。いや、鬼だったわね。吸血鬼だもの。でも私もこの程度でへこたれないわよ。
レミリアは、群がろうとする魔犬たちを一瞥し、一つ驚かせてあげようと勢いづく。
彼女の周囲に、赤紫の魔力に蠢く槍が出現した。
次々と飛び出し、空中を進む槍は回避しようとする魔犬を回避先まで追尾して貫き、元の魔力へと還していく。
追尾能力の甘かった一本の槍は、魔犬を掠るに留めたが、動きの鈍った魔犬など、レミリアの敵ではない。
仕留めそこなった魔犬は、爪で切り裂きとどめを刺す。
「見事だな。」
戦闘終了。アリストスに短くも確かな賞賛のこもった言葉が贈られ、レミリアは思わず、空に向かって、ガッツポーズをした。
そのまま仰向けになって夜空を見上げながら、しばらく疲労した身体を休ませる。
「レミィ、その槍は自分で編み出したの?」
パチュリーが、私の傍らにやってくると興味深そうに、私が先ほど飛ばした槍について聞いてきた。
「うん。能力の応用なんだけど、相手の運命への干渉を具現化するって言えばいいのかな。でも本当は、とにかく、取り回しのしやすい相手への攻撃手段が欲しかったから。」
「ふぅん。面白いこと考えつくわね。能力に使用した魔力をそのまま物質化させているのか・・・。」
彼女の感心したような頷きに得意気になったレミリア。
「すごい?すごいでしょ!」
「それはスペルなのかしら?」
「どうなんだろう?作ろうと思えば、作れるから、特にスペル化はしていないんだけど、これもスペル化していいの?」
「魔法であろうと、霊術の類であろうと、自身の得意技をスペルにすることは特段、珍しいことじゃないわ。」
「名づけるなら、そうね、グングニル・・・『スピア・ザ・グングニル』というのはどう?」
「採用。パチェ、貴女ネーミングセンスありすぎよ。」
「そう?気に入ってもらえて何よりだわ。」
新スペルについての話が一段落した折を見て、アリストスは庭へと降り立ち、レミリアへと話しかける。
「能力も順調。魔力の扱いも相応に上達したようだな。
レミリアもそろそろ実戦に出てもいい頃だろう。」
「良いのですか?」
お父様の言う実戦とは、主に、妖怪との戦闘を意味する。お父様が若い頃は、色んな人間たちがこの地を攻めてきたそうだけど、ある時から、人間による襲撃はぱったりと無くなった。
闇喰らいはその入れ替わりで現れた形で、時期的にも人間たちが踏み入れなくなったのは、恐らく、闇喰らいが、訪れた人間たちを喰らっているからだと考えられている。
「今のお前なら、大妖怪までとは言わないが少なくとも、力量で中級妖怪に後れを取ることはないだろう。あとはひたすらに戦闘経験を積むだけだ。」
「分かりました。」
「そうと決まれば・・・ふむ満月は明日だな。レミリアよ、明日から早速、夜の見回りに同行しなさい。」
「はい!」
「レミィ、張り切るのは良いけど、張り切りすぎて怪我しないようにね。」
「そうそう、パチュリーちゃんに聞いたけど、無茶な戦い方は厳禁よ。」
パチュリーの言葉に応じるようにして、のほほんとした声が続く。
私が思わず振り返った時には、同時に柔らかな両手で抱き上げられていた。
声の主はお母様。いつも通り、腰まである艶めく黒髪を流し、人懐っこそうな笑みを浮かべて、抱きかかえた私を見上げていた。
「お母様!いつの間に来てたの?」
「さっきからいたわ~。私、レミリアの成長に感激したわよ。」
「ちょっ、もう子供じゃないんだから、放してよぉ。」
「まだ4歳なんだから、背伸びはダメよ~。」
お母様っていつも唐突に現れたりするのよね。影が薄いってわけでもないし、どうしてそんなに気配を隠すのが上手いのだろうか。
お母様の抱擁を受けている間、そんなことを考えていた。
‐翌日‐
月が昇ると同時に私たちは紅魔館を出発した。
夜闇に紛れるような黒衣とマントを身に纏う、お父様が、私の前を先行して歩を進める。
お父様は、威嚇の意味で、妖力を周囲に放っているが、それだけで格下の妖怪たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていき、森は静かに月光を滴らせている。
現状、お父様に真っ向から、反抗する妖怪と言えば、件の闇喰らい一人であり、森に入れば、よっぽどの度胸の持ち主でない限りは、私たちを襲ってくるような妖怪はいない。
売られた喧嘩なら買うつもりだが、その際は、命を代償にすることをお忘れなく、だ。
まぁ、この様子なら、いないだろうけど。あれ?私の実戦の機会はどこ?
もしかして出番なし?いや、平和なのはいいことだけど、戦う相手って言っても、軒並み大きな勢力を作った妖怪なんて、ずっと昔にお父様が潰しちゃってるからなぁ。
そういうこともあって、ここら辺の妖怪たちは、別々の徒党を組むこと自体が少ない。
徒党・・・そういえば、闇喰らいはどうなのだろう?
「お父様、闇喰らいに、手下の妖怪などは、いないのですか?」
ふと、浮かんだ疑問を私は問いかけた。
お父様のように、大妖怪は、自身の領地と配下となる妖怪を従えることによって、勢力を作り上げるのが半ばセオリーのようなものだ。
ならば、大妖怪級の力を持つ闇喰らいにも、味方している妖怪がいるかもしれない、と思ったのだ。
すると、お父様は、首を振って答える。
「奴は、基本的に単独行動、完全に独立した一匹の妖怪だ。周辺の妖怪にも奴に味方する妖怪は聞かないし、今までの戦闘でも見たことがない。
そもそもとして闇喰らいは、同じ妖怪であっても腹の減り具合で態度を変えるような輩だ。」
聞けば聞くほど、闇喰らいは、自分勝手な妖怪にしか聞こえない。妖怪の在り方としては正しいけど、困る相手がいるのといないのじゃ、こうも違うのだろうか。
「徒党を組む意思がないだけマシかもしれんな。
最もあの能力では、集団で戦闘を仕掛けるにはいささか不向きだが。」
「そういえば、能力を隠さない妖怪は逆に珍しいのでは?」
「奴の場合は、能力が極端すぎるからな。レミリアの能力も大概だが、応用性の利く能力は、隠してもいずれは露見する。能力が露見しても尚、自身の優位が揺るがないほどの自信があるのだろう。」
お父様から話を聞いたのだが、闇喰らいは、夜闇に潜み、影や闇を駆使した攻撃が主体であることから、闇を操る能力だという風に、推測していた。
確かにストレートな能力だ、その能力に太刀打ちできるかどうかは別として、私達が仮に出会った際、私がすべきことはお父様の手助け、サポートだ。
お父様と互角の戦闘をするほどならば、大妖怪級は必至。
魔法やスペルによる援護も目くらまし程度にしかならないかもしれない。
けど、私の能力で運命に干渉を加えれば、闇喰らいとの戦闘でも優勢を保てるはず・・・。
「あれ、お父様?」
いつの間にか、前方を歩くお父様の姿が消失していることに気づいた。
考え事に浸っていたとはいえ、私の歩幅に合わせてくれたお父様がこちらを放り出して前に行ったとは考えにくい。
何の前触れもなく姿を消してしまったのには必ず理由があるはずだ。
一度、深呼吸をしよう。
暗い森に一人取り残されて、怯える?まさか、私は吸血鬼だ、夜に生きる妖怪だ。
そんな人間みたいに暗闇を恐れる精神を持ち合わせてはいないし、別に、怖いなんて思ってない。
お父様がいきなりいなくなったからびっくりしているだけで、
今にも身体が震えてしまいそうなのは、そう思いのほか冷たい夜風のせいなのだ。
「よし、大丈夫。」
周囲を確認した限り、月が隠れているわけでもないのに、森の暗さは増している。見回しても妖怪の気配は感じられない。
さっきお父様が追い払ったのもあるがそれにしては野生動物の一匹さえもいないのは少し妙な雰囲気だ。
何より遠くの木々が塗りつぶされたかのように黒くて影法師のように映っている、何とも不気味な光景。
明らかに、何らかの干渉が生じた結果である。
闇に塗りつぶされている。言い表すなら、そんな感じ。
あ・・・。私は気づいた。闇と言えば、闇喰らい。闇を操る能力の使い手。
つまり私とお父様は、闇喰らいの何らかの能力によって分断されてしまったということ?
紅魔館の方向に戻るか?いやそうなるとお父様を闇喰らいの潜む森に取り残すことになりかねない。それでは、私が森に来た意味がないじゃない。
しかもわざわざ分断させられてしまったということは、無事に返す気があるのかも怪しい。
そう考え、お父様の合流を急ごうと、私が一歩踏み出そうとしたとき、真横から声が掛けられた。
「こんなところでなにをしてるの?」
紅いリボンをつけた金髪の少女だった。
不思議なことに気配も足音も何もなかった。まるで、夜闇から現れたかのような少女に対し、
警戒心を引き上げながら、質問には答えず、逆に問いかける。
「貴女こそ、何者?どうしてここにいるのかしら?」
「私?私は、普通の人間だよ。この森に迷子になっちゃってやっと、人を見つけて‐」
「迷子の人間なんて言い訳はこの森では通らないわ。
その言い訳を使うあたり、貴女はギルティ、敵よ。」
アリストスらが住む紅魔館は、人里離れた土地に位置する。年端もいかない少女が、迷い込んだくらいで入り込めるような場所では決してない。
ここにやってくる人間は、社会から外された逸脱者か、妖魔を滅ぼそうとする退魔師のいずれかなのだから。
そして一見、何の変哲もない少女の外見をした彼女はそのどちらでもない。
隠しきれていない力量をしっかと感じさせる膨大な妖力、
底抜けの奈落を覗くかのような深淵を思わせる紅い双眸が、彼女が異形の存在であるという直感をレミリアに齎していた。
「なぁんだ。騙されないのかぁ、襲ってくれたら楽だったのに。」
にぃっと、無垢な相貌を笑みで歪ませた少女は、一転して強者の雰囲気を帯びる。
「貴女、闇喰らいね。」
「その名前で呼ばれるのはもうたくさん。あたしにはちゃんとルーミアって名前があるの。」
闇喰らい、またの名をルーミアは、うんざりした様子だ。
どうやら通称で呼ばれるのは嫌いのようだが、その情報は軽く流しておこう。
「そう、私はレミリア・スカーレット。貴女を倒しに来た吸血鬼よ。」
「あぁ、やっぱり。気配が似てると思った。倒す?できるの、貴女に?」
「やってみないと分からないわよ。」
戦闘態勢を取ると同時に、私は能力を発動し、ルーミアの運命を視る。そして驚愕した。
なにこれ!?複数の運命、いや点と線の入り混じる迷宮、どこから干渉を行えばいいか分からないくらいほど暗い運命。
それだけ分かると、レミリアは、即座に能力の行使を停止し、目の前の少女と見える何かへと意識を集中させる。
「いつもウザ絡みしてくるあの吸血鬼とは違って、今回は、嬲り甲斐がありそうね。」
「言ってくれるじゃない。貴女の血は、まずそうだけどせいぜい私の力にしてあげる。」
不敵な言葉とは裏腹に、レミリアは、慎重に立ち回ることに決めていた。
まず、向こうの方がはるかに格上である以上、攻勢をかければ、長時間戦えないだろう。
元々、お父様とのタッグで戦闘の予定だったが、単独で遭遇した以上、彼女は防戦に徹するしか方法はない。派手な戦闘音を立てれば、こちらに気づいて、来てくれるかもしれないという期待もあり、防戦と言う名の時間稼ぎということになる。
小柄な体に闇が、集まっていき、急速に拡大し、レミリアの周囲の風景は、闇に埋もれた。
レミリアの視界には、暗闇の中でも煌くようにルーミアが映り、軽い微笑が鬼灯のような頬に浮かぶ。
彼女の姿が完全に闇で見えなくなると同時に無数の闇弾を飛来してきた。
意識的に発動した能力、先に見えたのは回避のための予知で、1つと掠らせることなく回避に成功すると、彼女は運命視と漂う妖力の気配で位置を照合させながら、吸血鬼の身体能力を存分に活用した滑空で、潜むルーミアへと接近したレミリアは、魔力の宿った拳を叩きつける。
ルーミアは格上の妖怪だ。いくら大妖怪の血を引き、生まれたとしてもまだ妖怪とは何たるかに、足を踏み入れたばかりのレミリアによるその一撃は奇襲以上の意味を持ち得なかったが、確かにルーミアの不意を突いた一撃となった。
「へぇ、ちょっと驚き。私の居場所がバレちゃうなんて、まだひよっこかなって思ってたけど、少しはやるじゃん。」
一撃を受けたルーミアは、ダメージが堪えた様子もなく楽しそうに笑う。
足掻く子羊を見定めるかのような圧倒的強者の余裕。
悔しいが、レミリアには、空元気で、不敵な笑みを返すことくらいしかできない。
レミリアとしても、一撃を入れた喜びの反面、内心は、反撃が飛んでこないか、冷や冷やしていた。
「これはどうかな?」
闇が走り抜けた。
柱ほどの大きさがある闇の奔流が、一直線に放たれ、レミリアを飲み込みかけたのである。
一度ならず、二度、三度と彼女を飲み込もうとする闇の奔流は、脇へと反れたりすれば、回避は簡単だが、塞がれる視界で、ルーミアの捕捉が困難になる。
奔流が一時、途切れた時、ルーミアは、位置を変更してはいなかった。
動かないのは、まだ様子見だからなのか、別の狙いがあるのか、接近を試みようとしたとき、
彼女の一歩前から、闇の奔流が吹き上がってきて、レミリアの正面の視界を塞いだ。
(危なっ・・・けど目くらましかしら?これなら、回り込んで・・・。)
カーテンを切り開くように、奔流の内側から、ルーミアが現れた。
「こんばんは・・・。」
ニコォっと不気味に笑んだ彼女の唐突な出現に恐怖で、回避を行動に移すのが遅れた。
「ぁ・・っ!?」
至近距離で振るわれた拳をレミリアは防御もままならぬまま、直撃を受け、宙を舞う。
回転する視界
朦朧とする意識
そしてそれらを吹き飛ばす背後に現れる寒気のような気配。
反射的に生成したグングニルを勢いよく振る。
回り込み、追い打ちをかけようとしていたルーミアだったが、彼女が振るったグングニルで身体が両断された。
勿論、それで死ぬわけもなく、身体の断面から闇が溢れ、2人のルーミアに分身した。
再び、闇のレーザーが、レミリアを狙う。
一気に、翼を羽ばたかせて、上昇し、レーザーの雨の範囲から離脱する。
森の木々を抜け、上空の月夜へと躍り出たレミリアだが、闇を介して瞬間移動してきたルーミアが頭上で既に待ち構えていた。
視線の交錯。彼女は無造作に闇を纏った腕を振り下ろす。レミリアも臆することなく、腕を全力で振り上げ、グングニルと闇、双方が大きな金属音を立てて激突。
結果、敗北したのはレミリア。
彼女をはるかに上回るパワーが、
グングニルを真っ二つに折り霧散させ、羽虫のごとく地上へと叩き落とした。
すさまじい落下の勢いは、地面に衝突しても威力を殺しきれず、身体は、鋭く毬のように跳ねて樹木へと叩きつけられて漸く止まる。
「っは!?」
衝撃で空気が一気に吐き出され、ずるずると、木の根元まで滑り落ちた。
「ぁーあ、ドレスが泥だらけじゃない。」
そんなどうでもいいことを呟きつつ、重傷を負い、鈍く重くなった身体を地面に沈ませていると、上空から、ルーミアが降りてくる。
「あれ、もうおしまい?やっぱり大したことないなぁ。」
やっぱり・・・その言葉に私はちょっとムカついた。
このまま何も抵抗しなければ、彼女は私に止めを刺すだろう。
それで死んだら、眼前の闇妖怪は、私のことを取るに足らない存在として、すぐに私の躯をそこらの有象無象と同じように啜るだろう。
それは果たして、紅魔の吸血鬼として相応しい最期だろうか?
私は、偉大な吸血鬼であるお父様の血を引く吸血鬼。いずれ、紅魔館を受け継ぐ吸血鬼、実力差が明白な大妖怪であっても、こんな無様を晒すのは、プライドが許さない。
一方的なワンサイドゲーム?そんな運命、私が変えてやる。
決意が、身体に血が染み渡るような力をくれる。
一矢の傷、それで状況を変える、いいえ勝利の可能性を引き寄せる!
身体に鞭を打って、立ち上がったレミリアは、グングニルをもう一度手元に出現させる。
「そうこなくっちゃ。」
戦意を取り戻し、立ち上がるレミリアを歓迎した様子のルーミア。
今度は4人に分身し、攻撃を仕掛けてくる。
グングニル、能力を発動しなければただの槍。ならば妖力の限りを尽くして、彼女の運命を射抜けば、それでチェックメイト。そのためには、分身ではなく、彼女の本体を暴く必要がある。
回避予知の運命、死ぬ気で身体を動かして回避を、回避を繰り返し、弾幕を打ちこんでも消された分身は、時を置かずして復活する。
全員の運命を視てもいずれも異なるルーミアの運命が映った。
いや違う。虚ろで、空っぽだ。そして、他と異なる彼女が戦闘前に見た迷宮のような運命を持つルーミアはただ一人。
1人のルーミアに視線を向けたレミリア。
ただそれだけで、彼女の視線に込められた確信めいた殺気を感じ取ったのか、分身たちを霧散させると、本物のルーミアの前に、肉壁として出現させる。
「当たりね・・・!!見つけたぁっ!!!」
グングニルを思い切り投擲する。
実力の差を今だけは突き破って、ルーミアの運命へと狙いを付けたグングニルは束ねられた闇人形らを貫き、本体へと向かう。
しかし、寸前でルーミアは自身を闇へと溶かし、姿を消し、対象を見失ったグングニルは、地に突き立つ・・・かに思えた。
いくら防ごうとも、躱そうとも、全力で能力を付与した絶対無敵の神槍から逃れることはできない!
グングニルは、闇に溶けて気配を誤魔化そうとも、気配を見失わずに、少し距離を取って出現したルーミアの下へと正確な方向転換を行っていた。
「こんの・・・!?」
泡を食って、闇弾で、グングニルを迎撃しても、その刀身には傷1つ付かない。
「無駄よ!私の運命からは逃げられない!大人しく・・・っ、当たれーっ!!!」
それでも構成する妖力は減らされている。だから、残った妖力の限りを尽くして、ルーミアの運命を見定め、グングニルへと注ぎ込む。
驚きながらも闇から闇へと逃げるルーミアを見失うことなく、追尾し、深紫の槍がついにその背中を捉え、肉を抉った。
「ぐぅ・・・!?」
初めて耳に届いたルーミアの苦悶の声。
やっとまともにダメージを入れることができた。
(さて・・・次はどうしよう?)
レミリアは、燃える感情のままに、能力の限りを尽くして、攻勢を仕掛け、一撃を当てた。
ルーミアが手傷と判断するほどの傷を。
しかし、攻勢を終えて、冷静になってみれば、圧倒的不利な状況をひっくり返したとはとても言えないことに気づいてしまった。
(むしろ自滅?)
妖力も魔力も能力の連続使用で空っぽ、体力も決死の一撃を当てる際の攻防回避で使い切り、気を抜けば、今にも倒れてしまいそうなほど疲弊してしまっていた。
しかも当の本人――軽傷以上重傷未満の傷を負ったルーミアは、笑い、両腕を水平に広げ、まるで、聖人が十字架に磔にされたかのようなポーズを取り、妖力をさらに滾らせていた。
それは、闘争心を刺激されたかのような『遊び心』の放棄にも似ており、今まで彼女が緩く放っていた殺意が、本格的に漲っているのを肌で感じた。
あ、やばい、これ殺される、さっきより妖力が、強いもん。私なんかぷちってやられる。
何秒か先の死を覚悟した彼女はぎゅっと目を閉じてその瞬間を受け入れようとしたとき――
――「やれやれ、我が娘は無鉄砲なところも我譲りなのか?」
暗闇に声が響き、レミリアのすぐそばに、重々しい靴音と共に、浮かび上がるように現れた、一人の吸血鬼がいた。
「お父様!」
父、アリストス・スカーレットだった。
私を庇うように片腕を広げ、対峙する彼らは、しばしの間、にらみ合い、やがてルーミアの方がため息をついて、両腕を下げる。
「はぁ、今日は、ダメね。せっかく、美味しい餌にありつけると思ったのに。」
「我が娘を餌呼ばわりとは、口の減らぬ小娘だ。いずれ地に伏せさせてくれる。」
「貴方の方も夜道には気を付けたほうが良いよ。躓いたら、死ぬかもしれないからね。」
そう言って、ルーミアは森の木々の影へと消えていき、闇は晴れる。
元の風景を取り戻した満月の森の光に照らされながら、私は、へたりこんだ。
「危ないところだったな。」
「そう・・・ですね。もうだめかと思いました。」
「今日のところは、戻ったほうが良いな。レミリアは、まだ再生能力が未熟だからな。紅魔館で、治療をしなくてはならん。立てるか?」
「えぇ、きゃっ。」
立とうとしたら、バランスを崩して尻餅をついてしまった。
私弱いんだなぁ。所々破れ、ぼろぼろになった洋服と痛みの残る傷跡を見回しながら、そう思った。お父様、私のこと、情けないって思うかな。
「無理もないか。気にするな、私が抱える。」
私の心情とは裏腹に、お父様は、私をお姫様抱っこすると、紅魔館へと至る道を歩き始める。
「あぅう、ごめんなさい、お父様。」
「あれほどの戦闘を繰り広げたのだから、無理もない。
闇喰らい相手にあそこまで喰らいつこうとするとは、聊か驚いたぞ。」
月光の照らす森を歩むお父様の振り返るような言葉に、私は違和感を拾い上げ、ジトっとした目で、お父様を見上げる。
「・・・もしかして、お父様、私がピンチになるまで見ていたりした?」
アリストスは当然だと言わんばかりに笑う。
「くかか、今頃気付いたか、レミリアに異常があれば、すぐに我が能力の知るところとなる。攻めの姿勢は悪くなかったが、全く冷や冷やさせおって。」
ということは、その気になれば、いつでも参戦できたということじゃない。
「お互い様よ。お父様が全然来ないから、私あんなに熱くなっちゃったんだから。」
「言いおるわ。だが、今宵の経験はレミリアの力を大いに高めるだろう。能力の向上にもつながるはずだ。」
「そう・・・ですね。」
レミリアの言葉が途切れがちになって、瞼が眠そうに瞬きを繰り返す。
その様子を見たアリストスは、それ以上何も言わなかった。
レミリアは、ゆっくりと意識を手放し、眠りに落ちるのだった。
ルーミアさん強い(確信)
戦闘における攻撃手段は、大幅に拡張されているものと思います。
まぁ、彼らならこれくらいは、できるでしょうっていう感じです。これからも多分、そういった感じで戦闘は厚くなっていくと思います。