(ただ今回の本編にはあまり関係ないが。)
お母様は昔、メデューサと呼ばれていて、もともとは吸血鬼とは別の種類の妖魔だった。
吸血鬼になったのは、お父様が一目惚れし、その熱意に負けて、吸血鬼になることを選んだのだという。吸血鬼の眷属になったことで、以前の容姿とは、若干変わったようで、メデューサの頃のお母様は、髪が蛇だったという。だが、美人なのには変わりなく、種族が変化することによってその名残として残されたのは、『眼力を変える程度の能力』という能力だ。
聞いただけでは恐らく、能力の詳細を把握することは、できないと思う。
私も一回聞いただけでは、どのような能力なのか、分からなかった。
お母様によると、お母様は、自身の眼から魔力を放つことによって、相手を動けなくしたり、盲目にしたりなど、多くの効果をもたらすことができるという。
能力の実物は、私も一度見たことがある。
お母様は、私が2歳のときに、暗殺されそうになったことがあった。
一人の気配を隠すのに長けた人間の術士だった。
銀製ナイフを片手に、背後から迫り、お母様に刃をふるおうとしたが、その術士に向けてお母様が視線を送ると、暗殺者の体はまたたく間に石化し、そのまま砕かれてしまったのだ。
お母様はあまり争いを好まないので、必要に迫られない限り、能力の発動はしないのだが、文字通り、百聞は一見にしかず、見たほうが、その能力の詳細をはっきりと理解できた。
それ以上に、能力について詳細不明なのは他ならぬお父様。
下手をしたら、お母様以上に、能力を使用する場面を見たことがない。
お父様の能力は、『血脈を看取る程度の能力』だという。
けど、名前以上のことは何もわからない。
それに私はお父様の能力を使ったところを見たことがない。お母様も見たことがないそうで、同族の吸血鬼に聞こうにも、お父様と同じくらいの時を生きる吸血鬼は、大半が敵対者として死んだか、あるいは遠方に居を構え、紅魔館を訪れることが少ない。
お父様が、最強の吸血鬼であることは言うまでもないが、それ故に、能力を使うという場面がそもそも存在しない。強靭な再生能力に魔法、近接戦の心得など、襲いかかってくる妖怪は、悉く返り討ちであり、いずれも能力不使用という強さ。
あぁ、でもルーミアとの戦闘時には、能力を使って私の所在を探しだしたって言ってたけど、
ううん、絶対それだけじゃないよね。
また、それ以外の紅魔館の能力持ちといえば、メイド長も該当するのだが、このメイド長は、瞬間移動しているんじゃないかってくらい、紅魔館内をすごいスピードで移動してくる。
だから、移動に関係する能力なのかとレミリアは考えているが、本人に聞いても、教えてくれない。
まぁ、紅魔館の私以外の能力持ちといえばこんなところで、まだまだ謎だらけといったところだ。
さて、ルーミアとの戦闘以後、私は魔力や妖力が諸々一気にレベルアップした。
死線をくぐり抜けたご褒美のようなものだ。
あの戦闘からはおよそ一年程が経ったが、ルーミアに再度の遭遇や戦闘はない。
お父様はまだ、たまに殺し合いをしているそうだけど、頻度は減ったとのことだ。
その熱量は、ライバル同士の勝負に似ていて、言うことを聞かない大妖怪の粛清という最初の理由は、もうとっくに忘れられてる。
まぁ、ルーミアと戦った後のお父様って傍目にも分かるくらいイキイキしているし、もう運動みたいなものなんじゃない?
そして、変化といえばもう一つ。お母様が新たな命を身ごもった。
妹だ。
私と5歳違いの妹ができたのである。
「ねぇ、まだかな、お父様?」
レミリアが、不安そうに、隣に立つアリストスへと話しかける。
落ち着かない様子の彼女は、彼と眼前の扉に視線が行き来し、刻々と流れる時間に不安を滲ませている。と言っても、彼らがここで待機し始めてから、まだ一時間と経っていない。
扉の先は、セレニアの私室であり、彼女は今まさに出産の最中にある。
妖怪の出産は、人間と比較してもかなり早期に終了する。
一度経験済みであるアリストスは対称的に冷静な面持ちであり、
「レミリアの時もこうして待たされたものだ。少しは落ち着いたらどうだ?」
彼がこの文言で注意するのもこれで3回目となる。レミリアは、緊張と不安で会話しようにも弾まないし、静かな時間は、この場に限って心臓に悪い。
「う~、待っている間がもどかしい。」
「レミリア。」
アリストスが、彼らが注ぐ視線の先の一つの扉が開く。
「お二人とも、無事に、生まれました。元気な女の子ですよ。」
銀髪のメイド長はそう言って、彼らを部屋の中へと招き入れる。
室内には、産声が響いている。
介助を行っていたメイド長が傍らに控え、セレニアは、喜びの表情で、アリストス、レミリアらを迎えた。
「2人とも、待たせたわね。レミリア、ほらこの子が貴女の妹、フランドールよ。」
黄色の髪をした赤ちゃんが、私の前に現れる。翼は身体と相応に小さく、それは木の根に、宝石をぶら下げたかのような独特な形で、七色に光る小ぶりの宝石がキラキラと部屋の照明を反射し輝いている。
「ほう、これはまた何とも珍しい翼を持って生まれたものだ。」
アリストスが物珍しそうに、レミリアの横からフランドールを覗き込む。
「えぇ、私も最初は驚きましたけど、私の出自も出自です。こうした変化も往々にして考えられるわ。ほら、レミリア。見てないで抱いてみなさい。」
「あっ・・・うん。」
「レミリア?ぼーっとしているみたいだけど、待っている間、疲れちゃったかしら?」
「ううん、そんなことないよ。」
首を振るレミリア。待っている間に、感じていた緊張など、とっくに吹き飛んでいた。
彼女は違和感を感じて戸惑っていた。
能力の成長によって、誰かを見れば、程度に差こそあれ、運命視が可能になった。
当然、赤ん坊であっても例外ではなく、フランドールの運命が見えるものかと思っていた。
しかし、瞳には何の運命も映らない。
「キャッ!?」
それだけではない。セレニアから、フランドールを受け取ろうと、手を伸ばし、その指先が、フランドールの指先に掠った瞬間、
パチッとレミリアを拒絶するような魔力の火花を散らし、彼女の指先を僅かに焦がした。
アリストスとセレニアは驚き、メイド長は目を光らせる。
指先の焦げ目はすぐに再生によって癒えたが、衝撃は、相当なもので、レミリアは呆然としてしまったが、再度フランに触れることを試み、恐る恐ると言った風に伸ばされた手が、まだ生誕直後の赤子の小さな手に包まれる。
疑問はあれど、安堵する一同。セレニアからフランを受け取ったレミリアは、両腕で抱えたフランをあやす。
目を閉じていたフランドールは、私に抱えられると、瞳を開き、くりくりとした両眼と、目が合った。
「目が・・・開いた。」
「自己紹介でもしてあげたら、お姉ちゃんでしょ?」
「そ、そうね。えっと、私が貴女の姉、レミリアよ、よろしくね。」
「ㇾ・・・ミ・・・ㇼャ!ねぇさま!」
「わっ、喋った、喋ったよ!お母様!」
言葉足らずだけど、生まれたばかりなのに、私の名前を繰り返してくれた。何この子、超かわいい!
「あらあら、聡い子ねぇ、人間の子供とは若干の成長の違いがあるとはいえ、ふふ、これからが楽しみだわ。」
私をまじまじと見つめていたフランは、手を伸ばす。
顔を寄せれば、ペタペタと柔らかな手が、くすぐったさを伴いながら、なぞったり叩いたりしてくる。
私を姉だと認識してくれたが故のスキンシップなのか、ぁぅ、ぁぅ、と嬉しそうに、声を上げるフラン。
その可愛らしい仕草をしばらく堪能していた私は、お母様に、急かされて名残惜しくもフランをお父様へと手渡した。
泣き出してしまったフランを不器用さが残りながらもあやすお父様。お母様はこっそり貴女は、全く泣かなかったから、あの人あやすの慣れてないの、と耳打ちで教えてくれた。
見かねたメイド長が、代わってフランをあやすのを見守る傍ら、私は、先ほどの現象を思い返していた。
どうして、最初、あのような現象が起きたのか分からない。
けど、感じたのは、赤子の純粋無垢さとは程遠い暴力的な魔力の波動だった。
「お母様、フランってもしかして能力に目覚めていたりするのかしら?」
「どうかしら・・・生まれつき能力を持つ子は、少なくはないけれど、もう少し、成長してみないと私にはまだ何とも言えないわ。危険な能力を有しているとしたら、お父様が、改めて話すでしょう。」
「そう。」
「さっきので、怖くなっちゃった?」
運命が視えないということは、黙って置いた。
きっと、能力がうまく働かなかっただけだろうから。
「確かにちょっとびっくりしたけど、ううん、あんなに可愛い妹を怖がるはずがないよ。」
「あらあら、頼もしいお姉ちゃんね。」
談笑する私達。だが、私達は知らなかった。
この誕生が、後に、紅魔館に惨劇をもたらすなんて。
割と短め。
こっから、本格的に進めていきたいなぁ。
あと花粉やばいよね。