/つか/はな/
紅魔館の赤は血を塗り重ねた紅である。
この地で犠牲となった死者の冷たさすらもかの王より逃れることは敵わないのだろうか。
廊下に漂う冷気を肌に受けていると、レミリアはそう思わずには居られなかった。
時刻は真夜中。吸血鬼にとっては最高の活動時間となるその折に、レミリアは紅魔館内を散策する。
生まれてこの方、紅魔館に満ちるこびりついた殺戮の残滓には辟易してきた。物心が付けば自然と、父の業績をお伽噺の代わりに聞いてきたため、この紅魔館が、いかに血塗られているかをレミリアは、知り尽くしてしまっていた。大図書館で保存されていた記録も含めて、平和にはそれ相応の代償が支払われているのだなと子供ながらに自覚させられた。
フランにも成長したら、その話を利かせるつもりなのだろうかお父様は。是非ともそれは控えてほしいと私は心の底から、願っている。フランにそんな血なまぐさい話を知ってほしいとは思わない。いやだって、メルヘンなお伽噺を読むのが大好きな子に、聞かせるような話ではないからね。
散策している内に、正面からやってくるフランを見つけた。
「フラン!」
名前を呼んでみたが、聞こえなかったのか反応を示さない。手を振ってみるけど、これにも反応なし。
フランをよく見てみるとその様子は、おかしかった。
足元の感触を確かめるような足取りで、フランは足を動かしていた。
目は薄く開かれており、ちらりと真紅の瞳孔が覗いている。その歩き方は、夢遊病者のようで、カチコチとした硬い動きは、機械を思わすほどのぎこちなさがにじみ出ていた。
どこへ向かっているのだろうか。そのまますれ違ってしまったレミリアは、様子がおかしなフランの後を追いかける。肩をたたいて気づかせるのは、どこか憚れた。
彼女はただ虚ろな表情をしたまま、どこかに歩みを進めている。廊下は分岐する、どちらの曲がり角に曲がるのか、考えていたレミリアの思考を裏切り、フランは止まることなく、前進し続け――
ゴン!とそのまま壁にぶつかり、ふらふらとよろけてしまった。
(え?本当に寝ぼけてる?)
壁をペタペタと両の手で触れ、首を傾げ、踵を返したフランは、今度はレミリアの方へと歩いてきて――
ポテッ
と、レミリアが咄嗟に差し出した腕の中へと飛び込んだ。
「・・・・」
すやすやと寝息を立てていた。眼は閉じられ、穏やかに。身体は脱力し、レミリアに預けきっていた。
「もう、仕方ないんだから。」
レミリアは笑って、フランを抱える。吸血鬼が白昼夢でも見ていたか、どうやら寝ぼけていただけのようだ。フランが起きたら、そのことについて話してみよう。フランが見ていた夢の中で私は出てきていたか、気になるところだ。
紙片のシミのような些細な始まり。ポトリと筆から垂れた一滴の雫は、静かに侵食を開始する。
追記する話。