思い切りよく投稿をしていきたいものです。
新たにできた私の家族の名前は、フランドール。フランドール・スカーレット。
宝石のような玉がちりばめられた羽をもって生まれてきた私の妹は、非常に愛らしい。
そして、成長した彼女は、私に負けず劣らず、別の方向性で特異な能力に目覚めていた。
私が10歳、フランが5歳。
私達は、紅魔館の面々は、現在、彼女に全力で手を焼かされていた。
今日もいつもどおりに紅い、紅魔館の内部にて、破砕音と空を切る飛翔音が、響く。
こちらに向かってくるフランの片手が握るように構えられている。
ともに戦うセレニアとアイコンタクトをするまでもなく、レミリアは、片手にグングニルを生み出し、それを投擲する。
フランは、能力の発動先を即座に槍に変更し、一秒後、グングニルは、紫の魔力の光となって粉々に破壊された。
『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』。それがフランに与えられた能力の名前。
能力の詳細は、文字通り、生命体から無機物、あらゆるものを破壊することができるという強力な能力だ。
同時に能力の凶悪さは言うまでもない。
さらには、強力な能力を有するが故の代償とでも言おうか、あるいは運命の偶然か彼女にはもう一つ能力の覚醒と共に目覚めてしまった呪いがあった。
狂気。強大すぎる能力の弊害でもあり、歯止めの利かない暴走状態、それが狂気。
敵も味方も家族でさえも全く見境なしに攻撃し、破壊しようとする暴力性に意識が支配されてしまう。
成長と共に、自我が芽生え、能力の自己制御を日々試みるフラン当人ですら、
その狂気を完全には制御できていなかった。
普段は、素直で純真な妹なのだが、狂気によって意識が切り替われば、その性格は一変する。
「アハッアハッ、アハハハハ!!!!」
狂笑を上げるフランは、両手を広げ、グングニルを投げたレミリアの方へと、一直線に飛んでくる。
傍らで攻撃の機会を伺うセレニアの方には目もくれず。
「レミリア!そっちへ行ったわよ!」
言うまでもない警告を飛ばし、レミリアは、作戦開始の意図を告げることで応じた。
「おっけー、お母様!いつもの場所へ誘導するわ!」
左右に道が分かれる廊下の一つ、私とお母様が同時に左右へ別れ、フランの標的は、迷うでもなく、私に移された。
廊下を走り抜けていく色とりどりの弾幕。
弾幕が、壁や天井に命中するたびに、鋭い破砕音が、生じて、亀裂をもたらす。
能力もさることながら、魔法も全く調整がなされていない高威力だ。
掠るたびに、レミリアをヒヤヒヤさせ、家具や調度品に炸裂したりもすれば、小規模の爆発を起こして
彼女の飛行を妨げようとする。
その間に、フランに追いつかれてしまえば、あっさりと、レミリアは殺されてしまうだろう。
砕かれるにしろ、殴り殺されるにしろ、魔法の至近炸裂にしろ、どのみち凄惨な最後を迎えることは変わりない。
今のフランは、私を戦闘不能にするだけでは満足しない。
文字通り殺すまで、私への攻撃の意思を緩めることはない。
「っく!?また!」
フランの片手がまた握られようとしている!
それを阻止すべく、空中で反転すると、グングニルを再び投擲する。
レミリアに向けて、発動されようとしていた能力はまたも切り替わり、『目』はグングニルのみを砕いた。
フランの能力は、視覚による捕捉が不可欠となる。
そうでないと、対象の『目』を把握できないからだ。
『目』とは、物体の核のようなものである。
フランの能力は、その核を自らの手のひらに、引き寄せることで、発動する。
この『目』は、物体物質ならば、生きていようが死んでいようが、何にでも必ず一つは存在する。
魔力によって作られた魔槍ですら例外ではなく、レミリアはその特性をもっぱら能力の対象から逃れるために活用していた。
投擲した槍は、能力によって対象を追跡する。故に、フランも無視することはできず、破壊せざるを得ない。
同時に二つの『目』を引き寄せることはできないため、対フラン用の防護策としては、非常に有効だった。
レミリアはそのままフランとの鬼ごっこを続け、やがて、目的の場所へとたどり着く。
左右の道に分かれてから、紅魔館内を思い切り遠回りしてやってきたその場所で、待ち構えていたセレニア。
私が、霧となって姿を霧散させれば、フランの姿は、しっかりとお母様の視界で捉える形となる。
「止まりなさい!」
お母様の鋭い静止の声とともに、妖力の波動が空間を浸透し、
波動に呑まれたフランが空中で、ぴたり、と不自然なまでに動きを停止させる。
石化手前の強力な金縛りに陥ったフランは、無理やり能力を振りほどこうとする。
吸血鬼の膂力ならば、強引に動くことも可能だが、少しだけ本気を出したお母様の眼力は、ちょっとやそっと暴れただけでは、抜け出せない。
霧になって逃れようにもお母様の能力にかかった後では、能力を始めとした各種行動に制限がかけられてしまうため、ほぼ積みの状態である、
そして、彼女が止まったのは、ヴワル魔法図書館の大扉前。霧から実体を取り戻した私が翼を羽ばたかせ、フランに組み付くと、狙いすましたかのようにバタンとドアが開いた。
飛行のもたらす推進力によって私達はそのまま大図書館へ。
凄まじい勢いで、左右の風景が流れていく。
図書館に入ると同時に、お母様の能力が解除されたフランは、じたばたと暴れ、抜け出そうとする。
年上である姉から逃げられると思うなよ!
ちょっと私より力強い気がするけど・・・えっ、大丈夫だよね!?
「うわ!」
私の不安が的中し、弾けるような勢いで、フランが私の腕の拘束から抜け出した。
体勢を立て直したフランが即座に容赦ない拳を振るおうと突撃してくる。
危なかったけど、私の方が力は強い。
拳を受け止めた私は、彼女を引き寄せて、そのまま左手も掴み、前方の図書館の開けた場所へ向けて、ぐるりっ、と勢いをつけて投げ飛ばす。
フランが、そのエリアに入った瞬間、準備されていた結界が、彼女の両手両足を拘束し、空中に縫い付ける。
「冷や冷やしたわよ、レミィ。」
「ごめん、パチェ。意外と力が強くてこっちもびっくりした。」
青い鎮静作用のある魔力がフランドールの結界に、放出される。
フランは、ゆっくりとその動きを鈍らせていき、やがて穏やかな寝息を生じさせるに至る。
結界が解除されると、意識のないフランはそのまま落下し、それをレミリアが抱きとめる。
疲れた。戦闘終了後の疲労感がどっと押し寄せたレミリアはそのままへたへたとその場に座り込む。
勿論、フランを起こさないように意識して。
戦闘で消耗した魔力がじわりと回復していくのを感じながら、膝の上で眠るフランの戦闘で乱れた髪を整えてあげた。
悪鬼のごとく歪んでいた笑みは、すやすやと無垢な寝顔へと早変わりし、穏やかな寝息をたてていた。
あら可愛い。天使の寝顔とはまさにこのこと。
この寝顔を見れるだけでも命がけの沈静をくぐり抜ける価値があるってものよ!
「今回も無事に鎮圧できたようね。」
緩やかな足取りでやってきたのはお母様。
レミリアと異なり、疲労の色を欠片と見せていないが、外見に見せないだけで、彼女も相当の力の消費を強いられている。
暴走したフランの動きを止めるのは、大妖怪との戦闘に匹敵するため、楽勝で終わったことが基本的にない。
今日も、というように、このような暴走は初めてというわけではない。
フランが能力に目覚めてからというものの能力の暴走は度々、生じていた。
紅魔館はもう何度この鎮静のための戦闘で破壊されたのか分からない。
軽いときは、部屋が数部屋、ひどいときには半壊し、その度にパチュリーや謎の能力持ちであるメイド長によって修復されている。
分かっているのは、フランは能力を暴走させると、強烈な破壊衝動に支配され、見境ない破壊の惨状を引き起こすことだ。
「ううん・・・。」
フランが目覚めた。寝ぼけ眼で、しばらく唸っていたがハッとなって起き上がる。
「私・・・また・・・!?」
「フラン、落ち着いて、大丈夫よ、私もお母様もどこも怪我していないわ。」
しかもフランは、自身が狂気によって暴走に陥ったときのことを明確な意識の下で判断できてはいない。何をしたか、いかなる者と戦ったのか、などの詳細な記憶は、正気に戻っても思い出せない。
しかし、狂気状態によってもたらされた実害を正気に戻ったときに知覚し、レミリアたちが疲弊していることから、自身が被害を作り出している、家族を傷つけていることに気がついてしまっていた。
薄々と、確証がなくても、幾度となくそうした場面で眠っていたかのような意識が、もとに戻る、というのを繰り返せば、聡いフランはすでに自身の異常について、理解していた。
理解したところで止めうる手段がないというのもまた非情だった。
「ごめんなさい」
「気にしないでフラン、あなたの能力はまだ成長途中なのよ。能力が暴走するなんて、珍しくないわ。」
「でも私、紅魔館を何度も破壊してる。お姉さまたちを何度も殺そうとしてるし、
それに、お父様だって・・・私のこと嫌いな目で見てる。」
ギュッと手を握ったフランは、不安を表すように頭を振る。
レミリアは、彼女を抱き寄せると、安心させるように、背中を叩く。
「フラン、そんなことないわ。お父様は心配してくれているの。そんなふうに感じないで。」
「ほんと?」
「えぇ、ほんとよ。」
フランをそう安心させる傍ら、レミリアは、彼女に見えない位置で微かに眉をひそめた。
実際は、どちらとも言えないのだ。
アリストスはフランの能力暴走において、あまりいい顔をしていない。
ここ最近は、紅魔館を空ける日が多くなり、フランの沈静化をレミリアたちに任せきりにしているが、彼が能力の暴走を沈静化した際、フランを懲罰的な意味で、図書館の地下室へと放り込んだことがある。
本来なら、吸血鬼用の人間などを閉じ込めておくための地下牢。
今は、使うことも少なくなったその場所を彼は、フランの懲罰房として改修した。
彼女用の私室は設けられているが、簡素で、固く冷たい石の壁と床の感触は、否が応でも心細く感じるだろう。
幼いフランは、もう何度も暗く無骨な地下室に放り込まれているから、半ばお父様がトラウマの対象になっている。
狂気を誘発する理由は分かっていない。唐突なのだから、いつ発露するか分からない。
原因は分かっていても根本的な解決方法が不明瞭ならば、対処法も限られてしまう。
敢えて言うなら、彼女を狂気へと誘う何かが巣食っている。
一先ずの対処法はただ一つ。適度に暴れさせて、狂気の破壊衝動を発散させるしかない。
子どもの駄々こねのようなものと例えられはするが、駄々を聞く側は命がけである。
「それはそうと、館の修復作業に移るわ、セレニアさん、メイド長さんをまた借りるわよ。」
「お呼びですか?」
セレニアが、メイド長を呼ぼうとした途端に、件のメイド長が、瞬間移動で現れた。
「館の修復作業をするわ。いつもどおり、お手伝いをお願い。」
「かしこまりました。」
と、私の予知が、外の光景を一瞬捉えた。お父様が帰ってきたのだ。
「お母様、フランを部屋に連れて行ってもらえないかしら?私は少し外に出てくるわ。」
私の言葉の意味をすぐに察して、私からフランを預かったお母様が、心配そうに、釘を刺す。
「えぇ、分かったわ、レミリア、あまり突っかかったりしちゃだめよ。」
「分かっています。」
時刻は夜明け前で、もうしばらくすれば、日が昇る。
紅魔館周辺を覆う結界が上空でプリズムのようにキラキラと輝きを発していた。
最近設けられた人間除けの結界だ。元々人里から離れていて、認知される機会自体が少なかったが、この結界の効力によって、場所自体を認識される可能性もかなり少なくなった。
またこの結界の副産物として、太陽の光もシャットアウトするので、最近は昼夜を気にすることなく、紅魔館の外に出られる。
全体的に罅が入ってしまった館を修復するパチュリーたち。
それを眺めるのは、紅魔の主であるアリストス。彼のそばにレミリアは静かに降り立った。
「また私がいない間に、フランが暴れたのか?」
「癇癪と同じことよ。子供の頃はよくあるでしょう?」
「癇癪か、それで済まされるような破壊痕とは思えないが。」
「お父様も分かっているでしょう?
まだ能力の制御もうまく行ってないし、フランも幼いの。私みたいに能力と相性良く使えるなんて、期待し過ぎだと思います。」
できることなら、私の能力と交換したいくらいだ。勿論、何でもかんでも破壊したいわけじゃなくて、フランの苦しみを取り除けるのではないかと、思ってのことだ。
「レミリアもまだ妖としては幼いように思えるが?」
「私はフランの姉です。妖以前に家族としてフランのことを心配しているんです。」
「そうか・・・。」
話は終わりと、レミリアは、話題を変える。
「それでお父様?外での用事は無事に終わったのですか?」
アリストスが、館を留守にしていたのは、外で、他の大妖怪たちと顔を合わせるためだ。お父様直々に顔を出すあたり、外部の妖たちもかなりギリギリのところまで追い詰められているらしい。
「あぁ、近況報告のようなものだったよ。過半数は、以前にあったときより力を失っていた。残りの半数は、変わりない。
あとは・・・あぁ、一人の妖が、人妖が共存せし理想郷を作ろう、と発破をかけていたが、あまり受け入れられていなかったな。」
人妖の理想郷? そんなおとぎ話のような話が成立するのだろうか?
人と妖は、明確な境界線が存在する、その垣根を理解した上で、両者が互いに共存し合うような世界を実現しようとするならば、途方も無い労苦を伴うに違いない。
「お父様は、どう思っているのですか?」
「興味があるのか?まぁ、我々は妖をすべて助けるような義務や使命も持ち合わせていないからな。理想郷を志す輩があればそれもいい。やりたいようにやればいいさ。」
つまりは、どちらでもいいということか。お父様本人は、特に関心がないようだ。
「私はそこまで。ふぁ。」
「少し長話だったな。わざわざこちらに出迎えをしに来てくれたのだろう?悪かったな。」
「いいえ。たまたま能力の予知が働いただけだったから。あ、紅魔館、もう大丈夫そう。」
完全修復を終えた紅魔館が、夜明けの光が照らしている。
フランは、もう能力の暴走の疲労で、お休みしているだろうか。
私も緩やかな睡魔が、忍び寄ってるし、これはさっさとお布団に潜り込んだほうが良さそうだ。
フランが生まれてからの紅魔館の変化、でした。
狂気というのは、能力に付随する『何か』と考えています。
彼女が狂気に対してどう向き合うかそれは、また先の話になりますが。
一先ずは、まだ始まったばかり。