平日の朝。今日も、香澄はPoppin’Partyの面々と集まる集合場所まで歩いていた。みんなの通学ルートの、ちょうど間にあたるコンビニ。青と、緑と、白のシンボルが特徴的なコンビニの前が、ポピパの集合場所だった。
香澄は、歩きながらふと空を見上げる。相変わらず燦々と照りつける太陽と雲ひとつ無い空が、なんでもないようにあった。学園祭も終え、秋の深まる今日この頃。若干肌寒くなってきた時期に、この陽気はとてもありがたく、1人で感謝をする。
カシャリカシャリと、星のキーホルダーを鳴らしながらもくもくと歩いた。集合するコンビニの看板が段々と近くなっていく中、青いパーカーをきた黒髪の少女が、スマホ片手に待っている姿が段々と近くなってくる。
「あ、たえちゃんおはよー」
「かすみんセンパイ、おはようっす!」
歩いてきた香澄を見るなり、笑顔になるたえ。楽しそうにぶんぶんと手を振り、香澄を迎えてくれる。
「だんだん寒くなってきたねー」
「そうっすね。自分、そろそろマフラーも出そうかなって思ってるっす」
「いいかもね! 私も去年のやつ探そうかなぁ」
そんなことを話して数分後。なんとも騒がしい2人組が歩いてきた。1人は金髪を揺らしながらフラフラと走り、1人は忍者走りでだんだんと近づいてくる。
「ちょ、あんた、走るのはやすぎ!」
「なんだ、ベンケー殿。いつもながら移動が遅いぞ」
「いつもながらは余計よ!」
「……移動が遅い事はいいのか」
ギャーギャー騒ぎながら、いつもの風景として現れるりみと有咲。その様子を、香澄とたえは笑顔で見つめる。
「おはようっす。有咲センパイ、ニンジャセンパイ」
「おはよー2人とも!」
挨拶をする。手を挙げて、たえと一緒に手を振ると、2人は手を振り返してくれた。
無事合流して、お喋りは4人で続いていった。じゃれあったり、騒ぎながら4人は学校へ向かう。
学校のもんを潜り、校舎の中に入ると相変わらず有咲の声は小さくなった。残念ながら別クラスであるたえは、りみと涙ながら再会の約束をする。
そうして、2手で教室に入っていった。
ふぅと息をつき、カバンを自分の席の横に置く。必要なものをカバンから取りだし、自分の席にしまっていくと。
「……あれ?」
なにかの違和感を感じた。
普段の生活の中では見ることの出来ない違和感。ちょっとした日常からのズレ。非日常とまではいかないが、いつもとは違う光景に、香澄はキョロキョロと周囲を見渡す。
カバンの中。隣の有咲。その近くのりみ。机の中。黒板。教室。ひたすら見渡すものの、これらは全ていつも通りだった。
「……っ!」
それを見た時、香澄は息が止まりそうになった。なにかの比喩とかではなくて、本当に止まりそうになった。それを見て、認識して、理解した途端。鼓動が高なった。
だって、普通だったら書かれているはずの無い言葉があったから。もう来るはずのないメッセージが、机の上に刻まれていた。
ーーねぇ、聞こえる?
それは、香澄と沙綾とを繋げた夢の軌跡。香澄の音楽を、"一人きりの信仰"から"皆で奏でる
何かが始まる予感と、そのメッセージが書いてある事とが絡まり合い、香澄は机の上のメッセージを見つめ続けた。
「かすみん、どうかしたの? 机なんか見つめちゃって……」
香澄が、机の一点見つめ続けるのを不思議に思い、 りみと有咲が寄ってくる。なんだなんだと、心配そうに香澄を見つめる2人。
「有咲ちゃん、りみりん。これ……」
香澄は、机の上にあるものを全てどかした。そして、机に書かれているメッセージを指さす。
「"ねぇ、聞こえる"って……。これ、以前かすみんが沙綾とやってたやつよね」
まじまじとそのメッセージを見つめる2人。以前、沙綾とのやり取りを机の上でやっていたため、それが思い当たったようだ。
「師匠、また獅子メタル殿からのメッセージなのか?」
「うーん、どうだろう。連絡先も知ってるし、何かあるなら携帯にメッセージを送ってくれると思うけど……」
りみの問いに答える。「それに……」と、香澄は続けた。
「これ、沙綾ちゃんの字じゃないもん」
「……よく分かるわね、そんなの」
有咲が、ちょっと引きながら言った。
ーーだって、みんなとバンドする前はずっと
言い訳を口に出してしようと思ったが、なんだか悲しくなったのでやめて置いた。口に出したら、余計に哀愁漂うことになってしまう。
「まあ、いいわ。かすみん、とりあえず沙綾に聞いてみたら? 沙綾じゃなければ、なにかのイタズラって事になるんだろうし」
そう言って、有咲は自分の席に戻る。そして、有咲の机に座っていたりみとおしゃべりをし始めた。
悶々としながら、机の一点を見つめる香澄。担任の先生が入ってきたこともあり、とりあえず席に座っておく。
いつも通り、諸々の諸連絡が流れていく中。香澄は机の下にスマホを隠し、沙綾にメッセージを送った。
……するとどうだ。ちょうどスマホを見ていたのか、すぐに返信がきていた。
『送ってないよー。何かあった?』
送ってない……か。やはり、香澄の考えていた通りだった。あのメッセージは、沙綾からでは無い。他の誰かからのメッセージだ。
「……」
いつの間にか、朝礼は終わっていた。1時間目が始まる前の、5分だけのスキマ時間で、香澄は考える。
ーーどんな返答をしようか……。なんて書けばいいんだろう……。
きっと分かりやすくて、それほど長くない方がいいと思った。分かりやすくて、返答しやすい事がいい。
……ふと、沙綾からメッセージが返ってきた時のことを思い出した。ドキドキして、何かが始まるような気がして。そうして机に書かれた夢が、実現していったのだ。その時気持ちが、鮮明に蘇ってくる。
それなら、こう返そう。
ーーうん、聞こえるよ。
書き終えたらちょうど、1時間目のチャイムが鳴った。教科書を急いで取りだし、準備をする。
「それじゃあ、今日は次のページから。……戸山、読んでみろ」
「は、はい。……大切なのは、意志と勇気。それだけでね、大切なことは……」
何の変哲もない、いつも通りの授業が続いていく。香澄は、画面端に写るメッセージ気にしながら一日を過ごしていく。