彼方からの手紙   作:冴月

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 ーーねぇ、聞こえる?

 ーーうん、聞こえるよ。

 

 そんなやり取りが、香澄の机の上に書かれていた。朝、普通に登校してきた香澄は、ふと見かけた机の上に、何かが書かれているのを発見し、そのまま固まってしまった。

 バックを持ったままその場に固まる香澄を見て、有咲は後ろから声をかける。

 

「香澄、何ぼーっとしてんだ?」

 

 有咲が怪訝そうな表情をして、香澄の肩を叩く。チョンチョンと触るものの、香澄の反応はない。

 一体どうしたものかーー。有咲は首をかしげ、考えながら席に着く。

 その一方で、香澄の脳内はぐるぐると思考の渦の中にいた。

 

 ーーこれは、一体どういう事だろうか……。とりあえず、返信した方がいいのだろうか……。というか、返信ぽいものが返ってくるなんて……。

 何となく書いた言葉に、返事が返ってくるだなんて思わなかった香澄だった。いつもは直感で動くことが多い香澄だが、こればっかりは考えてしまっている。

 

「……おい、香澄! 本当に大丈夫かって!」

 

 見かねた有咲が声をかける。そこまでして、やっと香澄は「うひゃあ!?」と声を上げた。

 

「香澄、なんかあったのか?」

「え、うーん……。だ、大丈夫だよ!」

 

 なんでだろう。香澄は、メッセージのことを隠したくなってしまった。

 やましい事があるから隠すとか、独り占めしたいから隠すとか。そういった感じではなかった。

 なんというか、()()()1()()()()()()()()()()()()からだった。だから香澄は、自分のバックを机に置いてメッセージを隠す。

 

「……まあ、大丈夫って言うならいいんだけど。何かあるんだったら、ちゃんと言えよな」

 

 少々ぶっきらぼうではあったが、有咲なりの優しさが溢れていたのを感じた。そんな優しさを感じてしまったからこそ、香澄は隠している事に少しだけ罪悪感を覚えてしまう。

 有咲が再び席に戻った後。香澄はカバンをおろし、メッセージをまじまじと見つめてみた。

 他の誰かからか分からない。けど、確実に届き、届けられたメッセージが依然として佇んでいる。改めて、その不思議な出来事を香澄は実感していた。

 

 とりあえず……返事をしてみる?

 

 あの、授業中に隠れて読んだ小説のように、香澄はメッセージを添える。

 

 ーー届いたの、かな? だとしたら嬉しい! 見つけてくれてありがとうね!

 

 ちょっと長めに、言葉を添えてみる。どんな返答が帰ってくるか分からないがーーというより、返答が帰ってくるか分からないが。とりあえず書いてみる。

 ドキドキした期待と、ワクワクした夢を乗せて。香澄は、メッセージを視界の端に入れて過ごす。

 ソワソワした1日を過した次の日。意気揚々とメッセージを確認してみると、また返信が来ていた。香澄は、周りを気にしながら確認してみる。

 

 ーー届いてるよ! 私も嬉しい! よろしくね!

 

 ……やっぱり、返ってきてる。これは本当に、現実に起きている事だと理解した。香澄は、ドキドキしながら再びメッセージを書き込む。

 

 ーーうん! よろしくね! ……なんだか、不思議な感じがするなぁ

 ーー不思議って?

 

 ーー私、前に本を読んでたんだけど。()()()()()()()っていうシーンがあったんだ! だから、今こうやってお話できてる事がすごくビックリ! 本の事が実際に起きちゃった!

 ーーへー、そうだったんだ! ……実は、私も不思議な感じがするんだよね。

 

 ーーえっ、あなたも?

 ーーうん。私、全日制なんだけど。定時制の友達と、こうやってお話してたことがあるんだー。

 

 ーーすごいすごい! 私達、同じようなことが起きてるんだ! ねぇ、名前はなんて言うの? 私は香澄!

 ーー……えっ。私もカスミだよ。

 

 ーーすごいすごい! カスミ同士だ! これって凄い奇跡だよ!

 ーーそうだね! びっくりしちゃった!

 

 1日に、1回。香澄と"カスミ"のやり取りは続いていく。机の上で、なんだか不思議な感じで続いていいった。

 花咲川女子学園には定時制がないから、返信が来るはずないだなんて。そんなことはもう忘れ去っていた。今はただ、こうやって話をすることがひたすらに楽しかった。

 朝学校に来て、メッセージを確認して、授業を受ける。授業を受けたら蔵に集まって練習をする。カスミとのやり取りは自然と、香澄の生活の一部に溶け込んでいく。

 何故だか分からないが、この机の上でのメッセージの事は、ポピパの皆に話さなかった。話しても信じないとか、信じてくれるとか、決してそういうことではない。

 ただ、これは()()()()()()()()()()()()と直感的に感じていたからだった。

 だから、香澄とカスミのやり取りは2人のみを介して続けられていった。

 

 

 ーーねぇ、カスミちゃんの事もっと教えて!

 ーーうん! ……実は私ね、ガールズバンドやってるんだー

 

 ーーバンド! 私もやってるよ~!

 ーーそうなんだ! ちなみに、私はGt&Voなんだー

 

 ーーそれも一緒! 私も、ランダムスターっていうギターを使ってGt&Voだよ~

 ーーえっ、私もランダムスター使ってるよ。 ……ここまで一緒の事があるだなんて、物凄く運命かも。

 

 香澄と、カスミ。メッセージを重ね、回数を重ねる事によってお互いの事を知り合っていく。

 バンドをやっていること。どんな音楽が好きか。最近、どんな事があったか。何が好きで、苦手な事はなんなのか。好きな食べ物と、嫌いな食べ物。個性溢れる、バンドメンバーの事。

 香澄とカスミが、同じように好きな物も多々あった。同じように、嫌いなものもあった。けれど、違う事もたくさんあった。

 ニンジャみたいな、シューレスガールベーシストのこと。「~っす」が口癖な、後輩系うさぎギタリストのこと。蔵弁慶だけど、可愛らしいキーボード&タンバリニストのこと。「3」という数字が好きな、三刀流ドラマーのこと。全てが全て、自分の周りに起きた事のかのように、香澄は夢中になった。

 

 同時に、香澄もカスミへメンバーの話をした。

 チョコが大好きな、小動物系ベーシストのこと。うさぎが大好きな、天然系ギタリストのこと。ちょっぴり正直じゃない、キーボーディストの事。家族思いでメンズ思いな、パン屋系ドラマーのこと。

 

 今までにあったことも沢山話した。

 CiRCLEというライブハウスのこと。沢山の仲間のこと。RASとのこと。ガールズバンドチャレンジのこと。学園祭ライブのこと。兎に角沢山、山のように話した。

 カスミちゃんも、沢山話してくれた。同じような出来事もあったけど

、それは"偶然"として話を進めていった。傍から見ればおかしいくらいには、偶然が一致する事が多かった。

 

 話が続いていき、一日が十日になり。十日が一ヶ月になった頃。香澄はカスミに相談される。

 

 ーーねぇ、香澄ちゃん。ちょっと、相談してもいいかな

 ーーいいよ! どーんと話してみてよ!

 

 ーー私ね、バンドを通して。音楽を通して、何かを伝えたいって思ったんだ。何処までなのかは分からないけど、バンドのメンバーと走っていったその先。私は、"何か"を伝えたいってなんとなく思ったんだけど、その"何か"がどうも分からなくて。

 

 カスミちゃんの悩みを聞く。どうにも他人の出来事とは思えなかった香澄は、その悩みを真剣に考える。

 

 ーー何かを伝えたい、か。私はどうだったっけ。

 

 香澄は、目を瞑って今までのことを思い返す。学園祭で、初めて5人が揃って、ただガムシャラに演奏をしていたこと。CiRCLEから誘われた、"ロッキンスターフェス"で、観客を振り向かせたこと。ポピパがバラバラになりそうになったけど、また集まれたこと。"今"を大切にすると、みんなに話したこと。2回目の学園祭ライブで、またバラバラになりそうになったけど、何度でも過去を思い出して。そして、また戻ってこれるとわかったこと。不確かな未来だけど、みんなと一緒ならどこまでも行けると。楽しく、みんなで夢を見続けられるとわかったこと。

 こうも、内容が濃い経験をしてきたのだ。香澄は今、自分が伝えたいことがハッキリと伝えられる確信があった。

 

 ーーえっとね。私は、何もわからなくてもいいと思うんだ。

 ーーえ? それって、どういう事?

 

 ーー例えばなんだけど。私は、キラキラドキドキを伝える為にライブをしたいんだ。今まで作ってきた曲を演奏して、過去と現在(いま)、そして未来が交差するようなその一瞬。そんな、非日常みたいな。夢みたいな景色を私達が見たいから、見せたいからライブをしたいんだよね。

 ーーうん

 

 ーーけど、それは、あくまで私の伝えたいこと。私が今まで過ごしてきて、感じてきたことから感じたことなの。私の感じた事を、カスミちゃんが伝えようとしちゃうと、それは未来を狭めちゃうような感じがするんだよね

 ーーどうすればいいのかな。このまま、進んでいっても、今はいいかもしれないけど。そのうちに……。

 

 ーーいいんだよ! そのままでも!

 ーーえ?

 

 ーー多分ね、そういうわからない状態だからこそ、辿り着ける場所があると思うんだ。今分からないってことは、その分やりたい事も、これから起きることも幅が拡がっていくってことだし。

 

 ……返信は無い。だけど、カスミちゃんは私の言葉を見ていてくれているような気がした。

 香澄は、そのまま言葉を続ける。

 

 ーーカスミちゃん。きっと、いつか、カスミちゃんがしなきゃいけないことに気づくんだと思う。いつの未来にか、今まで歩いてきたことを思い出して、わかってくるんだと思う。

 

 ーーだから、無理に今答えを出さなくていいんじゃないかな。"カスミちゃんはいつの日か。カスミちゃんが本当に思いを届けたい人に、本当に届けたい何かを届けられる"はずだから。

 ーー……うん。なんか、今やる事がわかった気がする。ありがとう、香澄ちゃん!

 

 そこまで書いて、香澄はシャーペンを置いた。香澄自信の考えが纏まっていない事は自覚していたが、カスミちゃんには確実伝わっている確信が、何故かあった。

 机越しでのやり取りだという事が、非常にもどかしい。できることならば、直接あって色々話をしたかったが、何故か机にメッセージを書く時には忘れてしまう。

 まるで、直接会えないことが運命づけられているようだった。

 

 そうして暫くの間。香澄とカスミのお話は続いていった。

 香澄は、カスミからのメッセージを楽しみに学校に行き、そしていつも通りの生活をしていく。

 ……とある日。香澄は、カスミから切り出された。

 

 ーーえっとね、私そろそろお話できなくなるんだ。

 ーーえっ? なんでなんでー?

 

 ーー進級、するから。教室変わっちゃって。だから……。

 ーーあ、机が変わっちゃうんだね。んー、なんだか残念だなー。

 

 何となくだが、これ以上話すことが出来ない気がしていた。もう一生話すことが出来ないかもしれないのに。不思議と悲しい気持ちが無いことに、香澄は違和感を少しだけ持つ。

 次の日、カスミからのメッセージが届いていた。

 

 ーーねぇ、香澄ちゃん。色々お話してくれて、ありがとね。

 

 不意のタイミングで、香澄から感謝を告げられる。メッセージだというのに、香澄は多少ばかり赤面したような気がした。

 

 ーーえ、どうしたの急に?

 ーー今までお話してくれたから。悩みも聞いてくれたし、そのお礼。

 ーー……そっか。

 

 もうすぐ終わってしまう。なんの根拠もない確信だが、確実に当たる気がしていた。

 なんて話題を切り出すか悩んでいた頃。カスミからとある質問が飛んでくる。

 

 ーーねぇ、香澄ちゃん。

 ーーなぁに? カスミちゃん。

 

 ーー前から聞きたかったんだけど、キラキラドキドキって?

 ーーえっとね! 大好きなPoppin’Party(バンドの名前だよ!)の仲間と過ごしてる時間だったり、ライブをしてる時だったり。キラキラーって星の鼓動を感じちゃう、そんな"今"のこと!

 

 ーー Poppin’Partyって……? 私達のバンド名も同じだよ。星の鼓動とかも……。

 ーー本当? すっごい偶然かも! 運命みたい!

 

 

 ……それ以上、机に言葉が綴られることは無かった。カスミちゃんが言ってた通り、進級で教室が変わってしまい、メッセージが送れなくなってしまったのだろう。

 それにしても。香澄はカスミの最後の言葉が頭に残っている。

 

 ーーカスミちゃんの最後の言葉。"Poppin’Party"ってバンド名が同じってこと。しかも、"トヤマカスミ"という名前。そして、"星の鼓動"という言葉。

 

 ひょっとすると、もしかすると。あの"カスミちゃん"は、別世界の私だったのだろうかーー。

 

 そんな疑問が広がる。そして同時に、カスミちゃんはへの寂しさも覚えた。

 もし、もしそれが本当なら。こっちで"カスミちゃん"を知るのは私だけってことになる。

 私が忘れたら、あの奇跡みたいな時間は終わり。次に伝わっていくことなく終了だ。

 

 ーーそれって……それって、なんて悲しいんだろう。奇跡みたいな偶然で、運命的な巡り合わせをしたのに、それが直ぐに終わってしまうだなんて。寂しいし、切ない。そんなに、儚く終わっていい時間じゃなかった。

 

 そう思ったら、香澄は自然とノートを取り出していた。今までの、Poppin’Partyの曲。リリックが書かれた歌詞ノートに、カスミちゃんから聞いた話を書き綴っていく。

 

 

 

 

 

 

 ……数十分後。歌詞ノートには、1つの詩が綴られていた。

 不思議と、香澄はこの歌を知っているような気がした。歌詞を作る時の語呂とか、韻とか、英語の所とか。何も悩むことなく書き続けることが出来た。まるで、昔から知っている曲を、書き写したかのような感覚だった。

 この曲は、夢を撃ち抜く物語。風に揺れる、勇気の歌。はじまりの歌。明日へと続いていく、無敵で最強の歌。

 カスミちゃんの、意志と勇気を感じる。そんな、無敵で最強の音楽(キズナ)。そんな歌が、香澄の手の中で完成していた。

 

 ふと、窓から空を見上げる。周りも暗くなり、夜の帳が降りそうな時間帯。終業の鐘も、鳴り始めている。

 香澄は急いで荷物を纏め、教室を出ようとした。

 

「……一番星だ」

 

 いつの間にか、星が浮かんでいた。視界の端で、静かに瞬く恒星に、香澄は目を奪われる。

 

 ……何となくだけど、指で銃を作った。暗くなって見えるようになった一番星に、香澄は照準を合わせる。

 そして、高らかにその言葉を引き放つ。

 

 

 「……"Yes! BanG_Dream!"」

 

 一番星は、答えるように静かに瞬いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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