Ankou°˖◝(⁰▿⁰)◜˖ 異世界をゆく   作:かまぼ子ロク助

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第1話 アネサの迷宮

 アンコウは、いまアネサ()()の中にいた。

 魔獣狩(まじゅうが)りをするためだ。迷宮に潜って、今日で二日目、今回は5日間の予定で迷宮に入っている。

 

 同行するメンバーは、アンコウを含めて5人。これまでにも何度か一緒に迷宮に潜ったことのある顔見知りではあるが、友人ではない。あくまで狩りをするため、稼ぐための関係と割り切っている者ばかりである。

 

 現在地は地下迷宮の第三層、比較的ゆっくりとした降下スピードだ。

 アンコウたちの目的は、あくまで低階層で魔獣狩りを行い、魔石を手に入れ、金に換えること。むやみに深く潜るつもりはない。

 

 しかし浅い層といえども迷宮の中、魔素の漂う魔獣のすみかである。危険であることに変わりはない。

 

「アンコウ、ここまでは順調だな」

 

 このパーティーのリーダーであるダッジがアンコウに声をかけてきた。ダッジは見た目は30代前半、筋肉の鎧をまとったようなガッチリした体格の男である。

 

 二日目の狩りを終えて、アンコウたちは魔獣よけの魔具を置き、休憩をしていた。

 

「ああ、結構なことだ」

「おまえは、いいのか?」

 ダッジが岩場のほうをアゴで示しながら、アンコウに聞いた。

 

 メンバーの一人に獣人の女戦士がいる。この女戦士はダッジの奴隷だった。

 

 この獣人の女戦士以外のパーティーメンバーは全員男であり、岩場の向こうで代わる代わる獣人の女戦士を抱いていた。これは奴隷の所有者であるダッジが許可したことであり、初めからそういった目的もあって連れてきていた。

 

「ああ、おれはいい」

「相変わらずだな」

「そういうあんただって、抱かないだろ?あんたの奴隷なのにさ」

 アンコウがそう言うと、ダッジは声を出さずに笑っていた。

 

「これもおれのやり方だ。気に入らないか」

「いや。人は人、自分は自分。単に趣味の違いだ」

 

 アンコウは奴隷の獣人の女戦士に多少の同情はしていたが、ダッジや女戦士を抱いているパーティーメンバーの他の二人の男を非難するつもりはない。

 これはこの世界の道徳に反する行為には当たらず、ごく当たり前にあることだからだ。

 

 アンコウもこの世界に落ちてきて、もう5年目、自分の感覚も元の世界にいた頃の道徳観念とはあきらかに違うものになってしまっていた。

 

 アンコウはこの5日間の迷宮での魔獣狩りが終われば、まちがいなくアネサの町にある娼館に行くだろう。しかし迷宮の中でダッジが連れてきた奴隷を抱こうとは思わない。

 

 単に自分がこの状況で、そんな仲間にはなりたくないと思う趣味の問題なのだ。

 正直、迷宮の中に響く彼らの嬌声は気持ちのよいものではなかった。そんなことをする気にならない、それだけの話だった。

 

「確か、お前も元奴隷だったな」

「ああ。胸くそ悪いことにな。だけど、それとあんたが連れてきた奴隷を抱かないのとは関係ないぞ。おれはここで一稼ぎして、町の娼館に行くそれだけのことだ」

「聖人君子ってわけじゃないんだな」

 ダッジが下卑た笑いを浮かべながら言った。

 

「聖人君子だぁ、この腐れた世の中のどこにそんなもんがいるんだよ。おれは見たことないぜ」

「くっ、くっ。まったくだな」

 

 アンコウは元いた世界が美しく、すばらしい世界だと、そこにいたときには思ったこともなかったが、今いるこの世界とくらべれば、千倍マシな世界だったと今では思っている。

 

 そして今では自分もこの世界になじんで、以前よりも腐った人間になったと自覚している。そうならなければ、生きてこれなかった。

 この腐った世界で、清らかすぎる人間は食いものにされ、絶望のうちに死ぬしかない。

 

 この世界ではアンコウが元いた世界より人の命が軽い。人権など守ろうとする社会ではない。

 少なくとも、アンコウが知っている人権というレベルの感覚は、この世界に者にとっては夢物語でしかない。

 

 アンコウはこの世界に来て、一番初めに会った人間の手によって、奴隷として売られた。

 

 この世界の言葉は、アンコウが元いた世界で使っていた言葉と同じものだった。言葉が通じたために、アンコウはこの世界で初めて出会った者たちに、(わら)にもすがる思いで自分が置かれている状況を話したのだ。それが甘かった。

 

 今のアンコウには、そのときの自分の甘さがよくわかっているが、その当時のアンコウに今と同じだけの警戒心をもてというのは無理な話だった。

 

 その連中はあきらかに風体のよくない者たちだった。アンコウの話を聞いて、所々意味不明なことを言っているが、頼る者のいない無宿者と認識されたのだ。

 そして、アンコウは奴隷商人に売られた。

 

 アンコウを売ったその連中は、奴隷商人にアンコウのことを借金のカタに身を売った頭の弱い男だと説明していた。それから一年ほど、アンコウは奴隷としてこの世界で過ごすことになる。

 

「ダッジ、明日からはどうするつもりだ?」

「どうもこうもない。魔獣どもを狩れるだけ狩る。で、金に換える。それ以外になにがある、アンコウよ?」

「なんもないな。俺もこんな陰気くさいところにきてるのは金のため以外あり得ない。だからって、無茶をする気はないんだ。命あっての物だねだからな」

 

 今日の狩りが順調にいき調子に乗ったのか、いま女奴隷とお楽しみ中のウォンとツルの二人が、予定より深い階層まで潜ろうとさっき主張していたのをアンコウも聞いていた。

 

「心配すんな。そんなもんは却下だ。弱いヤツらほど、バカなことを言い出すもんだ。予定より深く潜るんだったら、それこそウォンとツルの二人を、もうちっとマシなヤツらと変える必要があるからな」

 

「そうか。それを聞いて安心したよ」

 

 アンコウはダッジとは友達ではないし、その人間性もかなり冷酷な部分があると思っていた。しかし魔獣狩りという現在のアンコウの仕事を行う上では、比較的信用できる男だと思っている。

 

 アンコウはパーティーを組んで魔獣狩りをするとき、自らがパーティーリーダーとなるつもりはなかった。リーダーをしなければならないなら、稼ぎが悪くなってもソロで仕事をすることを選んできた。

 

 しかし、効率よく、より安全に魔獣狩りで稼ごうと思えば、やはりパーティーを組んだ方が良いのは間違いない。

 そうなれば、アンコウにとって重要な事は、誰がリーダーをしているパーティーに入るかということになる。

 

 魔素の漂う迷宮に入り、魔獣狩りをする人間は、そもそも一般人よりも強靱な肉体をもつ者でしかできないことだ。

 一般の人間は、魔素の漂う空間で通常の活動を行うことができない。魔素を体に取り込めば、即、呼吸器系に異常をきたすからだ。

 

 アンコウをはじめ、魔獣狩りを生業(なりわい)としている者は皆、魔素に対する耐性を持っている。そして身体能力も一般人と比べれば、格段に高い。

 

 そして、そういった特別な能力を持つ者たちが、魔石を利用して製造された武器や防具の装備をつけて、魔獣狩りを行っているのであり、決して誰もが出来るという仕事ではなかった。

 

 そういう力をもつ者のほとんどが先天的に持って生まれてきているのだが、わずかながら後天的にそういった力に目覚める者もいる。

 アンコウが魔素に抗する能力に目覚めたのは、この世界に落ちてきて1年が過ぎた頃。それから、アンコウは魔獣狩りを仕事とする冒険者となったので、その歴は約3年になる。

 

 アンコウはこの3年間でいろんなリーダーの下でパーティーを組んでやってきたが、無能な人間がパーティーリーダーをしていたがために、死ぬような目にあったことが何度もあった。

 

 その点ダッジは、人間的に下劣な面を持ってはいたが、冒険者としての能力やパーティーリーダーとしての統率力や判断力などは、アンコウがこれまでパーティーを組んできた冒険者の中では優秀な男であった。

 

「あいつらも、事がすんだみたいだな」

 ダッジが、男二人と女一人の声が聞こえていた岩場のほうを見ながら言った。

 

「じゃあ、交代で寝るとするか。……アンコウ……チッ、もう寝ていやがる」

 

 

 

 

 迷宮での魔獣狩り、3日目。

 アンコウたちは今日も順調に狩りを進めていた。今回の魔獣狩りはかなり調子がよく、魔獣を倒して手に入れた魔石の数も着実に増えている。

 

「今回はいい稼ぎになりそうだな」

 アンコウが横を歩いているダッジに話しかけた。

「ああ。このまま最後まで続いてくれればいいんだがな」

 

 迷宮は一寸先は闇である、そのことを長年魔獣狩りを行っているダッジはよくわかっている。

 アンコウも生きて魔獣狩りを行う冒険者を続けていこうと思えば、迷宮においては、どれだけ慎重に行動しても、慎重すぎるなんてことはないと考えていた。

 

 冒険者歴3年のアンコウは、元々生活のために始めた魔獣狩りであり、多少経験を積み、戦闘能力が上がったとはいえ、今でも冒険者としての名声を求める志向はまったくない。アンコウが迷宮に入るのは、はじめから今も金のためだ。

 

 アンコウは金には極めて強く執着してはいたが、それでも命を引き替えに得る富などないことはよくよく肝に銘じていた。

 

 しかし、アンコウとダッジの前を歩く二人はそうでもないようだ。

 

「なぁ、ダッジ。とっとと下の階層に行こうぜ。昨日からずっと第3階層じゃねぇか」

「ウォンのいうとおりだ。さっきの降下道でしたにおりときゃよかったんだ。この階層の敵じゃ物足りねぇよ」

 

「ああ?ツル、ウォン。テメェら、誰に指図してんだ」

 ダッジが迫力のあるかなり柄の悪い口調で言った。

 

 ダッジは二人の似たような文句をここまでかなり聞き流してきた。

 

 ウォンとツルはアンコウよりまだ若い。しかし、アンコウとほぼ同じぐらいの冒険者としての経験はあるのだが、アンコウから見てもこの二人の考えは甘く、冒険者としての力量もアンコウよりも下だ。

 

 アンコウのなかでも、この二人に対する不快度は増してきていた。ダッジが我慢していたのでアンコウも黙っていたのだが、ダッジが怒りを表に出したことでアンコウもそれに続く。

 

「お前ら二人でおりろ。今回の狩りの初めからの決め事だったはずだ。今日も明日も第3階層で狩りをする。最終日は地上に戻るための行程だってな。第4階層には行かないんだよ。行くんなら、お前らだけで行け。グチグチさっきから、耳障りなんだよ」

 

「なんだと、アンコウ!フザけんなよ!」

「テメェ、やんのか!」

 

 ダッジにはさすがに歯向かえなかった二人だが、アンコウにはその分をぶつけるように言い返してきた。

 

(こいつら、ほんとに頭が悪い。今の空気をまったく読めてない)

 アンコウの横でダッジが、怒りで顔をゆでだこのように真っ赤にしている。

 

「お前らなぁ、パーティーの決め事を守らないってことは、リーダーのダッジに逆らうってことなんだよ。わかってんのか?お前らがさっきから愚痴ってたのは、ダッジにけんか売ってんのと変わらないんだぜ?」

 

 アンコウの言葉を聞いて、ウォンとツルはようやくダッジの顔が激しい怒りに染まっていることに気づいたようだ。

 

「な、なに言ってんだ!俺たちはただ、パ、パーティーのことを思って言ったんだ!」

「そ、そうだぜ!ダッジにけんかなんて売るわけねぇ!」

 

ドォガァッ!

 ダッジが無言でウォンの横っ腹を蹴り飛ばした。

 

 ウォンはごつごつとした土の地面に倒れ、蹴られた脇腹を押さえながら、激しく足をばたつかせていた。声も出ないほど、相当に痛いようだ。

 アンコウはなんの感傷もなく、もだえ苦しんでいるウォンを見ていた。

 

 この世界の地下迷宮は、どれ程下の階層にいっても同程度の明るさがある。この迷宮に整備された通路はなく、広大な何層もの洞窟で形成されている。

 

 アンコウたちがいる空間を囲む四方の土石全体がうっすらと光りを放っており、それが冒険者たちが地下迷宮で魔獣狩りをするにあたって、照明具がいらない程度の明かりになっていた。

 

 そして土石が光っているため、地面に顔をつけるような体勢で地面に転がっているウォンの顔が地面から発せられている光りに照らし出されて、よりはっきりとその苦悶の表情をアンコウたちは見ることができた。

 

「ハハハハハッ!」

 そのウォンの表情を見たアンコウは一転おかしそうに笑いはじめた。

 

 さきほどの偉そうな態度と今の無様なさまのギャップが単純におもしろくなったのだ。

 アンコウの笑い声が響くなか、ダッジは自分の奴隷である獣人の女戦士に命令をした。

 

「ホルガ、ツルも同じように蹴り飛ばしておけ」

「はい。ご主人様」

「お、おい。や、やめろよ、ホルガ。お、おれとお前の仲じゃないか。へへへっ、なぁ、グガッ!」

 ホルガは一瞬でツルの近くまで踏み込み、ウォンと同じようにツルの体を蹴り飛ばした。

 

「ううぐぅ………」

 ツルが腹を抱えて地面を転がっている。

 ツルの口と鼻と目からは止めどなく、液体が汚く流れ出ていた。

 

「ハハハッ!おい!ツル!俺とお前の仲ってなんだよ!なぁ、ホルガ!お前とツルの仲って何なんだ?ハハハッ!」

 アンコウは今度は苦しみもだえるツルの姿を見て笑っていた。

 

 昨日好き勝手に抱いていた奴隷の女に蹴られ地面を這いつくばる男。それはアンコウにとって滑稽きわまりない姿だった。

 アンコウが笑っている横では、ダッジは相変わらず不機嫌そうな顔で地面に倒れている二人を見ていた。その顔つきから察するにまだまだ殴り足らないといったところだろうか。

 

 実際、ウォンやツル程度の者が迷宮の外でダッジに今回のようなふざけた言動を続けていたら、ダッジは2,3日は足腰が立たなくなるほどに痛めつけているだろう。

 

 しかしここは魔素漂う、魔獣ひしめく迷宮の中。ウォンやツルも、無事に狩りを終え地上に戻るための大事な戦力だ。

 ここで戦闘に支障をきたすような怪我を負わせるわけにはいかない。

 

「チッ!いつまで寝てやがる!二人ともとっとと起きろ!テメェらが前を行くんだよ!」

 

 怒鳴られたウォンとツルの二人が緩慢な動きで立ち上がろうとしている。

 

「チンタラしてんじゃねぇ!ホルガ!二人まとめてもっぺん蹴り倒せ!」

「ヒッ!待ってくれ!」

「も、もう立った!」

「じゃあ、とっとと歩け!」

 

 ウォンとツルに軽い制裁を加えたあと、パーティーは再び迷宮での魔獣狩りに戻っていった。

 

 不安の種を事前につぶし、緊張感を保ったまま、この後も順調に魔獣を倒し、魔石を手に入れていった。

 愚かな増長さえしなければ、このあたりの階層なら、ウォンとツルの二人も十分に戦力になる迷宮冒険者なのだ。

 

 この二人は確かにこの五人の中では弱い、アンコウよりも弱い。

 しかし、ウォンとツルも魔素の漂う迷宮で冒険者をしている時点で、一般人のレベルをはるかに超える強さは持っている。

 

 それゆえ、地上の町に戻れば、迷宮に入っている冒険者というだけで、まわりからは一目置かれるし、多少の無理も通せてしまう。

 それに魔石や魔獣の素材は常に需要があり高く売れる。常に命の危険は伴うが、一般人よりも多くの収入を得ることが出来る。

 

 つまり、腕力と金があるのだから、どうしてもウォンとツルのように傲慢で身勝手な人間になりやすくなってしまう。それでなくともアンコウの言葉を借りれば、この世界は道徳観念が低く、暴力が幅をきかせている世界なのだから。

 

 

 アンコウたちは次なる獲物を求めて、今はかなり広い洞窟通路を歩いていた。

 しばらく、その広い空間の中を歩いていたとき、アンコウの視界に淡く光る岩壁が目に入った。

 この洞窟の四方全ての面が、かすかな光りを放っているのだが、アンコウが気になった壁の光りは周囲とは少し違う光の波長であるとアンコウは感じた。

 

「なぁ、ダッジ。あれなんだと思う」

「ん?どうした?何かあるのか?」

 ダッジは(いか)つい顔をアンコウのほうにむけて、アンコウが指さす岩壁を見た。

 

「………わからんな。何か違うのか、アンコウ」

「ああ、あの部分だけ壁の光り方が違う気がする。そのことに何か意味があるのかはわからないが、違うのは間違いない」

 

 ダッジはこれまでにも何度もアンコウとパーティーを組んで迷宮にもぐっている。アンコウのこの手の感覚が優れているということは、ダッジもよくわかっていた。

 

「ホルガ!ちょっとそこの壁を見てくれ」

 

 獣人であるホルガも、人間と比べれば、この手の感覚は優れている。少し前を歩いていたボルガが、ダッジの命令を受けて、アンコウの近くにやってきた。

 

 ボルガはアンコウよりも、アンコウが指摘した岩壁のほうに近づいていき、そのあたりをじっと見ていた。

 

「……そうですね。壁の中に何かあるようです。」

 ボルガがダッジにむかって言った。

「魔石か?」

「はい。その可能性が高いと思います」

 

 魔石は魔獣の体内から採取することができる。魔素の漂う空間でのみ存在し、活動することができる魔獣。

 長く生きれば生きるほど、力のある者であればあるほど、その体内にある魔石は強力なものになるといわれている。

 

 しかし魔石ができるのは魔獣の体内だけではなく、魔素の存在する地、それ自体に発生し成長することも知られている。

 アンコウが指摘した周りとは違う光りを発する壁、そのなかに魔石がある可能性をホルガは言った。

 

「へーっ!地産の魔石か!ほんとかよ!?」

 アンコウは思わず、喜色を浮かべて大きな声で言った。

 

 地産の魔石は滅多に見つからない。

 それに地産の魔石は人に発見されるまで長い時間を経ているものが多く、また、魔獣の体内で成長するものとは魔力の質が違うものも多くあり、強力で珍しい魔石であることが多い。

 

「なぁホルガ、何かの鉱石か宝石じゃないのか?俺が今まで同じように光り方のおかしい壁や岩なんかを見つけたときは、大抵ちっと珍しい鉱石か宝石だったりしたんだけどな」

「これは鉱石や宝石の類ではないと思います。感覚的に感じるものなので、言葉でちゃんと説明はできないんですが」

 少し興奮気味のアンコウと違いホルガは冷静に淡々と答えた。

 

 ホルガは奴隷の獣人の女戦士、どれほど価値のある魔石が見つかろうとも、たとえそれが自分が見つけたものであっても、何も自分のものになりはしない。

 すべてはご主人様であるダッジと他の冒険者メンバーたちのものになる。

 

 ホルガは身長が180センチぐらいで、獣人の女性としてはごく一般的な高さであったが、アンコウと比べると10センチ以上も高かった。肩幅も人間の男性と変わらないぐらいあり、かなりガッチリしている。

 

 しかし女性らしくないかと言えば、そんなことはない。ちゃんと出るところは出ているし、引っ込んでいるところは引っ込んでいる。

 なにより顔つきが、ホルガは女性らしい顔立ちをしていた。

 

 獣人と一口に言っても、その姿形は様々であった。人間よりもはるかに多様性に富んでいる。

 

 ホルガには獣耳やシッポはないが、手と足が人間と比べると大きく、手足には鋭く出し入れできる爪がついていた。

 ホルガの毛色は白だ。女性にしては太く白い眉毛、頭から背中一面につながって、白い毛が生えている。頭と首のあたりはかなり密度も濃く剛毛、背中の毛は頭部に比べるとかなり細い。

 アンコウはホルガのことをなかなかの美人だと思っていた。

 

 しかし、アンコウは何度かダッジの奴隷であるホルガともパーティーを組んでいたがホルガが声を出して笑っているところをほとんど見たことがない。ホルガの目はいつも暗く沈んでいる。

 

 アンコウは、彼女の扱われ方を考えれば、それは当然の結果で、明るく笑えと言うほうが無理だと思っていた。

 

 しかし、アンコウのなかのホルガに対する同情心は、平常時にはほとんど消えてしまっている。この世界では奴隷は当たり前の存在、いちいち気にしていたらきりがない。

 それに、アンコウもいずれは自分が奴隷を所有するということも考えていた。自分が生きのびるために。自分がよりよい暮らしをするために。

 

 この世界の奴隷制に関してはアンコウはすでに受け入れていた。そして、自分自身はもう二度と奴隷には身を落とさないと固く誓ってもいた。

 

 

「どうだ。何か出てきたか?ホルガ」

 ダッジがホルガに聞いた。

 

 ホルガは腰に差していた短剣でアンコウが指さしていた壁を掘っている。

 ホルガの短剣は先は尖っておらず、丸みを帯びており、かなり厚みがある。しかし、それなりに魔力を帯びているようなので、魔獣との戦闘でも十分使える武器でもあるのだろう。

 

 ダッジはホルガに、それなりの武器も防具も与えていた。実際にホルガは、いざ戦いとなれば、下手な冒険者よりもずっと計算できる戦闘要員でもある。

 

ザクッ、ザッ、ザッ、ザクッ、ザッ、

 

「………ご主人様。これを見て下さい」

 

 ホルガが壁を掘る手をとめて、少し場所をあける。そこをダッジがのぞき込んだ。

 アンコウと、いつのまにか近くまできていたウォンとツルの二人も、同じようにのぞき込む。

 

「「うおおぉぉーーっ!」!」

 

 全員が、ほぼ同時に大きい声をあげた。

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