Ankou°˖◝(⁰▿⁰)◜˖ 異世界をゆく   作:かまぼ子ロク助

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第100話 次はこちらが狩る番だ

 比較的平坦とはいえ、山間(やまあい)の道、それなりにアップダウンはある。ゆえに遠方をうかがうのに見晴らしがよいとは言い難い。

 アンコウは、しばらく走って足を止めた。そして、ついて来ていた馬上にいるホルガと話を始める。

 

「ホルガ、ほかの連中はどうしていた?」

 

 アンコウは全体にむかって、クークを目指して走れとのみ命令を出していた。

 しかし、カルミやホルガに個別の指示を出していたのと同様、ダッジをはじめ(おも)だった部下たちにも、命令ではないものの要望は伝えていた。

 余裕があれば、お前たちは手勢をまとめながら走れ と。

 

 クークでは、かなりしっかりとした迎撃準備ができていると知り、弱き者、遅れたものは、山賊どもの餌食になっても構わないと判断したアンコウは、味方の兵の統率を部下に丸投げしていた。

 

 それでも初めは皆、アンコウの後ろに続く形で走っていた。ゆえに、走るアンコウ一味を見つけ、追ってきた山賊どもに、アンコウが総大将であることをあっさりと見抜かれてしまった。

 

(あいつら、敵が来てから、分散して逃げはじめやがって)

 

 しかし、そのことで味方を責めるのは御門違いだとアンコウもわかっている。

 各自の判断でクークまで走れというのは、アンコウが命じていたことでもあったし、初めから分散して走れと命じていたら、皆それに従っただろう。

 アンコウが適当過ぎたのだ。

 

 それにアンコウにとっては散々でも、馬車と共に猛スピードで逃げたアンコウがさらに敵の意識を引きつけたことで、結果的にダッジやほかの者たちにはかなり余裕ができていたし、敵の先遣部隊と後方の山賊本隊をさらに引き離せていた。

 

「ダッジ様も、モスカル様配下のグローソンの行政官を中心とする者たちも、それぞれに手勢をまとめながら逃げていました。ダッジ様は比較的敵に近い場所で、モスカル様配下の者たちはそれよりも少し離れた場所を走っておられました」

 

「……そうか」

(ダッジのやつはチャンスがあればまだやる気だな。モスカルに近い連中は全体を見ながら、完全に離脱する隙を窺っているってところか……)

 

「…………ホルガ、モスカルのところの連中に伝令を頼む」

「はい、アンコウ様」

 

 

――――

 

 

 浅い窪地(くぼち)に這いつくばるアンコウの鼻に土の臭いが満ち、体には土の冷たさが伝わってくる。横に並んで這いつくばっているのは、カルミだ。

 

 今ここにいるのは二人だけ。少しずつ、アンコウたちの耳に響く馬蹄の音が大きくなっていく。

 

「ねぇアンコウ、ふたりだけで戦うの?」

 カルミは怯えた様子は微塵もなく、単純に疑問を口にする。

 

「さぁ、どうかな。とりあえずカルミ、俺が飛び出したら、お前も続くんだ。いいか、狙いは黒の耳長だ。人間は後でいい」

「はーいっ」

「元気のいい返事で結構だ」

 

 アンコウは、流石に若干緊張してきているようだ。

 

(確認できた限り、追ってきている人間の賊の中には抗魔の力保有者はいない。ダークエルフの警戒すべき点は精霊法術、それにつきる。接近戦に持ち込む。奴らの術の発動を最小限に抑える)

 

 ダークエルフの身体能力、身体強化度合いというのは、種族としてそれほど高くはない。魔剣との共鳴を起こす以前の冒険者アンコウですら、剣戟(けんげき)のみなら平均的戦闘能力のダークエルフ相手にそこそこやりあえていた。

 

 アンコウは上半身を持ち上げて、前方をうかがう。

「!来たっ」

 アンコウの視界に、ズラリと並ぶ騎兵の集団が見えてきた。

 

(……黒の耳長たちが前、人間たちが少し離れて後ろ。はじめっから変わらないな。これは陣形って訳じゃない……)

 

 敵賊徒二千は、いくつもの集落から集められた集団だという。

(たぶん今でも、顔見知り単位で動いているだけだ。連携なんざ全くとれちゃいない)

 アンコウは敵の馬蹄が迫るにつれ、かえって冷静になっていく自分を感じていた。

(……あの逃げ場のない一本道。押し寄せる無数の小豚鬼(チープオーク)……あれに比べりゃあ屁でもないさ…まぁ、怖いもんは怖いけどな…)

 

 アンコウは無言のまま、少し気合いを入れ直した後で動き出した。

 

「カルミ、移動するぞ。ここは連中の進行方向とは少しズレている」

「うん、アンコウ」

 

 

―――――

 

 

バカラッ バカラッ バカラッ !!

 

「隊長、人間どもの部隊との距離がかなり開いてきていますが、」

 

「かまわん。どうせなんの役にも立たない連中だ。せっかく人間どもが幅を利かせている本隊から離れられたんだ。それなのにあの連中に近くにいられては人間臭くてかなわない」

 

「はい、まったくです。しかし村長(むらおさ)も、いつまで人間たちに協力などするつもりなのか」

「言うな。村長(むらおさ)も好んで我らにこのようなことをさせているのではない。お前もわかっているだろう」

「……はい」

 

 北山(ほくざん)に住むダークエルフ。彼らは他との接触を嫌うがゆえに、このような僻地に留まっている者の集まりだ。

 

 まわりは人間や獣人中心の『北山(ほくざん)の山賊』と呼ばれている者たちの集落に囲まれているが、その交流は最小限度の物資の交換など、これまでは極めて限定的なものにとどめられてきた。

 ましてや、彼らと協力し、彼らがやるような山賊行為に手を貸すなどなかったことだ。

 

「……しかし、お前の気持ちもよくわかる。あの山津波さえなければ、人間どもに手を貸すようなことにはならなかったのに」

 

 それでなくとも作物の実りがあまりよくない年が続いていたのに、昨季はちょうど刈り入れの時期に豪雨が続き、山を切り開いて作ったダークエルフたちの集落の畑が山津波で押し流されてしまった。

 

 隊長と呼ばれたダークエルフは、苦々しげに空を見上げた。

(村のためだ。二年もしたら、畑も元に戻るだろう……)

 

 その時だった、

「た、隊長おおーっ!」

 

 馬を走らせながら、ほんのわずかな時間ぼんやりと空を見上げていた男の耳に、すぐ横を走る部下の叫び声が唐突に響いた。

 部下の目に見えていたもの。それは、突然ものすごいスピードで飛んできた精霊封石弾。

 

「!?」

 部下のただならぬ叫び声に反応して、視線を空から下へ戻す。

 この隊長と呼ばれていたダークエルフの男は、自分に向かって飛んできていたものを確認することができたのだろうか?

 

ドゥガアアンッ!

 男が視線を前に戻すと同時に、男の目の前でそれは爆発した。

 

「た、隊長ぉおお!!」

 

 馬を走らせていた隊長は、為すすべなく後ろに吹き飛び、後続の仲間の騎兵にぶち当たる。

 

ヒヒヒィィン うわあぁぁ

 巻き込まれた馬と黒耳長兵が、叫び声をあげながら地面を転がり、また別の騎兵を巻き込んでいく。

 

 一瞬の出来事。真横にいた隊長が吹き飛ばされ、背後で起こっている惨事を部下の男は首を後ろに回して見た。

 

 その男の耳に、突然声が聞こえた。地獄の底から聞こえてくるようなその低い声は、馬蹄の響きと風切り音の中でも、恐ろしいほどはっきりと男の耳にとどいた。

――次はテメェだ

「!なっ」その声に反応し、男は顔を正面に戻す。

 

 しかし、男はその声の主を確認することができたのだろうか?

ズガアアッ!!

「!!!はがあっ!?」

 

 男の両目に、分厚く鋭い斧の刃《やいば》が叩き込まれた。男の意識は一瞬でこの世から消えた。

 

「「「なあっ!?」」」

 

 突然、指揮官クラスの二人を失ったダークエルフの部隊はすぐには状況を把握できない。その間にも襲撃者は畳み掛けるように攻撃を仕掛けてきた。

 

ドォオンッ!ドォオンッ!

 

 と、ダークエルフ騎馬部隊の二列目、三列目付近でも、次々に投げ込まれた精霊封石弾が()ぜ、馬が乗り手ごと吹き飛ばされていく。

 

 襲撃者の男が、片手で魔戦斧を振るいながら、もう片方の手でほぼ同時に精霊封石弾を投擲し続けていた。

 

 男が魔戦斧を振るっている場所とは、少しだけズレた場所で、また黒の耳長の絶叫が響く。

「ぎぃやああーっ!」

 

 そこには身の丈以上のメイスを飛び跳ねながら縦横(じゅうおう)に振るい、馬上の黒の耳長たちの頭を次々にザクロにしていく少女の姿があった。

 そのスピードは、初めに飛び出してきた魔戦斧の男よりさらに早い。

 

 それに、この少女も風車のごとくメイスを振り回しながら、斧の男と同様に次々に精霊封石弾を放り投げている。

 

 ドォオンッ! ドォオンッ!

ヒヒィィン ぎぃやああー

 

(カルミのやつ、俺のまねをしていやがる)

 魔戦斧の男はメイスの少女の戦いぶり見て、わかっていたことではあるものの、少女の力量に目を見張る。

 

 言うまでもなく、襲撃者魔戦斧の男はアンコウだ。

 アンコウがカルミに出した命令は、待ち伏せし、奇襲をかけ、黒の耳長たちを狩る ということだけで細かい指示は出していない。

 

 カルミは、ほんの少しだけ先に飛び出したアンコウの戦いぶりをほぼ同時進行的に模倣し、アンコウ以上の戦闘能力をもって、次々に黒の耳長どもを()ふっていく。

 

 アンコウは魔戦斧を、カルミはメイスを血に濡らしながら、敵に反撃にでる時間を与えることなく、飛び移るように馬上のダークエルフを次々に討ち取っていく。

 

 次々に爆発する精霊封石弾の影響で、ダークエルフ部隊全体がかなりの混乱の様相を呈しており、部隊の後衛部も含め、誰もすぐには精霊法術を発動できずにいた。

 

(よしっっ!)

 それを見たアンコウは、狙いどおりだと魔戦斧を振るいながらほくそ笑む。

 

 アンコウとカルミは敵騎馬の周りを走りまわり、飛びまわり、着実に敵の命を一つずつ狩りとっていく。

 アンコウの見立て通り、この40のダークエルフの中には特別高い戦闘能力を持つ個体はいないようだ。

 アンコウたちが逃げていた時、馬を走らせながら精霊法術の騎乗発動を行っていた数人の者は真っ先にアンコウとカルミに襲われ、息の根を止められていた。

 

「そ、その二人を止めろおっ!ほ、法術をっ」

 

 なんとか体勢を立て直した者が、精霊法術を放とうとするものの、アンコウたちはすでに自分たちの部隊の中に飛び込んで暴れまわっており、味方に当たるリスクがあまりに大きく、術を飛ばす隙が見つからない。

 

「く、くそっ!か、囲めっ!囲んで、奴らの動きを封じろっ!」

 

 しかし、囲んだかと思えば、アンコウは魔戦斧との共鳴度合いを瞬間的に跳ね上げ、あっさりと囲みから抜け出し、さらに彼らを撹乱(かくらん)させる。

 

「くっ、どこに逃げたっ!なっ、ぐわああっ!」

 男の目に、アンコウが投げたクナイが突き刺ささり、男は落馬する。

ドサアンッ!

 

 カルミに至っては、囲まれても抜け出そうともしない。

 

「ヤアアアー!」

 という掛け声とともに、それまで以上に力を込めて敵の頭を叩き割っている。

 そうすると自然と囲みが解けるのだ。

 

 絶叫と爆音が響き続け、ダークエルフたちの混乱はいつまで経っても収まりを見せない。

 

 それでも何とかアンコウとカルミから、少し離れたところにいる黒耳長が法術を発動させ、

「くっ、仕方がないっ」と、味方を巻き込む覚悟で風刃を放とうと手を天に掲げる。しかし、

「ぐわあっ!!」

 その黒耳長の悲鳴とともに、風刃はかき消える。

 その男の胸には、一本の光の矢が突き立っていた。

 

ヒュンッ! ヒュンッ! ヒュンッ!

「ぎゃああっ!」「うがああっ!」「ギヒイイッ!」

 

 顔に胸に腹に、次々に光の矢が突き刺さっていく。

 

「ど、どこだあーっ!どこから射てきているっ!」

 

 矢が飛んできた方向には、すでに人の姿はない。

 ダークエルフたちに光矢を射ていたのは、言うまでもなくテレサだ。

 テレサはアンコウの指示に従い、窪地、物陰に身を潜めながら、ヒットアンドアウェイで攻撃を放っていた。

 

 

 黒の耳長たちの部隊より少し後方にいた人間の山賊たちは何をしているのだろうか?

 カルミ・アンコウ両名の個の戦闘能力が、この戦場では抜きん出ているとはいえ、数はたったの二人。

 すでにダークエルフの数はかなり減ってきているが、ダークエルフとともに先遣部隊にいた山賊ども40が加勢していれば、アンコウ・カルミも今ほど自由に動き回れていなかったはずだ。

 

 ある程度の足止めができれば、至近距離からでもダークエルフたちの精霊法術を発動させるチャンスはつくれるのに。

 四十人の人間の山賊どもは突撃することもなく、退くこともせず、突然前方で始まった戦闘をただ眺めていた。彼らは、決断ができなかったのだ。

 

 

「あ、兄貴ぃ!あ、あの二人強えぞっ!?黒耳たちが殺られていってるぞっ!ど、どうするっ」

「う、うるせえっ!黙ってろ!く、くくっ、何なんだ奴らはっ」

 

 そもそも、アンコウたちの小勢を完全に甘くみていた山賊たちは、常日頃、妙に自分たちのことを見下しているダークエルフたちにこの戦闘は任せて、お宝ブン取りの段になれば参加しようぐらいにしか考えていなかった。

 

(し、信じられねぇっ。ダークエルフたちが、たった二人に押されているっ)

 

 無論山賊たちも、初めは多少なりともアンコウたちに警戒心を持っていたのだが、アンコウたちは誰一人戦う意思さえ見せず、初めから逃げ続けた。

 それを見て、山賊たちはアンコウたちのことを戦う力のない弱者の集まりと決めつけてしまった。

 

 それゆえに、まだ自分たちの近くにいたバラバラに散らばったアンコウの仲間たちに対しても、その動きを把握できていなかった。

 

ドドドドォォーー !!

 うおおおーーっ

 その動かぬ山賊の部隊に、突如、地響きと雄叫びが近づいてきた。

 

「あ、兄貴いーっ!奴らの仲間が突っ込んできやがったあー!」

 

 いつの間にか、再びグループを形成していたアンコウ配下の集団が、山賊部隊に突撃をかけてきたのだ。

 

ドドドオオオーー!!

「ぎゃああっ!」

「に、逃げるなあーっ!ぐわぎゃっ!」

 

 襲いかかるアンコウ一味、その戦意、勢いが全く違う。完全に相手をなめ、油断していた山賊たちはまったく対処できていない。

 そして、その突撃部隊を率いているのは、

 

「てめえらっ!このまま突っ込めえーっ!」

 山賊以上に山賊面の男、ダッジだ。

 

 山賊たちは、最初のターゲット(標的)を総大将であるアンコウに定めて、他の者たちの存在をほぼ無視していた。

 それを見たダッジは、山賊たちの部隊から大きく距離を開けることはせず、味方を再びまとめつつ、じっと奴らの様子を(うかが)っていたのだ。

 

 それゆえに、彼らの部隊に異変が生じたとき、つまり、アンコウとカルミが暴れ始めたとき、ダッジは即反応し、攻撃命令を発することができた。

 ダッジたちの猛突撃は、ひとつの大きな矢尻のごとく、四十人の人間の山賊部隊に突き刺さり、彼らを蹴散らしていく。

 

――――

 

(流石だな、ダッジ。攻め時を見誤らない)

 アンコウは黒耳長に魔戦斧を叩き込みながら、ダッジたちの突撃を確認していた。

 

 アンコウは、ダッジに攻撃命令を伝達していたわけではない。

 しかし、ホルガから聞いていた情報により、

ダッジの奴は、俺たちが仕掛けたら必ず自主的に呼応する と、確信していた。

 

 だからアンコウはホルガを伝令として、ダッジではなく少し敵との距離を長めにとっていたモスカル配下のグローソン行政官を中心としたグループのところに送ったのだ。

 普通人の文官ではあるが、戦場の心得もあるグローソンから借り受けている行政官たちは命令を受けたあとの行動は早いが、戦場での臨機応変さに()けているわけではない。

 

 アンコウは、ダッジたちに続いて別方向から現れた騎馬集団を遠目に確認して、ニタリと口元に笑みを浮かべる。

 遠目ではあっても、その新たに現れた集団の先頭に、白毛獣人戦士のホルガの姿があることをアンコウははっきりと確認できた。

 

 そしてその新たな一団は、アンコウとカルミの少し後方、山賊の人間部隊とダッジたちとの戦場に止まることなく突っ込んでいった。

 

 

「う、うわああーーっ!」

「も、もうダメだあっ!」

 

 それでなくとも、逃げ腰であった山賊の人間部隊の統率は完全に崩壊。彼らは少し前方にいるダークエルフ部隊の方へと押し出されるように逃げ出した。

 

 しばらくすると、アンコウたちがダークエルフたちと戦っているところに、逃げ出してきた人間の山賊どもが雪崩れ込んできて、黒耳長も人間も関係なく、山賊どもはこれまで以上の大混乱に陥った。

 

 アンコウは、くっくっくっ と、抑えきれない笑い声を漏らし、この局地戦の勝ちを確信する。

 アンコウとカルミが攻撃に転じ、ここに至るまでに、それほど長い時間はかからなかった。

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